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発表・掲載日:2019/09/30

静電気を貯める液体を開発し、伸縮自在の振動発電素子を実現

-脈拍・心拍センサなどの医療応用へ期待-



English (NIMS site)

概要

  1. NIMSと産業技術総合研究所の研究グループは、静電気を半永久的にためられる液体状のエレクトレット材料(注1)を開発し、柔らかい電極と組み合わせることで、伸縮・折り曲げできる振動発電素子を世界で初めて実現しました。心拍や脈拍という非常に小さな振動を電気信号に変換でき、しかも伸縮、折り曲げなど様々に変形できるため、腕や胸に装着する電池レスの脈拍・心拍センサなど医療応用への展開が期待できます。
  2. 電荷を半永久的に保持できるエレクトレット材料は、電極との距離の変化で電圧を発生させることができるため、振動や圧力刺激を電気信号に変換する振動発電(圧電)素子やセンサ応用が期待されています。しかし、これまでのエレクトレット材料は、固体やフィルム状の素材が使用されており、複雑な形状へ変形できず柔軟性も低いため、脈拍・心拍センサなど体に装着しての利用を見据えて、伸縮・折り曲げなど様々な形状へ変形できる振動発電素子の開発が望まれていました。
  3. 本研究グループは、「ポルフィリン(注2)という有機化合物を、柔軟性・絶縁性を持つ構造(分岐アルキル鎖)で囲み保護することで、常温で液体でありながら安定的に電荷を保持できる材料を開発しました。さらに、この材料に高電圧をかけて静電気を帯電させた後、伸縮性の布地に含侵させて、ポリウレタンに銀メッキ繊維で配線した柔らかい電極で挟むことで、伸縮・折り曲げ可能な振動発電素子を開発しました。素子表面を指で押すと、±100~200 mVの電圧出力が得られ、少なくとも1ヶ月半以上の間は安定に駆動しています。
    図1
    図1:開発した液体エレクトレット材料(左)と伸縮・折り曲げ可能な振動発電素子(中、右)
  4. 今後、液体エレクトレット材料の静電気の保持能力を向上させ、素子への加工技術の改良を重ねることで、医療現場での利用を目指します。また電圧―電流変換のシステムやキャパシタなどと組み合わせることで、振動で発電するIoTデバイス用の電源としての活用も視野に開発を進めます。
  5. 本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 中西尚志グループリーダーと、国立研究開発法人産業技術総合研究所センシングシステム研究センター 吉田学研究チーム長らの研究グループによって行われました。また本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(18H03922)およびTIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」による研究支援のもとで行われました。
  6. 本研究成果は、Nature Communications誌にて2019年9月30日にオンライン掲載されます。


研究の背景

医療・ヘルスケア分野において着目されている人体に装着可能で且つ電池レスで駆動するウェアラブルデバイスでは、軽量、形状任意性が高く、伸縮・柔軟性に優れた素材が必須となります。これまでの無機固体や高分子フィルムを基材としたエレクトレット素子では、上記要求を満たすことは難しく、自由に形状変形できる流動性が確保され且つ電荷(静電気)の保持力の高いエレクトレット材料の開発が望まれています。

NIMSの中西らは、π共役色素ユニットを嵩高く柔軟性に富む分岐アルキル鎖で被覆・保護することで、色素ユニットが孤立・安定化した常温液体材料(図2)の開発に取り組んできました。この研究で培ったアルキル化色素液体の分子構造と液体物性、光電子物性の相関に関する知見は、有機エレクトロニクス分野への応用発展に向けて貴重なヒントを提供します。すなわち、溶融状態の嵩高いアルキル鎖によって隔離された色素ユニットに注入される電荷は、安定に保持される可能性が高く、上述のウェアラブルデバイス用のエレクトレット材料として最適であると考えました。

図1
図2. 嵩高く柔軟性に富む分岐アルキル鎖で保護・隔離されたπ共役色素ユニットからなる常温液体材料の分子構造モデルと写真

研究内容と成果

本研究では、NIMSの中西らの研究チームにおいて、電荷を保持させる色素ユニットにポルフィリンを採用し、独自に分子設計した「液体ポルフィリン」を合成し、産業技術総合研究所の吉田らの研究チームにおいて、「ストレッチャブル液体エレクトレット素子」の作製とその性能評価を行いました。

液体ポルフィリンの分子構造の特徴は、ポルフィリン骨格の外側にフェニル置換基を介して合計8本の分岐アルキル鎖を化学結合しています(図3a)。この分子は常温で約18 Pa·sの粘性を示す不揮発性液体です。このポルフィリン液体を高電圧でコロナ帯電(注3)処理を行いました。先ず、導電性ITOガラス基板の上に帯電させた液体ポルフィリンを配置し、スペーサーを介しITO基板を対面配置させ封止することで、一般的なエレクトレット素子と同様な構造に組み上げ、液体エレクトレットとしての有効性を検討しました(図3b)。指で加圧時に電圧出力が得られたことから、圧力・振動センサへの適応性を確認しました。また、交流電圧(±100 V、1 kHz)の印加による200 Hzの変調発振(音)が確認できたことから、音波アクチュエータとしての適応性を確認できました。振動→電圧、電圧→振動の関係は、マイクロフォンとスピーカーの動作原理と同じであり、実際にこれらの素子には固体のエレクトレット材料が搭載されています。今回の結果は、「液体エレクトレット」として世界で初めての実証例になります。

図3
図3. a) 液体ポルフィリンの分子構造とモデル構造、b) 帯電させた液体ポルフィリンをITO基板間に封止して作製したエレクトレット素子.(上)圧力・振動センサ、(下)発振・アクチュエータ.

次いで、液体の流動性、自由変形特性を活かしたエレクトレット素子を開発しました。コロナ帯電させた液体ポルフィリンを直接、伸縮性布地に含浸させ、ポリウレタンフィルム上に銀メッキ繊維をパターニングした伸縮性電極で挟み込んで封止することで、ストレッチャブル液体エレクトレット素子を開発しました(図4)。素子の表面を指で押すと、±100~200 mVの電圧出力が得られました。

また、これら液体エレクトレット素子は少なくとも1ヶ月半以上の間は安定に駆動しています。

図3
図4. 液体エレクトレット(帯電・液体ポルフィリン)を含浸させた伸縮性布地と電極でパターニングしたポリウレタン基材により構築したストレッチャブル液体エレクトレット素子の構成、および振動(加圧)発電の様子.

今回、液化した分岐アルキル鎖に隔離されたポルフィリン部位に、安定に電荷(静電気)を保持できたことで、布地-ポリウレタン銀メッキ繊維電極に液体エレクトレットを直接含浸できる特異的且つ極めて簡便な加工技術によって、ストレッチャブルなエレクトレット発電素子の開発を実現できました。

今後の展開

この液体エレクトレット素子は、伸縮、折り曲げや様々な形状変形に適応できるため、電池レスで駆動する脈波・心拍センサ、筋電・モーションセンサなどの医療応用への展開が期待できます。また、電圧印加で変形する機能を活用することで、触覚(ハプティクス)素子への応用も期待できます。

掲載論文

題目:Soft chromophore featured liquid porphyrins and their utilization toward liquid electret applications
著者:ゴッシュ アビジット(NIMSフロンティア分子グループ)、吉田学(産総研)、末森浩司(産総研)、砂金宏明(NIMS先進低次元ナノ材料G)、小林長夫(信州大学)、水谷泰久(大阪大学)、倉重佑輝(京都大学)、川村出(横浜国立大学)、楡井真実(東京大学)、山室修(東京大学)、高屋智久(学習院大学)、岩田耕一(学習院大学)、佐伯昭紀(大阪大学)、名倉和彦、石原伸輔、中西尚志*(NIMSフロンティア分子グループ)
雑誌:Nature Communications
掲載日時: 英国時間2019年9月30日10時(日本時間30日18時)



用語解説

(1) エレクトレット材料
電界のない状態においても、素材の表面近傍に電荷を半永久的に保持できる荷電体材料のこと。磁石(magnet)にならってエレクトレット(electret)と名付けられました。[参照元へ戻る]
(2) ポルフィリン
ポルフィリンは4つのピロールが縮合した環状構造のπ共役系化合物であり、血液中で酸素を運搬するヘモグロビンのヘムや光合成で光吸収や光電子移動の役割を担うクロロフィルなどに含まれる化合物です。金属イオンと錯化したポルフィリン金属錯体を基材とする材料は、光電子機能性材料や金属錯体触媒、分子性導電材料として多方面で研究開発されています。[参照元へ戻る]
(3) コロナ帯電
一般に高圧力の気体中で一方の電極の近辺だけに高電界が集中するときにおこる部分放電をコロナ放電と呼び、その外観が王冠(コロナ)に似ていることからこの名がつけられています。コロナ放電によって発生したイオンを絶縁体表面に導いて帯電させる方法をコロナ帯電と呼びます。[参照元へ戻る]



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