発表・掲載日:2023/09/13

高精度な熱電デバイスの変換効率評価装置を開発

-国際標準化による熱電発電の新市場創出や拡大に貢献-


NEDOは「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業」(以下、本事業)に取り組んでおり、今般、産業技術総合研究所と共同で、高精度な熱電デバイスの変換効率評価装置(以下、本装置)を開発しました。

熱電デバイスの変換効率を高精度に評価するためには、熱電デバイスへの入力熱流の量を正確に測定する必要がありますが、熱電デバイス側面から流出する損失熱流は計測されないため、変換効率を過大または過小評価する問題がありました。

本装置では、熱電デバイスの周囲に、熱特性にあわせて最適化されたガードリングを設置することで、側面からの熱損失を最小限に抑えることができます。これにより、熱電デバイスへの入力熱流と通過熱流が測定の不確かさの範囲内で一致することが確認でき、熱電デバイスの発電性能試験法における国際標準の制定に向けた取り組みが前進しました。

今後、本事業で海外の研究機関と連携し、熱電デバイスの変換効率評価装置の比較評価を行うことで、国際的な評価法の整合性を図る取り組みを行います。これにより、発電性能試験の国際標準化活動の道筋を示し、熱電発電の新市場創出や拡大に貢献します。

この研究成果の詳細は、2023年9月19日から23日まで熊本県熊本市で開催される第84回応用物理学会秋季学術講演会で発表されます。

図1

図1 熱電デバイス変換効率評価装置中心部の模式図


1.背景

太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーの導入と、徹底した省エネルギーの追及は、脱炭素社会の実現に必要不可欠な取り組みであり、中でも、工場や自動車などの廃熱を有効活用することは、省エネルギー対策の重要な柱の一つです。このため、熱電デバイス※1を通して廃熱を電気エネルギーに変換する熱電発電※2には大きな期待が寄せられており、世界的にも熱電発電の高効率化が進められています。一方で、変換効率の評価法は国際的に統一された規格がなく、結果が一致しない場合もあるため、熱電デバイスの変換効率を正しく評価できないことが熱電発電の開発や普及にあたっての問題でした。

このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2020年度から本事業※3で国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と、熱電デバイスの評価技術の高度化に取り組んできました。

 

2.今回の成果

熱電デバイスの変換効率は、入力熱流※4と発生する電力との比率で表されます。変換効率を高精度に評価するためには、入力熱流の量を正確に求めることが鍵となります。一方で、入力熱流を発生させるヒーターとその周辺の温度に差があると、ヒーターからの熱ふく射※5の影響により、入力熱流の測定精度に影響を及ぼします。そのため、ガード※6ヒーターを用いる方法や、入力熱流の代わりに熱ふく射の影響を受けにくい低温側の通過熱流を測定する手法が用いられています。しかし、それらの手法を用いたとしても、熱電デバイス側面から流出する損失熱流は計測されないため、変換効率を過大または過小評価するという課題がありました。

今般、NEDOと産総研は、熱電デバイス側面からの熱損失を最小化するため、熱電デバイスの周囲にガードリングを設けた本装置を開発しました(図2)。ガードリングは評価する熱電デバイスに合わせてその厚みを調整することで熱抵抗※7を最適化できます。これにより、熱電デバイスとその周辺の温度を等しくでき、熱ふく射により流出する熱損失を最小限に抑えることができます。

図2

図2 熱電デバイス変換効率評価装置の全体図

本装置の性能を評価するため、標準的な面積と厚さ(30 mm×30 mm×6 mm)を有する熱電デバイスへの入力熱流と通過熱流を測定し、その差分を計算することでデバイス側面からの熱流出量を求めました。この際、産業分野の中低温の廃熱利用を想定し、熱電デバイス直上(高温側)の温度を550ケルビン(K)(約277 ℃)、600 K(約327 ℃)、650 K(約377 ℃)、700 K(約427 ℃)に制御しました。一方、熱電デバイス直下(低温側)の温度を300 K(約27 ℃)と一定に保つことで、熱電デバイス両面の温度差を調整しました。

ガードリングなしで測定を行ったところ、図3左に示すように、温度差が大きくなるにつれ、入力熱流と通過熱流の差が拡大しています。これはヒーターの昇温に伴い、熱電デバイス側面からの熱損失が増加したためと考えられ、温度差が約400 Kのとき、入力熱流と通過熱流の差は約5ワット(W)に達しました。

熱電デバイスの周囲にガードリングを設置して同様の測定を行ったところ、図3右に示すように、すべての温度差の領域で入力熱流と通過熱流の差は1 W以下に低減されました。これにより、熱電デバイスの変換効率を求める際に、低温側に備えた熱流計※8で測定された値を用いても、測定の不確かさ※9の範囲内で問題ないことが確認できました。

図3

図3 熱電デバイスへの入力熱流と通過熱流の測定結果の比較

3.今後の予定

産総研は、本技術の詳細を、2023年9月19日から23日まで熊本県熊本市で開催される第84回応用物理学会秋季学術講演会で発表※10します。

NEDOと産総研は本事業において、海外の研究機関と連携し、熱電デバイスの変換効率評価装置の比較評価を行うことで、国際的な評価法の整合性を図る取り組みを行います。これにより、発電性能試験の国際標準化活動の道筋を示し、熱電発電の新市場創出や拡大に貢献します。


注釈

※1 熱電デバイス
電荷を運ぶ電荷担体(キャリア)が正の電荷を持った正孔(ホール)であるp型熱電材料と負の電荷を持った電子であるn型熱電材料とを直列に接続した構造を熱電デバイスといいます。熱電デバイスには使用環境を想定した大気中の発電量や信頼性などいくつか評価すべき性能があり、中でも変換効率は最も重要な性能です。[参照元へ戻る]
※2 熱電発電
導体に温度差を与えると、固体中の電子の運動により導体の両端に電圧が発生します。この熱電効果(ゼーベック効果)を利用した発電方法です。[参照元へ戻る]
※3 本事業
事業名:クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業
事業期間:2020年度~2023年度
事業概要:クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100173.html [参照元へ戻る]
※4 熱流
熱エネルギーが移動しているとき、その流れを熱流といいます。特に、熱電デバイスへ高温側より加えた熱流を入力熱流、熱電デバイスを通過し低温側へ流れ出た熱流を通過熱流、また、熱ふく射により流出した熱流を損失熱流といいます。[参照元へ戻る]
熱流説明図
※5 熱ふく射
物体が電磁波の形でエネルギーを放出・吸収する現象をふく射または放射といいます。特にこれが物体の温度だけで定まるものを熱ふく射または熱放射といいます。熱エネルギーの移動形態の一つです。[参照元へ戻る]
※6 ガード
ヒーターや熱電デバイスと同じ温度に制御された金属製の素材で、ヒーターや測定するデバイスを囲むように設置する測定技術のことです。温度差がなければ、熱抵抗がどんなに小さくても熱流は流れないので、リード線を介した熱伝導、熱ふく射などの形態で周囲へ流出する損失熱流を抑えられます。[参照元へ戻る]
※7 熱抵抗
熱抵抗とは、素材の熱の伝わりにくさを表す指標です。任意の2点間について、温度差を熱流量で除した値として定義されています。[参照元へ戻る]
※8 熱流計
銅などの熱抵抗体を流れた熱流を計測する計測器・センサーです。熱流の大きさに比例して生じる熱抵抗体の両面に生じる温度差を熱電対や白金温度計、または、熱電対を直列に接続し電圧信号を増幅したサーモパイルなどの温度計で検出します。[参照元へ戻る]
※9 測定の不確かさ
測定値の“確かさ”を示す国際的な統計指標です。真の値からの差という意味の「誤差」から、現在では「不確かさ」という概念が浸透しています。不確かさは種々の要因による測定量のばらつきを特徴づけるパラメータとされ、国際標準化機構(ISO)から国際文書「Guide to the expression of Uncertainty in Measurement」(GUMと略称)が発行されています。[参照元へ戻る]
※10 第84回応用物理学会秋季学術講演会で発表
講演内容は下記の通りです。
演題:熱電モジュールの発電効率評価における輻射熱損失の影響
講演者:天谷康孝、大川顕次郎、舟橋良次、太田道広、山本淳 [参照元へ戻る]


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