発表・掲載日:2018/11/09

乳酸菌K15で健康的な暮らしをサポート!

-感染予防や感染抵抗性の増強に期待-

ポイント

  • 幼稚園3施設において加熱乳酸菌(1)Pediococcus acidilacticiK15(2)(以下、乳酸菌K15)の臨床効果を検証
  • 感染抵抗性の指標となる唾液中IgA(3)濃度が乳酸菌K15を摂取した小児で高値となることを確認
  • 日常の乳酸菌摂取頻度が低い小児では乳酸菌K15摂取により発熱日数が短縮することを確認


概要

国立大学法人千葉大学【学長 徳久 剛史】(以下「千葉大学」という)、キッコーマン株式会社【代表取締役社長 堀切 功章】(以下「キッコーマン」という)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)、国立大学法人徳島大学疾患酵素学研究センターと共同で、幼児172名を対象にしたプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験(4)により、乳酸菌K15のIgA産生増強効果を確認した。また、他の乳酸菌食品摂取頻度が週1回以下の被験者について解析を行ったところ、発熱日数が乳酸菌K15摂取により短縮することが明らかとなった。今後、感染予防や感染抵抗性の増強に乳酸菌K15が活用されることが期待される。

なお、本研究成果は2018年11月10日~11日に開催される第50回日本小児感染症学会学術集会で発表される。



研究の社会的背景

腸内に常在している乳酸菌や食物に含まれるプロバイオティクス(5)乳酸菌は人々の健康維持・増進に効果があることが知られている。その安全性の高さ、さらには発酵食品への応用の観点から、乳酸菌は食品・医薬品業界から非常に注目されている。特に免疫増強効果については多くの報告があり、さまざまな免疫疾患への効果が期待されている。例えば、腸管、口腔、鼻腔等の粘膜面に分泌されるIgAと呼ばれる抗体は、病原菌やウイルスを排除するために大きな役割を果たしている。また、樹状細胞(6)から産生されるインターフェロンαやインターフェロンβが感染抵抗性に重要であることが知られている。

研究の経緯

千葉大学、キッコーマン、産総研は共同研究を行う中で、健康増進のために免疫機能を活性化する技術の開発を目指し、発酵食品由来の乳酸菌や食品成分の機能性に着目してきた。キッコーマンが独自に分離した乳酸菌の効果・効能について、これまでに千葉大学大学院医学研究院 小児病態学(下条 直樹 教授)、キッコーマン研究開発本部、産総研バイオメディカル研究部門は、乳酸菌K15のIgA産生増強効果や樹状細胞に対するインターフェロンα/βの産生誘導作用について実証してきた。その中でキッコーマンは乳酸菌K15を「アシスト乳酸菌」としてグループ内製品に応用してきた。今回は乳酸菌K15のさらなる臨床効果の実証を試みた。乳酸菌K15は加熱により不活化しても高いインターフェロンβ産生能が確認されており、安全性、保存性の観点から加熱菌体をもちいた。

研究の内容

幼稚園に通う3~6歳の健康な幼児を対象に、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を実施した。インフルエンザ流行期を含む4か月間(2016年11月~2017年2月)に、乳酸菌K15またはプラセボ(デキストリン)を経口投与し、健康観察日誌から体温、感冒症状、欠席日数、試験食品・乳酸菌食品摂取歴(制限を設けず)などを収集した。

試験開始前後で唾液を採取できた乳酸菌K15摂取群81例、プラセボ群81例について解析を行ったところ、唾液中IgA濃度について乳酸菌K15 群がプラセボ群に比べ有意に高い変化量を示した(K15群+3.20 mg/dL、プラセボ群-12.48 mg/dL、p=0.0443)(図1)。

図1
図1 唾液中IgA濃度変化量

発熱日数においては2群で有意な差は認めなかったものの、他の乳酸菌食品の摂取が週1回以下である症例(K15群36例、プラセボ群41例)のみで解析を行ったところ、乳酸菌K15摂取群で発熱日数が有意に短縮されていた(K15群1.69日、プラセボ群3.17日、p=0.0423)(図2)。

図2
図2 他の乳酸菌食品の摂取が週1回以下の被験者における発熱日数の比較

今後の予定

今後は乳酸菌K15の効果をさらに検証すると共に、ウイルス感染症が流行する中でも健康的な暮らしをサポートできるよう、乳酸菌K15を含む食品の開発を進めていく予定である。

発表演題

小児を対象とした加熱乳酸菌(K15) のウイルス気道感染症予防効果を検討するための二重盲検比較試験
菱木 はるか、川島 忠臣、辻 典子、木戸 博、竹村 亮5※、下条 直樹
千葉大学大学院医学研究院 小児病態学、キッコーマン(株)、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門、徳島大学疾患酵素学研究センター、千葉大学医学附属病院臨床試験部)
※現:慶應義塾大学病院 臨床研究推進センター



用語解説

(1)乳酸菌
代謝により糖から乳酸を生成する細菌の総称。腸内にも常在しているほか、さまざまな加工食品、発酵食品に含まれているため、日常的に摂取されている。[参照元へ戻る]
(2)Pediococcus acidilactici K15
ぬか床から分離した乳酸菌で、これまでの研究成果から、樹状細胞に作用し感染抵抗に関わるインターフェロンβ、抗アレルギー作用に関わるインターロイキン12(IL-12)を誘導することがわかっている。
Kawashima T, Ikari N, Watanabe Y, Kubota Y, Yoshio S, Kanto T, Motohashi S, Shimojo N and Tsuji NM (2018) Double-Stranded RNA Derived from Lactic Acid Bacteria Augments Th1 Immunity via Interferon-β from Human Dendritic Cells. Front. Immunol. 9:27. doi: 10.3389/fimmu.2018.00027 [参照元へ戻る]
(3)IgA
粘膜面に分泌される抗体で、ウイルスや細菌に結合し、生体内への進入を防ぐ役割を持つ。ウイルスや細菌の感染防御に重要。乳酸菌K15はヒト細胞を用いた評価において、高いIgA産生誘導能を有することがわかっている。
Kawashima T, Ikari N, Kouchi T, Kowatari Y, Kubota Y, Shimojo N, and Tsuji NM (2018) The molecular mechanism for activating IgA production by Pediococcus acidilactici K15 and the clinical impact in a randomized trial. Sci Rep. 8(1):5065. doi: 10.1038/s41598-018-23404-4. [参照元へ戻る]
(4)プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験
プラセボとは有効成分(今回の試験では乳酸菌)を含まないが外見上試験薬と区別がつかないように調製された対照薬。ヒトにたいしてほとんど薬理的作用の認められないブドウ糖などの糖類(今回の試験ではデキストリン)が使われることが多い。プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験とは、試験薬と対照薬(プラセボ)を摂取する群を設定する際に、医師、被験者ともにどちらを摂取しているか分からない状況で実施する試験。母集団からランダムに両群の割り当てを行い、客観的に試験薬の効果を評価できる。 [参照元へ戻る]
(5)プロバイオティクス
人体に有益な作用をもたらす微生物、およびそれを含む食品。[参照元へ戻る]
(6)樹状細胞
免疫細胞の一種。体内に進入してきた抗原、微生物などを認識し、インターフェロンα/β(感染抵抗に関わる物質)やサイトカイン(T細胞やB細胞への指令となる物質)の産生を介して、免疫応答を開始する。[参照元へ戻る]


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