発表・掲載日:2014/05/23

厚さ数ナノメートルの有機半導体材料の板状ナノ粒子を製造

-有機薄膜デバイスに使うナノ粒子をマイクロミキサーで連続製造-

ポイント

  • 厚さ数ナノメートルの非常に薄い板状の有機半導体材料のナノ粒子を製造
  • マイクロミキサーを用いた連続製造法により、量産化に対応可能
  • ナノ粒子の積層による有機ELや有機太陽電池の薄膜構造の制御・性能向上に期待


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 山口 智彦】ナノケミカルプロセスグループ 竹林 良浩 主任研究員、陶 究 主任研究員、依田 智 研究グループ長は、コニカミノルタ株式会社【代表執行役社長 山名 昌衛】(以下「コニカミノルタ」という)高 秀雄 研究員、池水 大 研究員と共同で、厚さ数ナノメートルの板状の有機半導体材料ナノ粒子を連続的に製造する方法を開発した。

 この技術はマイクロミキサーと呼ばれる細い混合流路を使って、有機半導体材料の溶液と、有機半導体材料が溶けない液体を急速に混合し、ナノメートルサイズの粒子を析出させるものである。これにより、厚さ数ナノメートルの有機半導体材料の板状ナノ粒子が連続的に得られる。このような薄い板状の有機半導体材料ナノ粒子からなる薄膜を積層することにより、柔軟で薄いディスプレーや照明、有機太陽電池など有機薄膜デバイスの高性能化への貢献が期待される。

 この技術の詳細は、2014年5月22~24日に京都大学 宇治キャンパスで開催されるナノ学会 第12回大会で発表される。

マイクロミキサーにより連続製造した板状の有機半導体材料ナノ粒子を含む分散液の図
マイクロミキサーにより連続製造した板状の有機半導体材料ナノ粒子を含む分散液
レーザー光が、分散液中のナノ粒子により散乱され、光路が見える。


開発の社会的背景

 近年、有機半導体材料からなる発光素子(有機EL)を用いたディスプレーや照明、有機太陽電池など、軽量でフレキシブルな有機薄膜デバイスが注目を集めている。これらのデバイスは、複数の種類の有機半導体薄膜を、機能に応じて積層して構成されており、その高性能化のために有機半導体材料をできるだけ薄く成膜し積層する技術が望まれている。

 また同時に、これらの有機薄膜デバイスを普及させるためには、低コストで大面積の有機半導体薄膜を積層する技術が求められている。従来、このような薄膜は、有機半導体材料を真空・高温で気化させて基材上に析出させる真空蒸着法や、溶媒に溶解した有機半導体材料を基材に塗布する溶液塗布法により製造されているが、前者は高真空や高温が必要なため高コストで大面積化が難しく、後者は重ね塗りの際に下層が溶解してしまうため積層が難しいといった問題を抱えている。これに対し、有機半導体材料をナノ粒子にし、それが分散した液を用いて成膜する手法が提案されているが、数十ナノメートルよりもサイズの小さなナノ粒子を量産することは困難であった。

研究の経緯

 これまで産総研では、マイクロミキサーや高圧流体を用いたナノ粒子製造技術の研究開発に取り組んできており、金属酸化物や有機顔料のナノ粒子を連続生産する技術を開発してきた。一方、コニカミノルタは、独自の有機EL製造技術を有し、その高性能化に向けた開発を進めてきた。

 両者は2013年6月から共同研究を行い、マイクロミキサーを用いた有機半導体材料の板状ナノ粒子の連続製造法の研究に取り組んできた。

研究の内容

 有機化合物をナノ粒子化する方法の一つに再沈法がある。これは、有機化合物の溶液とその有機化合物が溶けない液体(貧溶媒)を混合すると、混合した液体への有機化合物の溶解度が低下することを利用し、溶けきれなくなった有機化合物を固体ナノ粒子として析出させる方法である。今回開発した技術は、再沈法を利用したもので、マイクロミキサーとよばれる0.1~1 mm程度の内径をもつ流路を用いて、有機半導体材料の溶液と貧溶媒を高速かつ均一に混合させてナノ粒子を析出・製造する方法である。これによりナノ粒子が連続的に製造できる。図1に製造方法の概略図を示す。

今回開発した有機半導体材料の板状ナノ粒子の製造方法の図
図1 今回開発した有機半導体材料の板状ナノ粒子の製造方法
マイクロミキサーを使って有機半導体材料の溶液と貧溶媒を急速に混合すると、有機半導体材料のナノ粒子が析出した分散液が得られる。

 この手法により、有機ELに用いられる有機半導体材料であるN,N’-ビス(1-ナフチル)-N,N’-ビスフェニルベンジジン(NPB)をナノ粒子化した。図2に、NPBの溶液と、得られたナノ粒子の分散液の写真を示す。レーザー光を当てると、溶液の方は光が透過し光路がみえないが、分散液の方は光が散乱されて光路が見えることから、ナノ粒子が存在することが分かる。なお、混合後の溶媒へのNPBの溶解度はごく小さいため、NPBはほぼ全てナノ粒子化されている。また、ナノ粒子が薄い濃度であれば、界面活性剤などの分散剤を使用せずに数ヶ月間安定に分散させることができる。

有機半導体材料の溶液とナノ粒子分散液の写真
図2 有機半導体材料の(左)溶液と(右)ナノ粒子分散液の写真
レーザー光は溶液中を透過するが、分散液中ではナノ粒子により散乱される。

 このナノ粒子のサイズ(粒子径)の分布を、動的光散乱法(DLS)により測定した結果を、図3に示す。ナノ粒子の径が60ナノメートルを中心とした40~90ナノメートルに分布することが確認できる。

動的光散乱法(DLS)により測定された粒子径の分布図
図3 動的光散乱法(DLS)により測定された粒子径の分布
ナノ粒子の径が60ナノメートルを中心とした40~90ナノメートルに分布している。

 さらに、粒子の形状を調べるために、NBPナノ粒子の分散液を、マイカ(雲母)の基板上に滴下し乾燥させて、原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。図4に得られたナノ粒子のAFM像を示す。平面図を見ると直径が約60ナノメートルの円形であるのに対し、断面図を見ると厚さは2~3ナノメートルと非常に薄く、模式図に示した円板に近い形状であることが分かる。このように薄い形状になるのは、有機半導体材料であるNBP自身の結晶の成長速度が方向により大きく異なる(芳香環同士の相互作用により、分子同士が長軸を揃えて束になるように配列するため、束が太くなる方向に成長しやすく、それと直交する方向には成長しにくい)ためと考えられる。

動的光散乱法(DLS)により測定された粒子径の分布図
図4 今回開発した有機半導体材料のナノ粒子の原子間力顕微鏡像
直径が約60ナノメートル(左、平面図)であるのに対し、厚さは2~3ナノメートル(右上、断面図)と非常に薄い板状であることが分かった。右下は板状ナノ粒子の模式図。

 

今後の予定

 現在、得られた板状ナノ粒子の分散液を用いた成膜試験を進めている。今後は、より成膜に適したサイズの板状ナノ粒子や高濃度の分散液を得るためのナノ粒子化条件の最適化に取り組む。また、有機薄膜デバイスとしての性能評価を行い、5年以内の実用化に向けて開発を進める。



用語の説明

◆有機半導体材料
半導体の性質をもつ有機化合物のこと。多環芳香族や置換フラーレンなどの低分子系と、ポリチオフェンなどの高分子系の有機半導体材料がある。複数の有機半導体材料を薄い膜にして積み重ねることにより、有機ELや有機太陽電池などの有機薄膜デバイスを作ることができる。[参照元へ戻る]
◆ナノ粒子
1~数百ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の大きさをもつ粒子のこと。物質をナノ粒子のサイズにすると、一般的な大きさの固体の状態や、液体中に溶けた状態とは異なる特性をもつことが多く、その研究や利用が進められている。[参照元へ戻る]
◆マイクロミキサー
1 mm以下の内径をもつ流路に、複数の液体を送り込んで混合する装置のこと。マイクロミキサーを利用することにより、高速で液体同士を均一に混合できる。[参照元へ戻る]
◆再沈法
有機ナノ粒子を作る方法の一つ。まず、原料となる有機化合物を、それが良く溶ける液体に溶かした溶液を用意する。別に、有機化合物が溶けない液体(貧溶媒)をビーカーなどに用意してかき混ぜながら、さきほどの溶液を滴下すると、溶けきれなくなった有機化合物が析出し、有機ナノ粒子をつくることができる。[参照元へ戻る]
◆N,N’-ビス(1-ナフチル)-N,N’-ビスフェニルベンジジン(NPB)
有機ELの正孔輸送層として使用される有機半導体材料。[参照元へ戻る]
N,N’-ビス(1-ナフチル)-N,N’-ビスフェニルベンジジン(NPB)構造図
◆動的光散乱法(DLS)
ナノ粒子が分散している液にレーザー光を当て、ナノ粒子により散乱される光の強さの時間的な変化を測定することにより、ナノ粒子のサイズとその分布を測定する方法のこと。[参照元へ戻る]
◆マイカ(雲母)
鉱物の一種。層状構造をもち、層をめくる(へき開する)と非常に平滑な表面が得られることから、数ナノメートル程度の微細なナノ粒子の構造を観測する際の基板に適している。[参照元へ戻る]
◆原子間力顕微鏡(AFM)
微細な針でなぞることにより、試料表面の微細な凹凸形状を観察する装置のこと。[参照元へ戻る]


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