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発表・掲載日:2020/05/15

都市域のCO2排出を大気観測から起源別に推定

-ゼロエミッション技術社会実装時のCO2削減効果検証に向けて-

ポイント

  • 大都市のCO2排出量と大気中のO2およびCO2濃度を初めて同時に計測
  • 渋谷区代々木にて自動車と都市ガス由来のCO2排出量を大気観測に基づいて分離
  • ゼロエミッション技術社会実装時のCO2削減効果を実環境計測に基づいて検証する手法を提唱

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)環境創生研究部門【研究部門長 尾形 敦】環境動態評価研究グループ 石戸谷 重之 研究グループ長、兼保 直樹 研究グループ付、近藤 裕昭 客員研究員、物質計測標準研究部門【研究部門長 権太 聡】ガス・湿度標準研究グループ 青木 伸行 主任研究員と、防衛大学校【学校長 國分 良成】地球海洋学科 菅原 広史 教授、国立研究開発法人 国立環境研究所【理事長 渡辺 知保】地球環境研究センター 寺尾 有希夫 主任研究員、気象庁気象研究所【所長 土井 恵治】気候・環境研究部 坪井 一寛 主任研究官は、東海大学代々木キャンパス内の観測タワー上での大気中の二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)の高精度観測から、代々木街区での人間活動によるCO2排出量を、使用された化石燃料の種類ごとに評価する手法を開発した。

この手法は、産総研が開発してきた大気中O2濃度の100万分の1の超高精度計測と、主に森林CO2吸収の評価で用いられてきた鉛直CO2輸送量の計測を、都市部での観測に応用したものである。消費する化石燃料の種類によりO2とCO2の交換比(Oxidative Ratio:OR)が異なるため、都市のCO2排出のORを超高精度観測から導出し、CO2排出量を起源別に定量化できる。

今回の手法は、近未来にゼロエミッション技術が都市域に大規模導入された際に、その削減効果を実環境計測に基づいて検証する技術になると期待される。なお、この技術の詳細は、2020年5月15日(中央ヨーロッパ夏時間)に論文誌Atmospheric Chemistry and Physics(DOI:10.5194/acp-20-5293-2020)に掲載される。

概要図

都市ガス消費、石油消費、人間呼吸におけるO2とCO2の交換比(OR)
大気観測から都市のCO2排出量を化石燃料種別に評価する。


開発の社会的背景

CO2排出削減による地球温暖化の緩和は世界的な喫緊の課題である。2020年1月に産総研に設立されたゼロエミッション国際共同研究センターではゼロエミッション技術の開発を推進しており、それら技術が社会実装された際のCO2排出量を検証する手法の確立は重要である。CO2削減の達成度を詳しく評価するためには、都市における交通や家庭の化石燃料消費が再エネ電力などに置き換えられた場合に、その削減効果を燃料種別に評価できることが望まれる。わが国は燃料消費統計が比較的充実しているものの、統計の不確かさが大きい場合には、統計に依らない独立した評価が不可欠となる。そのため今回、大気の高精度観測から、大都市のCO2排出量を燃料種別に評価する手法の開発に取り組んだ。

研究の経緯

産総研は、森林で局所スケールの鉛直CO2輸送量を観測する手法を開発し、日本最長・世界第2位の長期観測を飛騨高山で1993年より継続している。この技術を応用し、防衛大学校とともに2012年より東海大学代々木キャンパス内の観測タワー(旧FM東海電波塔)での観測を開始した。また産総研では、大気のO2やアルゴン(Ar)の濃度を6桁の超高精度で観測する技術を開発している。これまでに開発した計測システムと標準ガス調製法により、大気中のO2およびArの絶対値を20.9±0.0001%および0.93±0.00007%で決定することに成功しており、いずれも2020年3月現在で世界最高の精度である。この技術を上記タワーでの観測に2016年より応用し、高度52 mと37 mの2高度でO2濃度とCO2濃度の観測を行うとともに、高度別での濃度の勾配に基づく傾度法を用いて鉛直輸送におけるORを導出することによって、局所スケールのCO2排出を化石燃料種別に評価することに初めて取り組んだ。

なお、本研究開発は、環境省 地球環境保全等試験研究費(経済産業省実施課題)、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費(課題番号1-1909)、JSPS科研費JP24241008、JP15H02814、JP18K01129による支援を受けて行った。また本研究開発では、産総研と気象研究所が観測している小笠原諸島南鳥島での清浄大気のO2濃度を都市大気との比較のために使用した。

図1

図1 東海大学代々木キャンパス内の観測タワー(左)と用いた観測装置の一部(右)

研究の内容

産総研では、鉛直CO2輸送量と傾度法によるORの同時観測によって都市のCO2排出を化石燃料種別に評価する方法を考案し、渦相関法によるCO2輸送量観測と、質量比混合法による高精度標準ガスで精度が確認されたO2濃度とCO2濃度連続観測システムを東京都渋谷区代々木での都市大気観測に応用した。O2濃度観測は産総研が行い、CO2輸送量観測は防衛大学校を中心に行った。また、CO2濃度は産総研と国立環境研究所が並行して観測し値を比較検証した。都市からのCO2排出の起源として、石油消費(主に自動車)、都市ガス消費、石炭消費、人間と植物の呼吸が考えられるが、代々木街区では石炭消費はほとんどなく、また植生の面積も極めて小さいことから、主要なCO2排出源は石油、都市ガス、人間呼吸となる。そのため、観測で得られた鉛直CO2輸送量と鉛直輸送におけるORを、石油・都市ガス・人間呼吸のORと人口統計データから評価した人間呼吸量と組み合わせて解析し、石油と都市ガスそれぞれの消費に由来するCO2排出量を分離して評価した(図2)。

図2

図2 東京都渋谷区代々木でのCO2の起源別排出量の日内変動(年平均)
大気観測による評価結果と、各種統計データに基づく値を併せて示す。

今回の評価結果を、代々木近郊の自動車交通量と家庭・飲食店の都市ガス消費統計データに基づくCO2排出量と比較すると、夜間の都市ガス消費統計データは実際(観測)の排出量に比べて過大評価であり、そのため統計データに基づいた評価では代々木街区のCO2排出量が実際より過大に見積もられてしまうことが示唆される。また誤差は大きいものの、給湯・調理に伴う早朝の都市ガス消費のピークや、通勤時間帯の交通量増加による午前中の石油消費の漸増も見て取れる。以上のように、大気観測に基づき自動車と都市ガス由来のCO2排出量を街区スケールで分離評価することが可能となった。

今後の予定

今回の手法では人間呼吸量を統計データから算出しているが、今後、国立環境研究所が行っている放射性炭素同位体比の観測も組み合わせて化石燃料起源と生物起源のCO2排出量を分離し、大気観測だけで石油・都市ガス・人間呼吸による排出量を分離して評価できる手法の開発を目指す。


用語の説明

◆鉛直CO2輸送量
都市や森林とその直上の大気との間での、単位面積・単位時間当たりのCO2輸送量。CO2フラックスと呼称されることが多い。傾度法や渦相関法により観測される。本研究では観測された鉛直CO2輸送量を代々木街区のCO2排出量として扱う。[参照元へ戻る]
◆OR (Oxidative Ratio)
化石燃料消費や生物活動に伴うO2とCO2の交換比。大気中O2濃度とCO2濃度の変動(ΔO2、ΔCO2)の比としてOR = -ΔO2/ΔCO2で定義される。過去の研究から、石油消費、天然ガス(都市ガス)消費、石炭消費、陸上植物活動に伴うORはそれぞれ1.44、1.95、1.17、1.1と推定されており、人間呼吸のORは約1.2と推定される。[参照元へ戻る]
◆傾度法と渦相関法
いずれも、CO2などの物質の鉛直輸送量を観測する手法。傾度法は濃度の高度勾配に乱流拡散係数をかけて算出する。渦相関法は高時間分解能で観測した濃度と風速を組み合わせて解析し輸送量を導出する。傾度法では乱流拡散係数の決定に困難を伴うが、今回の手法では、CO2とO2の乱流拡散係数が等しいと見なせることを利用し、拡散係数を使用せずに濃度の高度勾配の比としてORを算出できる。[参照元へ戻る]
◆質量比混合法
高精度天秤で各ガスの重量を秤量し混合して、目的の濃度の混合ガスを調製する手法。今回、基準としたO2濃度標準ガスの場合には、O2、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、CO2をそれぞれ極めて高い精度で秤量している。[参照元へ戻る]
◆O2濃度とCO2濃度連続観測システム
大気中O2濃度とCO2濃度の連続観測手法はいくつかあるが、今回は磁気式酸素計と、非分散型赤外分析計をCO2の検出器としたシステムを開発し観測に用いている。[参照元へ戻る]


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