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発表・掲載日:2008/09/18

シアン化合物を使わない無電解金メッキ法を開発

-様々なプラスチックへ密着性の高い金被膜を形成可能-

ポイント

  • 毒物のシアン化合物を使わず、安全で環境にやさしい金メッキ法
  • 絶縁体であるプラスチックに常温で金メッキが可能
  • 基材への煩雑な前処理をすることなく高い密着性を実現

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 南 信次】ナノ科学計測グループ【研究グループ長 村上 純一】堀内 伸 主任研究員、中尾 幸道 元主任研究員は、毒性の強いシアン化合物を用いず、様々なプラスチック基材との密着性の良い無電解金メッキが可能な方法の開発に成功した。

 無電解メッキは、プラスチック等の絶縁材料や複雑な形状の部品へ金属メッキを施す方法として、電子部品(プリント配線板など)や自動車部品(ホイルキャップ、ハンドルなど)、事務用品等に採用されており、産業にとって不可欠な技術となっている。特に金メッキは、電気伝導性、低接触抵抗、耐食性、ハンダ付け性、耐摩耗性、光反射性に優れるため、信頼性の高い被膜として利用されている。しかしながら、従来の無電解金メッキは、青酸カリに代表されるシアン化合物を使用するため、毒物の管理、環境への負荷等の問題がある。さらに、基材への密着性向上のために煩雑な前処理が必要であり、工程の複雑さが問題となっている。

 今回、シアン化合物を使わない新しい無電解金メッキ反応を見出し、さらに、独自に開発した白金コロイドを無電解メッキ反応の触媒として使用することにより、常温において短時間でメッキ反応が進行し、高い密着性を与える無電解金メッキ法を開発した。

 本開発の詳細は、2008年9月26日に大阪私立大学で開催される第57回高分子討論会で発表予定である。また、2008年10月20、21日に産総研つくばセンターで開催する「産総研オープンラボ」で公開する予定である(「金属コロイドの応用技術」として研究室公開予定)。

無電解金メッキを施したポリエステル布およびポリイミドフィルムの写真

無電解金メッキを施したポリエステル布(左)およびポリイミドフィルム(右)


開発の社会的背景

 無電解メッキは、絶縁材料や複雑な形状の部品へ金属メッキを施す化学的な成膜プロセスであり、特に金メッキは、多くの優れた性質をもつため、信頼性の高い被膜として利用されている。

 これまで、金の無電解メッキには原料として非常に毒性の強いシアン化金が用いられ、作業環境に対する悪影響や排水処理の困難が懸念されていた。また、無電解メッキには、メッキ後のメッキ被膜の密着性を得るための表面処理工程が必要で、プラズマ処理など高度な真空装置を用いた物理的な表面処理方法や危険度の高い酸化剤を使う化学処理方法がとられてきた。さらに、触媒となるパラジウムなどを基材の表面に固定化するための煩雑な処理が不可欠であった。

研究の経緯

 産総研ナノテクノロジー研究部門ナノ科学計測グループでは、これまで、電子顕微鏡や各種の表面分光法を駆使し、様々な金属ナノ粒子とポリマーの相互作用について検討してきており、多くの知見を蓄積している。このなかで貴金属ナノ粒子をポリマー表面に固定化する手法を見出し、今回の無電解金メッキへの技術応用に発展した。

研究の内容

 無電解メッキは、プラスチックやセラミック等の絶縁材料の表面にあらかじめ触媒を固定化し、溶液中の金属イオンを化学的に還元することにより、金属被膜を形成する。今回、無電解メッキの触媒として、粒径数nm(ナノメートル)の白金ナノ粒子が水中に分散した白金コロイド(写真1)を用いた。この白金コロイドでは、ポリマーで被覆された直径約3nmの均一なサイズの白金ナノ粒子が水中で安定に分散している。これにプラスチックなどの基材を浸漬すると、白金ナノ粒子が基材表面に均一に固定化される(写真2a参照)。白金ナノ粒子を表面に固定化した基材を、医薬品にも用いられる低濃度の過酸化水素と塩化金酸の混合水溶液に浸漬すると、白金ナノ粒子の触媒作用により、過酸化水素水が塩化金酸を還元することを見出し、シアン化合物を用いない安全で簡便な無電解金メッキ法を開発した。写真2bに示すように、過酸化水素水が金イオンを還元して、固定化された白金ナノ粒子上に金微粒子が析出し、時間とともに金微粒子の数が増え被膜が形成されていく。次の化学反応式のように金イオンの還元反応が、基材に固定化した白金ナノ粒子の触媒作用により進行すると考えられる。

 金イオンの還元反応の化学反応式

 今回用いた白金ナノ粒子は極めて高い触媒活性をもつため、常温でも金メッキは進み、数分で完了する。また、メッキ後に100~250℃(基材の特性により温度は異なる)で約30分加熱すると、メッキ被膜の密着性が強固になることを見出した。すなわち、この加熱処理を行うと、JIS K5600-5-6に準じたテープ剥離試験によってもメッキ膜の剥離が全く起こらない金メッキ被膜が形成される。この無電解金メッキプロセスによれば、特殊な薬品や装置を使うことなく、様々なプラスチックに強固な金メッキを安全に施すことができる(写真3参照)。ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネートなどのプラスチックについて密着性の良好な金メッキ被膜を得ることを確認している。さらに、ゴム、セラミック、ガラス、炭素材料にも応用が可能である。

白金コロイドの外観写真

写真1 白金コロイドの外観


カーボン薄膜上に固定化した白金ナノ粒子および固定化された白金ナノ粒子を触媒とする無電解メッキの開始10秒後に形成した金微粒子の写真

写真2 (a)カーボン薄膜上に固定化した白金ナノ粒子および(b)固定化された白金ナノ粒子を触媒とする無電解メッキの開始10秒後に形成した金微粒子。


ポリエステル布およびポリイミドフィルムでの無電解金メッキ前後での色調変化の写真

写真3 ポリエステル布(上段)およびポリイミドフィルム(下段)での無電解金メッキ前後での色調変化。サンプルサイズは5cm×5cmである。

今後の予定

 今回開発したシアンを用いない無電解金メッキ法は、毒物を使用せず、かつ、常温で行うことが可能であるため、環境への負荷が低い省エネルギープロセスである。高分子をはじめとする絶縁材料や複雑な形状の部品への密着性の良好な金メッキ被膜を作製することが可能であり、また、ポリエステルなどの繊維へ適用することにより、美しい金糸をつくることも可能である。様々な分野の企業との連携により、具体的な応用を探ってゆきたい。また、白金コロイドの触媒作用や密着性向上のメカニズムを解明し、他の金属の無電解メッキへの展開を図る予定である。


用語の説明

◆無電解メッキ
鉄などの金属のメッキは電気的な還元による電気メッキにより行われる。一方、プラスチック、セラミックなどの絶縁体では電気メッキが適用できないため、化学的な還元を利用した無電解メッキが行われている。無電解メッキ液はメッキ原料となる金属塩と還元剤で構成され、安定剤や緩衝剤が適宜加えられる。メッキの対象物(基材)の表面にあらかじめ触媒となる物質を付けておき、これを無電解メッキ液中に浸漬すると、触媒の付いている基材表面で優先的に金属が析出してメッキ被膜が形成される。金のほか、ニッケル、コバルト、銅など多くの無電解メッキプロセスが考案されている。[参照元へ戻る]
◆コロイド
ナノメートルオーダーの粒子が液体中(特に水中)に一様に分散した状態をコロイドといい、通常、水溶性ポリマーや界面活性剤が安定剤として加えられる。身の回りの例では、墨汁は炭素微粒子が水中に分散した炭素のコロイドである。金や白金をはじめ多くの貴金属コロイドが19世紀の昔から知られており、近年になって触媒や医療分野での利用が試みられている。[参照元へ戻る]

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