発表・掲載日:2022/04/22

世界初、火山噴火推移予測のための火山灰データベースを公開

-噴火メカニズムの把握の効率化に貢献-

ポイント

  • 国内外の主要な噴火により噴出した火山灰粒子の顕微鏡画像データベースを開発
  • 火山灰の特徴と噴火情報のデータベース化により類似事例の即時検索が可能に
  • 噴火の即時状況把握と推移予測への貢献

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門 大規模噴火研究グループ 下司信夫 研究グループ長、松本恵子 研究員らは、国内外の主要な噴火で噴出した火山灰のデータベースを公開した。火山灰粒子の顕微鏡画像とその噴火様式、火山活動状況といった情報を収録する世界初のデータベースである。このデータベースは21世紀に国内で発生した主要な噴火の火山灰をほぼ網羅するほか、より古い噴火や海外の噴火試料も採録している。このデータベースにより、新たな噴火が発生した場合に、類似した特徴を持つ過去の火山灰の情報を速やかに検索・抽出することが可能となる。これにより、噴火のメカニズムを即時に把握し、推移を予測することで、噴火災害の軽減に貢献できる。

概要図

国内外の主要な火山灰の顕微鏡画像と噴火情報をデータベース化しウェブ上で公開


開発の社会的背景

火山の噴火発生時には、刻々と変化する噴火状況のなかで適切な防災対応を行うために、さまざまな観測データを基に過去の類似事例を参照し、発生した噴火のメカニズムの推測やそれに基づく推移予測が行われる。なかでも火山から放出されて遠方に運ばれる火山灰は、噴火の直接の物証であり、噴火発生メカニズムの把握に不可欠な情報を保持する。例えば、火山灰の色・形状・粒子種類の組み合わせといった特徴から、噴火に対するマグマの関与の有無や結晶量・気泡量などのマグマの状態、爆発様式などを推定できる。しかし、これまで過去の噴火で噴出した火山灰の特徴について、統一した基準でまとめたデータベースが存在しなかったため、過去の類似事例を調べることは容易ではなく、即時性が求められる噴火推移予測にとって支障となっていた。

 

研究の経緯

産総研では、火山噴出物の地質学的・物質科学的な解析に基づき、火山活動のメカニズムを把握する研究に取り組んできた。国内での噴火発生時には、気象庁火山噴火予知連絡会の構成メンバーとして、火山灰の構成粒子を判別することで噴火メカニズムの解析を行い、その情報を即時に社会に提供している。その過程で、火山灰に関するデータの蓄積を進めてきた。産総研における火山灰データの蓄積は国内で随一であり、21世紀に発生した国内の主要な噴火をほぼ網羅している。20世紀以前や先史時代など、より古い時代の噴出物についても、地質調査や文献調査により試料や情報の収集を進めている。

 

研究の内容

今回開発した火山灰データベースは、国内外の38火山で発生した噴火の約100事例について、約1000件にわたる火山灰試料の構成粒子の情報を収録している(図1)。収録された火山灰試料の1件毎に複数の光学顕微鏡画像を収めている。各試料には、噴出日や噴出地点、採取地点、採取状況などの情報が付随しており、噴火した火山や採取地点といった地理情報を検索して地図上に表示する機能も備えている。また、一部の試料については、光学顕微鏡画像のほか、粒子表面の微細構造を把握するための電子顕微鏡画像、粒子内部の組織情報を把握するための研磨断面の光学・電子顕微鏡画像、さらには構成物の化学組成分析データなども収録した。これらの総データ数は約10600件である。本データベースには、21世紀に国内で発生したほぼすべての火山噴火の火山灰のほか、海外の火山や20世紀以前に国内で発生した噴火の火山灰も収録した。火山灰の粒子の特徴を収録したこのようなデータベースは国内では唯一であり、海外においても類似事例はほとんど存在しない。

図1

図1 火山灰データベースの概要

本データベースにより、火山灰試料や噴火事例が整理され、容易に検索・抽出することが可能になった。2021年10月20日に阿蘇火山中岳が噴火した際には、翌日に産総研職員が現地で火山灰を採取し、持ち帰った火山灰の顕微鏡画像をデータベースに即日収録した。データベース上にある過去の阿蘇火山中岳の火山灰粒子と類似した特徴から、火口底の堆積物が噴出したことを明らかにし、気象庁の火山噴火予知連絡会に報告した。このように、新たな噴火が発生したときには本データベースを用いることで、その火山の過去の噴火や他の火山の噴火事例を検索して類似した特徴を持つ火山灰の情報を抽出することが可能となり、噴火のメカニズム把握や推移予測に貢献することができる(図2)。

本データベースは地質調査総合センターのHPで本日公開され、利用が可能となる。
https://gbank.gsj.jp/volcano/volcanic_ash/index.html

図2

図2 火山灰データベースの利活用により、噴火状況の把握・推移予測に貢献

 

今後の予定

今後も国内外の火山灰試料の収集と収録を進め、より多様な種類の噴火と規模を網羅したデータの整備を進めるとともに、噴火様式や火山灰粒子の特徴から検索可能とするなど、噴火推移予測に有効な情報の検索・抽出機能の高度化を推進する。


用語の説明

◆火山灰
火山の爆発によって破砕されたマグマや岩石の破片のうち、2 mm未満の粒子。構成物を分析することにより、噴火を引き起こしているマグマの特性などの情報を得ることができる。[参照元へ戻る]
◆噴火様式
噴火現象の多様な特徴を一括して示す用語。物理観測や地質学的手法により取得した噴火の爆発性、頻度、メカニズムや堆積様式といったさまざまな要因を総合的に判断して使用される。代表的な様式には、マグマの性質や爆発性に基づいた爆発的噴火や溶岩流噴火、また外来水の関与に基づいたマグマ水蒸気噴火、水蒸気噴火がある。また、ストロンボリ式、プリニー式、ブルカノ式、スルツェイ式噴火など代表的な火山に典型的にみられた噴火現象を一括して命名した様式もある。[参照元へ戻る]


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