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発表・掲載日:2020/10/15

高効率な多接合太陽電池の普及を加速させる技術を開発

-低コスト成膜技術で困難だったアルミニウム系材料の太陽電池導入を可能に-

ポイント

  • 安価な原料を用いた成膜法では困難だったアルミニウム系材料を高品質に成膜できる装置を開発
  • 今回開発した手法で成膜したアルミニウム系材料の太陽電池への応用を実証
  • 高効率III-V族化合物太陽電池の普及の加速・拡大へ道筋

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター【研究センター長 吉野 彰】多接合太陽電池研究チーム 菅谷 武芳 研究チーム長、庄司 靖 研究員、大島 隆治 研究チーム付、牧田 紀久夫 招聘研究員は、大陽日酸株式会社 【代表取締役社長 永田 研二】(以下「大陽日酸」という)と共同で、次世代太陽電池普及の鍵となるハイドライド気相成長(HVPE)法によってアルミニウム(Al)系材料の成膜と、その太陽電池応用を可能にする装置を開発した。

HVPE法は、従来の成膜技術よりも安価な原料で高速に成膜できる技術で、特にIII-V族化合物太陽電池の低コスト化技術として期待されている。しかし、太陽電池の高効率化や薄膜化に必須のAl系材料の成膜に課題があった。今回、反応炉内部でAl原料を500°Cの低温で加熱できる装置を開発し、石英反応炉と反応しにくい三塩化アルミニウム(AlCl3)を発生させることで、アルミニウム・インジウム・ガリウム・リン(AlInGaP)層やアルミニウム・ヒ素(AlAs)層の高品質な成膜が可能となり、太陽電池への導入を実現した。AlInGaPが導入されたインジウム・ガリウム・リン(InGaP)太陽電池では、表面近傍の電流損失が抑制され発電効率が向上した。また、AlAs層を用いることにより、作製時に必要な高価な基板と太陽電池層を分離でき、基板の再利用による低コスト化が期待できる。また、分離された太陽電池層は薄膜なので産総研保有の接合技術であるスマートスタックが適用でき、異種材料との接合でさらに高効率化と低コスト化ができる。今回開発した技術はIII-V族化合物太陽電池の低コスト化と高効率化に大きく寄与する技術であり、超高効率太陽電池を身近なものとする突破口として期待される。

概要図

今回開発した装置反応炉(上)とこの装置によりIII-V族化合物太陽電池で得られる効果(下)


開発の社会的背景

III-V族化合物太陽電池はバンドギャップの異なる材料を積層させた多接合構造を形成することにより、太陽光の利用波長域を拡張し、高い発電効率が得られる。太陽光の入射側から順にバンドギャップが小さくなるように太陽電池セルが直列に接続され、上部のセルを透過した光が下部のセルで吸収される。特にIII-V族化合物材料を用いた多接合太陽電池は現存する太陽電池の中で最も発電効率が高く、放射線への耐性もあるため人工衛星などで利用されている。しかし、電気自動車などの身近なものに広く活用することが長年期待されてきたものの、製造コストの高さが大きな課題であった。製造コストが高い主な理由は、従来の成膜法は原料や基板が高価なうえに成膜速度が遅いことである。

 

研究の経緯

産総研では、平成27年度よりIII-V族化合物太陽電池の製造コストを有機金属気相成長法よりも大幅に削減できるHVPE法を用いた成膜技術に着目し、大陽日酸と共同で水平置き縦型HVPE装置の開発を進めてきた(2017年6月13日 産総研プレス発表)。この技術による高速の成膜は実証されたが、InGaP太陽電池セルの高性能化と基板コストが大きな課題であり、これらを解決するにはAl系材料の高品質成膜が必要であった。そこで今回、AlCl3前駆体として供給できるHVPE法の装置を開発し、AlInGaPやAlAsなどの高品質成膜と、それらの太陽電池への応用に取り組んだ。

なお、本研究開発は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/超高効率・低コストIII-V化合物太陽電池モジュールの研究開発(低コスト化技術・量子ドット成長技術)(2015~2019年度)」による支援を受けて行った。

 

研究の内容

今回、Al系材料の高品質成膜を可能とするHVPE装置の開発に成功し、InGaPトップセルの高性能化と基板コストに関する課題解決の道筋が見えた。

① Al系材料の高品質成膜を可能とするHVPE装置開発

HVPE法は純金属と塩化水素(HCl)ガスを反応させて生成した金属塩化物をIII族原料の前駆体として供給する(図1)。GaAsやInGaPを成膜する場合、GaやIn金属を700~850°Cの温度でHClガスと反応させて一塩化ガリウム(GaCl)および一塩化インジウム(InCl)を生成し、H2ガスによって基板付近に輸送する。このようにHClガスによる反応が起点となるため、一般的に反応炉などは耐食性に優れた石英で作製される。一方で、一塩化アルミニウム(AlCl)は石英反応炉を激しく還元し、成膜層への不純物の混入や反応炉の損傷を引き起こすため、前駆体として利用することはできない。この問題に対して、今回、反応炉内部でAl原料を500°Cの低温で加熱できる装置を新規に開発し、AlClの発生を抑制し、石英との反応性が低いAlCl3を供給することを可能とした(図1、図2)。

② 多接合太陽電池のトップセルの高性能化

高効率な多接合太陽電池を作製するには各構成セルの高性能化が重要となる。特にInGaPトップセルの高性能化には、InGaPよりもバンドギャップの大きいAlIn(Ga)P層の成膜により表面付近での電流損失を抑制することが不可欠となる。開発したHVPE装置によりAlInGaP層の高品質成膜が可能となり、InGaPセルに導入して電流損失の要因であった表面を不活性化できた。その結果、出力電流が増大し、発電効率を向上させることができた(図3)。 HVPE法で成膜されたAlInGaP層が太陽電池デバイス内で機能することが実証されたのは今回が初めてである。

③ 太陽電池の薄膜化、異種材料接合の実証

III-V族化合物太陽電池の製造コストには基板のコストが大きな割合を占めている。HVPE法では安価な原料を用いることで太陽電池の成膜コストを低減できるが、基板のコストを解決できずにいた。しかし、今回開発した装置によってAlAsの成膜が可能になったことで基板コストの問題に対する道筋が見出された。基板と太陽電池層の間にAlAs層を挟んで成膜し、その後AlAs層だけをフッ化水素酸で除去して、HVPE法で作製した太陽電池層を基板から剝離できることを実証した(図4)。太陽電池層が剥離された基板は再利用が可能なので、基板コストを低減できる。さらに、太陽電池層は基板が取り除かれて薄膜になったことで産総研保有の半導体接合技術である「スマートスタック」を適用でき、異種材料と接合して発電効率を向上できる(図5)。今回、剝離や接合の実証にはGaAsセルを用いたが、InGaPセルや多接合構造でも同様に剥離や接合が可能である。

図1

図1 今回開発したHVPE装置の外観写真と模式図(上)とAlInGaPやAlAs成膜室の模式図(下)

図2

図2 AlとHClガスの反応温度とAlClとAlCl3の生成比率の関係

図2

図3 HVPE法によるAlInGaP層を導入したInGaPセルの電流-電圧特性

図4

図4 HVPE法によるAlAs層を導入したGaAsセルに剥離・薄膜化を実施した様子

図5

図5 今回開発した技術で作製したGaAsセルをInGaAsセルに接合したときの電流-電圧特性

米国再生可能エネルギー研究所は、AlCl3を反応炉の外部で生成することで、HVPE法によるAlIn(Ga)PやAlGaAsの成膜を実現しているが、結晶品質に課題があり、太陽電池へ導入した際に変換効率が向上できていない。また、太陽電池の剝離や異種材料の接合も現時点では実証されていない。今回開発した装置ではAlCl3を反応炉の内部で生成することで不純物の取り込みが抑制され、高品質なAl系材料の成膜が可能になったと考えられる。HVPE法でAl系材料が太陽電池に利用できることで、高効率な太陽電池を高速・低コストで作製できる道筋が見えたといえる。

 

今後の予定

これまで2インチ基板を使ってHVPE法の研究開発を進めてきたが、今後は6インチサイズを成膜できる量産型HVPE装置を開発する。さらに、HVPE装置によって製造されたIII-V族化合物太陽電池をシリコンやCIGSなどの安価な太陽電池と接合させることにより、発電効率35%以上で発電コスト200円/Wの太陽電池の実現を目指す。


用語の説明

◆ハイドライド気相成長(HVPE)法
Hydride Vapor Phase Epitaxy法。安価な金属塩化物を利用して半導体薄膜を結晶成長させる方法。III-V族化合物半導体の場合は、III族元素に金属塩化物を用い、V族元素に水素化物ガスを利用する。結晶成長速度が速く、成膜コストが安いことが特徴である。[参照元へ戻る]
◆III-V族化合物太陽電池
III族元素(ガリウムGa、インジウムIn、アルミニウムAlなど)とV族元素(リンP、ヒ素Asなど)からなる化合物半導体で構成された太陽電池。GaAs、InP、InGaP、InGaAs、AlGaAsなどがある。これらの太陽電池の発電効率は非常に高いが、製造コストが高いことが課題であり、現在は宇宙用や集光用での応用が殆どである。[参照元へ戻る]
◆表面近傍の電流損失
太陽電池(半導体)表面には、不純物や原子の未結合手(ダングリングボンド)などが多く存在するため、光生成した電子・正孔が再結合してしまい出力電流が低下する。この影響を小さくするには活性層よりもバンドギャップの大きい材料を表面に成膜し、電子または正孔が表面へ拡散することを防ぐ必要がある。[参照元へ戻る]
◆発電効率
太陽電池の発電効率は、発生した電気エネルギー/入力された光エネルギー×100%で計算される。通常は、ソーラーシミュレーターと呼ばれる疑似太陽光源を用いて計測される。[参照元へ戻る]
◆スマートスタック
複数の太陽電池セルの接合界面に金属ナノ粒子を配列させ、電気的・光学的にほぼ損失なく接合する技術。接合界面に金属ナノ粒子が介在するスマートスタック技術では、表面は必ずしも原子的に平坦である必要がなく、III-V族化合物同士のほか、III-V族化合物とシリコン、III-V族化合物とCIGSの接合も可能である。[参照元へ戻る]
◆バンドギャップ
半導体や絶縁体で、電子が存在できないエネルギー領域。太陽電池では、バンドギャップよりもエネルギーの大きい光が入射されると電子・正孔が生成し、これらが輸送されることで電流となる。[参照元へ戻る]
◆多接合構造、多接合太陽電池
種類の異なる(異なる波長の太陽光を吸収する)太陽電池を直列につなぎ合わせ、幅広い波長領域の太陽光を吸収させて発電効率を高めた太陽電池。出力電圧は各セルの電圧の合計になるため、接合数が大きいほど高電圧になる。太陽電池の接合数により、2接合、3接合、4接合太陽電池と呼ばれる。[参照元へ戻る]

多接合構造、多接合太陽電池の説明図

多接合太陽電池の概念図

◆有機金属気相成長法
有機金属を用いて半導体薄膜を結晶成長する方法。III-V族化合物半導体の場合は、一般的にIII族元素としてトリメチルガリウムやトリメチルインジウムなどの有機金属を用い、V族元素に水素化物ガスを利用する。高価な有機金属を用いるため、成膜コストが高くなる。[参照元へ戻る]
◆前駆体
化学反応において目的の物質を生成する際に用いる物質。生成物質の前段階にある物質。[参照元へ戻る]
◆トップセル
3接合太陽電池の場合、最表面側に置かれている太陽電池をトップセル、真ん中の太陽電池をミドルセル、最も基板側に置かれるものをボトムセルと呼ぶ。トップセルにはバンドギャップが最も大きい半導体を使用し、それより短波長の光を吸収して長波長の光を透過させる。ボトムセルは、バンドギャップが最も小さい半導体を使用し、トップセル、ミドルセルを透過した光を吸収する。[参照元へ戻る]
◆CIGS
銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる多元系化合物半導体Cu(In,Ga)Se2の薄膜。[参照元へ戻る]

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