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発表・掲載日:2011/09/05

高信頼性設計のためのFault Tree Analysis支援ソフトウエアを開発


概要

 自動車用変速機(AT/CVT)の専門メーカー ジヤトコ株式会社【社長 秦 孝之】(以下「ジヤトコ」)、国立大学法人 東京大学【総長 濱田 純一】(以下「東大」)、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」)は、産・学・官共同で、工業製品の高信頼性設計のためのFault Tree Analysis(FTA)支援ソフトウエアを開発した。

 FTAとは、製品の故障事象の要因を木構造へ展開して解析する手法であり、製品の品質や信頼性を向上させるための有効な手法として知られているが、その木構造の作成および編集に関わる作業負担が大きい。今回開発したソフトウエアは技術者の作業負担軽減と解析品質の向上を図るもので、高信頼性設計実現への貢献が期待される。

 なお、この技術の詳細は、2011年10月21~23日に山形大学で開催される日本機械学会 第21回 設計工学・システム部門講演会で発表される。


■ ポイント ■
・ 製品故障事象解析の品質向上と技術者の作業負担5割削減を同時に達成
・ 故障要因分析の妥当性を検証(間違い箇所の指摘・表示)する技術を開発
 (故障事象の物理量次元インデクシング技術を採用)
・ 製品設計の品質向上に貢献

FTA支援ソフトウエアの構想図
FTA支援ソフトウエアの構想

研究の詳細

1 開発の社会的背景

 二酸化炭素排出量の削減など環境への配慮や、より高度化する消費者の要求に応えるため、製造企業には次々と新技術を開発し、それらを迅速に工業製品に採り入れて行くことが求められている。また、BRICSを始めとする新興国の国際市場における台頭を背景として、より一層のコスト競争力の強化、すなわち原価低減と効率化が必要とされている。一方、安全や品質に対する社会的な関心と要請は年々高まる傾向にあり、新技術の開発と導入、コスト競争力の強化とともに、品質・安全を保証することが重要課題として挙げられる。


2 研究の経緯

 ジヤトコは、製品品質を保証するためにFault Tree Analysis(FTA)手法を採り入れ、技術者がFault Tree diagram(FT図)を作成することによって、製品設計の段階における故障要因解析および製品不具合の要因解析を行ってきた。

 FT図の作成は幅広い知識や専門性が必要であるため、初心者には難しく、またベテラン技術者でも過去の経験に思考が引きずられるため、FT図の漏れや抜けが生じるという問題があった。ジヤトコでは技術者の多大な作業工数と期間をかけて、実務のFT図を作成していたため、FT図の作成効率と解析の品質との両立が大きな課題となっていた。

 東大は、物理現象に関する知識記述を、SI単位系の7つの基本単位(長さ[m]、質量[kg]、時間[s]、電流[A]、熱力学温度[K]、物質量[mol]、光度[cd])のべき数からなる7次元ベクトルで索引付けする知識マネジメント技術「物理量次元インデクシング」の研究を行っている。また、産総研は、ソフトウエア開発基盤「MZ Platform」の開発と普及活動によって、製造現場における業務分析とITシステムの構築および運用に関わる経験と知見を有している。

 今回、ジヤトコは、東大および産総研とそれぞれ共同研究契約を締結し、技術者の作業負担軽減と解析品質の向上を両立させるFTA支援ソフトウエアを開発した。


3 研究の内容

 FTAは、故障事象をその要因となる子事象に逐次、木構造へ展開していくことで故障要因を解析する手法である。したがって、子事象を適切に特定することがFTAでは最も重要な作業であり、その検証に東大の物理量次元インデクシング技術を採用した。この技術では、すべての故障事象を基本単位の7次元ベクトルからなる物理量と、その正常値に対する大小関係の組み合わせとして表現する。例えば、「応力が大きい」という故障事象は”[N/m2]+”と表される。この表現に基づいて、故障事象の物理量が、子事象の物理量の乗除・べき乗算、あるいは加減算として構成できるかどうかを判定して、展開された子事象の適合性を検証できる(図1)。

物理量次元インデクシングによる故障事象展開の適合性検証の図
図1 物理量次元インデクシングによる故障事象展開の適合性検証

 技術者に対する入力サポートのため、「応力」のような技術用語を”N/m2”といった単位へ変換するための辞書機能や、教科書、参考書の公式の展開パターン事例と企業内で過去に作成したFTAの展開パターン事例からの検索機能も充実させた。さらに、展開の検証ができたFT図は、過去作成したFTAのデータベースに順次登録ができ、企業における技術の蓄積とその有効活用ができるソフトウエアとした。

 ソフトウエアの開発には、産総研のMZ Platformを利用した。現場の技術者への聞き取り調査やFTA活動の目的などに基づき、作業負担を軽減することとこれまでに作成したFT図を利活用できることを必須条件とし、操作性を重視して開発を行った。図2に開発したソフトウエアを示す。

FTA支援ソフトウエアの図
図2 FTA支援ソフトウエア

 ジヤトコでのFTA支援ソフトウエアの試行の結果、従来の手作業と比較して、子事象の適合性を自動的に検証することでFT図の漏れや抜けを直ちに発見できるようになったことや、FT図の木構造を簡単に編集できるようになったことにより、技術者の作業工数は5割削減することが確認できた。また、教科書等の公式の展開パターン事例と企業内で過去に作成したFTAの展開パターン事例を参照することでFTAが正しく展開でき、作業工数削減とともに解析品質も向上するという結果が得られた。


4 今後の予定

 今後は、ジヤトコ関連の自動車部品メーカーに対してFTA支援ソフトウエアをトライアル配布し、その機能および品質向上活動に対する効果を評価・検証する予定である。なお、現時点では、本ソフトウエアの販売は計画していない。


用語解説

Fault Tree Analysis(FTA)
1960年代に米国のベル研究所にて開発され、故障事象を木構造(木のような形をしたデータ構造)に展開したFault Tree diagram(FT)図を用いて要因分析を行う故障解析の手法である。日本では、FTAは故障の木解析としてJIS規格にもなっており、企業では不具合解析として要因分析を目的に広く使われている。また、FTAは設計段階での設計検討手法、および知識マネジメントとしての設計知識蓄積にも有効であり、重要な品質ツールである。[参照元へ戻る]
◆べき数
べき乗を表す数。例えば力[N]は[kg m/s2]と定義されるので、長さ[m]、質量[kg]、時間[s]のべき数はそれぞれ1、1、-2となる。[参照元へ戻る]
◆物理量次元インデクシング
物理量には必ず単位があり、SI単位を用いると7つの基本単位のべき数で表すことができる。物理現象に関する記述を物理量の単位で索引付けすると、整理や検索にSI単位系の有する網羅性、客観性、普遍性が導入され、設計の知識マネジメントとして応用が可能である。これを物理量次元インデクシングという。[参照元へ戻る]
MZ Platform
製造業のIT化推進を目的として産総研が開発したソフトウエア開発実行ツール。コンポーネントと呼ばれるソフトウエア部品を組み合わせることにより、プログラムを書くことなく、従来よりも容易にITシステムの構築と運用を行えるのが特徴である。現在、産総研コンソーシアム「MZプラットフォーム研究会」を通じて一般に公開されている。(参考URL[参照元へ戻る]


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