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発表・掲載日:2019/08/20

十和田湖の成り立ちを示す高精細地質図を刊行

-青森・秋田県境の5万分の1地質図幅「十和田湖」-

ポイント

  • 気象庁の常時観測火山である十和田火山を含む「十和田湖」地域の地質図を完成
  • 地質調査と年代測定により本地域の1700万年前以降の火山活動の歴史を解明
  • 火山防災、観光業、地学教育の基礎資料として地域での活用に期待


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】は、青森・秋田県境の十和田湖地域での地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「十和田湖」(著者:工藤 崇・内野隆之・濱崎聡志)を完成させ、2019年8月20日に刊行した。この地質図幅は産総研が提携する委託販売店(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)より8月21日から委託販売を開始する。

十和田湖地域は、気象庁の常時観測火山である十和田火山の中心部を含み、日本列島成立以降の数多くの火山活動の歴史が記録された地質学的に重要な地域である。今回の5万分の1地質図幅の刊行により、行政機関が作成した既存のものより格段に精密化された地質図が示され、カルデラ湖である十和田湖の形成を含む火山活動の歴史を詳細に編むことができた。今後、火山防災、観光業、地学教育の基礎となる重要な資料として、また、地元住民の地域に対する理解促進のための資料としての利活用が見込まれる。

概要図
今回刊行した5万分の1地質図幅「十和田湖」


研究の社会的背景

地質図は、植生や土壌を剝ぎ取った地面の下の地層・岩石の分布を表した地図のことで、防災・減災、土木・建築、資源開発、観光振興、環境保全などの幅広い分野で基礎資料として利用される国土の基本情報である。また、日本列島の成り立ちや歴史を探る学術資料として重要であり、自然景観のできた理由が地質に起因することが多く、このような情報を基に観光業へと利用されるようになってきた。5万分の1の地質図は、日本列島を1274の地域に分割して地域ごとに地質調査を実施し作成したもので、非常に詳細な地質情報が記載されている。産総研 地質調査総合センターでは、全国各地域の地質を調査・研究し、地質図幅の整備を行っている。

研究の経緯

青森・秋田県境に位置する十和田火山は、その中心部に直径8.5 kmのカルデラ湖(十和田湖;図1)を有する活火山である。十和田火山は、気象庁の常時観測火山に指定されており、2018年には自治体によりハザードマップが整備されている。十和田火山の最新の噴火は、西暦915年に発生しており、この噴火は過去2000年間において日本国内で起きた最大規模の噴火としても知られている。

十和田湖地域は、活火山である十和田火山の中心部を含むとともに、日本列島が大陸から分離し日本海が形成された時期以降、長期間にわたる火山活動の歴史が記録された地質学的にも重要な地域である。そこで、産総研 地質調査総合センターは、2013〜2017年度に十和田湖地域の地表踏査および岩石試料の顕微鏡観察・化学分析や放射年代測定などの室内実験を実施し、5万分の1地質図幅「十和田湖」を刊行するに至った。

図1
図1 発荷峠から望む十和田湖

研究の内容

十和田湖地域の地表踏査を行うとともに、岩石試料の顕微鏡観察・化学分析等を行い、岩石・地層の種類や分布、地質構造を把握した。また、代表的な岩石について放射年代測定を行って年代を決定した。さらに、過去90年にも及ぶ調査・研究成果を整理し、それらの情報を反映させた上で、地質図幅として取りまとめた。本地質図幅の最大の特徴は、精密で詳細な地質分布が描かれていることであり、その精度は本地域の既存の地質図から飛躍的に向上している。例えば、地質凡例の数は、行政機関が作成した既存の地質図が27であったのに対して、本地質図幅では98となっている。


図1
図2 十和田湖地域の地質を総括した図(一部簡略化)

図3
図3 十和田湖地域の地質概略図

十和田湖地域に分布する地質構成物は、1億7000万年前頃の中生代の地層と1700万年前以降の新生代の地層に大別される。中生代の地層は、日本列島がまだ形を成す以前に海溝付近で形成された付加体であり、十和田湖地域の西端部にごくわずかに分布する(図3)。 新生代の地層は、日本列島が大陸から分離し日本海が形成された時期以降に堆積したものであり、さまざまな時代・環境で発生した火山活動によって形成された地層を主体とする。今回、1700万年前以降の火山活動の歴史を以下のように編むことができた(図2、図3)。特に今回の研究では、火山活動の起こった年代、場所、火山噴出物の分布、そしてそれらの時代変遷をより詳しく解明することができた。

1700万年前頃、十和田湖地域は日本海の形成に伴う沈降運動によって陸上から深海へと没した。この過程において、十和田湖地域全域で活発な海底火山活動が発生し、西ノ又層、瀬の沢層、上向層、東又層、砂子沢川層が形成された(図2)。これらの火山活動は、強弱を繰り返しながらも1200〜1100万年前ごろまで続いた。

1000万年前以降、それまで海の底にあった十和田湖地域は、この頃から始まった奥羽山脈の隆起に伴い、陸上あるいは浅い水域へと変化した。900〜700万年前には、十和田湖地域の東部で火山活動が発生し、松倉沢層が形成された(図2、図3)。その後、500万年前頃には、十和田湖地域の南西部で火山活動が発生し、芦名沢層が形成された(図2、図3)。

その後、顕著な火山活動はしばらく途絶えるが、360万年前以降に火山活動が再開した。この時代以降は、十和田湖地域は現在と同様な陸上〜湖沼となった。360〜160万年前には、十和田湖地域の東部で火山活動が発生し(図2、図3)、溶岩ドーム群などからなる火山群が形成された。また、この時期には十和田湖地域北西部に多くの火砕流堆積物が流入・堆積したが、それらの噴出源となる火山がどこにあったかは明らかになっていない。

160万年前以後は、火山活動の場は北西方向へと移動し、十和田湖地域の北西部において火山活動が発生し(図2、図3)、成層火山や溶岩ドーム群からなる火山群が形成された。この一連の火山活動は60万年前頃まで続いた。76万年前と30万年前には、十和田湖地域の北方に位置する八甲田カルデラを噴出源とする火砕流が本地域内に流入・堆積した。

60〜22万年前の間には火山活動の休止期が存在した。この休止期の後、22万年前以降に十和田火山が活動を開始し、現在まで活動を継続している(図2、図3)。以前から知られているように、十和田火山の活動は、先カルデラ期(22〜6万年前)、カルデラ形成期(6~1.5万年前)、後カルデラ期(1.5万年前〜現在)の三つの活動期に区分されている。先カルデラ期は、度重なる噴火により複数あるいは単体の成層火山が形成された時期である。カルデラ形成期は、大規模な火砕流噴火が複数回発生してカルデラの陥没が段階的に進み、十和田カルデラ(図3)が形成された時期である。後カルデラ期は、十和田カルデラ内で活動を開始した小規模な成層火山の活動が起こった時期であり、この活動の後期に中湖カルデラ(図3)が形成された。

十和田湖地域は、東北屈指の観光地である十和田湖および奥入瀬渓流の一部を含む(図3)。その自然景観は1700万年前以降の長期にわたる火山活動の末に形成されたものであり、本地質図幅はこの地域の観光資源や地学教育の基礎資料としての利活用が大いに期待される。また、本地質図幅では活火山である十和田火山の地質情報を網羅的に取りまとめているとともに、地質図には詳細な火山噴出物の分布を描いており、これを利用して過去の噴火災害が及んだ範囲を読み取ることもできるため、火山防災対策での利活用が大いに見込まれる。

今後の予定

現在、十和田湖地域の東側に位置する田子地域の地質調査を実施中である。周辺地域には地質図幅が未刊行の地域が多く残されている。今後も5万分の1の地質図幅を引き続き刊行していくことで、日本列島の成り立ちの歴史を解き明かすための基礎資料を提供するとともに、安全・安心な生活や産業振興への貢献を図っていく。



用語の説明

◆地質図(地質図幅)
地質図は、地盤や地層の様子、つまり、いつの時代の、どのような種類の岩石・地層が、どこに、どのように分布しているかを塗色し地形図上に示した地図である。地質図からは、地層や岩石の種類、火山活動の履歴などを読み取ることができるほか、地質図には活断層の位置や石炭・天然ガス・温泉・地熱などの地下資源に関する情報などが記号で示されている。そのため地質図は、土木・建築、防災・減災、観光、資源探査など幅広い分野で利活用されている。また、緯度経度で囲まれた四角の図画を図幅と呼び、地質調査総合センターでは、20万分の1と5万分の1スケールの地質図幅を作成している。前者は日本全国で124区画、後者は1274区画ある。[参照元へ戻る]
◆常時観測火山
わが国の111の活火山のうち、「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された50火山については、常時観測火山として気象庁による24時間態勢での常時観測・監視が実施されている。[参照元へ戻る]
◆カルデラ
大量のマグマが一度に噴出することにより、空になったマグマだまりへ天井の岩盤が崩れ落ちて地表に形成される陥没構造である。多くの場合、カルデラのサイズは直径2 kmを超える。[参照元へ戻る]
◆活火山
活火山とは、おおむね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山を指す。[参照元へ戻る]
◆地表踏査
地質調査を行う上で最も基本的な事項であり、地表を自らの足で歩き、川床・海岸や崖などに露出した岩石の種類、地層の方向・傾き、構造などを丹念に調べていくこと。[参照元へ戻る]
◆放射年代
鉱物に含まれる放射性元素(例えば、ウランやカリウム)の放射性壊変(不安定な元素が放射線を出して安定した元素に変化すること)を利用して求められた数値年代。放射年代測定法の一つであるウラン-鉛法はウランの放射性同位元素が、放射崩壊によって鉛の同位元素に変わることを利用したもので、カリウム-アルゴン法はカリウムの放射性同位元素がアルゴンの同位元素に変わることを利用している。それぞれの元素で放射線の強さが半分になる時間(半減期)が決まっているため、数値年代が算出できる。[参照元へ戻る]
◆付加体
海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレート上の堆積物が剝ぎ取られ、海溝にたまった堆積物と混ざり合いながら陸側に付加したもの。日本列島の基盤のほとんどは過去の付加体からなる。[参照元へ戻る]
◆日本海の形成
日本列島はかつてユーラシア大陸の一部であった。ところが、4000万年前頃(諸説あり)から始まった地殻変動によって、大陸の縁が東西に引き裂かれ、日本列島は大陸から分離した。その裂け目には水がたまり、日本海となった。日本海の形成は、沈降運動と激しい火山活動を伴った。1500〜1200万年前頃にはこれらの地殻変動は終了し、日本列島の位置は現在とほぼ同じになった。[参照元へ戻る]
◆火砕流堆積物
火砕流とは、火山の噴火によって火口から噴出した高温の火山噴出物が、火山ガスや大気と混じり合って高速で流走する現象。火砕流堆積物はその現象により生じた堆積物を指す。カルデラを形成する噴火は、ほとんどの場合、大規模な火砕流の発生を伴う。[参照元へ戻る]
◆成層火山
山頂火口からの複数回の噴火により、溶岩や火山砕屑物などが積み重なり形成された円すい状の火山のこと。地形と内部構造によって類別された火山形状の一つ。[参照元へ戻る]



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