発表・掲載日:2021/04/19

人が感じないごく小さな揺れの成分解析から地熱発電に利用可能な熱水の流動を検出

-地熱発電などの深部地下開発時の新たなモニタリング技術-

ポイント

  • 地下400mに設置した高感度振動センサーで、人が感じない微小な揺れを24時間・365日観測
  • 地中のごく小さな揺れ方の変化から、地熱発電に利用可能な熱水の動きを検出
  • 地熱発電などの深部地下開発時の新たなモニタリング技術として応用が可能

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)再生可能エネルギー研究センター【研究センター長 古谷 博秀】 地熱チーム 岡本 京祐 研究員、浅沼 宏 研究チーム長(同研究センター 総括研究主幹)、活断層・火山研究部門【研究部門長 伊藤 順一】 地震災害予測研究グループ 二宮 啓 研究員は、地中のごく小さな揺れ方の変化から、地熱地域での熱水流動を検出することに成功した。

産総研では、地熱を利用した発電時の地下環境モニタリングの一環として、2015年から奥会津地熱地域(福島県柳津町)において、高感度地震観測網を用いた微小地震の連続観測を行っている。本研究では、深度約400 mに設置した高感度振動センサーで観測される常時微動の、横揺れと縦揺れの大きさ比が、地下の熱水流動に応じて変化することを発見した。この変化をリアルタイムで検出することで、熱水流動を簡易に推定できるようになり、より効果的な地熱資源の開発への貢献が期待される。さらに、油田開発やCO2地中貯留、地震・火山活動が活発な地域での深部流体活動の監視などにも応用できる可能性があり、地下深部の新たなモニタリング技術への発展が期待される。

なお、本研究成果は英国のオープンアクセス電子学術誌「Scientific Reports」に2021年4月16日(英国夏時間)に掲載された。

図

地熱貯留層周辺の熱水流動の概念図
熱水流動が存在することにより、ごくわずかな地中の揺れ(常時微動)の横揺れと縦揺れの大きさ比が変化することを、深部観測井での高感度振動観測により世界で初めて検出した。

研究の社会的背景

再生可能エネルギーはわが国にとって貴重な国産エネルギー源であるとともに、世界的な地球温暖化防止と持続可能性の実現にも不可欠なため、早期大量導入が期待されている。再生可能エネルギーの一つである地熱発電は、天候や時間帯に左右されずに安定した発電ができるメリットがある。しかし、長年操業している国内外の地熱発電所では、雨水などが地下深くに浸透して形成される熱水の量が徐々に減衰し、発電に必要な熱水量を下回ることが問題となっている場合がある。

解決策の一つとして、狙った場所へ人工的に注水し熱水量を回復させる方法があるが、地震を惹起する可能性に注意する必要がある。直接目で見ることのできない地下の熱水の流れ(熱水流動)の把握は困難であるが、持続的な地熱発電のためには、地下の熱水流動をリアルタイムに把握し、地熱資源を適正に利用することが重要である。

 

研究の経緯

産総研は、地熱発電に利用する地下の熱水流動をリアルタイムに把握することを目的として、奥会津地熱地域(福島県柳津町)で、世界でもトップクラスの精度を持つ高感度地震観測網を2015年から運用してきた。この観測網は高感度振動センサーを備えた9観測点から構成されており、熱水が地下をごくわずかに破壊しながら流れる現象(微小地震)を捉えることで、地下の熱水流動を明らかにしてきた。

この微小地震から熱水流動を捉える手法は、地下数kmの深さにおいても、数十mオーダーの分解能で熱水流動の経路を可視化できる強みがある。しかし、もともと熱水の流れやすい場所(例えば、断層や割れ目の発達した部分)では、熱水が流れても微小地震が発生しない場合がある。現在、そのような場所の熱水流動をリアルタイムに検出する手法は存在しない(図1a)。

そこで今回、微小地震のように熱水流動が自ら生成する揺れではなく、海の波浪や風といった自然現象や、日常の人間活動によって絶えず生じるごく小さな揺れに着目した。それらのごく小さな揺れは足し合わされ、地下構造(地中の硬さ分布)に応じて固有の揺れ(常時微動)を示す。今回、地下で熱水が流れることによって一時的に地下構造が変わり、常時微動の揺れ方が変化することを期待して観測を行った(図1b)。

微小地震の発生に依存せず、このような常時微動の変化から、リアルタイムで熱水流動の検出ができれば、世界初の成果となる。

なお、本研究開発の一部は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の地熱発電技術に関する委託研究「地熱貯留層評価・管理技術」による支援を受けて行った。

図1(a)

図1(b)

図1(a) 地中の熱水流動のイメージ図 (b)熱水流動を検出する手法のイメージ図
(a) 熱水の流れに伴って生じる小さな破壊(微小地震)が、流動経路に対応する。しかし、もともと流動性が高いため、破壊を生じなくても熱水が流れることができる場所では微小地震が発生せず、流動の全容把握ができなかった。
(b) 高感度振動センサーを使用して、熱水流動が存在する場合としない場合で異なる常時微動の振動パターンを観測する。
 

研究の内容

今回、複数設置している観測点のうち、熱水が貯えられ、活発な微小地震活動が生じている地熱貯留層領域の外側に位置し、地下400 mに設置されている観測点を常時微動モニタリングに利用した(図2)。この対象観測点付近では、微小地震の発生頻度は低く、従来の微小地震を追跡する手法では十分に熱水の流れを把握できない。

一方、対象観測点での常時微動に着目したところ、横揺れと縦揺れの大きさ比は、通常は横揺れの方が大きいため1より大きい値を示すが、時折縦揺れが大きくなり、大きさ比が大幅に1を下回る場合があることを発見した(図3a)。さらに、この横揺れと縦揺れの大きさ比が低下する(以下、「揺れ方の変化」という)要因を、コンピューターを用いた常時微動のシミュレーションで検証した。その結果、観測点の直下で熱水流動が発生した場合に、観測された揺れ方の変化が生じ得ることが分かった(図3b)。

図2

図2 奥会津地熱地域での高感度地震観測網の概要
(a)通常は全9点の観測点を用いて、地下の微小地震の震源位置を高精度に推定し、熱水流動を検出している。今回は、井戸内に設置した1観測点で常時微動を観測し、熱水流動の検出を試みた。 (b)井戸内に設置した高感度振動センサー(全長約1.5 m、直径約9 cm)の模式図と写真。アームを井戸の壁に押し付けて固定する。

図3(a)

図3(b)(c)

図3 (a) ある2期間に対象観測点で観測された常時微動の横揺れと縦揺れの大きさ比(横揺れ/縦揺れ) (b) コンピューターシミュレーションに用いた地下構造(地中の硬さ分布)のモデル (c) コンピューターシミュレーションにより計算された常時微動の横揺れと縦揺れの大きさ比
(a) 日によって、縦揺れが増幅することで、大きさ比が大幅に1を下回ることがあり、地中で何らかの変化が生じている可能性がある。
(b) このモデル内の常時微動を再現した。既存の研究で提示された地下構造に加え、新たに熱水流動を模擬した層を観測点直下に考慮した。
(c) 観測点直下に熱水流動がある場合、実際に観測された揺れ方の変化が生じることが示された。

2016年4月から2020年10月の期間で、対象観測点の近くで発生した微小地震数の増加、つまり、従来手法で検出された熱水流動の発生日数は184日であった。このうち、約40%の72日で、常時微動の揺れ方の変化を観測し、対象観測点直下での熱水流動も示唆された。一方で、微小地震数の増加が見られず、従来手法では熱水流動を検出していない残りの期間では、常時微動の揺れ方の変化が生じた日数は20%に満たない。つまり、従来手法で熱水流動を検出した期間を対象にすると、本方法で検出される熱水流動の発生確率は2倍以上となった。このことについて2群間のデータの差を統計的に検定するフィッシャーの正確検定(両側検定)により、今回の手法で検出された熱水流動と、従来手法で検出された熱水流動の間に関係性があることが認められた。

図4は、対象観測点での常時微動の横揺れと縦揺れの大きさ比の振れ幅を示したものである(2018年10月~2019年1月の期間を表示)。比較のため、地熱貯留層から遠く離れ、微小地震が発生していない、つまり従来手法で熱水流動が検出されていない点(図2aで最も南の観測点)の記録と比較した。対象観測点では、常時微動の横揺れと縦揺れの大きさ比が大きな振れ幅を持っている(図4左)。一方、地熱貯留層から遠く離れた点では、横揺れと縦揺れの大きさ比はほとんど変化しておらず(図4右)、従来手法で熱水流動が検出されていない点では、常時微動の揺れ方の変化が生じていないことが確認された。

これらの結果から、常時微動の揺れ方の変化と微小地震には有意な関係性が見られ、コンピューターシミュレーションに加え、実際の観測データからも揺れ方の変化と熱水流動の間に相関が存在することが確認された。

図4

図4 対象観測点(左)と、地熱貯留層から遠く離れた観測点(右)での常時微動の横揺れと縦揺れの大きさ比
2018年10月~2019年1月の記録。11月から12月にかけて常時微動の揺れ方の変化を観測した。対象観測点(左)では、熱水流動に由来すると考えられる揺れ方の変化が発生し、振れ幅が大きい。一方、地熱貯留層から遠く離れた観測点(右)では、振れ幅は小さい。

図5

図5 常時微動の揺れ方の変化(横揺れと縦揺れの大きさ比を色で表現)と、従来の手法の微小地震数(線グラフで表現)を比較した図
前者では、黒破線で囲んだ部分(常時微動の縦揺れが大きい)が熱水流動を示し、後者では、微小地震が多発する赤線で示した期間が熱水流動を示す。

図5に、2018年10月~2019年1月(図4)の期間を例に、常時微動の揺れ方の変化と従来の手法である微小地震数の変化の比較を示す。常時微動の揺れ方の変化は、微小地震数の増加により検出した熱水流動の期間(図5中の赤線)を同様に検出できている(図5中の黒破線)。一方、常時微動の揺れ方の変化は、微小地震が増加した期間の前後でも続いていることから、微小地震を発生させないような熱水の流れも検出している。

このように今回、微小地震の発生に依存する従来の地下熱水流動モニタリング手法の枠組みを超えた、常時微動の揺れ方の変化に基づく新たなモニタリング手法の可能性を世界で初めて示した。

 

今後の予定

奥会津地熱地域での観測を今後も継続し、より長期間のデータを用いて揺れ方の変化を指標とした熱水流動モニタリング手法の確立を目指す。さらに、他の地熱地域や、CO2地中貯留サイトなどでのモニタリング手法の適用実験を実施し、この手法の一般化を図る。将来的には、地震・火山活動域における地下水流動の監視などへの適用方法についても検討する。


用語の説明

◆地熱地域
火山の地下に存在する高温で溶けた岩石(マグマ溜まり)により熱せられた地域。[参照元へ戻る]
◆熱水流動
マグマ溜まりで熱せられた地下水の流れ。[参照元へ戻る]
◆高感度地震観測網
人が感じることのないごく小さな揺れまで検出できる高感度振動センサーを備えた観測点の集合体。通常は4~5観測点以上で構成される。本研究開発では9観測点から構成されており、マグニチュード-(マイナス)2程度の地震まで検出できる。[参照元へ戻る]
◆常時微動
海の波浪や風などの自然現象や、工場や交通振動などの人間活動により生じる定常的な地中の揺れ。土地の地盤構造に応じて、固有の振動パターンを持つ。[参照元へ戻る]
◆CO2地中貯留
火力発電や工業活動などで発生したCO2を回収して地中に貯留することで、大気中への放出を抑制する技術。[参照元へ戻る]
◆地熱貯留層
泥岩や頁岩(けつがん)のような隙間が小さく水を通さない層(不透水層)に上部を覆われ、熱水が滞留している地層。この地層から熱水を取り出し、地熱発電を行う。[参照元へ戻る]


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