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発表・掲載日:2020/01/21

地球創世直後から地球磁場が存在した可能性が高まる

-SQUID磁気顕微鏡によるジルコン結晶の磁気分析などから示唆-

ポイント

  • SQUID磁気顕微鏡などで地球創世直後にできた鉱物から微弱な過去の地球磁場記録を検出
  • 地球磁場が42億年よりも前から存在していた可能性を示唆
  • SQUID磁気顕微鏡を用いた高感度分析により、地球環境復元への貢献に期待


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】 地球変動史研究グループ 小田 啓邦 上級主任研究員とロチェスター大学、リバプール大学、カナダ地質調査所、マニトバ大学、米国海軍研究所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、カーティン大学、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校、ミシガン工科大学は、約42億年前に地球磁場が存在した可能性を示した。

今回、SQUID磁気顕微鏡など各種先端的分析技術によって、西オーストラリアのジャックヒルズで発見された地球創世直後のジルコン結晶が当時の地球磁場を記録していることを高い信頼性をもって示した。地球創世直後に十分な強さの地球磁場が存在したことは、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与えると共に、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから地球大気と生命の進化に重要な意味を持つ。地質試料に記録された地球磁場のSQUID磁気顕微鏡を用いた高感度分析を進めることにより、地球環境のさらなる復元が期待される。なお、この成果の詳細は、近日中に米国科学アカデミー紀要(PNAS誌)で公開される。

概要図
太陽風による大気散逸の様子
左は地球磁場発生前で、太陽風による大気散逸が激しい。右は地球磁場発生後で、
地球磁場が防御壁となって太陽風の荷電粒子による大気散逸が抑制される。


開発の社会的背景

地球創世直後からの地球磁場強度は、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与える。また、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから地球大気と生命の進化について、地球磁場強度の変化は重要な意味を持つ。

地球ができたのは約46億年前であるが、地球最古の岩石が見つかっているのはオーストラリアのジャックヒルズである。そこで発見された40億年よりも古いジルコン結晶を用いた地球磁場強度の推定は過去にも行われたが、ジルコン結晶形成後の加熱や変質の影響が疑われ、その信頼性については疑問が残されていた。


研究の経緯

産総研は、地球環境を復元するため、微弱な磁化を示す地質試料などの磁気を検出できる高感度・高分解能磁気イメージング技術の発展を目指しており、低温超伝導による超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いたSQUID磁気顕微鏡の開発と応用に取り組んできた。今回、SQUID磁気顕微鏡で地球最古の岩石が見つかっているジャックヒルズ(図1)のジルコン結晶の高感度・高分解能の磁気イメージングを行うと共に、他の先端的分析技術と組み合わせて、地球創世直後の地球磁場強度の推定とその信頼性の検証に取り組んだ。

なお、本研究は、日本学術振興会の外国人招聘研究者(短期)(2017年度)「SQUID顕微鏡を用いたジルコン単結晶による地球磁場強度の高信頼度推定」(ロチェスター大学 John Tarduno教授)による支援を受けた。また、分析に用いたSQUID磁気顕微鏡は日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)(2013〜2016年度)「SQUID顕微鏡による惑星古磁場の先端的研究の開拓」による支援を受けて開発した。

図1
図1 分析試料の採取された西オーストラリアジャックヒルズの位置を示す地図(上)と露頭写真(下)
(ロチェスター大学John Tarduno教授提供)

研究の内容

今回、試料には地球最古の岩石が見つかっているジャックヒルズのジルコン結晶(図2 左)を用いた。地球磁場強度推定の信頼性を確保するため、産総研のCO2レーザー加熱装置を用いて微弱な磁化を持つジルコン結晶とそれを取り囲んでいる石英を61 マイクロテスラの磁場中で575 ℃まで加熱した。この試料を産総研のSQUID磁気顕微鏡(図2 右)で分析したところ、ジルコンが磁化され、石英は磁化されなかった。これにより、ジルコン結晶を取り囲んでいる石英には検出可能な量の磁性鉱物が含まれないことと、ジルコン結晶が十分な量の磁性鉱物(磁鉄鉱)を含むことが確認できた。また、ロチェスター大学の小口径型超伝導岩石磁力計とCO2レーザー加熱装置を用いて、一つの石英に含まれる複数のジルコン結晶について565-580 ℃で分離できる自然残留磁化の方位を求めたところ、バラバラな方向を示した。このことは、この温度で記録されたジルコン結晶中に残る地球磁場は、ジャックヒルズの岩石が26.5億年前に経験したとされる変成作用による熱の影響を受けていないことを示唆する。

図2
図2 ジルコン結晶(左)(ロチェスター大学John Tarduno教授提供)、SQUID磁気顕微鏡(右)の写真

ジルコン結晶を用いた地球磁場強度推定のメリットは、粒子ごとに地球磁場強度と年代を推定できることである。ロチェスター大学の小口径型超伝導岩石磁力計とCO2レーザー加熱装置を用いてジルコン結晶の絶対古地磁気強度を推定した。さらに、これにより信頼できる磁場強度を推定できたジルコン結晶について、ウラン・鉛年代推定法による年代推定を行った。今回推定した地球磁場強度のうち、特に約41億年前のジルコン結晶のデータが、現在の地球磁場に近い磁場強度を持つことが高い信頼性をもって示された。また、先行研究による約42億年前の試料のデータも現在の地球磁場の半分以上の強度を示す。これらは、約42億年前に地球磁場が存在した可能性を示唆する。これは、当時の地球の内部構造と地磁気ダイナモに制約条件を与え、地球磁場が太陽風による大気散逸を防ぐことから、地球大気と生命の進化に重要な意味を持つ。


今後の予定

今後はSQUID磁気顕微鏡の感度と分解能を向上するとともに、ジルコン結晶や、それ以外の地質試料を用いた分析を行い、地球環境の復元にさらに役立てる予定である。



用語の説明

◆地球磁場
現在の地球磁場は方位磁石のN極が北を指すことから北極がS極となる磁石(磁気双極子)で近似される。実際には、近似される磁気双極子の軸は地球の回転軸とは若干ずれており、その位置は年々変化している。また、過去に地球磁場の極性が複数回反転したことが知られており、約77万年より以前は、現在の地球磁場とは極性が逆であったことが知られている。地球磁場の極性が反転していることを発見したのは、フランスのBernard Brunhesと日本の松山基範である。[参照元へ戻る]
◆SQUID磁気顕微鏡
微小な検出コイルとSQUID素子を磁気センサーとして用い、試料表面のごく近くの微弱な表面磁場の分布を顕微鏡スケールで描画できる装置。磁気センサーと同じ極低温の真空容器に試料を入れて距離を近づけることで高分解能測定できるタイプと常温・常圧での試料の測定が可能なタイプがある。半導体や超伝導物質の分析、機械部品の亀裂確認を目的とした非破壊検査などに用いられる。[参照元へ戻る]
◆ジャックヒルズ
オーストラリア西部のジャックヒルズに地球上で最も古い岩石が存在することが2014年に確認された。ジャックヒルズの岩石に含まれるジルコン結晶で最も古いものは約44億年の年代を示すが、これは太陽系の誕生から1億6000万年ほど後である。[参照元へ戻る]
◆ジルコン
日本名は風信子(ヒヤシンス)鉱。ケイ酸塩鉱物の一種で化学組成はZrSiO4。火成岩中に微小な結晶として広く産する。風化変質に強い鉱物で、砂岩などの堆積岩にも広く見られる。オーストラリアのジャックヒルズで、地球最古(約44億年前)の鉱物として見つかっている。ウランに富み、鉛に乏しいので、ウラン・鉛法の放射年代測定の対象鉱物として重要である。無色透明のものは装飾用宝石として用いられている。[参照元へ戻る]
◆地磁気ダイナモ
地球は外側から地殻・マントル・核の層構造になっている。核は外核と内核から構成され、外核は液体、内核は固体の鉄を主成分とする導電性物質からなる。地球磁場は外核の流体鉄が対流運動を起こしながら電流と磁場がダイナミックに相互作用するダイナモ(発電機)として維持されていると考えられている。これら複雑な物理現象は大型計算機でシミュレーションもされており、地磁気逆転現象なども再現されている。[参照元へ戻る]
◆太陽風による大気散逸
太陽からは高温の荷電粒子(プラズマ)からなる太陽風が常時流れ出し地球まで到達しているが、現在の地球では地球磁場(磁気圏)がこれら荷電粒子の地表への侵入を食い止めている。地球磁場が無かったり弱かったりすると、高速の荷電粒子が地球大気に侵入して酸素や窒素などの大気分子が宇宙空間にはじき飛ばされて急速に失われる。これを大気散逸と呼ぶ。現在強い磁場がない火星大気の圧力が低い理由の一つと考えられている。大気散逸の程度は大気分子の種類によって異なるため、過去から現在までの大気散逸の状況によって惑星大気の組成も影響を受ける。[参照元へ戻る]
◆低温超伝導
金属など物質の温度を下げていくと超伝導状態(電気抵抗がゼロ)になる。このときの温度を転移温度と呼ぶが、転移温度が液体窒素温度以下のものを一般に低温超伝導体と呼ぶ。低温超伝導体としてはニオブや鉛などが古くから知られている。逆に、転移温度が液体窒素温度以上のものを一般に高温超伝導体と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆超伝導量子干渉素子(superconducting quantum interference device; SQUID)
超伝導状態で作動する量子効果に基づく磁気検出素子であり、微弱な磁場を測定するのに使用される。液体ヘリウム温度で作動する低温超伝導SQUIDと液体窒素温度で作動する高温超伝導SQUIDがある。[参照元へ戻る]
◆テスラ(T)
磁場(磁束密度)の単位。科学者ニコラ・テスラにちなむ。テスラの千分の一がmT(ミリテスラ)、百万分の一がµT(マイクロテスラ)、十億分の一がnT(ナノテスラ)。日本近辺の現在の地球磁場は50 µT(マイクロテスラ)弱である。医療に用いられるMRIでは1T以上の強磁場が使用される場合が多い。[参照元へ戻る]
◆小口径型超伝導岩石磁力計
岩石の磁性は弱いため、SQUIDセンサーを用いた超伝導岩石磁力計によって分析する。現在、世界で使用されている超伝導岩石磁力計のほとんどは1インチ径の岩石試料など比較的大きな試料の測定に適している。ロチェスター大学の保有する小口径型超伝導岩石磁力計の測定空間は直径6.4 mmで検出コイルと試料の距離が近いために、ジルコン結晶など直径1 mm以下の微少試料を高感度で測定できる。[参照元へ戻る]
◆自然残留磁化
地層や岩石に含まれる磁性鉱物は堆積時や岩石冷却時の地球磁場を記録している。これが自然残留磁化である。火成岩の場合は、その中に含まれる磁性鉱物がキュリー温度以下(例えば磁鉄鉱Fe3O4の場合は585 ℃)になると、その時の地球磁場の方向が自然残留磁化として記録される。実際に磁場が記録される温度は、キュリー温度よりも低く、その温度は磁性鉱物の粒子サイズによって異なる。より高温で記録される自然残留磁化が長期的に安定であり、後の加熱による変成作用などの影響を受けにくい。[参照元へ戻る]
◆絶対古地磁気強度
地質試料(主に火山岩)や考古遺物など、地球磁場中で試料(磁性鉱物)が冷却する過程で獲得した磁化の強度を分析して推定した過去の地球磁場強度。基本原理としては実験室無磁場中において一定温度で試料を加熱して失われた磁化を調べ、その後に実験室磁場中において同一温度で加熱して得られた磁化を調べる。磁場強度と得られた磁化の比例関係を仮定して、消失磁化と獲得磁化の比率から過去の地球磁場強度を推定する。地質学的時間単位で見ると地球磁場強度は大きく変動した。[参照元へ戻る]
◆ウラン・鉛年代推定法
ウラン・鉛年代測定法は天然の放射性物質であるウランが崩壊して最終的に鉛に変化することを利用して、試料がどのくらい昔に形成されたかを推定する手法である。ウランの量が半分になる時間(半減期)は同位体によって決まっている。半減期が特に長いのは、ウラン238(約45億年)と、ウラン235(約7億年)で、ウラン238は鉛206に変化し、ウラン235は鉛207に変化する。例えばジルコンは結晶ができるときにウランを選択的に取り込むが、鉛はほとんど取り込まないので、上記4種類の同位体を分析することで年代推定を行うことができる。[参照元へ戻る]



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