発表・掲載日:2022/01/25

日本で発生した巨大噴火の影響範囲を明らかに

-シリーズとして「大規模火砕流分布図」を作成-

ポイント

  • 新しい地質情報として「大規模火砕流分布図」をシリーズ化
  • 第1号として3万年前に南九州で発生した入戸(いと)火砕流の分布図を公開
  • 防災や社会インフラ整備に役立つ巨大噴火の噴出物情報・影響範囲を提供

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門大規模噴火研究グループ 下司 信夫 研究グループ長、宝田 晋治 上級主任研究員らは、日本で発生した巨大噴火による12件の大規模火砕流について、これらの分布図をシリーズとして作成することを開始した。第1号として、約3万年前の姶良(あいら)カルデラの巨大噴火により噴出した入戸(いと)火砕流の分布図を公開した。

「大規模火砕流分布図」シリーズは、過去12万年間に日本で発生した巨大噴火について、多数の研究者による地表の地質調査の結果とボーリングコアデータを集約し、これら最新の知見に基づいて、大規模火砕流堆積物の分布範囲と層厚などの情報を統一的な基準で示す。第1号となる入戸火砕流の分布図は、火砕流堆積物の復元高度分布、層厚と最大粒径の変化、流向データ、復元分布、そして火砕流に伴う降灰分布を示している。入戸火砕流と火山灰の総噴出量は、改めて推定した結果、800〜900 km3であることが明らかとなった。これは従来の推定値より約1.5倍大きい。巨大噴火は低頻度であるが、発生すると広範囲に甚大な影響を及ぼす。本シリーズは、巨大噴火に備える防災計画や国土利用計画の策定に貢献する。

概要図

日本で過去12万年間に噴出した主な大規模火砕流とその降下火山灰についての分布


開発の社会的背景

東日本大震災を契機に、低頻度であるが甚大な災害を引き起こす地質現象が注目されている。特に、大規模火砕流を噴出する巨大噴火はひとたび発生すれば、火山周辺のみならず、広範囲に甚大な災害をもたらすことが予想される。地質時代の巨大噴火がもたらした噴出物は、その後の侵食などにより失われ、また新しい時代の地層に覆われる。そのため、既存の地質図ではその分布を把握することが困難である。しかし、同様な噴火が将来発生した場合、その影響の範囲を予測するためには、過去に発生した巨大噴火の噴出物の分布を正確に把握することが不可欠である。

 

研究の経緯

産総研は、火山地域の野外調査で収集した地質情報を基に、火山噴出物の分布や特徴に関する地質図などを公表してきた。東日本大震災以降、国内の代表的な巨大噴火の事例研究を進めており、噴火の時間推移や、大規模火砕流とそれに伴う噴出物による影響範囲についての知見を蓄積してきた。

 

研究の内容

「大規模火砕流分布図」は、複数の研究者によってこれまで蓄積されてきた広範囲の地質調査の知見と産総研が実施した調査結果から、過去の巨大噴火に伴う大規模火砕流とそれに付随する噴出物の分布の全貌を示す。

今回公表する「入戸(いと)火砕流分布図」(図1)は、鹿児島湾を中心とする半径約100 ㎞の範囲に分布する入戸火砕流堆積物を25万分の1スケールの地形図上に示している。通常の地質図では表せない小規模な堆積物の分布地点や地下に伏在する範囲について図示している。また、入戸火砕流堆積物の上面高度分布、層厚、軽石と岩片の最大粒径、火砕流の流れた方向を示す軽石の配列方向、噴火時に発生した姶良(あいら)Tn火山灰の分布も図示した(図2、図3)。さらに、火砕流堆積物の現存分布に基づき、火砕流の噴火当時の分布を再現するシミュレーションを行い、噴火時に火砕流が到達した範囲を推定した。火砕流分布図では、推定した火砕流の到達範囲と堆積物の層厚分布を示している。改めて推定した入戸火砕流の噴出量は、500〜600 km3、姶良Tn火山灰の噴出量は300 km3であった。これらの総噴出量は800〜900 km3で、従来の推定値より約1.5倍も大きいことが明らかとなった。図には巨大噴火を発生させた姶良カルデラの長期的な活動の特徴、巨大噴火の推移、火砕流堆積物の特徴の解説も加えられている。本日より地質調査総合センターの地質図カタログのウェブサイトから、解説書と共にPDFファイルおよびGISデータとして、入戸火砕流分布図をダウンロードすることができる(https://www.gsj.jp/Map/JP/lvi.html)。

「入戸火砕流分布図」は、将来同様の噴火が姶良カルデラで発生した場合、どの範囲にどのような影響が及ぶのかを推測する手掛かりとなる。

今回出版を開始する大規模火砕流分布図シリーズは、日本で発生した巨大噴火の噴出物の分布を統一的な基準で提示している。大学や研究機関の研究者の研究資料として活用されるほか、国及び地方自治体の防災計画や長期間にわたり持続すべき社会インフラの整備に不可欠な情報を提供する。

図1

図1 姶良カルデラ入戸火砕流堆積物分布図

図2

図2 姶良カルデラ入戸火砕流堆積物の分布図(中央部拡大)

図3

図3 入戸火砕流に伴う姶良Tn火山灰の分布図

今後の予定

今後は、過去約12万年間に日本で発生した12件の巨大噴火による大規模火砕流の分布図を順次作成し公開する計画である。令和3年度は、今回の分布図に加え、北海道南西部の支笏(しこつ)カルデラから噴出した支笏火砕流の分布図を作成する。また、令和4年度には、過去12万年間で国内最大の噴火で発生した阿蘇4火砕流の分布図を公表する。

なお、本研究の一部は、原子力規制委員会原子力規制庁の委託事業「平成28年度及び30年度原子力施設等防災対策等委託費(火山影響評価に係る技術知見の整備)」の成果を使用した。

用語の説明

◆巨大噴火
およそ10 km3以上の噴出物を伴う大規模な噴火を巨大噴火と呼ぶ。噴火に伴って火砕流が噴出し、カルデラが形成されることが多い。全世界では100年に1回程度の頻度で発生している。ひとたび発生すると広大な範囲に壊滅的な被害を与えるほか、大気圏に巻き上げられる大量の火山灰により、全地球の気候にも大きな影響を及ぼす。[参照元へ戻る]
◆火砕流
高温の火山ガスと軽石や火山灰の混合体が、時速数10 km〜100 km以上の速度で流れ広がる現象である。火砕流に覆われた地域は、壊滅的な被害を受ける。火砕流にはさまざまな規模があり、大規模火砕流は噴火地点から数10 km〜100 km以上の範囲を広く覆う。[参照元へ戻る]
入戸(いと)火砕流
現在の鹿児島湾北部に存在する「姶良カルデラ」から約3万年前に噴出した大規模火砕流。500 km3〜600 km3に及ぶ堆積物が鹿児島県を中心とした広い範囲にシラス台地として分布する。[参照元へ戻る]
◆ボーリングコア
地層掘削で得られた円筒状の地層や岩石の試料であり、地下数10 m〜数1000 mの地層や岩石の調査に用いられる。[参照元へ戻る]
◆カルデラ火山
巨大噴火により大量のマグマが噴出し、地下のマグマ溜まりの天井が崩壊して形成された直径数km以上のくぼ地からなる火山。マグマの再注入により巨大噴火を繰り返す場合がある。
姶良(あいら)Tn火山灰
入戸火砕流から舞い上がった約300 km3に及ぶ火山灰であり、日本列島の広い範囲を覆っている。給源の姶良カルデラと模式地の丹沢(Tn)が名称の由来である。日本各地で約3万年前の地層を示す重要な指標となっている。[参照元へ戻る]


お問い合わせ

お問い合わせフォーム