発表・掲載日:2022/12/05

「セルロースナノファイバーの安全性評価書」を公開

-関連事業者の自主安全管理を支援、CNFの応用開発と普及を後押し-


NEDOと産業技術総合研究所は、「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」で、セルロースナノファイバー(CNF)の安全性評価に取り組んでいます。本日、CNFの安全性に関するこれまでのNEDO事業の成果や取り組み状況、国内外の論文情報をとりまとめた「セルロースナノファイバーの安全性評価書」を公開しました。

今後は、さらに多様なCNFや情報が少ない項目についても評価を進め、安全性評価の結果を蓄積していくことで、素材メーカーや消費財メーカーなどの適切な自主安全管理を支援し、CNFの応用開発と普及を後押しします。

図1

図1 「セルロースナノファイバーの安全性評価書」の表紙


1.概要

植物素材であるセルロースナノファイバー(CNF)※1は軽量、高強度、高弾性、低熱膨張率、透明性という特長を有する高性能素材です。また、大気中の二酸化炭素を吸収・固定した木材などが原料であることから、カーボンリサイクルの一端を担う素材としても期待されています。一方、新しい材料が社会で使われていくためには、安全性の確認が重要です。安全性に関する情報がないことで、風評被害や他の材料との競争で不利になる可能性があります。特にナノ材料※2については、市場化にあたって安全性の確認を求める国際的な流れがあります。

2020年3月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)などと共同で、「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発※3」において、CNFの検出・定量手法の開発、気管内投与手法の開発、皮膚透過性試験手法の開発、排出・暴露評価手法の開発を行い、その成果として、「セルロースナノファイバーの検出・定量の事例集」、「セルロースナノファイバーの有害性試験手順書」および「セルロースナノファイバー及びその応用製品の排出・暴露評価事例集」の三つの文書類を公開※4しました。これらの文書類では、3種のCNFを主対象とした安全性評価手法と評価結果がまとめられています。しかし、さらにCNFの応用開発や普及を促進するには、これまでに行われていない評価項目を含む多様なCNFに関する安全性評価の実施や国内外における最新の論文などの情報集約が求められていました。

このような背景の下、NEDOの「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発※5」(以下、本事業)で、NEDOと産総研は引き続きCNFの安全性評価について、簡易迅速な吸入影響評価手法の開発と評価、中皮腫発生の検証、生態影響の評価、多様性や実用化に応じた排出・暴露評価に取り組んでいます。

本日、本事業の一環として、CNFを取り扱う事業者の自主安全管理や用途開発を支援することを目的に、CNFの安全性情報について、2020年3月に公開した三つの文書類の内容に、本事業でのCNFの安全性に関するこれまでの成果や取り組み状況、国内外の論文情報を加えてとりまとめた「セルロースナノファイバーの安全性評価書」(図2)を公開しました。

図2

図2 「セルロースナノファイバーの安全性評価書」にとりまとめた情報

本書は下記の産総研WEBサイトからダウンロードできます。

セルロースナノファイバー(CNF)の安全性評価(FY 2017-)
https://riss.aist.go.jp/results-and-dissemin/1625/

12月7日(水)から9日(金)まで、幕張メッセで開催される「第2回サステナブル マテリアル展」のNEDOブースで、また同期間に東京ビッグサイトで開催される「エコプロ2022」の企画展「第6回ナノセルロース展2022」のナノセルロースジャパンブースで本書を展示・配布します。

 

2.公開文書の概要

本書では第2章から第6章でヒト健康影響に関する情報として、動物試験や細胞試験の結果をまとめています。第2章は、発がん性や遺伝的障害のスクリーニング試験である遺伝毒性試験の結果についてまとめています。第3章は、繊維状物質で懸念される中皮腫についての知見をまとめています。第4章から第6章では、それぞれ吸入暴露、経皮暴露および経口暴露による影響をまとめています。第7章は、ヒト暴露に関する情報として、作業環境調査や模擬試験など、CNFの排出・暴露に関する評価事例を紹介し、注意すべきプロセス、対策と管理、計測法についてまとめています。第8章と第9章は、環境影響に関連する情報として、それぞれ水生生物への影響と生分解性についての知見をまとめています。最後に、第10章では、各章の結果を総括しています(図3)。

図3

図3 「セルロースナノファイバーの安全性評価書」の構成

3.今後の予定

本事業で産総研は、さらに多様なCNFに関して吸入影響や排出・暴露の評価を進めるとともに、情報が少ない中皮腫や生態影響の評価も進め、それらの評価結果を2024年度に成果文書としてまとめる予定です。これにより、素材メーカーや消費財メーカーなどの適切な自主安全管理を支援し、CNFの応用開発と普及を後押しします。CNFの社会実装・市場拡大を早期に実現することで、二酸化炭素の排出量を削減し、エネルギー転換・脱炭素化社会の実現に貢献します。


注釈

※1 セルロースナノファイバー(CNF)
パルプなどの植物繊維をナノレベルまでほぐすと得られる、繊維径が3ナノメートル~100ナノメートルのセルロース繊維です。[参照元へ戻る]
※2 ナノ材料
物理的な寸法が少なくとも一つの次元において1ナノメートル~100ナノメートルの間にある材料です。[参照元へ戻る]
※3 非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発
研究開発項目:非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/CNF安全性評価手法の開発
本項目の実施期間:2017年度~2019年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100058.html [参照元へ戻る]
※4 三つの文書類を公開
(参考)NEDOリリース(2020年3月26日)「セルロースナノファイバーの安全性評価手法に関する文書類を公開」https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101302.html [参照元へ戻る]
※5 炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発
研究開発項目:炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価
事業期間:2020年度~2024年度(予定)
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100169.html [参照元へ戻る]


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