発表・掲載日:2007/01/30

高純度D-ホモセリンの簡便な製造法

-微生物を用いてD-体とL-体の安価な混合物から製造-

ポイント

  • 抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗がん剤等の製薬原料として期待されるD-ホモセリンの簡便な製造法を開発した。
  • D-体とL-体の混合物からL-体のみを分解する微生物を新たに発見した。


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生物機能工学研究部門【部門長 巌倉 正寛】酵素開発研究グループ 宮崎 健太郎 研究グループ長、望月 一哉 主任研究員は、新たに発見した微生物を用い、D-ホモセリンの簡便かつ安価な製造法を開発した。

 原料であるDL-ホモセリン(D-ホモセリンとL-ホモセリンの1:1混合物)のなかのL-ホモセリンを選択的に除き、高純度のD-ホモセリンを製造することに成功した。DL-ホモセリンは安価(試薬として約600円/g)な(RS)-α-アミノ-γ-ブチロラクトンから容易に得られる。高純度のD-ホモセリン(試薬として約60,000円/g)は、製薬原料としての用途が見込まれるが、大量に生産することが難しく高価である。今回開発した製造法により、高純度のD-ホモセリンが安価に供給されるようになれば、これを構成要素とする新たな薬剤について開発の促進が期待できる。

 本技術の詳細は、2007年2月1日に産総研つくばセンターで開催される平成18年度ライフサイエンス分野融合会議・生命工学部会バイオテクノロジー研究会で発表される。

D-ホモセリン製造の概要図


開発の社会的背景

 ホモセリンにはD-型とL-型がある。両者は鏡像関係にあり、鏡像異性体という。薬剤の効果は鏡像異性体のどちらか一方にのみあって、他方は効果がないか、場合によっては有害であることが多い。製薬において鏡像異性体の分離は極めて重要な問題である。

 D-ホモセリンは、抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗がん剤の構成要素であり、製薬原料としての用途が期待される。製薬原料として利用される場合は、高い純度が要求される。しかしながら、高い純度のD-ホモセリンを簡便かつ安価に生産する方法は確立されていない。その為、D-ホモセリンは極めて高価(試薬として約60,000円/g)なものとなっており、簡便かつ安価な生産法が求められている。

研究の経緯

 生物機能の特長の一つは、高い立体選択性である。酵素開発研究グループは有用な生物機能とそれを裏打ちする酵素の探索に取り組んでいる。今回、生物の立体選択能を利用したD-ホモセリンの生産法の確立に着手した。

研究の内容

 今回の技術は、微生物の持つ立体選択能力を応用したものである。DL-ホモセリンのなかのL-ホモセリンを効率的に分解する一方で、D-ホモセリンは分解しない微生物を新たに発見した。この微生物によって原料であるDL-ホモセリンのなかのL-ホモセリンだけを効率的に除き、純粋なD-ホモセリンを製造することを可能にした。DL-ホモセリンは安価な(RS)-α-アミノ-γ-ブチロラクトンから容易に得られる。

液体クロマトグラフィーによる分析図
液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析

図左:原料のDL-ホモセリン
図右:本法により製造したD-ホモセリン(L-ホモセリンは全く検出されず、純度は99.9%以上)

今後の予定

 今後、生産現場を想定した上で、培養工学的および化学工学的検討に基づくスケールアップを行い実用化を進めたい。


用語の説明

◆鏡像異性と立体選択性
ご自身の左右の手を見てください。右手と左手は、向かい合わせることはできても、決して重ね合わせることはできません。このような関係を、鏡像の関係と言います。ある種の化合物には、このように、互いに鏡像の関係にある二つの形(鏡像異性体)が必然的に生じます。一人の人間がいれば、必然的に一本の右手と一本の左手が存在するのと同じです。このような化合物を化学的に合成しますと、往々にして右手化合物と左手化合物が同じ量ずつ出来てしまい、片側だけを合成することには困難が伴います。しかし、生物は、右手化合物と左手化合物を巧妙に見分けることができ、例えば右手化合物だけ合成したり、反対に分解したりすることができます。このような性質を立体選択性と言います。化学の世界では、右手型・左手型を、一定の規則に則り、D-型・L-型、或いは、(R)-型・(S)-型と呼びます。本文の中の、D-とかL-といった接頭辞は適宜、右手左手と読み替えて下さい。DL-は右手化合物と左手化合物が同じ量ずつ混じっている化合物です。[参照元へ戻る]


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