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発表・掲載日:2010/11/24

新たな原理による有機太陽電池の動作を実証

-波長1 μm以上の近赤外光での光電変換を確認-

ポイント

  • 異なる有機分子間の電荷移動に伴う光吸収を利用した新しいタイプの有機光起電力素子
  • 励起状態の長寿命化も実現し、これによる高効率化も期待
  • 軽量で低コストの有機太陽電池の研究開発に拍車


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)光技術研究部門【研究部門長 渡辺 正信】強相関フォトエレクトロニクスグループ 長谷川 達生 研究グループ長、堤 潤也 研究員らは、異なる有機分子間の電荷移動に伴う光吸収を利用した、新しいタイプの有機光起電力素子(有機太陽電池)の動作実証に成功した。

 有機太陽電池は、軽量で折り曲げが可能な太陽電池シートを製造する新技術として期待され、現在、世界中で盛んに研究開発が行われている。今回、2種の有機分子からなる分子化合物を用いた光起電力素子を試作し、従来の有機太陽電池では困難だった波長1 µm以上の近赤外光による光電変換を確認した。さらにこの素子では励起子や電荷キャリアの寿命と拡散長が、従来の有機太陽電池と比べて3桁程度長くなっていた。これによって光エネルギーをより有効に電気エネルギーに変換できることになる。

 この開発によって、これまで有機太陽電池を高効率化する上で大きな課題とされてきた近赤外光の利用が可能になるため、有機太陽電池を高効率化するための新原理として期待される。詳細は米国物理学会誌Physical Review Letters 2010年11月26日号に掲載され、オンライン版では11月24日(米国東部時間)に公開される。

分子間電荷移動励起による近赤外光の光電変換の図
図1 分子間電荷移動励起による近赤外光の光電変換


開発の社会的背景

 現在主流である結晶シリコン系太陽電池と異なり、有機太陽電池は軽量で折り曲げが可能な太陽電池シートを製造できることから、世界中で研究開発が行われている。特に非高温・非真空下で製造できるため大面積化や低コスト化にきわめて有利であり、低炭素社会に向けたグリーンイノベーションの実現のためのキーテクノロジーとして大きく注目されている。

 しかし、有機太陽電池の変換効率は、ここ数年で7 - 8 %にまで改善されているものの、実用化にはさらなる高効率化が必要とされている。高効率化を妨げている要因には、(1)利用できる光が可視光領域(波長 < 800 nm)に限られ、太陽光エネルギーの約4割を占める近赤外光の利用が困難なこと、(2)光励起状態が著しく短寿命で、電気エネルギーに変換される前にエネルギーの大半が失われることなどがある。通常、有機半導体では光吸収によって生じる励起子の広がりが分子の内部に限られていることがこれらの問題の主な原因であり、現状の仕組みでは根本的な解決は難しいと考えられてきた。

研究の経緯

 産総研では、これまでに異なる分子間の電荷移動に伴う光吸収(分子間電荷移動励起)を光電変換に利用する革新的な有機太陽電池の開発に取り組んできた。分子間電荷移動吸収を利用すると、分子の組み合わせによって吸収する光の波長領域を広げることができ、従来の有機材料では不可能であった近赤外光の利用が可能になると期待される。そこで、異なる分子を組み合わせた有機分子化合物半導体に、電子と正孔をそれぞれ高効率に取り出せる導電性有機材料の電極をつけて有機光起電力素子を試作し、動作を確認することとした。

 なおこの研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構による「革新的太陽光発電技術研究開発」(平成20年度-平成22年度)の委託により行った。

研究の内容

 今回用いた有機分子化合物半導体は、電子を放出しやすいドナー性分子(DBTTF)と電子を受け取りやすいアクセプター性分子(TCNQ)が交互に積み重なった結晶構造を持つ。この材料は近赤外領域に強い光吸収を示し、従来の有機半導体と比べ2分の1から3分の1の光子エネルギー(波長にして2倍から3倍)で電子を励起できる(図2)。

単一成分有機半導体と有機分子化合物半導体の光吸収スペクトルの図
図2 単一成分有機半導体と有機分子化合物半導体の光吸収スペクトル

 この有機化合物半導体の単結晶に、電子を高効率に引き出せる電極を陰極に、正孔を高効率に引き出せる電極を陽極にした光起電力素子(MIM型ダイオード)を作製した。得られた素子は顕著な整流性を示し、近赤外領域に至る広い波長範囲で光起電力効果を示すこと、すなわち光電変換が確認された。

 さらに、光励起によって生じた励起子が周囲に拡散し、電子と正孔に分離していく様子を観測するため、回折限界まで集光したレーザー光を用いたレーザー光誘起電流測定(LBIC測定:Laser Beam Induced Currentを行った。その結果、上記の拡散長は20 µmに達しており、有機太陽電池で標準的に用いられるフラーレンと比べ1,000倍以上長いことがわかった(図3)。さらに拡散長が励起波長とともに変化する様子から、分子間電荷移動吸収によって生成した励起子は、光励起直後に電子と正孔に分離しており、これが20 µmもの拡散長の原因になっていることがわかった(図4)。これにより電子と正孔が再結合するまでの寿命が著しく長くなるため、有機太陽電池の高効率化に有利である。

光励起によって生じた励起子が周囲に拡散し電子と正孔に分離していく様子の図
図3 光励起によって生じた励起子が周囲に拡散し電子と正孔に分離していく様子
(分子間電荷移動吸収と分子内吸収)

拡散長の励起波長依存性の図
図4 拡散長の励起波長依存性

今後の予定

 今後は、素子の薄膜化と多層化を進めることで分子間電荷移動吸収を活用した高効率の太陽電池の開発に取り組む。



用語の説明

◆有機光起電力素子(有機太陽電池)
有機半導体を光吸収層に用いた太陽電池。軽量で折り曲げが可能な太陽電池シートを製造できること、非真空下でデバイスが製造でき大面積化や低コスト化に有利なことなどから、今後の研究開発が期待されている。[参照元へ戻る]
◆拡散長
何らかの粒子がその寿命の間に広がることのできる距離。この場合は、光励起により生成した励起子が失活するまでに広がることのできる距離で、通常の有機半導体では数ナノメートルといわれている。[参照元へ戻る]
◆分子間電荷移動励起
分子間の電荷移動に伴う光励起状態。ドナー性とアクセプター性の2種の有機分子を組み合わせた分子化合物では、近赤外領域に非常に強い光吸収(電荷移動吸収帯と呼ばれる)が観測されることが知られている。[参照元へ戻る]
◆有機分子化合物半導体
通常の有機半導体はπ電子を持つ1種類の有機分子で形成されるが、異なる2種類の有機分子が集まって形成されたものを有機分子化合物半導体、特に、ドナー性とアクセプター性の2種の有機分子が強く相互作用したものは電荷移動錯体などともいう。[参照元へ戻る]
◆導電性有機材料
ドナー性とアクセプター性をもつ分子などの組み合わせからなる有機材料では、高い導電性と金属的な導電性を示す材料が得られる。これらを導電性有機材料という。[参照元へ戻る]
◆DBTTF
Dibenzotetrathiafulvalene。電子を放出し易い(ドナー性の)π共役系有機化合物の1種で、単一成分の有機半導体や、アクセプター性分子との組み合わせにより、有機分子化合物半導体、導電性有機材料を与える。[参照元へ戻る]
◆TCNQ
Tetracyanoquinodimethane。電子を受け取り易い(アクセプター性の)π共役系有機化合物の1種で、単一成分の有機半導体や、ドナー性分子との組み合わせにより、有機分子化合物半導体、導電性有機材料を与える。[参照元へ戻る]
◆光子エネルギー
光の量子一個が持つエネルギーで、エネルギーEと光の波長λの関係はE = hc/λで表される。hはプランク定数、cは光速。光吸収によって電子が励起されるとき、光子エネルギーの大きさだけ電子のエネルギーが増すので、半導体の光吸収を議論するとき多く用いられる。[参照元へ戻る]
◆MIM型ダイオード
太陽電池の基本的なデバイス構造の一種で、金属(Metal)-絶縁体(Insulator)-金属(Metal)のサンドイッチ構造からなる二端子素子。[参照元へ戻る]
◆レーザー光誘起電流測定(LBIC測定:Laser Beam Induced Current
レーザー光によって有機半導体層を励起し、光起電力素子における短絡電流を測定する方法。積層型素子では、欠陥等のマッピングによく用いられる。[参照元へ戻る]
◆フラーレン
C60などの球殻状の炭素分子の総称で、有機太陽電池の主要な構成要素の一つとして知られる。[参照元へ戻る]

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