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産総研:論文賞2021

賞の概要

産総研研究者は、科学技術におけるイノベーション創出の先導者として、自ら向上心と使命感を持って研究を遂行し、質の高い論文を世界に向けて発信していきます。そこで、産総研として誇れる高水準の論文を発表した研究者に対して、2014年度より毎年「産総研論文賞」として顕彰しております。

※受賞者の所属は受賞時点のものです。

過去の受賞一覧

受賞論文

Rechargeable potassium-ion batteries with honeycomb-layered tellurates as high voltage cathodes and fast potassium-ion conductors

T. Masese, K. Yoshii, Y. Yamaguchi, T. Okumura, Z. –D. Huang, M. Kato, K. Kubota, J. Furutani, Y. Orikasa, H. Senoh, H. Sakaebe and M. Shikano
Nature Communications (vol.9, no.3823, (2018))

受賞者

  • マセセ タイタス(電池技術研究部門)
  • 吉井 一記(電池技術研究部門)
  • 奥村 豊旗(電池技術研究部門)
  • 加藤 南(電池技術研究部門)
  • 窪田 啓吾(電池技術研究部門)
  • 妹尾 博(電池技術研究部門)
  • 栄部 比夏里(電池技術研究部門)
  • 鹿野 昌弘(電池技術研究部門)

選出理由

吉野博士がその原型を開発したリチウムイオン電池は社会に広く普及したが、今後電気自動車など電動化された移動体が世界的に急増するに伴い、リチウム(Li)資源の争奪戦ともなり、資源に乏しい我が国は不利な状況となり得る。資源的に豊富なカリウム(K)を用いてリチウムイオン電池に匹敵する性能を達成することができれば、リチウムの資源問題を解決することができる。本論文では120を超える新規なKイオン電池用正極活物質を開発し、4V級のKイオン電池の作動が実際に可能なことを示した。ハニカム状構造を持つ酸化物が有力であることを発見し、その設計指針を世界に先駆けて示すことができた。これに関連する特許を19件出願している。論文発表後、約3年で100に迫る引用がされており、世界的にもまだ研究が端緒についたばかりだったKイオン電池を、ポストLiイオン電池の候補として注目される研究対象にまで高めた研究のひとつであると考える。プレスリリース後は、多くの新聞等のメディアでも紹介され、10件以上の招待講演も行っている。また、民間企業や多数の国内・海外大学との共同研究を実施しており、産業界および学術分野からの注目度は大きいと言える。開発したハニカム構造を有する新規酸化物系材料は、蓄電分野だけではなく、材料化学、情報技術(Topological Quantum Computation)やエレクトロニクス(2D Spintronics)などの分野に応用される可能性も示しており、実際に他分野の研究者と共著論文の執筆を行い、12報の論文発表を行っている。

受賞者代表(ノブ マサル コニシ)(右)の写真
受賞者代表(マセセ タイタス)(右)

Complete substitution of a secondary cell wall with a primary cell wall in Arabidopsis

Shingo Sakamoto, Marc Somssich, Miyuki T. Nakata, Faride Unda, Kimie Atsuzawa, Yasuko Kaneko, Ting Wang, Anne-Maarit, Bågman, Allison Gaudinier, Kouki Yoshida, Siobhan M. Brady, Shawn D. Mansfield, Staffan Persson & Nobutaka Mitsuda
Nature Plants(vol.4, pp.777-783, (2018))

受賞者

  • 光田 展隆(生物プロセス研究部門)
  • 坂本 真吾(生物プロセス研究部門)
  • 中田 未友希(生物プロセス研究部門)

選出理由

当該論文は、バイオマス資源として有効活用できる植物の一次細胞壁の合成を人為的に制御できることを実証した論文であり、高いIFを示すNature Plantsに採択された。この成果は植物の一次細胞壁の形成機構に関わる転写因子群の解明という学術的な観点での評価も高いのみならず、細胞壁の構成割合を改変した植物の育種による木質バイオマスの社会実装に寄与するものである。実際に、この論文発表および関連する一連の研究成果から民間企業との共同研究が数件開始されており、バイオマス利活用の観点で産業界に強く貢献できることが期待できる。

受賞者 米田 純(右)の写真
受賞者代表(坂本 真吾)(右)

Sequential Gallery for Interactive Visual Design Optimization

Yuki Koyama, Issei Sato, Masataka Goto
ACM Transactions on Graphics(vol.39, no.4, (2020))

受賞者

  • 小山 裕己(人間情報インタラクション研究部門)
  • 後藤 真孝(人間情報インタラクション研究部門)

選出理由

本論文で提案した技術は、人間の感覚に基づく「審美的好ましさ」を数値化して扱うことを可能にするもので、産業界を含めた幅広い応用が期待される。また、本研究成果は、コンピュータグラフィックス分野の最難関国際会議 ACM SIGGRAPH 2020に採択され、ACM Transactions on Graphics (IF 5.414、Google Scholar のCGサブカテゴリ1位)に掲載されており、学術的にも高い評価を受けている。

受賞者代表(片岡 邦光)(右)の写真
受賞者代表(小山 裕己)(右)

Position and momentum mapping of vibrations in graphene nanostructures

Ryosuke Senga, Kazu Suenaga, Paolo Barone, Shigeyuki Morishita, Francesco Mauri & Thomas Pichler
Nature(vol.573, pp.247-250, (2019))

受賞者

  • 千賀 亮典(ナノ材料研究部門)
  • 末永 和知(ナノ材料研究部門)

選出理由

当該雑誌が提供するデータによれば、これまで2年あまりのアクセス数は1万4千回に上っている。このことは電子顕微鏡の限られた分野ではなく、幅広い分野から注目を集めていることの証である。中でも、フォノンは熱電素子や光電子デバイス、超伝導材料の性能と密接に関係することから、エネルギー・環境領域への貢献が期待されている。また、これまで計算科学の領域であったナノ材料のフォノンを直接計測したということにとどまらず、この論文が1分子の振動計測や原子ごとの同位体識別といった究極の顕微鏡に至るターニングポイントになるものと期待できる。

受賞者代表(藤原 治)(右)の写真
受賞者代表(千賀 亮典)(右)

Highly monochromatic electron emission from graphene/Hexagonal Boron Nitride/Si Heterostructure

Katsuhisa Murakami, Tomoya Igari, Kazutaka Mitsuishi, Masayoshi Nagao, Masahiro Sasaki, and Yoichi Yamada
ACS Applied Materials & Interfaces(vol.12, pp.4061-4067, (2020))

受賞者

  • 村上 勝久(デバイス技術研究部門)
  • 長尾 昌善(デバイス技術研究部門)

選出理由

この論文で発表した技術は、グラフェンと六方晶窒化ホウ素という従来は電子源開発の分野では全く用いられてこなかった新材料を電子源に応用すると言う極めてオリジナリティの高いアプローチによるものである。本技術で開発した平面型電子源は、単色性や液体中でも動作するといった従来にない特徴から、既に複数の企業との共同研究を開始している。例えば、単色性を用いた応用として、本電子源を半導体検査装置に使うことで検査スループットを大幅に向上できることから、半導体検査装置メーカーとの共同研究が進んでいる。また、分析装置用や表面改質用の電子源として、複数のメーカーとサンプル提供契約の締結や技術コンサルティングを実施している。さらに、本技術で用いられている触媒レスでグラフェンを成膜する技術は知財の情報開示契約・実施契約の獲得に至っており、液体中で動作する特徴を活かしてアルコール等から水素を製造する技術についても企業との共同研究を実施中である。このように、著者らの本論文を始めとする一連の技術は、高いオリジナリティと産業的な価値を有し、革新的な電子デバイスによるイノベーション創出の好事例となることが大いに期待される。

受賞者代表(藤原 治)(右)の写真
受賞者代表(村上 勝久)(右)

Isolation of a member of the candidate phylum 'Atribacteria' reveals a unique cell membrane structure

Taiki Katayama, Masaru K. Nobu, Hiroyuki Kusada, Xian-Ying Meng, Naoki Hosogi, Katsuyuki Uematsu, Hideyoshi Yoshioka, Yoichi, Kamagata & Hideyuki Tamaki
Nature Communications(vol.11, no.6381, (2020))

受賞者

  • 片山 泰樹(地圏資源環境研究部門)
  • ノブ マサルコニシ(生物プロセス研究部門)
  • 草田 裕之(生物プロセス研究部門)
  • 孟 憲英(生物プロセス研究部門)
  • 吉岡 秀佳(地圏資源環境研究部門)
  • 鎌形 洋一(生命工学領域)
  • 玉木 秀幸(生物プロセス研究部門)

選出理由

今回の成果は天然ガス等燃料資源の効率的な開発及び地圏の環境保全や利用に資する地圏微生物の研究から創出され、生命工学領域の研究者との連携で達成された領域融合の取り組みでの大きな成果である。IF値が14.919と非常に高いNature Communications誌に掲載されただけでなく、公開論文の中でも特に重要で興味深い論文だけが選ばれるEditors' Highlightにも選出された。また、生命科学分野のプレプリントレポジトリbioRxivに成果を公開したところ、公開後1ヶ月間のダウンロード数が全論文約6万報のうち72位となり学術的に注目度が非常に高い。当該菌株が世界中でメタンが賦存する地下環境(天然ガス田等)に広く生息する細菌グループの1つであることから、今後燃料資源分野への応用も十分期待できる。また高校教科書の指導資料に掲載される等、学術面のみならず教育分野にも波及する研究成果であり、総合的な観点から産総研のプレゼンス向上に大いに貢献したと判断される。

受賞者代表(藤原 治)(右)の写真
受賞者代表(ノブ マサルコニシ)(右)

Perfect blackbody sheets from nano-precision microtextured elastomers for light and thermal radiation management

Kuniaki Amemiya, Hiroshi Koshikawa, Masatoshi Imbe, Tetsuya Yamaki, Hiroshi Shitomi
Journal of Materials Chemistry C (vol.7, pp.5418-5425, (2019))

受賞者

  • 雨宮 邦招(物理計測標準研究部門)
  • 井邊 真俊(物理計測標準研究部門)
  • 蔀 洋司(物理計測標準研究部門)

選出理由

黒色素材は、装飾、映像、太陽エネルギー利用、光センサー、熱放射体など、光の応用分野に幅広く用いられている。特に、カメラ内部や分光分析装置内の乱反射防止、迷光除去などの用途では、理想的には無反射の「黒体」材料が切望されている。産総研の光の計量標準でも、光を全て吸収・検出することで光の強さの基準を決めており、やはり極めて黒い光吸収体が必要である。しかし、これまでに開発された非常に黒い素材は、表面に触れると性能が損なわれるなど耐久性には乏しく、一般環境での利用は困難だった。
本論文は、耐久性の高い黒体材料の開発に成功したものである。いわゆる「空洞黒体」の原理をミクロなサイズで実現した「光閉じ込め構造」を基板表面全体に形成し、シリコーンゴムなどに構造を転写した「暗黒シート」は、曲げても触っても性能が劣化せず、黒体に近い高い光吸収率を維持できるため、実用性が高い。特に、高い赤外線吸収率は高い放射率の裏返しでもあり、熱赤外線放射量を温度に換算する放射温度計測装置(サーモグラフィ等)のための精確な温度基準(基準赤外線放射体)としても適している。本取組は、非接触検温の信頼性向上に貢献するものであり、大型の国プロ(AMED令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業)にも筆頭著者が代表者となって課題採択された。また、「暗黒シート」の光閉じ込め構造の作製に必要な、サイクロトロン加速器からの高エネルギーイオンビームによる加工技術は、量子科学技術研究開発機構との学際的連携に基づくものであり、科研費基盤Bにも共同で課題採択された。
競争の激しい材料科学分野のQ1誌に掲載された本論文は、公開2年半余りで同誌掲載論文の中央値を上回る18回の被引用数を獲得し、論文の社会的な影響度の指標であるAltmetrics値も32と高い値を得ている。本成果に基づく特許出願は3件(うち外国出願1件(5か国/地域に移行し、1件特許登録(日本))、およびPCT出願1件)、招待講演が4件、企業等からの問合せは100件超にも及び、テクノブリッジフェアなどの展示会出展の来訪者は延べ600名超と、実用化が大きく期待されている。さらに、全国紙を含む新聞22紙に掲載されたほか、キー局テレビ報道2件、一般向け科学雑誌5誌でも取り上げられ、産総研公式Youtubeの解説動画は4万回超の再生を記録、コロナ禍で初めての非常事態宣言下において休校中の児童生徒向けの科学動画コンテンツにも選定されるなど、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。

受賞者代表(藤原 治)(右)の写真
受賞者代表(雨宮 邦招)(右)