発表・掲載日:2022/06/14

日本内陸部のストレスマップをオンライン公開

-内陸部で発生しやすい・誘発されやすい地震断層の特徴を解明-

ポイント

  • 膨大な微小地震データのAI処理から断層の特徴を分析し、日本列島にかかるストレスの向きを推定
  • 日本各地で起きやすい内陸地震を類型化
  • 内陸直下型地震の被害予測に必要な想定地震のモデル化に貢献

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門 地震テクトニクス研究グループ 内出 崇彦 上級主任研究員、椎名 高裕 研究員、今西 和俊 副研究部門長は、日本列島内陸部にかかるストレスの向きについて、日本列島規模の大局的な傾向から約20 km規模(マグニチュード7クラスの断層長に相当)の地域的な特徴まで知ることができるストレスマップを作成した。

このストレスマップの作成を可能にしたのが、AIを活用した地震波形ビッグデータ処理による21万件余りに及ぶ微小地震の震源メカニズム解の解析である。ストレスは地震発生の原動力となることから、このストレスマップは、地表の痕跡が不明瞭で活断層の存在が知られていない場所でも、どのようなタイプの地震が発生し得るかがわかる。巨大地震による誘発地震の発生可能性の評価にも有用である。なお、この成果の詳細は2022年6月14日に米国の学術誌「Journal of Geophysical Research Solid Earth」にオンライン掲載される。このストレスマップは、2022年6月17日に地殻応力場データベース(https://gbank.gsj.jp/crstress/)で閲覧することができるようになる。

概要図

日本内陸部のストレスマップで見るストレス方位の傾向


研究の社会的背景

大地震に対する国・自治体の防災計画は、地震発生と被害の予測に基づいて立てられている。地震発生は、主に、過去に発生した地震の履歴に基づいて、地震の規模や一定期間内に地震が発生する確率を統計的手法により予測している。予測精度の向上のためには、断層の形状や摩擦のほか、地震の原動力であるストレスを組み込んだ物理モデルで評価する必要がある。ストレスを調べる方法の一つに、実際に発生した地震の震源メカニズム解を利用するものがある。データ解析に多くの時間を要するため、これまでは地域を限定したストレスマップが作られることが多かった。日本全国のストレスを解析する場合は、地震が少ない地域では精度の高い推定ができないという問題があった。

 

研究の経緯

産総研では古地震調査、室内実験、地球物理観測などを融合させた新しい活断層評価手法の開発に取り組んでいる。その一環として、地震の原動力であるストレス情報の整備を進めてきた。マグニチュード3以下の微小地震がどこでも日常的に比較的多く発生している。そこで、微小地震を解析することで、地域版ストレスマップを整備してきた。関東地方および中国地方のストレスマップは地殻応力場データベースおよび地質図Navi(https://gbank.gsj.jp/geonavi/)で公開している。

さらに深層学習を活用して微小地震の震源メカニズム解を大量に求める手法を開発したことで、一気に日本全国のストレスマップを作る道筋がついた。処理を自動化することで、解析対象の地域を広げたり、地震発生の期間を延ばしたりしてデータが増加しても、容易に解析できるようになった。

 

研究の内容

内陸および沿岸海域の下、深さ20 km未満で2003年~2020年に発生した微小地震(マグニチュード0.5~3.0)について、国内に整備されている基盤的地震観測網で記録された400万本余りの地震波形からP波初動極性を深層学習により読み取り、それに基づいて、21万件余りの地震の震源メカニズム解を精度よく求めた。得られた震源メカニズム解を用いてストレスインバージョン解析を行い、緯度・経度共に0.2度(約20 km)刻みの範囲でストレス分布を得た(図1)。深層学習による自動処理ができるようになったので、従来だと処理できないほど数多くの地震データを利用することで、日本列島を網羅するストレスマップが完成した。

図1

図1 微小地震の断層タイプに基づくストレスマップの作成

得られたストレスマップにより、滑りやすい断層を類型化することができた。大別すると、中国地方より西側と中部地方の大部分では横ずれ断層型、近畿地方と東北地方の大部分では逆断層型の地震が起こりやすい。九州地方や関東・東北地方の太平洋側の一部地域では、正断層型の地震が起こりやすい。それ以外に、地域によっては異なるタイプの地震が起きている。政府の地震調査研究推進本部が基盤的な調査対象として選定している114の主要活断層帯に着目すると、2016年熊本地震を起こした布田川断層と日奈久断層、1943年鳥取地震を起こした鹿野-吉岡断層など、多くの活断層が現在のストレスで動きやすい方向を向いていることもわかった(図2)。このストレスマップは、地表の痕跡が不明瞭で活断層の存在が知られていない場所でも、どのようなタイプの地震が発生し得るかがわかり、想定地震のモデル化に利用されることが期待される。また、1944年東南海地震、1946年南海地震、2011年東北地方太平洋沖地震のような海溝型巨大地震が発生すると、内陸部にも急激にストレスがかかり、直下型の地震が誘発されることがある。その誘発されやすさは、元々かかっていたストレスと急激にかかるストレスの方向がよく一致しているかどうかが大きく関わる。現在、南海トラフや千島海溝沿いの巨大地震の切迫性が高まっているが、そのような地震が発生した後の直下型の地震活動を評価する上でも、今回作成したストレスマップは有用となる。

図2

図2 ストレスによる主要活断層帯の滑りやすさ(スリップテンデンシー

※本プレスリリースの初めの図と図1は地質調査総合センター研究資料集 No. 738(内出ほか, 2022)の図を、図2は原論文「Journal of Geophysical Research Solid Earth」の図を引用・改変したものを使用している。本プレスリリースの初めの図における地殻応力場データベースのスクリーンショットでは、国土地理院の地理院地図にストレス情報を追記したものを掲載している。本プレスリリースの初めの図と図1の一部には、産総研地質標本館特別展「日本列島ストレスマップ」のブックレット(https://www.gsj.jp/Muse/exhibition/archives/2021/2021_spring.html)内の図を改変して使用した。

引用文献:内出崇彦・椎名高裕・今西和俊 (2022) 日本全国内陸部の地殻内応力マップと微小地震の発震機構解のデジタルデータ, 地質調査総合センター研究資料集, No. 738, 産業技術総合研究所地質調査総合センター, 6p.

 

今後の予定

ストレスマップの範囲を海域や20 km以深に拡大し、海溝型地震や首都圏直下のやや深い地震の評価にも活用できるように発展させる。

 

論文情報

掲載誌: Journal of Geophysical Research Solid Earth
論文タイトル: Stress map of Japan: Detailed nationwide crustal stress field inferred from focal mechanism solutions of numerous microearthquakes
著者: Takahiko Uchide, Takahiro Shiina, Kazutoshi Imanishi
DOI: 10.1029/2022JB024036


用語の説明

◆ストレス
物体の内部に働く力のこと。応力とも呼ばれる。プレート運動や過去の地震の発生、火山活動などといった様々な地球内部の活動によって、地球の内部はストレスを受けている。ストレスはこれらの活動を調べるための手掛かりである。[参照元へ戻る]
◆震源メカニズム解・P波初動極性
震源メカニズム解は地震を特徴づける指標の一つで、断層面と断層滑りの方向に対応する。P波による震動の初めが上方または下方のどちらに動いたかを表す「P波初動極性」を多数の地点で調べることで、震源メカニズム解を決定することができる。[参照元へ戻る]
◆基盤的地震観測網
日本の研究機関や大学により運営されている地震計のネットワーク。各機関で得られたデータを一元的に収集し、インターネット等で公開している。今回はそのうち、国立研究開発法人防災科学技術研究所が管理する高感度地震観測網(Hi-net)と、気象庁と産総研が管理する観測点のデータを使用した。[参照元へ戻る]
◆ストレスインバージョン解析
多数の震源メカニズム解によく合うストレスを推定するデータ解析。圧縮するストレスが最も大きい方向を求めることができる。[参照元へ戻る]
◆横ずれ断層・逆断層・正断層
断層は滑り方によって、これら3つのタイプに大別される。断層滑りによって、周辺の岩盤が伸びる方向(黒矢印)と縮む方向(白矢印)があり、これらがストレスを知るための手掛かりになる。[参照元へ戻る]
◆スリップテンデンシー
ストレスによる断層の滑りやすさを示す指標の一つ。本研究で計算したスリップテンデンシーは、ストレスが断層を滑らせやすい方向を向いているかどうかを示している。この場合、すぐに地震が起きやすいかどうかという発生時期を示しているわけではない。[参照元へ戻る]


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