発表・掲載日:2016/02/02

可視光全域の波長をカバーする、世界で初めての標準LEDを開発

-次世代照明の高精度な特性評価を目指して-

ポイント

  • これまで困難であった可視光全域で十分な光強度をもつ標準LEDを開発
  • 複数色のLED素子と複数の蛍光体を組み合わせて実現
  • LED照明や有機EL照明の高精度な特性評価と性能向上への貢献に期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門【研究部門長 中村 安宏】 光放射標準研究グループ 中澤 由莉 研究員、丹羽 一樹 主任研究員、神門 賢二 主任研究員と日亜化学工業株式会社【代表取締役社長 小川 裕義】(以下「日亜化学工業」という)は、共同で、可視光全域をカバーする標準LEDを、世界で初めて開発した。

 次世代照明として普及しつつあるLED照明や有機EL照明といった固体素子照明では、明るさを評価する指標として全光束や色の評価が重要とされ、これらの評価のためには、分光測定により、光の波長ごとの強度を高精度に測ることが不可欠である。分光測定を高精度に行うには、評価対象の光源を、基準となる標準光源と比較する必要があるが、これまで、固体素子照明の高精度な分光測定に利用でき、可視光全域をカバーする標準光源は存在しなかった。

 今回、産総研と日亜化学工業は、中心波長が異なる複数のLED素子と複数の蛍光体を用いて、可視光全域で十分な光強度をもつ標準LEDを開発した。LEDの製造・開発の現場において、この標準LEDを用いることで、固体素子照明の高精度な特性評価が可能となり、製品開発の加速や性能向上への貢献が期待できる。

 なお、この技術の詳細は、産総研つくばセンター(茨城県つくば市)で開催される2015年度計量標準総合センター成果発表会で2016年2月10日に報告される。

今回開発した標準LEDと使用イメージ図
今回開発した標準LEDと使用イメージ


開発の社会的背景

 照明は、家庭における消費電力の約6分の1を占めており、省エネルギーの観点から、白熱電球や蛍光灯などの従来照明から、LED照明などの消費電力の少ない固体素子照明への置き換えが進んでいる。そのため、照明メーカー間で、国際的に熾烈な固体素子照明の研究開発競争が繰り広げられており、ユーザーに、各製品の性能を正しく知らせることが重要となっている。

 エネルギー効率や色は、照明製品の性能を示す指標で、これらは、分光測定により得られるスペクトルから評価される。しかし、固体素子照明は、前面にのみ光が放射されることや、多種多様なスペクトルで発光することなど、従来照明とは異なる特性を示すため、固体素子照明の分光測定に適した標準光源が存在せず、正確な測定が容易ではなかった。

 固体素子照明の分光測定に適した標準光源には、前面にのみ光を放射する特性に加えて、可視光の波長領域(380 nm~780 nm)全体で十分な光強度をもつ、という特性が求められる。前者の特性を満たすにはLED光源がふさわしいが、これまで開発されたLEDでは、もっとも優れた特性のものでも短波長側と長波長側の光強度が不十分であり、標準光源には適していなかった。

研究の経緯

 産総研は、照明の明るさの基準である全光束標準や分光測定技術の研究開発を行うとともに、固体素子照明の測定技術の研究開発に取り組み、これらを通じて、高精度なスペクトルの測定・解析技術を培ってきた。

 日亜化学工業は、世界的なLED開発・製造メーカーとして、品質・信頼性の高いLEDの開発を進めてきたが、これまで以上に高精度な測定・評価技術を求めていた。

 そこで、産総研と日亜化学工業は、固体素子照明の高精度な特性評価を実現するため、産総研がもつ「スペクトルを定量的に精密測定・解析する技術」と、日亜化学工業がもつ「高度なLED製造技術」とを組み合わせ、固体素子照明の分光測定に適用することのできる標準LEDを開発することとした。

研究の内容

 従来の白色LEDでは、420 nm~720 nmの波長領域以外では光強度が十分でなく(図1、青破線)、可視光全域で分光測定をするための標準には適していなかった。そこで、今回開発した標準LEDでは、中心波長が異なる複数のLED素子により、380 nm~430 nmの波長領域での光強度を改善するとともに、430 nmより長い波長領域では、青、緑、赤の蛍光を発する複数の蛍光体を組み合わせて光強度を改善した。これにより、標準LEDのスペクトルは380 nm~780 nmの波長領域に広がり、可視光のほぼすべての波長領域で十分な光強度を実現した(図1、赤線)。

 また、今回開発した標準LEDは、本体の直径が62 mm、発光部の直径が12 mmであり、発光部の温度を常に一定に保つための温度制御機構を実装している。この機構により、標準LEDの周囲温度に対する光強度の変動を0.01 % /℃以下に抑えることに成功した(図2、左)。これは、従来の白色LEDに比べ、約20倍の安定性である(従来の白色LEDの変動は約0.15~0.2 % /℃程度)。さらに、従来の白色LEDは点灯後の光強度が大きく変動するが、今回開発した標準LEDは、点灯後の光強度がほとんど変動しない(図2、右)。

今回開発した標準LEDのスペクトル(赤)と、従来の白色LEDのスペクトルの例(青)の図
図1 今回開発した標準LEDのスペクトル(赤)と、従来の白色LEDのスペクトルの例(青)

周囲温度の変化に対する各LEDの光強度の変動(左)と、点灯時間に対する光強度の変動(右)の図
図2 周囲温度の変化に対する各LEDの光強度の変動(左)と、点灯時間に対する光強度の変動(右)

今後の予定

 日亜化学工業は、今回開発した標準LEDの量産化に向けた準備を進める予定である。また、産総研では、今回の標準LED開発で用いたスペクトル精密測定技術をさらに発展させ、面発光光源や紫外光・赤外光領域における光源の評価技術の研究開発を行っていく予定である。



用語の説明

◆固体素子照明
LEDや有機EL等を利用した照明の総称。固体内のエネルギー準位の差を利用して、電気エネルギーを直接光に変換することで発光する。従来の白熱電球等に比べて消費電力が少なく、寿命が長いといった特徴をもつ。[参照元へ戻る]
◆全光束
光源からすべての方向に放射される光のエネルギーを、人の目の感度に従って波長ごとに重み付けし、すべての波長で足し合わせた量。明るさの指標の一つであり、単位はルーメン(記号:lm)。明るさに関するその他の指標には光度(単位はカンデラ、記号:cd)、照度(単位はルクス、記号:lx)などがある。[参照元へ戻る]
◆分光測定
光の波長ごとの強度を測ること。一般には、分光放射計などを用いて、測定対象である光を、各々の波長を中心とする十分に狭い波長区間ごとに分割し、その光の強度を測定して行われる。[参照元へ戻る]
◆標準光源
測定対象となる放射量や、測光量(放射量に人の目の感度で重み付けした量)の基準値をもった光源のこと。同じ測定条件で、標準光源と被測定光源の測定結果を比較することで、被測定光源の放射量・測光量を校正することができる。これまでは、標準光源として、特別な白熱電球が用いられていたが、近年では白熱電球の生産中止により、入手が困難になりつつある。[参照元へ戻る]
◆蛍光体
ある特定の波長の光を吸収し、それよりも長い波長の光で発光する物質のこと。白色LEDは、青色LED素子と、青色LED素子の光を吸収して黄色に発光する蛍光体で構成されているものが多く、LED素子の青色光と蛍光体の黄色光の混色により、人の目には白色に見える光が得られる。[参照元へ戻る]
◆スペクトル
ここでは、光の波長ごとの強度の分布を(分光)スペクトルという。多くの場合、光の波長を横軸に、光の波長ごとの強度を縦軸にとったグラフで示される。[参照元へ戻る]



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