発表・掲載日:2011/09/07

金めっき光沢ムラの小型検査装置

-光沢ムラを数値化し、良否を客観的基準に基づいて自動判別-

ポイント

  • 光沢ムラの原因となるめっき表面粗さの分布状況を偏光解析により画像化
  • 汎用画像特徴抽出法と統計的手法を組み合わせ、表面粗さの特徴量を抽出し光沢ムラを数値化
  • 外観検査の数値化・自動化、工程フィードバックによる製品の信頼性や生産性の向上に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)生産計測技術研究センター【研究センター長 坂本 満】 主幹研究員 兼 光計測ソリューションチーム 研究チーム長 野中 一洋、同チーム 坂井 一文 招聘研究員、蒲原 敏浩 産総研特別研究員は、住友電工プリントサーキット株式会社【代表取締役 西川 潤一郎】と連携して、光学的な手法により金めっき表面を測定して光沢ムラの数値化を行い、自動判別を可能とする汎用性に優れた小型検査装置を開発した。この装置はフレキシブルプリント回路基板(FPC)の金めっき外観検査などに使用できる。

 この装置では光沢ムラの原因となる金めっき表面の粗さ分布を偏光解析により画像化し、汎用画像特徴抽出法(HLAC)と統計的手法(多変量解析)を組み合わせた汎用画像認識法(産総研技術)で粗さ分布の特徴量を計算して、光沢ムラの状態を数値化する。本装置により、金めっき処理を施したFPCをはじめ、種々のプリント基板や、電子部品などの信頼性や生産性の向上への貢献が期待される。

 なお、本装置は、2011年9月7~9日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される分析展2011/科学機器展2011に出品される。

金めっき光沢ムラ検査装置の図
図1 金めっき光沢ムラ検査装置
光学的手法を用いてめっき表面を測定し光沢ムラの程度を数値化することで、製品の良否の自動判別が可能。

開発の社会的背景

 金めっきはプリント基板やコネクターなど多くの電子部材に使用されているが、金めっきのムラ、シミ、変色などの外観異常については、限度見本と見比べる目視によって検査が行われているのが現状である。このため、検査者ごとの検査結果のバラツキや製造者側とユーザー側の基準のずれなどが生じ、製品品質に関するトラブルや過度の不良品発生などを招いている。これらの問題を解消し、製品の信頼性を向上させるには、客観的な検査基準を整備する必要があった。また、不良品発生の低減と製品品質の安定化のためには、光沢ムラなど、外観異常の原因となる表面性状を数値化し、めっき工程へのフィードバック機能を強化することが求められていた。

研究の経緯

 産総研は、生産現場における計測課題から、基盤的かつ波及効果の大きい課題を抽出し、オンタイムでソリューションを提供することを目指しており、マイスター制度を活用した企業との連携研究によって新しい検査技術の開発、検査装置の試作、および検査法の標準化に取り組んできた。今回の技術は、さまざまな製造現場で実施されている官能検査と呼ばれる検査のうち、最も代表的な目視検査について、その自動化・数値化を行うとともに検査の基準作成を目指すものである。

 目視検査は人間の判断に頼る部分が大きく、熟練度の違いや疲れなどによる検査結果のバラツキが懸念されている。光沢ムラ検出も目視検査の中では、難しい検査であり自動化が望まれている。一般に金めっき表面の画像を直接画像処理してムラを検出する手法が行われているが、低コントラストのムラは、画像処理だけでは検出が難しい。今回、ムラの特徴量を引き出す光学系(“目の部分”)による測定と、測定結果から特徴量を計算する汎用画像特徴抽出法である高次局所自己相関HLAC(“頭脳部”)を用いて、ムラの分類と数値化を行った。

研究の内容

 今回の技術は、検査対象物の外観異常について原因となる物理量を決定し、その計測方法を考案し、汎用画像特徴抽出法と統計処理法の組み合わせによって数値化して、検査対象物の良否の判別を行うものである。

 光沢ムラの原因には有機物などの付着物もあるが、ほとんどの場合は表面の粗さの違いによる正反射・拡散反射光の違いが光沢ムラの原因であること、すなわち異常光沢部は正常光沢部に比べて表面粗さが小さく拡散光成分が小さいことを見出した。また表面粗さは、光の各偏光成分の反射にも影響を及ぼすことを明らかにした。図2に金の表面粗さと直線偏光(Is/Ip=1/1)の光を入射したときの拡散光の偏光成分比(Ψ=tan-1(Is/Ip))の関係を示す。この結果から拡散光の偏光成分比から表面粗さを求められることがわかった。

金めっきの表面粗さと拡散光の偏光成分比の関係の図
図2 金めっきの表面粗さと拡散光の偏光成分比の関係

金めっき光沢ムラ検査装置の構造概要図
図3 金めっき光沢ムラ検査装置の構造概要

 図3に試作した金めっき光沢ムラ検査装置の構造概要を示す。試料からの拡散光(散乱光)について、その偏光成分比(Is / Ip)の変化を測定するため、光源の出力変化や外乱光の影響などを受けにくくロバスト性に優れている。なお、装置構造は、図3に示すように極めて簡潔であり、低価格での製品化が期待できる。さらに、小型・軽量のため携帯性にも優れ、製造現場での使用に適している。

 図4にFPC金めっきパッドの光沢ムラ検査の概要と実施例を示す。FPCサンプルの金めっきパッド部について、各点の拡散光の偏光成分比から表面粗さ分布に対応した画像を取得し、これから産総研シーズ技術である汎用画像特徴抽出法HLACを利用して特徴量を計算し、5次元の特徴空間を構成した。その空間から判別分析を行うことによって、光沢ムラの程度を数値化し、良否判定のみならず3つのムラの種類(境界型、三日月型、斑点型)も識別できることを明らかにした。

FPC金めっきパッドの光沢ムラ検査の概要と実施例の図
図4 FPC金めっきパッドの光沢ムラ検査の概要と実施例

今後の予定

 今後は現場適応性の検証を経て装置の製品化を進めるとともに、検査法の規格化・標準化に向けた取り組みを行っていく予定である。


用語の説明

◆フレキシブルプリント回路基板(Flexible Print Circuit;FPC)
FPCは、ポリイミドなど絶縁性を持つ柔軟なフィルム上に銅箔で電気回路を形成した配線材料で、高屈曲性・配線省力化・小型軽量化といった特長を持ち、携帯電話やタブレット端末、ハードディスクドライブ、ビデオカメラなど、多くの電子・情報機器製品に使用されている。電気的接点部分には、金めっきが施されているものが多い。[参照元へ戻る]
◆偏光
偏光とは光が持つ成分である電場および磁場が特定の方向にのみ振動する光のことである。今回はP偏光とS偏光を用いたが、入射面を入射光と反射光を含む平面として定義して、この平面に沿った偏光ベクトルを持つ光はP偏光と呼ばれ、この平面に対して垂直に偏光が立っている光はS偏光と呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆マイスター制度
マイスター制度とは、企業の生産現場のニーズ、課題を踏まえ、現場に精通した技術者(マイスター)と連携して、計測技術の研究開発、データベースの整備などにより、個別、共通の課題解決を進める制度。現在、産総研では、半導体およびプリント基板製造の国内大手2社とマイスター型連携研究に取り組んでいる。 [参照元へ戻る]
マイスター制度説明図
◆高次局所自己相関(Higher-order Local Auto Correlation;HLAC)
産総研の大津 展之 フェローによって開発された画像認識のための特徴抽出法である。汎用的な画像認識の方法で、図形や顔の認識のほか、最近では産業現場で発生する異常音検出や、病理組織画像から癌の識別などにも広くその適用が進められている。25種類(白黒二値画像)、または35種類(濃淡画像)のパターンの組み合わせで、画像に映る対象の形の特徴を表現する。認識対象の切り出し(位置あわせ)を必要としないなど、画像認識に好ましい性質を持つ。[参照元へ戻る]
◆正反射、拡散反射
正反射は鏡面反射とも呼ばれ、鏡などによる完全な光の反射であり、一方向からの光が別の一方向に反射されることを意味している。このとき入射角と反射角の大きさは等しくなる。
一方、拡散反射とは、入射光がさまざまな方向に反射されることをいう。つやつやした表面では、正反射光が強く拡散光が弱くなる。ざらざらした表面では、正反射光が弱く拡散光が強くなる。[参照元へ戻る]
◆ロバスト性
ロバスト性とは、外乱の影響によって変化することを阻止する性質のことをいう。本装置の技術は、光源の出力変化や試料に対する入射角のずれが多少あっても、散乱光のS偏光成分、P偏光成分のおのおのがその変化の影響を同様に受けるため、偏光成分比としては比較的安定した測定結果を得ることができ、ロバスト性に優れている。[参照元へ戻る]
◆判別分析
判別分析は、対象となるデータがいずれの群に分類されるかを判別(判定・予測)するための基準(判別関数)を得るための手法である。本例のように、金めっきのパッドが良品・不良品の2つの群(または不良品を、さらに境界、三日月、斑点状と計4つの群)に分けられることが明らかな場合、その標準サンプルなどを分析し、HLACマスクの各特徴量を変量とした判別関数を得ておくことで、対象となる製品の金めっきがいずれの群に属するかを判別することができる。[参照元へ戻る]

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