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発表・掲載日:2020/11/27

CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成

-水が副生しない新しい反応で高効率な合成を実現-

ポイント

  • CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成する触媒技術を開発
  • 水を副生しない反応プロセスで触媒が長寿命化
  • CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター【研究センター長 佐藤 一彦】ヘテロ原子化学チーム 深谷 訓久 研究チーム長、Putro Wahyu 研究員、触媒固定化設計チーム 崔 準哲 研究チーム長らは、東ソー株式会社(以下「東ソー」という)と共同で、CO2とケイ素化合物を原料として、ポリカーボネートやポリウレタンの原料となる「ジエチルカーボネート」を効率的に合成する触媒技術を開発した。

今回、CO2とケイ素化合物(テトラエトキシシラン)を原料としてジエチルカーボネートを合成する新たな触媒反応を見いだした。この反応は水を副生しないため、触媒が長寿命化し、高い反応効率が実現できた。この技術が実用化されれば、CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献が期待できる。

本研究成果は、2020年11月24日(中央ヨーロッパ時間)に「Chemistry Europe」が発行する「ChemSusChem誌」のオンライン速報版で公開された。

図

CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成


開発の社会的背景

化石燃料の利用に伴うCO2排出を大幅に削減していくため、CO2を炭素資源として回収・再利用し、さまざまな有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要視されている。2019年6月7日に、資源エネルギー庁で取りまとめられた「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、CO2の化学品への利用例として、ウレタンやポリカーボネートといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」が想定されている。

CO2からポリカーボネートやポリウレタンの原料となる含酸素化合物を合成する技術としては、CO2とアルコールを原料とする反応の検討が報告されているが、目的物の生成効率や反応に用いる触媒の寿命に課題があり、実用化に向けて製造プロセスの低コスト化が実現できる技術が求められている。

 

研究の経緯

産総研と東ソーは、CO2を原料として有用化学品を製造するため、CO2と組み合わせて反応させる原料に低コスト・低環境負荷・再生可能な物質を活用するとともに、高効率な合成を実現する触媒開発を目指した共同研究を行っている。産総研はこの共同研究とは別に、砂や灰などの安価で豊富なケイ素資源(SiO2)からテトラアルコキシシランを高効率で直接合成する方法を開発した(2016年10月25日産総研プレス発表)。今回、このテトラアルコキシシランをCO2と組み合わせ、ポリカーボネートやポリウレタンの原料となる有用化学品のジエチルカーボネートを高効率に合成する技術の開発に取り組んだ。

 

研究の内容

ジエチルカーボネート(EtO(C=O)OEt)は、ポリカーボネートやポリウレタンの原料のほか、リチウムイオン電池の電解液、塗料や接着剤用の溶媒として幅広く活用されている有用化学品であるが、その工業的製造法は、化石資源から誘導したホスゲン(COCl2)を原料としている。これまで、炭素資源として再生可能資源であるCO2と、エタノール(EtOH)を原料として、ジエチルカーボネートを合成する反応の研究開発は広く行われてきた。しかしながら、CO2とエタノールとの反応では、目的物であるジエチルカーボネートと同時に水が副生するため、生成したジエチルカーボネートと水が反応して原料に戻ってしまう逆反応が進行するほか、反応系中の触媒が加水分解されて活性が失われてしまうなどの要因で、高効率合成が難しいという問題があった。

今回開発した技術では、ジエチルカーボネートを合成する際にCO2と組み合わせる原料としてエタノールではなく、水を副生しないテトラアルコキシシランの一種であるテトラエトキシシラン(Si(OEt)4、TEOS)を用いる方法を考案し、さらにこの反応に有効な触媒を見いだして、製造プロセスの低コスト化を実現しうる合成方法を開発した。

CO2とTEOSを原料とし、触媒としてジルコニウムエトキシド(Zr(OEt)4)を用いて、ジエチルカーボネートの合成反応を行った。10 mLの反応容器中に室温で圧力5 MPaのCO2を充填したのち、温度180℃で24時間反応を行うと、TEOSを基準として51% の収率でジエチルカーボネートが生成した。この反応を200 mLの反応容器を用いて20倍にスケールアップして行った時のジエチルカーボネートの収率は58%であり、小スケールの場合と同等以上の反応効率で目的物が得られることを確認した。この反応の副生成物はTEOSが二量化したジシロキサンのみであり、水は全く副生しないことがこの反応の特徴である。また触媒寿命の評価を目的として触媒の添加量を30分の1に低減し、72時間反応を行う対照実験を行ったところ、収率は低下(21%)するが、触媒の寿命の指標である触媒回転数(TON)は43となった。この値はこれまでに文献で報告されているジエチルカーボネート合成反応用触媒のなかで最も高い性能である(従来の最高値は4.6)。この触媒寿命の大幅な向上は、今回用いた触媒を分解する水が副生せず、副生物であるジシロキサンはこの触媒に対して無害であるため達成できたと考えられる (図1)。

図1

図1 CO2とTEOSを原料とするジエチルカーボネート合成検討結果

また反応の副生成物であるジシロキサンは、過去に報告したSiO2からTEOSを合成する反応と同様に、水酸化カリウム(KOH)を触媒とし、モレキュラーシーブ (MS) を脱水剤として用いてエタノールと反応させると、高い収率でTEOSへと再生できることもわかった(図2)。

図2

図2 副生成物(ジシロキサン)から原料(TEOS)を再生する反応

TEOSは反応後に容易に副生成物から再生可能な原料でもある。つまりCO2とTEOSを資源とした触媒反応によって、廃棄物のない持続可能なプロセスによるジエチルカーボネートの合成ができる。今回の成果は、この共同研究開始以前より産総研が取り組む「砂からTEOSを合成する技術」と組み合わせることで、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用化学品を製造する可能性を拓くものである(図3)。

図3

図3 再生可能な原料を利用した持続可能触媒プロセス

 

今後の予定

今後は、より低コストで省エネルギーな製造方法の確立を目指し、反応条件や触媒のさらなる改良を行う。またスケールアップの検討など、実用化に向けて必要な技術課題の解決を、産総研と東ソーが共同で取り組み、2030年頃までの実用化を目指す。


用語の説明

◆テトラエトキシシラン
ケイ素原子(Si)にエトキシ基(C2H5O-、EtO-)が四つ結合した構造のケイ素化合物。オルトケイ酸テトラエチルとも呼ばれる。現在は、四塩化ケイ素または金属ケイ素とエタノールとの反応で工業的に製造されているが、産総研はNEDO「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(2014~2021年度)の中で、砂などの安価で豊富に存在するケイ素資源から直接製造する技術開発を行っている。[参照元へ戻る]
◆触媒回転数(TON)
触媒が作用する反応で、不活性化するまでに、触媒1分子が変換できる原料の分子数。TON は、turnover numberの略であり、触媒の安定性(寿命)を表す指標となる。[参照元へ戻る]

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