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発表・掲載日:2006/08/23

広い濃度範囲の水素漏れ検知センサの開発に成功

-水素関連施設等の安全性・信頼性の確保へ-

ポイント

  • 空気中の水素濃度を0.5ppmから5%まで広範囲で検知するマイクロ熱電式水素センサを開発した。
  • 水素を燃焼させる高性能セラミックス担持白金触媒をマイクロ素子上に集積化する技術の開発によって、センサ素子の感度および耐久性を大幅に向上させることに成功した。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下、「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 三留 秀人】センサインテグレーション研究グループ【グループ長 松原 一郎】申 ウソク 主任研究員は、広い濃度範囲の水素を検知する水素漏れ検知センサの開発に成功した。このセンサは、電力消費が少なく、シリコンチップへの集積化が可能なため、水素ステーションをはじめとする水素関連施設等への応用が期待される。

MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) は、機械要素部品、センサ、電子回路等を一つのシリコン基板上に集積化したものであるが、その基盤技術として立体形状自由加工技術(立体構造上へのパターン形成技術)が重要な技術課題である。本研究では、セラミックス担持白金触媒を熱電変換MEMSデバイスの上にパターン形成する技術を開発することによって、触媒性能をより発揮でき、高感度で耐久性のあるマイクロ熱電式水素センサを作製することができた。

 

 本成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)プロジェクト「水素安全利用等基盤技術開発」で得られたものである。

開発したマイクロ素子の写真

図1 開発したマイクロ素子の写真


開発の社会的背景

 近年、燃料電池技術が進展し周辺技術の発展が求められている。また、燃料電池の初期段階の普及が円滑に進むためには水素を安全に利用するための技術が必要とされている。水素は空気中に僅か4%でも含まれると爆発するので、水素ガス漏れ検知技術としてはppmオーダーから爆発下限界濃度の4%まで精度良く計測できる水素センサが必要である。しかしながら、接触燃焼式半導体式とに代表される従来の水素ガスセンサでは、ppmオーダーの低濃度から%オーダーの高濃度まで広範囲で検知することが困難であった。

研究の経緯

 従来の接触燃焼式ガスセンサは、検出信号がセンサの抵抗変化分であるため高濃度での計測が得意であり、低濃度では感度が著しく低い。例えば、接触燃焼式の場合、燃焼発熱による温度変化が0.01℃だと抵抗変化はわずか0.004%になり、この小さい抵抗変化を測るのは難しく、実際には測定不能である。熱電式水素センサは、熱電変換膜とその一部の表面上に形成された白金触媒膜で構成され、水素と触媒との発熱反応により発生する局部的な温度差を熱電変換膜で電圧信号に変換する。その動作原理は局所的な温度差が直接電圧に変換されるものであるため、高性能の熱電材料を利用すれば、十分計測可能となる。

 産総研で開発した熱電式水素センサは、触媒反応と熱電変換機能とを組み合わせた動作原理で、素子自ら発生する電圧を信号とするため、計測可能な濃度範囲が広く、周囲温度の変動の影響を受けにくく、ドリフトが無いという特徴を持っている。この動作原理の水素センサは、NEDOの産業技術研究助成事業「熱電酸化物を用いた新型水素ガスセンサの開発」により開発されていたが、低コスト・高感度の素子開発には、センサ素子の小型化・集積化技術・マイクロヒータ技術の開発が必要であった。

 本成果は、熱電式水素センサのマイクロ素子化の技術開発として、引き続き行われたNEDOプロジェクトの水素安全利用等基盤技術開発「熱電式水素センサの研究開発」で得られたものである。

研究の内容

 本研究開発では、シリコンウェハ上に薄膜状の熱電膜、触媒膜、電極・配線、ヒータを形成するマイクロセンサ素子製造技術の開発を行った(図1)。同時に、センサ素子の耐久性向上及び低コスト化の技術開発も進めている。熱電変換デバイスの要素技術としては、スパッタ蒸着でSiGeを成膜し熱処理するプロセスを用いた薄膜パターン技術を開発した。SiGe熱電変換材料は熱電特性が高く、シリコンプロセスとの適合性に優れる。触媒は、大気中の水蒸気の影響を無くし、安定的に動作させるため、100℃に維持する。触媒温度を維持するヒータ集積化技術として、熱遮蔽に優れたマイクロヒータをMEMS技術で作製した。熱電パターン、マイクロヒータ、触媒の3つの素子構成要素を約1×2mmのメンブレンに集積化し、図1に示す、4×4mmのマイクロ熱電式水素センサ素子チップを開発した。

 高性能のセラミックス触媒材料を集積化したマイクロセンサ素子は、水素検知性能が飛躍的に向上した。図2には、本研究でのセラミックス触媒を用いたマイクロ熱電式水素センサと、以前のバルクタイプの熱電式水素センサの水素濃度と信号電圧の関係を示す。両方とも触媒温度は大気中の水分等の影響を防ぎ触媒反応の安定性を保つため、100℃に維持した。地球上の大気には、水素が約0.5ppm存在し、また、水素は空気中4%以上で爆発する。開発されたマイクロ熱電式水素センサは、大気中の水素濃度0.5ppmから5%までを直線性よく検知できるため、水素漏れ検知センサとして最も優れている。

熱電式水素センサの検知水素濃度範囲と素子からの自発電圧信号の図

図2 熱電式水素センサの検知水素濃度範囲と素子からの自発電圧信号(以前の熱電式水素センサと比較)

 また、セラミックス担持白金触媒の最大のメリットはその耐久性である。セラミックス担持白金触媒を集積化したマイクロ熱電式水素センサを、室温・相対湿度約65%の雰囲気で連続動作させ、100ppm、1000ppm、1%の水素濃度に対する応答特性を3ヶ月間評価し、その性能が十分安定であることを確認した。開発したセンサの特徴は、通常の半導体プロセスを用いて、シリコン基板上にマイクロセンサを集積化しているため、将来的にはセンサ信号を処理する電子回路を簡単に集積化することも可能で、小型化や量産化による低コスト化が容易であり、実用化の見通しが高い。

今後の予定

 開発した水素センサ素子のプロトタイプを試料提供し、水素関連施設等での実用化を目指す。



用語の説明

◆MEMS
MEMS(Micro Electro Mechanical System 微小電気機械システム)とは、電気回路(制御部)と微細な機械構造(駆動部)を一つの基板上に集積させた部品をいい、半導体製造技術やレーザー加工技術等各種の微細加工技術を用いて製造される。情報通信、医療・バイオ、自動車など多様な分野における小型・高精度で省エネルギー性に優れた高性能のキーデバイスとして期待されている。これまでに実用化されたMEMS技術については、自動車用センサやインクジェットプリンタヘッド等の分野で日本企業も健闘しているが、通信やプロジェクター等に使われる光MEMSや、今後の実用化が期待されるガスセンサ等の化学系MEMSの分野では欧米諸国が一部先行している。[参照元へ戻る]
◆熱電変換MEMSデバイス
熱電変換機能を活かしたマイクロ素子が報告され始めたのは比較的最近である。その背景には、シリコンの異方性エッチングを代表とする微細加工技術により局部的な熱遮断が可能になったことで、マイクロ熱電変換素子の応用を容易にしたことがあげられる。中でも、温度変化を精度良く検知するセンサの応用が比較的早く行われてきた。例えば、流量計、或いは、非冷却タイプの赤外カメラに応用されたサーモパイルがその代表的なものである。熱電式水素センサの高性能化のためには素子熱容量を減らすことと、小さい発熱からでも高い温度上昇を可能とする熱遮断を同時に行う必要がある。[参照元へ戻る]
◆ガスセンサの「接触燃焼式」、「半導体式」、「熱電式」
市販されている殆どの水素センサは、接触燃焼式或いは半導体式である。両方ともJIS M7626の解説に動作原理等が詳しく述べてある。接触燃焼式は、触媒燃焼の発熱による僅かな素子温度上昇(ヒーターの抵抗変化)を信号とするため、低いガス濃度での感度が悪く、1000ppmから数%の検知濃度範囲で利用される。半導体式の場合は、その表面が可燃性ガスによって還元されることで抵抗が変化するが、あるガス濃度以上では飽和するため、抵抗変化が生じない。従って、通常5000ppm未満の検知濃度範囲で利用される。熱電式は、熱電変換膜とその表面の一部の上に形成された触媒膜で構成され、ガスと触媒との発熱反応により発生する局部的な温度差を熱電変換膜で電圧信号に変換する。[参照元へ戻る]
◆SiGe
SiGeは、60年代後半のアポロ計画にも活用された高信頼性の熱電変換材料であり、近年は電子部材用薄膜材料としても注目されている。プロセス温度がシリコンプロセス温度より数百℃も低く、数GHz帯の高速トランジスタ素子又は極低温作動素子として、さらにはシリコン素子の高速化のための中間層材料として近年その応用が活発である。[参照元へ戻る]



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