発表・掲載日:2006/11/09

大規模に分散したセンサのネットワーク技術を開発

-無線ネットワーク・ノードとミドルウェア技術でセンサネットワークを実現-

ポイント

  • 100個以上の温度・湿度センサからのデータを集約できるシステムを開発
  • 無線ネットワーク・ノードとミドルウェア技術によりシステム設計が容易に
  • ビルや橋脚などの構造物やプラントなどで、実用的にモニタリングできるシステムを構築

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】空間機能研究グループ 大場 光太郎 研究グループ長は、学校法人 芝浦工業大学【理事長 長友 隆男】 工学部 複合情報システム研究室 南 正輝 講師 の協力により、100個以上の温度・湿度センサなどを無線ネットワーク・ノードとロボット用ミドルウェア技術(以下RTミドルウェアという)により結合させ、効率よく情報を収集するシステムを構築した。

 ビルや橋脚などの構造物やプラントにおいて、通常のメンテナンスや管理のためのモニタリング・システムを実現するためには大規模なセンサとそれを繋ぐネットワークが不可欠である。しかし、施設の規模が大きくなるにつれて、センサネットワークの規模は大きくなり、それに伴い多額の費用を必要としているのが実情である。そこで産総研では、以前開発した超省電力無線ネットワーク・ノードにセンサを取り付けることで、安価で信頼性の高い大規模センサネットワークシステムを実現した。

 また、分散したセンサの開発効率を向上させ、かつユーザに利用しやすいインターフェースを提供するためには、ミドルウェア技術は不可欠である。そこで、産総研で開発されているRTミドルウェアを利用することによって、効率よくシステムの構築できることを示した。

 また、今回開発したシステムは、11月15日に行われる産総研知能システム研究部門のオープンハウスにて、展示される予定である。

大規模モニタリングシステムの例の図

図1 大規模モニタリングシステムの例


研究の背景

 センサネットワークは、米国のモートプロジェクトを皮切りに、様々な研究が行われてきており、ビジネスマーケットが大きいと想定されることから、早期な産業化が求められてきた。しかしながら、現在、販売されているセンサネットワーク・ノードは、研究用途が目的であるため、多機能かつ高価であり、実用性に乏しい。実際の建物や橋脚、プラントなどの大規模な構造物をモニタリングするためには、分散した大量のセンサを効率よく、容易に、かつ安価に接続する必要がある。

 このようなセンサネットワークの研究は、学際的には数多くなされているが、実際には実験室内において、20~30個程度の高価なセンサネットワーク・ノード機器(一個2万円以上)を用いた実験が主に行われているに留まっており、ビルや橋脚、プラントなどの大規模システムに実装することを実際に想定したセンサネットワーク・ノードの開発は行われてはいない。また、100個以上の実システムでの実際の運用は行われていないことから、産業界からは実用化に対する疑問が起こってきている。

研究の経緯

 産総研 知能システム研究部門では、人間生活環境において無線やネットワークを活用することで、ロボット個々の要素を分散させた環境埋め込み型ロボットの制御手法の研究をすすめてきた。

 ロボットを制御するプログラムを書く際にモジュール性と再利用性を向上させるため、ロボット要素を繋ぐミドルウェア技術を開発し、その国際標準化活動を行ってきている。ミドルウェア技術は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトで実施され、現在、OpenRTMとして提供されている。また、ロボット要素を相互に無線接続するための、無線ネットワーク・ノードなどの研究開発を行ってきた。

 これらの研究ポテンシャルを活かして、今回のセンサネットワークの実用化に向けた研究に着手した。なお、本研究開発は、平成18年度地域中小企業支援型研究開発事業の一環として行われている。

研究の内容

 今回、センサネットワークとしては、100個以上の温度・湿度センサなどを組み込んだ無線センサネットワーク・ノードを開発し、RTミドルウェア技術を用いて、温度、湿度情報などを取り込むシステムを開発した。温度・湿度センサは、MEMS技術を用いて開発し、ADコンバータを内蔵しデジタルでのネットワーク・ノードへの転送を可能としていることから、通常、アナログ部分に混在しやすいノイズの影響が極力押さえられ、精度の高い情報を得ることができる。

 センサネットワークの多くが採用するアドホック通信は、ネットワーク・ノード自体のCPUパワーなどを必要とるため、ネットワーク・ノード自体の価格が高くなることから採用せずに、ネットワークの構成としては一般的なスター型の通信手法とした。これにより、ネットワーク・ノードの低価格化と、簡単なネットワーク形態の実用的なシステムを実現した。

 先に開発していた無線ネットワーク・ノードは、金属の多い環境や、電磁波の多い環境でも、信頼性の高い無線通信が可能であり、また、消費電力が非常に小さいことから、環境センサをつけた状態で電池駆動できる。なお、このネットワーク・ノードは、信頼性と低価格(通常の10分の1程度の価格)から、既に市場に受け入れられつつある。

 これまで、ICタグなどのユビキタス・デバイスと、センサネットワークを用いて、生活環境でのインテリジェントスペースを構築した例は多く見受けられるが、今回のようにセンサネットワークの産業化を目的として、低価格、高信頼性、設置のしやすさなどを目的として、センサネットワークを構築した例は少ない。今回の分散配置されたセンサネットワークシステムは電池駆動が可能、無線化、RTミドルウェア技術の採用などにより、実用化に近づいたものといえる。

センサネットワーク・ノードの写真

図2 センサネットワーク・ノード


センサ実装イメージ写真

図3 センサ実装イメージ

今後の予定

 ロボット要素技術として、無線ネットワーク・ノードと、RTミドルウェア技術が整備されることにより、今まで配線やプログラム開発などのコストが障壁となっていたロボット要素の利活用が期待でき、更にロボットシステム産業の創出も視野に入ってくる。今回の様な、センサネットワークとしてのシステム構築技術の応用、実証を通じて、実用化を目指す。


用語の説明

◆ネットワーク・ノード
複数のセンサなどの機器とネットワークをつなぐためのデバイス。機器をつながずにネットワーク・ノードIDだけを送信すれば、ICタグとしても利用可能。[参照元へ戻る]
◆ミドルウェア技術
ある特定のアプリケーションプログラムを作成する際に便利なソフトウェア開発環境のこと。例えば、ロボット用ミドルウェアを利用することで、ロボットを動作させるアプリケーションプログラムを効率的に作成することができる。[参照元へ戻る]
◆ICタグ
物体の識別に利用される小さな無線ICチップ。識別コードなどの情報が記録されており、電波を使って管理システムと情報を送受信する能力をもつ。
産業界においてバーコードに代わる商品識別・管理技術として研究が進められてきたが、それに留まらず社会のIT化・自動化を推進する上での基盤技術として注目が高まっている。
電池を内蔵せず1m以下の近距離での交信が可能なタイプをパッシブICタグ、電池を内蔵し長距離での交信が可能なタイプはアクティブICタグと呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆センサネットワーク
ユビキタスセンサネットワーク、センサ・ネットともいう。様々な場所に周囲の状態を計測するセンサ類を設置し、ネットワーク化することで、防災や安全、各種サービスの提供などを行うシステム。[参照元へ戻る]

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