発表・掲載日:2018/09/13

長寿命・高耐熱・高耐圧Oリングを開発、販売開始へ

-世界初、スーパーグロース法で量産された単層カーボンナノチューブ応用製品-

ポイント

  • 単層カーボンナノチューブ入り耐熱Oリングを実用化
  • 長期シール性の目安となる圧縮永久ひずみを大幅に改善
  • 長寿命化により、高温・高圧環境下での交換頻度の低減や金属シール代替に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター【研究センター長 畠 賢治】と、日本ゼオン・サンアロー・産総研 CNT複合材料研究拠点(以下「TACC」という)は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 石塚 博昭】(以下「NEDO」という)のプロジェクトの成果をもとに、単層CNT含有の耐熱フッ素ゴム(FKM)の開発を発展させ、「Oリング」の実用化に成功した。

このOリングは、市販品FKM材料の3.5倍の耐久時間を有するなど、長寿命・高耐熱・高耐圧の優れた性能を持つ。2018年10月1日からサンアロー株式会社【代表取締役社長 時宗 裕二】(以下「サンアロー」という)がFKMと同等の価格帯で販売開始する(名称:SGOINT(スゴイン)-Oリング)。例えば、石油掘削装置などのシール材、自動車や航空機などのエンジン周辺部材の金属シール代替などへの活用が期待され、交換頻度の低減と管理コストの削減などに貢献する。このOリングは、高品質・高速・大量合成に優れたスーパーグロース法で量産された単層カーボンナノチューブ(SGCNT)を応用した世界初の製品となる。

SGOINT-Oリングの写真
SGOINT-Oリングの外観

開発の社会的背景

配管や容器のシール部材として使われるゴム製のOリングは、高いシール性(密閉性)と柔軟性を特長とするが、化学プラント、発電、石油掘削用途などの高温・高圧となる過酷環境下での使用には、寿命などに制限があった。そのため、用途範囲が限られることや、頻繁な交換が必要であることなどの課題があった。また、自動車や航空機などの金属シール部材は、省エネ化の観点から軽量材料への代替が求められていた。

研究開発の経緯

NEDOプロジェクト「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト(2002~2005年度)」において、産総研は、2004年に高純度、長尺、高比表面積で、分散性に優れた単層CNTの合成法であるスーパーグロース法を開発した。そして、NEDOの支援を経て、2015年に日本ゼオン株式会社(以下「日本ゼオン」という)がこの合成法による単層CNTを量産化に成功した。その後、2017年から産総研、日本ゼオン、サンアローの3者で構成されるTACCにおいて、CNTとさまざまな複合材料の製品化を目指した研究開発が進められてきた。

CNTとゴムの複合材料については、これまでに、窒素雰囲気下420 ℃で3時間加熱しても形状を維持できる単層CNT含有ゴム複合材料を開発した(2017年6月8日 産総研プレス発表)。CNTとゴムの複合材料の性能向上にはCNTの高度な分散による三次元のネットワーク構造を保つことが重要とされる。しかし、製品化コストに見合うレベルでの市販Oリングとの物性の差が十分に達成できなかったため、物性の向上に取り組んできた。

研究開発の内容

高度なネットワーク構造を保ったままCNTを分散させることは、従来の混練では難しかったが、添加物の配合比を改良することで実現できた。さらに、単層CNTの安価な分散方法と両立することができ、高性能ながら市販品FKMと同等の価格帯でフッ素ゴム複合材料が得られた。なお、母材にはパーオキサイド(PO)架橋系3元系FKMを用いている。

図1に、長期シール性の指標となる圧縮永久ひずみについて230 ℃高温下での実験結果を示す。一般的に圧縮永久ひずみが80 %を超えると良好なシール性を保てなくなるといわれている。これまでの旧配合品(2018年6月時点)では、長期シール性が市販品FKM(約470時間)に比べて最大約1.7倍(約800時間)であったが、今回の配合品では約1,630時間と、市販品FKMの約3.5倍にまで耐久時間が向上したしことを確認できた。このような長寿命化は、CNTによる圧縮永久ひずみへの影響メカニズムを解明し、各種添加剤の配合比を最適化したことにより、達成できた。

図1
図1 230 ℃での圧縮永久ひずみ(シール耐久性能)の経時変化(寿命の目安)
 

今回の製品と、競合する市販品FKMの各種特性の比較を図2に示す。今回の製品では、市販品FKMと同等の価格帯で、耐熱特性(連続使用温度)や圧縮永久ひずみ(交換寿命目安)を向上させた。これにより、例えば、石油掘削装置などのシール材、自動車や航空機などのエンジン周辺部材の金属シール代替などへの活用が期待され、交換頻度の低減と管理コストの削減などに貢献できる。

図2
図2 ゴム製Oリングの特性比較
 

今回の成果は、TACCで開発した製品の初めての販売開始事例であり、SGCNTの応用製品としても世界で初めて販売が開始される。なお、この製品にはゼオンナノテクノロジー株式会社が製造・販売するCNT材料が用いられている。

今後の予定

2018年10月からサンアローより耐熱フッ素ゴムOリングSGOINTシリーズの販売を開始するとともに、TACCにてユーザーニーズに対応しながらカスタマイズ品の開発を行う。また、産総研は、これを皮切りに、今後もさまざまなSGCNTの応用用途を検討していく。

なお、本成果の詳細については、2018年9月14日に東京大学弥生講堂(東京都文京区)で開催される第11回ナノカーボン実用化推進研究会にて産総研が発表予定である。


用語の説明

◆日本ゼオン・サンアロー・産総研 CNT複合材料研究拠点(TACC)
産総研のCNT関連技術を企業へ効率的に移転するために2017年1月に、日本ゼオン・サンアロー・産総研の3者が産総研内に設立した拠点。ナノ材料の安全性、評価技術、プロセス技術などを保有する産総研研究員がCNT関連企業と「CNTアライアンス・コンソーシアム」を組んでCNT産業創出を目指す活動の中のオープンプラットフォーム共同研究の第一号事例として、3者でCNTと樹脂・ゴム複合材料のマスターバッチや成形体の技術営業、商品開発、製造プロセス開発などを行っている。[参照元へ戻る]
◆プロジェクト
ここではNEDOプロジェクト「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト(2010年度~2016年度)」を指し、委託事業実施者は技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)など。日本ゼオンはTASC組合員として基盤技術開発に参画するとともに助成事業実施者としてフッ素ゴム複合材料開発に参画した。産総研は分散・評価・安全性などの基盤技術開発に貢献した。[参照元へ戻る]
◆SGOINT(スゴイン)
TACCでは、複数企業と産総研のオープンプラットフォーム共同研究としてユーザー企業へのヒアリング活動も行い、「凄いSGCNT入りのOリングを開発する」というコンセプトをもとに単層CNT含有耐熱フッ素ゴムOリングをSGOINT(スゴイン)と名付け開発を進めてきた。販売を機にサンアローの製品をSGOINTシリーズと名付けて、これを商標登録することとなった。[参照元へ戻る]
◆スーパーグロース法単層カーボンナノチューブ(SGCNT)
炭素原子だけで構成される直径が0.4~50 nm、長さがおよそ1~数10 mmの一次元性ナノ炭素材料のうち、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ(CNT)と呼ぶ。この合成手法の一つである化学気相成長(CVD)法で、水分を極微量添加することにより触媒の寿命と活性を大幅に改善した手法をスーパーグロース法と呼び、高純度(従来比2,000倍)、長尺(従来比500倍)、高比表面積で、分散性に優れた単層CNTが合成可能となった。本手法は2004年に産総研で開発され、2015年11月に日本ゼオンによって工業的量産が開始されている。[参照元へ戻る]
◆フッ素ゴム(FKM)
フッ素を含有し、150 ℃以上の温度域でも使用可能なゴム。フッ化ビニリデン系(FKM)、四フッ化エチレン-プロピレン系(FEPM)、四フッ化エチレン-パーフルオロビニルエーテル系(FFKM)などが市販されており、高スペックなFFKMに比べて安価な価格帯のFKMが汎用されている。[参照元へ戻る]
◆ゼオンナノテクノロジー株式会社
2015年6月に設立された日本ゼオンの100 %子会社で、日本ゼオン徳山工場で生産されたCNTやCNT関連製品の製造販売を行っている。 [参照元へ戻る]

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