発表・掲載日:2013/09/09

鹿児島県徳之島西方海域に新たな火山活動域を発見

-ガス発泡を伴う活動的な熱水の噴出の確認に成功-

ポイント

  • 徳之島西方海域の海底火山に複数のプルームを伴う新たな火口状の地形を発見
  • 有索式無人潜水艇(ROV)による海底観察および試料採取を実施
  • 海域の濁りや海底面からのガスの発泡、熱水噴出を確認

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】海洋地質研究グループ 荒井 晃作 研究グループ長らは、平成25年7月20日~7月30日に海洋資源調査船「白嶺」(6283トン、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 所有)による鹿児島県徳之島周辺海域の海洋地質調査を実施し、徳之島西方海域において、これまで見つかっていなかった新たな海底火山活動域を発見した。

 徳之島西方海域におけるマルチナロービーム音響測深により、プルーム状の音響異常の存在する幅約500 mの火口状の地形を発見した。そこで、有索式無人潜水艇(ROV)によって船上からのリアルタイムの海底観察を実施し、海域の濁りや海底面からのガスの発泡、さらに活動的な熱水噴出を確認した。この海域は現在も活動的な火山島を含むトカラ列島の南西に位置しており、島々から続く活動的な火山活動の海域延長を確認したことになる。この発見は、トカラ列島の火山活動に関する成因解明の研究など、新たな科学的知見をもたらすものとして期待される。

 海底火山活動に伴う熱水活動では海底熱水鉱床を形成する可能性もあり、その存在を示唆する海域を今回新たに発見したことは、国の海洋資源開発計画の上でも重要であることから、今後、経済産業省や諸機関と連携して海洋資源の開発に向けた調査を進める。


熱水噴出口付近の海底映像の写真
熱水噴出口付近の海底映像
ROV搭載のハイビジョンカメラによって撮影された噴出口付近の様子。
硫化物を好む生物群集であるチューブワームシンカイヒバリガイ、硫化物と思われる白色の沈殿物が認められる。



研究の社会的背景

 我が国は海洋プレートの沈み込み帯上に位置しており、そのような地域に存在する火山の形成・噴火メカニズムや、海溝型地震の発生メカニズムなどの研究において、陸域だけでなく海域の科学的知見に基づく地質情報は、重要な知的基盤情報の一つである。加えて、日本の領海および排他的経済水域の管理・保全や開発に資する地質情報を整備することは、日本周辺の海洋の開発・利用という観点から重要な課題である。特に、将来の鉱物資源の供給源として期待される海底熱水鉱床については、商業化に向けて国を中心とした調査研究が進められている。広大な日本の領海および排他的経済水域において、熱水活動の可能性のある新たな海域の発見は持続的・安定的な鉱物資源の供給にむけた資源ポテンシャルの把握のために重要な知見となる。

研究の経緯

 産総研は経済産業省の知的基盤整備計画にのっとり、日本周辺海域の地質情報整備のため、海洋地質図の作成・出版を継続して行っている。平成18年には主要四島(北海道、本州、四国、九州)周辺の調査を完了し、平成20年度からは国土の基盤情報の未整備海域である沖縄周辺海域の海洋地質調査を開始している。得られたデータは活断層の評価や地殻変動の解析、海底資源開発や海底利用、海域の物質循環や環境研究の基礎データとしても使われている。沖縄周辺海域の海洋地質調査では、平成22、23年度に久米島西方海域において複数のカルデラ地形を伴う海底火山を確認し、平成24年の航海では新たな海底熱水活動を発見した(平成24年12月12日 産総研プレス発表)。しかし、この航海では船舶および搭載機器などの制約により、実際に熱水噴出そのものを観察することはできなかった。今回の海洋地質調査は、最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」およびその搭載観測機器を用いて、徳之島周辺海域の海洋地質情報を整備するために実施した。

海底火山活動発見場所の画像
海底火山活動発見場所
(左)マルチナロービーム測深機で捉えた火口状の地形
(右)海底火山活動発見場所の周辺地図(赤丸印が火山活動域)

研究の内容

 徳之島周辺海域で行った海洋地質調査では、マルチナロービーム測深機による広域で詳細な海底地形調査、海底面下の地質構造を音波によって調査する音波探査、地質構造を反映した岩石などの物質の違いを調べる重力・磁力などの物理探査に加えて、実際に海底を構成している岩石・堆積物の採取を実施した。マルチナロービーム測深機による地形調査において、徳之島西方海域に存在する海底火山に幅500 mの新たな火口状の地形を発見した。さらに、その内部ではマルチナロービーム測深機やサブボトムプロファイラーによりプルーム状の音響異常が確認された(図1)。


音響測深機で音響異常としてとらえた立ち上るプルームの画像
図1 音響測深機で音響異常としてとらえた立ち上るプルーム
画像は左から数秒間隔で発信したデータで、 海底面から海面に向かってのびる黄緑色の筋がそれぞれプルーム状の音響異常を表す。
色は音の反射強度を表し、赤いほど強く、青いほど弱い。

 音響異常のあった海域でROV搭載のハイビジョンカメラによるリアルタイム海底観察を行い、海域の濁りや海底面からのガスの発泡を確認、さらに熱水の噴出口を発見した。噴出口付近には硫化物を好むチューブワームやシンカイヒバリガイといった熱水口に特徴的な生物群集や、熱水口から噴出した硫化物と思われる白色の沈殿物が鮮明に確認された。これらのリアルタイム海底観察と同時に、ROV搭載のマニピュレーターを用いピンポイントでの岩石試料の採取も行った(図2)。また、ROVに取り付けた温度計でも海底面付近における水温上昇を確認した(図3)。


マニピュレーターによる岩石採取の画像
図2 マニピュレーターによる岩石採取
ハイビジョンカメラによる海底の目視観察を行い、ピンポイントで分析に用いる岩石試料の採取を行った。

マニピュレーターによる岩石採取の画像
図3 ROVに取り付けた温度計による海底面での温度異常
ROVはまず海底に着底し、海底面で観察と試料採取を行い、約2時間の観察終了後に離底した。
水温が急激に上昇しているところが熱水噴出孔付近に近づき作業していた時間である。

 今回のマルチナロービーム音響測深の結果、近傍の海底火山には複数の火口やカルデラ地形が確認されていることから、さらに多くの別の熱水活動域が存在する可能性が高い。現在、採取された資試料について以下の分析を進めている。

1)火山帯形成プロセス把握のための海底地形解析
2)海底面下の地質構造把握のための物理探査データの解析
3)資源ポテンシャル評価のための採取された岩石試料の鉱物・化学分析
4)地質構造発達史解明のための岩石試料の年代測定

今後の予定

 今後、採取した資試料の分析に加えて、海底火山周辺海域の詳細な海底地形調査と岩石採取作業を実施し、海底火山の地質学的な発達の仕組みを解明する。また、海底熱水活動に伴う鉱床の形成が期待されることから、平成25年8月2日付でJOGMECと設置した「資源探査タスクフォース」において、海底熱水活動の分布範囲の把握、活動様式、鉱床存在の可能性について検討する。



用語の説明

◆マルチナロービーム音響測深
調査船の船底から扇状に発信される多数の音響ビームが、海底面からの反射してくるのを受信して海底の細かい水深を広範囲で計測する。[参照元へ戻る]
◆プルーム
上下方向にできる流体の流れで、流体の底を持続的に加熱した場合などに生じる。熱水プルームは熱水の比重が周囲の海水と比べて小さいうちは上方に対流するとされる。ここでは、海底面から立ちのぼる音響異常を示している。[参照元へ戻る]
◆有索式無人潜水艇(ROV)
船上から遠隔操作して、海底面の観察や試料採取を行うことのできる無人の潜水艇。[参照元へ戻る]
◆トカラ列島
鹿児島の南、口之島から横当島につらなる約160 kmの列島。口之島、中之島、諏訪之瀬島には活火山が存在する。トカラ列島の南西の延長にある硫黄鳥島(沖縄県)も活火山である。[参照元へ戻る]
◆チューブワーム、シンカイヒバリガイ
熱水や冷湧水の噴出口付近に群生する生物。硫化水素やメタンなどを利用して栄養を得ているとされる。チューブワームは写真の白色の生管(管状)をつくってその中に棲む。シンカイヒバリガイは写真の茶色の貝。[参照元へ戻る]
◆サブボトムプロファイラー
調査船の船底から発信する音波を使って海底面や海底面下の地層からの反射波をとらえ、海底表層の地質構造を調べるための装置。もともとは海底面下の構造を調べるための装置であるが、海水中のデータも収録すれば、海水中の音響異常を調査することもできる。[参照元へ戻る]
◆マニピュレーター
有索式無人潜水艇の前方に取り付けられ、人間の腕と同じような機能を有する遠隔操作装置。映像を見ながら岩石などの試料を採取する。[参照元へ戻る]
◆資源探査タスクフォース
日本周辺海域に分布する海洋鉱物資源の権益を確実に保全するため、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と産総研が協同で有望海域を絞り込み探査候補地を特定するために設置したタスクフォース(平成25年8月7日 JOGMECニュース発表)。[参照元へ戻る]

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