発表・掲載日:2007/12/13

携帯情報端末で動作する屋内測位システムを開発

-無線ビーコンと携帯情報端末だけで屋内の位置と移動軌跡を計測-


 JST(理事長 北澤宏一)と産総研(理事長 吉川弘之)は、携帯情報端末で動作し、屋内で使用可能な測位システム(人やモノの位置・移動軌跡を計測するシステム)注1)を開発しました。

 位置・移動軌跡を計測する方法としては、屋外の開けた空間では GPS (Global Positioning System) が利用されており、携帯電話での商用サービスとしても実用化されています。しかし、 GPS は人工衛星を利用しているため、屋内や高層ビルが林立する都市部では使用が困難です。

 今回開発した測位システムは、屋内に設置された無線ビーコン装置注2)からの信号を確率統計推論を用いて解析することにより、測位の精度の向上、ならびにビーコン信号の一時的な欠落や雑音に対する信頼性の向上を図っています。また、携帯電話に搭載されたMPU程度の情報処理能力で動作可能な測位エンジンを用いているため、サーバーとの通信なしで自律的に測位が可能で、通信の遅延の影響を受けない分だけ高速な測位が可能です。無線ビーコン信号としてVHF帯注3)の電波を使用するため、人が多く集まる混雑した環境でも性能の低下を抑えることができます。無線ビーコン装置は、乾電池でも動作可能な省エネルギー設計です。

 本システムは、横浜ランドマークプラザ(三菱地所株式会社、住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1)内に設置され、さまざまな種類の電波が飛び交う現実の商業施設での動作が確認されています。

 本技術は、携帯電話でも動作可能な屋内情報サービス向け基盤技術であり、応用例としては生活者や観光客向けのナビゲーションシステム(ショッピング・観光・避難誘導ナビゲーション)や、ビルなど建物の管理業務(作業員向けの作業指示システム)などが考えられます。

 本研究成果は、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「先進的統合センシング」研究領域(研究総括:板生清)における研究課題「安全と利便性を両立した空間見守りシステム」(研究代表者:車谷浩一産総研情報技術研究部門マルチエージェントグループ長)の一環として、車谷浩一らの研究チームが開発したものです。


研究の背景と経緯

 人やモノの位置と移動軌跡の情報は、さまざまな応用サービスを実現するための基本情報です。位置・移動軌跡を計測する方法としては、屋外の開けた空間では GPS (Global Positioning System)が利用されており、携帯電話での商用サービスとしても実用化されています。しかし、屋内や高層ビルが林立する都市部では GPS の利用は困難です。屋内での測位(位置・移動軌跡の計測)を、携帯電話などの情報装置で高速・安価に実行することができれば、さまざまな応用サービスが実現可能になります。

研究の内容

 本研究で実現したのは、屋内に設置した無線ビーコンと携帯情報端末だけを用いて、人やモノの屋内での位置・移動軌跡を計測できるような「屋内自律型測位システム」です。

 その動作原理は、屋内環境に設置された無線ビーコン装置からの信号を、携帯情報端末の上で確率統計的に解析するもので、サーバーとの通信なしで高速に動作するものです。無線ビーコン装置は、乾電池駆動も可能な省エネルギー設計となっています。本システムは、横浜ランドマークプラザ(三菱地所株式会社)において実稼働しており、実際に商業施設での動作が確認されています。

 本システムは、以下のような特徴を有しています。

  1. 確率統計推論を用いた測位エンジン
    複数の無線ビーコンの信号を確率統計推論によって処理し、屋内でのユーザーの位置と、時系列に沿った移動軌跡とを同時に推定する測位エンジンを使用しています。確率統計推論を用いることにより、測位の精度の向上、およびビーコン信号の一時的な欠落や雑音に対する信頼性の向上を図ることができます。
  2. 携帯電話で動作可能
    測位エンジンは、携帯電話に搭載されたMPU程度の情報処理能力で動作可能なため、サーバーとの通信なしに自律的に測位を実行できます注4)。また、通信の遅延の影響を受けない分だけ高速な測位が可能となります。
  3. 混雑した環境でも動作可能
    無線ビーコン信号としてVHF帯の電波を使用することにより、人が多く集まる混雑した環境でも性能の低下を抑えることができます。
  4. 低消費電力
    無線ビーコン信号は低電力の微弱無線を利用しており、無線ビーコン装置は乾電池でも動作可能な省エネルギーな設計となっています。

今後の展開

 今回開発した屋内自律型測位システムは、携帯電話などの身近な携帯情報端末装置の上で動作可能な基盤システムであり、数多くの応用の可能性があります。例えば、生活者や観光客向けの屋内自律型ナビゲーションシステムへの応用であり、ショッピングや観光の際のナビゲーションサービスや、緊急時・非常時に避難誘導を行うナビゲーションシステムへと展開できる可能性があります。また、ビルなどの建物の管理・サービス業務に応用することも可能です。想定される応用例は以下の通りです。

  • 生活者向け屋内ナビゲーションシステム
  • 観光案内ナビゲーションシステム
  • 避難誘導ナビゲーションシステム
  • ビル管理業務システム
  • ビルサービスシステム
  • ロボット誘導・管理システム

参考図

無線ビーコン装置の写真
図1:無線ビーコン装置(左:装置本体、右:設置した状態)

横浜ランドマークプラザ4Fにおける測位結果の例の画像

図2:横浜ランドマークプラザ4Fにおける測位結果の例(グラフィック表示)

 画面中央の赤丸がユーザー位置を表示したもの。例1→例2→例3と時間の経過とともにユーザーが移動しており、計測されたユーザーの位置情報が更新されている様子が分かる。
 画面上部に、横浜ランドマークプラザ4Fのフロワー全体図が表示されており、画面中央に、詳細図(4Fの東側部分)が表示されている。


用語の説明

注1)測位、測位エンジン
位置・移動軌跡を計測することを「測位」と呼ぶ。測位はセンサーから取り込んだ情報をさまざまな手法で解析して実行されるが、その解析アルゴリズムを実装したモジュール(ソフトウェア・ハードウェア)を「測位エンジン」と呼ぶ。[参照元へ戻る]
注2)無線ビーコン
環境側に設置され、測位にあたって参照点となるような信号を発信する装置のこと。[参照元へ戻る]
注3)VHF帯
Very High Frequencyの略で、30~300MHzの電波の周波数を指す。[参照元へ戻る]
注4)自律型測位
手元の情報端末装置上で測位が実行可能なものを「自律型測位」と呼ぶ。通信回線でつながれた外部の情報処理装置(サーバー)の助けなしで測位が可能なため、1)サーバーとの通信が利用できない場合でも測位が可能、2)サーバーとの通信における遅延がない分だけ高速に動作可能、といった利点がある。[参照元へ戻る]

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