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発表・掲載日:2020/11/05

強誘電体薄膜の大面積評価を可能に

-強誘電体デバイスの実用化を加速-

ポイント

  • 強誘電体をメモリーや不揮発ゲートトランジスタとしてデバイスの設計に応用するためには、薄膜化だけでなく、薄膜試料の分極の向きや大きさなどの分極ベクトル情報を評価することが重要な課題です。
  • 今回、フェムト秒レーザーパルス照射によるテラヘルツ波放射を利用することで、従来の分極評価手法であるプローブ顕微鏡では測定困難な、デバイスを評価するのに十分な面積(~1mm2)の薄膜試料の分極ベクトルを3次元的に評価することに成功しました。
  • 強誘電体デバイスの非破壊・非接触評価法の一つとして、将来利用されることが期待されます。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科、東京大学大学院工学系研究科、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(注1)の共同研究グループは、強誘電体薄膜の分極の向きや大きさなどの分極ベクトル情報を得ることのできる新手法の開発に成功しました(図)。従来の評価手法では、実用的なデバイスを評価するのに十分な面積(~1mm2)の強誘電体薄膜試料の分極ベクトル情報を評価することが難しく、このことが、強誘電体薄膜デバイスを大面積化する上での課題の一つとなっていました。今回、共同研究グループは、フェムト秒レーザーパルス照射によるテラヘルツ波放射(注2)を利用することで、強誘電体薄膜試料の分極ベクトルを3次元的に決定することに成功しました。今回開発した手法は、プリンテッドエレクトロニクス(注3)の中核をなす強誘電体メモリーデバイスの非破壊・非接触評価法の一つとして将来利用されることが期待されます。

本研究成果は、アメリカ物理学会の論文誌「Physical Review Applied」2020年11月2日版に掲載されました。日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金「テラヘルツ電磁波発生を利用した新しい時空間分光法の開発と物性研究への展開(JP18H01858)」(研究者代表者:貴田徳明)の一環として行われました。


発表内容

① 研究の背景

外部電圧の向きによって分極の方向が可逆的に反転する物質を強誘電体といいます。強誘電体特有のこのような分極反転現象を利用することで、データの書き換えと保存が可能なメモリー機能が実現できます。その他にも、強誘電体は、熱を与えると分極が変化する焦電性や、入射した光の周波数とは異なる周波数の光が出射する非線形光学特性などの電気・光機能を豊富に有します。これらの性能は、すべて強誘電体の分極の方向と大きさに依存しています。したがって、材料の強誘電体としての特性を明らかにし、それを応用するためには、分極の情報を得ることが重要な課題です。特に、強誘電体をデバイス応用するためには薄膜試料内の分極の向きや大きさを評価する必要があります。その評価手法として、オングストローム(Å、10-10m)オーダーの高い空間分解能で分極情報を得ることができるプローブ顕微鏡(注4)が主に利用されています。しかしながら、このような従来の方法では、実用的なデバイスを評価するのに十分な面積(~1mm2)の強誘電体薄膜試料の分極ベクトル情報を評価することが難しく、このことが、強誘電体薄膜デバイスを大面積化する上での課題の一つとなっていました。

② 研究内容

このような課題を解決するため、本研究グループは、フェムト秒レーザーパルス励起のテラヘルツ波放射(注2)を利用することを着想しました。本研究グループは、図に示すように、強誘電体試料にフェムト秒レーザーパルスを照射するとテラヘルツ波放射が生じること、また、放射したテラヘルツ波の電場振幅と位相がそれぞれ分極の大きさや向きに依存していることを見出してきました。この性質を利用し、分極をさまざまな方向から測定すれば、分極の方向によって、テラヘルツ波の電場振幅と位相が変化するはずです。

具体的な薄膜試料として、有機強誘電体の2-メチルベンゾイミダゾール(MBI)を用いました。この物質は、室温で優れた強誘電性を示し、かつ常温・常圧下での印刷法によって大面積(~1mm2)の領域で、分子の配列方向がそろった単結晶薄膜の作成が可能であることが明らかにされています(注5)

図に示すように、フェムト秒レーザーパルスの光軸(y軸)に対して、測定試料をxz面内で傾けて、すなわち、分極の方向をxz面内で傾けて、テラヘルツ波の電場振幅の𝜃回転、𝜂回転依存性を測定しました。その結果、分極の方向によって、テラヘルツ波の電場振幅が大きく変化することを見出しました。その振る舞いを解析した結果、図に示すように、分極が、y軸に対して、ψ = 45度、z軸に対して、ξ = 90度傾いていることを考慮すると実験結果を再現できることを明らかにしました。

本手法の空間分解能は、照射するフェムト秒レーザーパルスの集光サイズで決定されます。今回の実験では25 μmです。本手法は、従来手法のプローブ顕微鏡の空間分解能には及ばないものの、フェムト秒レーザーパルスの集光位置を試料上で走査することにより、大面積(~1mm2)の領域においても分極情報の空間分布を評価できる特長を有します。

③ 今後の予定

今後は本手法を活用し、さまざまな強誘電体薄膜や実際の強誘電体デバイスの分極ベクトルの非接触・非破壊評価に適用したいと考えています。

概要図

図:今回開発したテラヘルツ波放射を用いた強誘電体薄膜の新しい分極評価法の模式図。フェムト秒レーザーパルスを測定対象である薄膜試料に照射すると、分極の向きや大きさに依存してテラヘルツ波が放射される。そこで、薄膜試料を、z軸回りに𝜃回転、x軸回りに𝜂回転することで、分極の方向を回転させる。すると、分極の向きや大きさに依存して、テラヘルツ波の電場振幅が変化するので、分極の情報(傾きがy軸に対して、ψ度、z軸に対して、ξ度など)を抽出することができる。

発表者

貴田 徳明(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授/
 産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員兼務)
木下 雄斗(研究当時:東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 博士課程3年/
 現在:東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 特任助教)
岡本 博(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/
 産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ ラボチーム長兼務)
上村 洋平(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程3年)
荒井 俊人(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 講師)
長谷川 達生(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 教授)

発表雑誌

雑誌名:「Physical Review Applied」(オンライン版:11月2日)
論文タイトル:Observation of the three-dimensional polarization vector in films of organic molecular ferroelectrics using terahertz radiation emission
著者:Yuto Kinoshita, Masato Sotome, Tatsuya Miyamoto, Yohei Uemura, Shunto Arai, Sachio Horiuchi, Tatsuo Hasegawa, Hiroshi Okamoto, and Noriaki Kida*
DOI番号:10.1103/PhysRevApplied.14.054002
アブストラクトURL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevApplied.14.054002


用語解説

(注1)産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリオペランドOILのロゴ画像
平成28年6月1日、東大柏キャンパス内に設置した産総研と東大の研究拠点。相互のシーズ技術を合わせ、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化や、先端オペランド計測技術を活用した生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの産業化・実用化のための研究開発を行っている。[参照元へ戻る]
(注2)テラヘルツ波放射
物質に強い光を照射すると、入射した光の周波数の和や差の周波数を持つ分極などが生じる。このとき、新たに生じた分極と同じ周波数の光が発生する。このうち、差の周波数を持つ分極の時間変化がピコ秒(10-12 s)の時間スケールで生じれば、その逆数(テラヘルツ)の周波数(1012 Hz)を持つ電磁波であるテラヘルツ波が放射される。[参照元へ戻る]
(注3)プリンテッドエレクトロニクス
印刷製造技術を用いて金属や半導体などを大面積化し電子デバイスなどを作成する科学技術の総称。[参照元へ戻る]
(注4)プローブ顕微鏡
プローブである探針と試料表面との相互作用を利用して分極情報を得ることができる顕微鏡。探針として非常に細い針を用いることができるため、Åオーダーの高い空間分解能を得られる。例えば、圧電応答力顕微鏡(Piezoresponse Force Microscopy、PFM)では、試料と探針間に交流電圧を印加し、試料の歪みを計測する。[参照元へ戻る]
(注5)(過去の研究発表の引用)
低電圧でも動作する有機強誘電体メモリーの印刷製造技術を開発
2015/10/1産総研プレスリリース [参照元へ戻る]

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