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発表・掲載日:2019/11/28

世界初、深海底に眠る塊状のメタンハイドレートの強さや硬さを測定

-海底表層のメタンハイドレート回収技術開発に関わる重要な物性の取得に成功-

ポイント

  • 日本海上越沖から採取されたメタンハイドレートを含む地質サンプルを温度・水圧を保持したまま分析
  • 塊状の天然メタンハイドレートの圧縮試験に初めて成功
  • 海底表層に塊状で存在するメタンハイドレートの回収技術開発における地盤の安定性評価へ貢献


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)創エネルギー研究部門【研究部門長 羽鳥 浩章】米田 純 主任研究員、神 裕介 研究グループ長、天満 則夫 副研究部門長、地質情報基盤センター【センター長 佐脇 貴幸】森田 澄人 次長らは、日本海上越沖で掘削採取された、塊状のメタンハイドレート(水分子とメタン分子からなる氷状の固体物質)の強さ(強度)や硬さ(剛性)を測定することに、世界で初めて成功した。メタンハイドレートは、低温高圧下では安定しているが、常温大気圧下ではメタンガスと水に分解してしまうため、天然のメタンハイドレートの強度や剛性を測定するのは極めて困難であった。産総研では、深海底の水圧を保持したまま採取されたメタンハイドレートの物性を評価する装置の開発を進めており、今回、産総研と明治大学が協力して採取した表層型メタンハイドレートの強度や剛性を測定する実験に成功した。深海底の泥の中に塊状で存在する表層型メタンハイドレートが、どのくらいの硬さで、また力学的にどのように安定しているのか、これまで明らかになっていない。メタンハイドレートの強度や剛性は、表層型メタンハイドレートの具体的な回収技術(砕く、壊す、集めるなど)の検討や、メタンハイドレート開発時の海底地盤の力学的安定性を評価する上で重要な物性である。今回の研究成果は、深海底の資源開発及び環境評価へ重要な役割を果たすことが期待される。なお、この成果は近日中に米国地球物理学連合の学術誌Geophysical Research Lettersに掲載される。

概要図
表層型メタンハイドレートの概念図(左)と圧縮試験の様子(右)


開発の社会的背景

メタンハイドレートは、水分子が作る“籠”の中にメタン分子が入った構造をしており、温度・圧力の関係から、永久凍土域や深海底の地盤内に存在することがわかっている。天然のメタンハイドレートには、海底下数百mの砂の隙間に存在している砂層型メタンハイドレートと、海底の表層部分に塊(塊状)として、または泥の中にノジュール状(粒状)、レンズ状、板状、脈状に存在している表層型メタンハイドレートがある。いずれも、分解後に発生するメタンガスは天然ガスの主成分であり、低炭素社会へ向けた次世代エネルギー源としての利活用が期待されている。メタンハイドレートを資源化するためには、まず、原始資源量とその分布を把握することが重要である。例えば、砂層型メタンハイドレートは、日本の排他的経済水域に相当量の原始資源量が試算されており、国産資源としての期待も膨らんでいる。次に、メタンハイドレートを開発する時の海底地盤の安定性を評価し、具体的なメタンハイドレートの回収技術を検討するためには、メタンハイドレートと海底地盤の力学的性質(強度や剛性)を知る必要がある。しかし、メタンハイドレートは常温大気圧下ではメタンガスと水に分解してしまうため、その力学的性質を測定すること自体が極めて困難であった。

研究の経緯

日本におけるメタンハイドレートの研究開発は、2001年度に経済産業省が発表した「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を機に本格化した。上記の開発計画では、砂層型メタンハイドレートを主に対象としていたが、2013年4月に閣議決定された「海洋基本計画」では、表層型メタンハイドレートに対して、資源量調査目標が初めて設定された。産総研では、それまでにも海底表層のメタンハイドレートの調査研究に携わっていたが(産総研TODAY 2006年4月号2007年3月2日産総研研究成果)、2013~2015年度に経済産業省から受託した「国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」の一環として、表層型メタンハイドレートの広域的な分布調査等を実施した。産総研から委託された明治大学は、2015年に資源量調査の一環として圧力コアを取得し、その後、産総研が採取された圧力コアを受領し、分析することとなった。砂層型メタンハイドレートの資源化に向けた研究開発として産総研が培ってきた圧力コア分析技術の内、特に深海底の水圧を保持したまま天然サンプルの強度や剛性を取得する技術を新たに表層型メタンハイドレートに適用し、力学的性質を含む基礎物理特性を評価した。

研究の内容

本研究で用いた天然メタンハイドレートは、2015年8~11月に日本海上越沖の水深約900 mの地点(図1:採取地点の広域図及び周辺海底地形図中の赤点)において採取された圧力コアのサンプルである。圧力コアは、約10 MPaの水圧を保持した状態で船上へ引き揚げられ、一度も減圧することなく専用の圧力容器に移された後、産総研北海道センターへと輸送された。このすべての行程において、温度・圧力がメタンハイドレートの安定条件を満たすよう、管理された。

図1
図1 本研究で使用した圧力コアの採取地点(赤点)

実験室では、直径50 mmの円筒形サンプルをX線CT装置で撮影し、メタンハイドレートの性状観察を行った。図2は、代表的なサンプルのX線CT断面画像、および、CT画像からメタンハイドレートのみを抽出した3次元観察画像である。塊状メタンハイドレート(図2左)の内部は、一様にメタンハイドレートが存在しており、泥などの混在はほぼ確認できない。CT画像や後述する実験の後に分解して排出されたガス量から算出したメタンハイドレートの体積含有率は92~100 %であった。ノジュール状メタンハイドレート含有泥(図2右)は、内部に数mmから数cmの板状あるいは塊状のメタンハイドレート片を泥の中に含有しており、個々のメタンハイドレート片の内部には泥などの混在は確認できない。メタンハイドレート部の3次元抽出画像では、メタンハイドレート片の配置に規則性や偏りは見られず、本サンプル中にランダムにメタンハイドレートが析出しているものと考えられる。本サンプルのメタンハイドレート片の体積含有率は約20 %であった。

図2
図2 表層型メタンハイドレートサンプルのX線CT断面画像とメタンハイドレート部の3次元抽出画像

X線CT撮影後、サンプルを海底圧力下において試験片長さ8~10 cmにカットし、圧縮試験装置にセットした。塊状メタンハイドレートは2サンプル、ノジュール状メタンハイドレート含有泥は3サンプルの圧縮試験を実施した。塊状メタンハイドレートサンプルは、水圧10 MPa、温度4 ℃の下で圧縮試験を実施し、強度3 MPa(図3左①②におけるピーク値)、剛性(変形係数)300 MPa(図3左①②における原点付近の傾き)という結果が得られた。これは、天然メタンハイドレートの強度や剛性として、世界で初めて計測された値となる。この値は、マイナス10 ℃環境下の多結晶氷と比較すると、強度は近いが、剛性は小さい。これにより、同程度の強度を持つ氷は破壊に至るまでの変形が大きい“粘り強い”挙動になるのに対し、メタンハイドレートは比較的小さな変形で破壊をする“脆(もろ)い”挙動になることが明らかとなった。ノジュール状メタンハイドレート含有泥に対しては、水圧10 MPa、温度4 ℃の下で採取深度に応じた地層の圧力状態を再現し、圧縮試験を行ったところ、メタンハイドレートを含まない周辺地盤の強度や剛性とほぼ等しかった(図3③-⑤)。すなわち、体積含有率20 %程度のメタンハイドレート片は、残りの80 %程度を占める泥の力学的性質に影響を及ぼさないことがわかった。以上の結果から、表層型メタンハイドレートの濃集域内部の塊状メタンハイドレート部は、周囲の泥地盤と比べて強度が高く、力学的に安定していることが予想される。一方で、塊状メタンハイドレートからノジュール状メタンハイドレート含有泥、さらには周辺の泥地盤へと遷移する領域においては、周辺地盤の力学的性質が支配的であることが示唆された。これらの結果は、表層型メタンハイドレートの具体的な回収技術の検討や、開発時における海底地盤の安定性評価のために、非常に重要な知見となる。

図3
図3 圧縮試験の結果

今後の展望

メタンハイドレートは、低炭素社会へ向けた次世代エネルギー源として、世界的にも期待されている。一方で、メタンハイドレートが存在する地層の物性は場所ごとに特有であることが多く、一義的に決められないため、技術的検討を簡単に進めることができない。対象領域における開発技術を検討する上で、海底地盤の強度や剛性の把握が今後も重要となる。産総研の有する圧力コア分析技術を今後も活用して、将来の開発対象となるような有望な深海底地盤の物性を明らかにし、安全で効率的な資源回収方法の提案につながる研究を進めていく。



用語の説明

◆メタンハイドレート
温度が低く圧力の高い場所で安定に存在するため、深海堆積物中や永久凍土域に分布する。次世代エネルギー源として期待される一方、地球環境の変動要因としても注目される。[参照元へ戻る]
◆強さ(強度)や硬さ(剛性)
材料の力学的性質を表す物性であり、本研究では、材料の圧縮に対する抵抗性を意味する。強度(強さ)は、圧縮時の破壊に対する抵抗性を表し、破壊時の最大荷重より求められる。剛性(硬さ)は、圧縮時の変形に対する抵抗性を表し、荷重と変形の関係より求められる。これらの力学的性質は、工学における設計などに用いられ、材料の耐久性などの予測に用いられる。これは、メタンハイドレートを含む海底地盤にも適用することが可能であり、地盤変形や斜面安定などの計算が可能となる。[参照元へ戻る]
◆表層型メタンハイドレート
水深数百~数千メートルの深海底の比較的浅い地層に存在しているメタンハイドレート。海底に塊状で露頭しているものや、泥質堆積物の内部にノジュール状(粒状)、レンズ状、板状、脈状で存在するものが確認されている。[参照元へ戻る]
◆砂層型メタンハイドレート
砂質堆積物内に存在するメタンハイドレートを指し、極地方の永久凍土層よりも下位、または深海の海底下に存在する砂質堆積物の間隙(かんげき)中に存在する。[参照元へ戻る]
◆原始資源量
メタンハイドレートとして地層内に実在しているメタンの総量のこと。[参照元へ戻る]
◆圧力コア
メタンハイドレートを含有する地層を採取する際、現場深度で水圧を保持することでメタンハイドレートの分解を防ぎ、回収されるコア(円柱状の地質サンプル)。地表に上げられてからも、専用の圧力容器に保管することで、深海底で採取されたメタンハイドレートを分解させることなく、室内での実験に使用することができる。[参照元へ戻る]
◆塊状メタンハイドレート
表層型メタンハイドレートの一種。泥質堆積物の内部に数十cm以上の大きさで存在するメタンハイドレート。[参照元へ戻る]
◆ノジュール状メタンハイドレート
表層型メタンハイドレートの一種。泥質堆積物内に粒状で断片的に存在するメタンハイドレート。本研究で使用した圧力コアのサンプル内では数mmから数cmの大きさで存在する。[参照元へ戻る]


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