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発表・掲載日:2009/09/30

土壌・地下水汚染のリスクを評価するシステム「GERAS-3」を公開

-企業や自治体での自主的な環境リスク管理を期待し、無償で配布-

ポイント

  • 土壌・地下水汚染など環境リスクの時間的、空間的な分布を詳細に表示
  • 鉱物油、揮発性有機化合物、重金属等の複合的な土壌・地下水汚染のリスク評価が可能
  • 汚染物質除去後のリスクの低減効果をも定量的に評価するわが国初の地圏環境リスク評価システム

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 矢野 雄策】駒井 武 副研究部門長(兼)地圏環境リスク研究グループ 研究グループ長および同研究グループ 坂本 靖英 研究員、川辺 能成 主任研究員は、近年大きな社会問題となっている、土壌・地下水の複合汚染による環境リスクや健康リスクを時間的・空間的に詳細に評価できる「地圏環境リスク評価システム(GERAS:Geo-environmental Risk Assessment System)の詳細モデル「GERAS-3」を完成させ、2009年9月30日から企業や自治体等に向け無償で配布する。

 今回完成したGERAS-3は、土壌汚染等の環境リスク管理を企業や自治体が自主的に行う場合、鉱物油、揮発性有機化合物、重金属等の複合的な影響をはじめ、農薬や難分解性化学物質のような未規制対象物質のリスク評価、土壌汚染対策のリスク低減効果の把握、リスクの時間的・空間的な分布を評価できるなど、次世代型のリスク管理ツールとしての活用が期待される。

 なお、GERAS-3は、2009年10月15日~16日に産総研つくばセンターで開催される産総研オープンラボに出展し、デモおよび使用説明を行う予定である。

複合的な土壌・地下水汚染を対象とした詳細なリスク評価の図
図1 複合的な土壌・地下水汚染を対象とした詳細なリスク評価

開発の社会的背景

 近年、鉱物油、揮発性有機化合物、重金属等による複合的な土壌汚染が顕在化している。産業活動においては常に環境リスクを伴うため、汚染を最小限にとどめるための土壌汚染対策と、事業所や市街地における土壌・地下水汚染のもたらすリスクを適切に管理することが求められる。また、2010年4月には、改正土壌汚染対策法が施行され、用地のリスク管理が一段と強化される見込みである。このため、汚染現場の調査・観測によって取得したデータを用いて汚染状態の程度、規模、広がりなどの科学的な評価を行い、リスクの時間的・空間的な分布を定量的に把握することが必要である。しかし、これまでわが国においては、土壌・地下水汚染の人への健康リスクを評価する標準的なツールがなく、土壌・地下水汚染のリスク管理を実施するための技術基盤が十分ではなかった。

研究の経緯

 このような社会状況やリスク評価の重要性から、産総研は、2006年11月に土壌・地下水汚染問題を科学的に評価するための地圏環境リスク評価システム(GERAS)を開発し、“スクリーニングモデルGERAS-1”と“サイトモデルGERAS-2”を公開した。これらは、土壌汚染による健康リスクをはじめ、生態系への環境影響や汚染浄化の効果などの評価にも適用でき、すでに800を超える工場や事業所等で利用されている。

 今回、新たに鉱物油、揮発性有機化合物、重金属等による複合的な土壌・地下水汚染にも対応できる“詳細型モデルGERAS-3”を完成し、公開することとした。

研究の内容

 GERASは、土壌や地下水を汚染している化学物質の、人の暴露量や人に及ぼすリスクを算出できる評価システムであり、Windows2000以降のOS環境下で作動し、容易に使用できる。“詳細型モデルGERAS-3”では、土壌層から地下水層に至る汚染物質の移動現象を数値モデル化するとともに、揮発・拡散、地下水への溶解、さらには土壌への吸着など、汚染物質自体の組成変化をも考慮した流動解析に基づき、複合成分の汚染リスクの時間的・空間的な変化を定量化できる。

 一方、汚染物質の土壌への吸着や微生物による分解なども考慮に入れられるよう工夫した。わが国における特有の土壌特性(土質、吸着性、浸透性、粘土成分等)や人への暴露条件などを反映させ、汚染現場の内部あるいは外部にいる人の暴露量とリスクを算定することを可能にした。さらに、わが国の土壌・地下水の特性、汚染物質の物性や毒性などのデータベースを整備することにより、利用者に使いやすく、かつ親しみやすいコンピューターシステムとして完成させた。

 これらの研究に基づいて、複合的な土壌・地下水汚染にかかわる暴露評価とリスク評価の方法論を確立するとともに、専門家の評価を通じて詳細型モデルで使用する計算式の妥当性を確認している。

 すでに公開済のGERAS-1では、人への健康リスクの有無から土壌汚染対策の必要性を明らかにすることができ、GERAS-2ではサイト特有の、汚染物質の挙動の把握が可能である。これらの2種類のモデルと、今回公開する“詳細型モデルGERAS-3”とを対象汚染現場の汚染状況や用途に応じて使い分けることで、工場や事業所などの自主的な環境リスク管理、鉱物油、揮発性有機化合物、重金属等の、あるいは未規制対象物質である農薬や難分解性化学物質等のリスク評価、土壌・地下水汚染対策のリスク低減効果の把握によって有効な対策を選択するなど、幅広い用途への利用が期待される。

 今回開発したGERAS-3は、以下のような多くの特長を有している。まず、対象サイトの地質調査で取得した土壌および地下水などのデータを入力することにより、さまざまな汚染物質の土壌および地下水中における時間的、空間的な分布をはじめ、汚染の広がりなどの将来予測が可能である。そのため、土壌汚染の事後の浄化対策のみならず、未然防止対策の策定にも活用できる。最適な浄化技術の選定のためにGERAS-3は強力なツールであり、対策費用の削減とリスクの低減を同時に達成できるなどの特長がある。さらに、解析結果は実際の観測結果との比較・検討が行われ、詳細型モデルの有効性も実証されている。GERAS-3はCD-ROMの形で、下記の産総研ウェブサイトを通じた申し込みにより無償で配布される。

 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門HP http://unit.aist.go.jp/georesenv/

地圏環境リスク評価システム(GERAS)の概要
地圏環境リスク評価システムの構成と解析結果の図
図2 地圏環境リスク評価システムの構成と解析結果

今後の予定

 今後、配布先よりGERAS-3を活用した評価データをフィードバックしていただき、システムに反映させ、土壌・地下水環境中にある汚染物質の挙動把握の高精度化を図る。また、事業所等における土壌汚染対策による自主的な環境リスク管理を目的として、産業や社会への技術移転・普及を推進することとしている。


用語の説明

◆複合汚染
鉛、ヒ素などの重金属、ベンゼン、有機溶剤のような揮発性有機化合物、およびガソリン、軽油や灯油のような鉱物油に起因する複合的な環境汚染のことで、単独の土壌汚染とくらべて健康リスクが大きいとされる。[参照元へ戻る]
◆土壌汚染
工場などの事業所で揮発性有機化合物や重金属等の不適切な取り扱いによる漏出や、これらの物質を含んだ排水が地下に浸透することで、周辺環境や人への直接・間接の影響を及ぼすおそれのある土壌の汚染のこと。[参照元へ戻る]
◆リスク管理
リスク評価の考え方に基づいて、想定されるさまざまなリスクを緩和・低減する一連のプロセスである。土壌汚染問題の場合、汚染状況の把握、調査、監視、浄化などの対策を実行する上での枠組みのことをいう。[参照元へ戻る]
◆土壌・地下水汚染のリスク
土壌汚染による影響は、人の健康への影響や、農作物や植物の生育阻害、生態系への影響などが挙げられる。人の健康への影響は、汚染された土壌に直接触れたり、口にしたりする直接摂取によるリスクと、汚染土壌から溶出した有害物質で汚染された地下水を飲用するなどの間接的なリスクがある。[参照元へ戻る]
◆暴露評価とリスク評価
人への健康影響をはかる方法のひとつに暴露の評価がある。暴露量とは、人が環境を経由して摂取する化学物質の量である。暴露評価は暴露量をさまざまな条件で算定する方法論である。リスク評価では、有害化学物質による健康影響の発生確率と影響度(毒性値)の関連で算定することができる。[参照元へ戻る]

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