発表・掲載日:2023/10/18

ロボット実験とAIによりセラミックス化学焼結プロセスの条件探索を高速化

-「焼かずに」100 ℃以下の低温で作れる機能性セラミックスの種類が飛躍的に増加-

ポイント

  • 人間が1カ月以上かかるような合成・製造実験をロボットが1日で実現
  • キャパシタや燃料電池など、さまざまな機能性セラミックスが化学焼結で製造可能に
  • 低温製造によって大幅なCO2排出量削減に貢献

概要図

ロボットアームによるセラミックス粉末合成と化学焼結による焼かないセラミックス製造


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という) 極限機能材料研究部門 固体イオニクス材料グループ 山口 祐貴 主任研究員、中山 麗 産総研特別研究員は、ロボットによるハイスループット自動実験機械学習などの人工知能(AI)を用いて、100 ℃以下で複合酸化物ナノ結晶粉末原料を合成し、さらに機能性セラミックス固体を化学焼結プロセスで製造できる条件を短時間で探索する技術を開発しました。

セラミックス固体を製造するには、一般的に1000 ℃を超える高温での焼結が必要です。産総研は、原料間の化学反応を利用して、100 ℃以下の低温で複合酸化物からなるセラミックス固体を「焼かずに」製造する研究開発を行っています。しかし、手作業での低温製造には時間がかかるため、「焼かずに」製造できる複合酸化物は数種類しか発見できていませんでした。粉体秤量(ひょうりょう)の自動化装置と人協働ロボットを活用することにより、短時間で多くの低温製造実験が行えるようになりました。また、得られた大量のデータを用いて、材料組成や合成温度などの最適条件をAIに予測させた結果、数十種類の複合酸化物セラミックス固体が化学焼結プロセスで製造できることを見いだしました。化学焼結プロセスは、外部から圧力をかけなくても、高い結晶性を有する複合酸化物が得られることが特徴です。製造温度の飛躍的な低減によって、機能性セラミックス固体の製造時におけるCO2排出量の削減に貢献します。

なお、この技術の詳細は、2023年10月20日に産総研中部センター「未来モビリティ材料 共創フェア」にて発表予定です。


開発の社会的背景

金属酸化物から構成される機能性セラミックスは、エネルギー・環境や医療、エレクトロニクス、通信など、さまざまな分野における部材やデバイスに用いられています。これらの機能性セラミックスの原料となる粉末は、一般的に1000 ℃を超える高温で合成されます。また、デバイスとして用いられるセラミックス固体を製造する際にも、高温で粉末原料を焼結することが求められます。高温での熱処理が何度も繰り返されることによって、機能性セラミックス製造時に大量のCO2が排出されることが問題になっています。一方、低温でのセラミックス固体の製造プロセスは、高温プロセスと比べて反応速度が遅いため、最適な条件を見つけ出すのに必要な時間が比較的長くなることが問題です。さまざまな種類の材料に対して、同じ製造プロセスが適用できるかを検討する場合は、材料の種類の数だけ、同様の実験回数が求められます。そのため、効率よく多くの実験を行い、短時間で最適条件を探索するための新たな研究開発手法の確立が求められていました。

 

研究の経緯

複合酸化物の粉末原料の合成に、固相合成法が採用されています。この方法は、目的物を得るために、酸化物などの複数の原料に1000 ℃以上での熱処理と粉砕を繰り返します。しかし、製造時に大量のCO2を排出してしまう問題があります。一方、微粉末原料を合成する際には、ゾル-ゲル法や共沈法、水熱合成法などの液相合成法が採用されています。これらの方法は、大量の粉末を合成することが難しく、固相合成法と比べて高コストになりやすいという問題があります。

産総研は、これらの問題を克服するために、簡便に合成することが可能でCO2排出量も低減できるクリーンで省エネルギーなセラミックス固体の製造プロセスの開発を進めています。これまでに、非晶質含水酸化物原料アルカリ・アルカリ土類金属水酸化物の原料を用いた複合酸化物ナノ結晶の簡易低温合成法およびこの合成反応を用いた100 ℃以下の低温でのセラミックス固体製造プロセスを開発してきました。しかし、開発した合成法で得られる複合酸化物は、ペロブスカイト型酸化物(ABO3、AとBは異なる金属種、Oは酸素)のわずか数種類に限定され、元素AとBの組み合わせが少ないことが問題でした。低温でのセラミックス固体製造プロセスは反応速度が遅いため、手作業で一つの実験条件を試行するのに1週間かかります。一度の実験で用意できるサンプルは最大四つであったため、1週間に4サンプルのデータしか取得できません。同一組成について、高い密度の固体を製造するプロセスを最適化するのに1年を要しました。異なる組成の複合酸化物について同様の実験を行う場合には、さらに長い実験期間が必要です。そこで、ロボットを利用した自動化により、実験回数を大幅に増やしました。一度の実験で効率よくデータを取得し、機械学習などの人工知能(AI)を用いることで、最適な合成および製造条件を短時間で見いだす手法の確立を目指しました。

 

研究の内容

今回の研究は、粉体秤量の自動化装置を使った複合酸化物ナノ結晶の簡易低温合成法による材料組成の探索と、人協働ロボットを活用した化学焼結によるセラミックス固体製造プロセスの条件探索の2ステップで行いました。

産総研で開発した簡易低温合成法は、従来の固相反応法で用いられる酸化物原料とは異なり、原料に非晶質含水酸化物を用いることが特徴です。この非晶質含水酸化物は水分子や水酸基を多く含んだ構造を持ち、これとアルカリ性の原料を混ぜ合わせると中和反応が起こり、目的の複合酸化物が100 ℃以下で生成されます。複合酸化物の粉末を混ぜて100 ℃以下で保温するだけでセラミックス原料粉末を簡便に合成できるため、省エネルギーが実現できます。

簡易低温合成法によって短時間で材料組成を探索するために、少量の粉体を自動で秤量し混合する粉体秤量の自動化装置を使いました。この実験は合成できるかどうかを判断するためなので、100 mg単位の少量の原料粉末を用いて、AとBの原料の多様な組み合わせを試行しました。この方法によって合成できる組成をあらかじめ知ることで、後に行う低温でのセラミックス固体製造プロセスを適用する材料を絞り込みます。アルカリ性の原料には、A(OH)x (A: Li, Na, K, Ca, Sr, Baなど)で示される水酸化物の粉末を用い、非晶質金属酸化物の含水ゲルBOy·nH2O (B: Ti, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Mo, Wなど)を液相合成法の一つである沈殿法によって調整し、合成用の原料として用いました。当該プロセスの酸塩基反応による複合酸化物合成は、以下の式で示されます。

α A(OH)x + β BOy·nH2O → AαBβOγ + mH2O

ここで、n, x, y,α,βは任意の数です。通常はこれらの実験を手作業で行いますが、組成A(OH)xとBOy·nH2Oおよびその割合の最適な組み合わせを効率よく探索するために、図1に示す粉体秤量自動化装置を活用し、低温合成を検討しました。

本プロセスは原料となる2種類以上の粉体を混合して、100 ℃以下で保温静置するだけで反応が進行します。電気炉などを用いる必要がなく、粉体秤量自動化装置だけで多くの組み合わせの試料を調製することが可能です。一つの組成をおよそ10分で調製し、自動実験により8時間で最大48通りの合成実験を試行できます。手作業で1カ月以上必要であった合成実験を自動化装置の24時間運転によって1日で達成することが可能で、これまでの20倍以上の実験回数で合成可能な組成を探索できるようになりました。X線粉末回折(XRD)による合否判定の評価結果と各元素のイオン半径などの化学情報を複数の機械学習モデルに学習させました。これにより、新しい材料組成の複合酸化物が、同様のプロセスで合成可能であるかを予測する手法も確立しました。

図1

図1 粉体秤量自動化装置を活用した材料組成探索の高速化

次に、探索した低温で合成可能な材料組成に対して、複合酸化物から構成されるセラミックス固体の化学焼結プロセスへの適用可能性を検討しました。固体化の際には大気中の水分の影響を受けるため、実験は不活性ガスで充填したグローブボックス中で行う必要があります。グローブボックスでの作業は、分厚いゴム製のグローブ越しで操作をする必要があるため作業効率が悪く、一つの機能性セラミックス固体を製造するのに1日かかることが問題でした。そこで、愛知工業大学 ロボット研究ミュージアム COBOTTAプロジェクトチーム(担当:西山 禎泰 客員講師)との共同研究により、図2に示す人協働ロボットを活用した自動実験システムを構築し、グローブボックス内で行うための実験の自動化を行いました。人協働ロボットによるグローブボックス内での粉体秤量や混合の作業時間は、人間がグローブボックス外で行うのとほぼ同等です。手作業では8時間かけていた機能性セラミックス固体の化学焼結プロセスの作業の一部を、ロボットでは1時間に短縮することができ、さらに24時間連続で行うことができるようになりました。

図2

図2 人協働ロボットを用いた自動セラミックス化学焼結システム

非晶質金属酸化物の含水ゲルBOy·nH2Oの粉末を一軸プレス成形でペレット形状に加工した前駆体を用意したのちに、この前駆体ペレットを各種水酸化物溶液中に浸して100 ℃以下の一定温度で保温することで、外部から圧力をかけなくても高い結晶性を有する機能性セラミックス固体を製造することができます。この化学焼結プロセスは、大面積や複雑な形状にも対応可能です。

ロボットを活用した自動実験による効率的な条件探索で、100 ℃以下の低温で「焼かずに」製造することができる複合酸化物セラミックス固体の種類を数十種類まで増やすことに成功しました。図3に化学焼結プロセスで作製した各種複合酸化物のバルク体を示します。条件探索の高速化によって、キャパシタ用強誘電体(BaTiO3)や燃料電池用電解質(BaZrO3)、光触媒材料(SrTiO3)、電池用電極材料(LiTiO2)などの機能性ファインセラミックス固体の低温焼結に短時間で成功しており、さまざまなセラミックス部材やデバイスへの適用が期待できます。

図3

図3 化学焼結によって100 ℃以下で作製した機能性セラミックス

今後の予定

機能性セラミックス合成・製造のハイスループット自動実験と機械学習などのAIを組み合わせることで、最適な化学焼結条件を短時間で見いだす手法を確立しました。今後は人が行っているX線粉末回折(XRD)などの材料の分析・評価についても自動化を進め、合成から評価までを一貫してスムーズに行うことを計画しています。また、ベイズ最適化などAIの高度化を進めることで、実験回数の削減を図り、より高速なプロセス最適化を目指します。これまで金属元素が2種類だったのを3~4種類に増やすことによって、新たな機能性セラミックス材料の発見につながることが期待できます。「焼かずに」製造できる機能性セラミックス材料の種類を増やすことによって、製造時におけるCO2排出量の大幅な低減に貢献していきます。


用語解説

ハイスループット自動実験
従来の実験手法と比較して、自動装置やロボットなどを活用することで、少ない労力で多くの実験を試行する手法。[参照元へ戻る]
機械学習
コンピューターに学習データを学習させ、学習結果を使って何らかのパターンを自動的に発見し、必要とする対象を予測もしくは判断することができるコンピューターアルゴリズム。分析や予測したい対象に合わせてさまざまなアルゴリズムを選択する。[参照元へ戻る]
複合酸化物
2種類以上の金属イオンが含まれる金属酸化物。ペロブスカイト型やスピネル型など特徴的な結晶構造を有するものがある。複酸化物とも呼ばれる。[参照元へ戻る]
ナノ結晶粉末原料
結晶粒子の大きさがナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の単位を持つ粉末。特に1〜100ナノメートルをナノ結晶と呼ぶことが多い。ナノ結晶の粉末を原料とすることで高い反応性を示す。[参照元へ戻る]
セラミックス
金属の酸化物や窒化物などの無機物質を焼き固めた固体。ここでは広義として、人為的な処理によって製造された非金属の無機固体物質を「セラミックス」と呼び、特にセラミックスを焼き固めたものを「セラミックス固体」と呼ぶ。 [参照元へ戻る]
化学焼結
1000 ℃以上の温度で熱処理する一般的な焼結に対して、粉体粒子と添加試薬の間で起こる酸塩基反応によって、複合酸化物を合成するのと同時に緻密な固体を製造する手法。100 ℃以下の低温で反応が進行するため、省エネルギーが実現する。[参照元へ戻る]
焼結
金属やセラミックス粉末原料などを圧縮などによって成形体とし、融点以下の温度で熱処理することにより、粉体粒子同士が接合し、焼結体と呼ばれる一つの緻密な固体になる現象。[参照元へ戻る]
固相合成法
酸化物や炭酸塩などの固体原料を均一に混合したのちに、融点以下の高温で長時間加熱することにより、複合酸化物などのセラミックス材料を合成する手法。[参照元へ戻る]
液相合成法
固相合成法と異なり、水溶液などの液体原料を用いて、複合酸化物などのセラミックス材料を合成する方法。さまざまな金属イオンが溶け込んだ溶液を原料とすると、均一な混合状態を容易に得ることができる。一般に、固相合成法と比べて低い温度で複合酸化物を合成することができ、ナノスケールの結晶を合成することも可能。[参照元へ戻る]
非晶質含水酸化物原料
イオンがランダムに分布する非結晶を含む水酸化物の原料。非晶質含水酸化物原料は構造の中に水分子を多く含むため、化学焼結に必要な酸塩基反応が生じやすくなる。[参照元へ戻る]
アルカリおよびアルカリ土類金属水酸化物原料
M(OH)xで示される水酸化物(Mはアルカリもしくはアルカリ土類金属元素。xは任意の自然数)。一般に、これらを水に溶解させた水溶液はアルカリ性を示す。非晶質含水酸化物原料と高い反応性を示し、酸塩基反応によって複合酸化物を生成する。この化学反応によって化学焼結が進行する。[参照元へ戻る]
ペロブスカイト型酸化物
ABO3(AとBは異なる金属種、Oは酸素)の化学組成で示される複合酸化物。ペロブスカイトは元々CaTiO3の組成を持つ鉱物であるが、これと同様の結晶構造の複合酸化物をペロブスカイト型酸化物と呼ぶ。強誘電体やイオン電導体、電子伝導体などさまざまな特性を持つ物質があり、多くのデバイスに用いられる。[参照元へ戻る]
X線粉末回折(XRD)
粉末材料に対して決まった波長のX線を照射して、特定の条件下で回折によって反射したX線を検知することで、結晶構造を分析する手法。結晶の構造や方位、残留応力や結晶のサイズの見積もりなどが可能。[参照元へ戻る]
グローブボックス
雰囲気に敏感な試薬や物質を扱う実験を行う際に、外気と隔離して不活性ガスなどを充填したボックス内で作業ができる実験設備。外部からゴム製の手袋を経由してボックス内部の試薬や装置を扱うことができる。[参照元へ戻る]


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