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発表・掲載日:2006/03/06

ナノメータサイズの微細加工を可能とする卓上型装置を開発

-低コストで大面積・高速に50nmの微細加工の実現が可能に-

ポイント

  • 光を直接使わず、光の生み出す熱分布を利用した微細加工技術
  • 装置コストは、従来と同等の大型装置と比べて1/4以下で装置サイズは卓上型
  • この技術を使って無反射型デジカメレンズやプロジェクションテレビを低コストで供給できるようになり、高性能で低コストの物作り技術復活に貢献。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)近接場光応用工学研究センター【センター長 富永 淳二】スーパーレンズテクノロジーチーム 中野 隆志 研究チーム長および栗原 一真 研究員らは、半導体レーザーを用いた可視光レーザーリソグラフィー法熱非線形材料を組み合わせた熱リソグラフィー技術をもとにしたナノ加工装置の開発に成功した。これは産総研とパルステック工業株式会社【代表取締役社長 木下 達夫】の共同研究の成果であり、産総研の有する熱リソグラフィー技術と、パルステック工業株式会社の所有する光ディスク関連技術とを融合させることで実現したものである。

 実現した加工装置は、従来の同等機に比べ1/4の低コストで、光ディスクサイズ(直径12cm)の大面積な領域に50nmのナノ構造物を高速に作製できるもので、サイズも卓上型と極めて取り扱いやすくコンパクトである。

 本加工機の実現により、従来、真空紫外光などの短波長の光(光リソグラフィー法)や電子線(電子線リソグラフィー法)など高価で大型装置しか実現できなかったナノメータサイズの微細加工が、低価格で、しかも誰もが簡単に取り扱える機器となり、フォトニック結晶や光反射防止構造などの微細構造を用いた光学デバイスの低価格化や、ナノテクノロジー技術への応用に弾みがつくものと期待される。

 また、本成果は3月22日~26日まで武蔵工業大学にて開催される第53回応用物理学関係連合講演会にて発表するとともに、同学会の展示会場にて装置展示を行う予定である。

共同開発した卓上型ナノ加工機 の写真 矢印 ナノパターン描画した例の図
共同開発した卓上型ナノ加工機
 
ナノパターン描画した例


開発の社会的背景

 近年、ナノメータスケールの微細構造物が持つ特有の現象を利用する新しいデバイスの開発が盛んに行われている。たとえば、光の波長より小さいナノメータサイズの構造物を配置し、光の反射を低減する光反射防止ナノ構造や人工的に光の進行方向を制御するフォトニック結晶、他の光学部品の表面にナノメータサイズの微細構造を作り込める1/4波長板などさまざまな応用がある。

 光反射防止構造では、広角度・広波長帯で反射率を低減できるため、太陽電池の高効率化やディスプレイの高輝度化などへの適用が期待されている。このようなナノメータサイズの微細構造デバイスの作製には、リソグラフィーと言われる微細パターンを描画する技術が必要であり、これまで真空紫外光などの短波長の光(光リソグラフィー法)や電子線(電子線リソグラフィー法)などが使われている。しかし、光リソグラフィー法では、短波長の光源の開発が年々難しくなり、光源の周辺技術を含めて開発費用も膨大になっている。一方、電子線リソグラフィー法は、サイズ10nm程度の微細な描画が可能であるが真空雰囲気が必要であり、描画速度が極めて遅いために大面積描画には膨大な時間が必要であり実用的ではない。また、これらの手法では、装置が大型で非常に高価であるため加工品のコスト高を招く結果となっていた。そこで、低コストで、しかも簡便で、誰もが取り扱える実用的なナノメータサイズの描画技術が求められていた。

研究の経緯

 産総研はBlu-rayHD DVDに続く、次世代高密度光ディスクの研究開発を進めている。次世代の光ディスクでは記録データを高密度化するため40nmのサイズの微小記録ピットが必要とされており、産総研では微小記録ピットを作製する微細加工技術の開発を行うと共に、直径12cmのディスク基板に高速で記録する技術の開発を進めてきた。このたび、産総研とパルステック工業株式会社は共同で、光ディスクの高速・低コスト・大面積作製技術の特性を生かして、高速に大面積でかつ低価格化が可能なナノメータサイズの微細構造光学素子の開発と、これを誰もが簡単に製作できる装置の開発に取り組んできた。

 なお、本研究開発は、科学技術振興機構の委託事業「シーズ育成試験(平成17年度)」による支援を受けて行ったものである。

研究の内容

 可視光レーザーリソグラフィー法と熱非線形材料を組み合わせた熱リソグラフィー法とは、光スポット内に生じた温度分布を利用する方法である。光を物質に照射した場合、その物質が光を吸収する性質を持っていると、光のエネルギーは熱に変換される。レンズによって集光された光は基板上でガウス分布を持った光強度分布となり、物質が光を吸収して発熱する熱分布も同様な温度分布になる【図1参照】。

 従って、光を吸収し発熱すると急激に変化する材料を光吸収物質として用いると、光のスポット径以下の微細な描画を実現することが可能となる。これまでの研究では、この方法でフォトレジスト中の微小な領域に、熱化学反応や物質の熱拡散により物質に体積変化を発生させ、リソグラフィーを行っていたが、100nm以下の解像度や高アスペクト比構造の作製が困難であるし、再現性にも難があった。そこで今回は、新たな材料とプロセス技術を見直し、100nm以下の高アスペクト比構造物を確実に再現できる熱リソグラフィー技術を開発し、卓上型のナノメータサイズ微細加工装置として完成させた【図2参照】。

スポット内の光強度分布及び熱分布による描画領域の図
図1 スポット内の光強度分布及び熱分布による描画領域

ナノサイズ加工機の模式図
図2(a) ナノサイズ加工機の模式図
 
 

ナノサイズ加工機の写真

(b) ナノサイズ加工機の写真


 本研究で開発したナノメータサイズ微細加工装置は、図2(a)に示すように、回転系ステージ・1軸ステージ・オートフォーカスユニットで構成され、ナノメータサイズの高速描画を実現している。また、描画の為のレーザービーム及び集光のための光学系には、波長405nmの半導体レーザーと開口数(NA):0.85の対物レンズを用いたので、装置を極めてコンパクトに纏めることができ、誰もが使いやすい設置面積が1m2程度の卓上型サイズにする事ができた(図2(b)参照)。

 従来から使われている装置でナノメータサイズの加工を実現しようとすると、電子線描画装置やArFを使った光リソグラフィー等が必要である。これらの装置の1台あたりの設置面積は小さいものでも2m2が必要であり、また装置の保守も大変なため、誰もが自由に取り扱える機器ではない。今回開発した装置は、ナノメータサイズの描画装置としては、何処でも誰もが簡単に取り扱える卓上サイズの装置となった。

 図3に、本装置を用いて作製したナノドットパターンを示す。同図の結果は、速さ6m/s(2600-3600rpm)で回転させながら青色のパルスレーザー光を照射し描画して得られたものである。本装置はレーザー光を60MHzのパルス周波数で駆動し、光ビームスポットの6分の1以下の50nmのドットパターンを600万ドット/sの速度で作製できる。通常の電子線描画装置等の描画速度が0.2m/s程度なので、本装置は30倍も高速でナノメータサイズの微細構造を作製できることになる。また、本手法と半導体プロセスで利用されるドライエッチング技術を融合させて、図4に示すような直径100nm、深さ500nm以上のナノホール構造物を光ディスクサイズ(直径12cm)の基板全面に作製する事が可能である。このように、本装置の実現によって、ナノメータサイズの微細パターンを持つナノインプリント用の鋳型を大面積でかつ高速に安価に作製することが可能になった。

ナノドットパターンの作製例の写真
図3 ナノドットパターンの作製例
 
高アスペクト比構造の作製例の写真
図4 高アスペクト比構造の作製例
 

 また、図5は直径12cmのSiO2ディスク基板に光反射防止機能を有する微細構造を作製し光の反射率を低減させた例であり、SiO2平面基板の所では蛍光灯が強く反射して白く見えているが、反光射防止微細構造を設けた部分では、光の反射を抑えることができ、後ろのAISTとPULSTECの文字がコントラスト良く見えている。このように、光反射防止ナノ構造を高速・大面積・安価で作製する事が出来るので、我国が得意とするディスプレイやデジタルカメラなどのレンズ等に光反射防止特性を安価に付加することができ、国際的な競争が激しい製品開発分野にも貢献できると考えている。

直径12cmのSiO2ディスク基板上に作製した光反射防止微細構造の写真
直径12cmのSiO2ディスク基板上に作製した光反射防止微細構造の特性の図
図5 直径12cmのSiO2ディスク基板上に作製した光反射防止微細構造の写真と特性

今後の予定

 今回開発した装置は2006年春頃からプロトタイプ機の出荷を行う予定である。また今後、サンプルおよび熱リソグラフィー用マスク材料の提供を進めると共に、更なる熱リソグラフィー法の性能向上の研究開発を行う。



用語の解説

◆可視光レーザーリソグラフィー法
およそ400nm程度の波長を持つレーザー光源を使用し、一筆書きのようにレーザーで描画する方法。マスクなしで高速に描画出来る特徴をもつが、描画できる解像度は使用する光源の波長と集光するための対物レンズで決定されることから、およそ波長程度が限界である。[参照元へ戻る]
◆熱非線形材料
熱に対して急激に状態が変化する材料 [参照元へ戻る]
◆熱リソグラフィー
光を直接使わず、光の生み出す熱分布を利用したリソグラフィー法 [参照元へ戻る]
◆光リソグラフィー法
半導体デバイス作製で主に使用されるパターン描画方法。通常、マスクと呼ばれる回路を描いた金属板を使い、この回路を縮小投影して、半導体基板に転写する。現在では、この方法により60nm線幅のデバイスが作製されているが、特殊で非常に高価な光源が必要であったり、電子線描画リソグラフィー法で描かれたマスク等が必要であり、非常に高コストである。[参照元へ戻る]
◆電子線リソグラフィー法
電子線を用いて、回路パターン等を直接描画する方法。電子ビームなので、ナノメータサイズのパターンを描くことが可能。[参照元へ戻る]
◆フォトニック結晶
発光や光の伝搬といった光機能を人工的に制御するための新しい材料で、光の波長と同程度の周期的な屈折率分布をもった人工結晶体のことである。構成するパターンによって、結晶中にある波長域の光が伝播しないフォトニックバンドギャップという部分が形成される。実質的に光が存在できないフォトニックバンドギャップの性質を利用し、結晶内部で光を制御する研究が進められている。フォトニック結晶は超小型の光導回路として、あるいはレーザーやセンサーの基板材料といった発光デバイスの高性能化を実現する素材として、非常に注目を集めている。[参照元へ戻る]
Blu-ray及びHD DVD
DVDに続く次世代光ディスクの規格。[参照元へ戻る]
◆フォトレジスト
光リソグラフィー法で樹脂のパターンを作製するための感光性樹脂で、ポジタイプとネガタイプがあり、ポジタイプは紫外光の照射によって照射部の感光性樹脂が溶けて無くなる。また、ネガタイプは紫外光の照射部が硬化し樹脂が残る。[参照元へ戻る]
◆アスペクト比
要素の縦横比のことで、この場合は加工溝の幅と深さの比のこと。同じ幅であれば大きいほど溝が深い。[参照元へ戻る]
◆開口数
対物レンズの性能を決定する最も重要な要素。一般的に、対物レンズを用いて絞れるビームの大きさは使用する波長と対物レンズの開口数(κλ/NA)で決定される。ここで、κは光ビームによって決定される定数であり、λは波長、NAは対物レンズの開口数である。そのため、対物レンズの開口数が大きいほど分解能の高い像を観察したり、微小な物を加工したりすることができる。一般的には対物レンズの倍率が高いほど、開口数は大きくなる。[参照元へ戻る]
◆ArF
ArFエキシマ・レーザー(波長193nm) [参照元へ戻る]
◆ナノインプリント
ナノメータサイズの微小な凹凸を形成させた鋳型(モールド)に、樹脂など高分子材料の被加工基板を押し付けて型の形状を転写する微細成形加工技術であり、熱(Thermal)式と光硬化(UV)式とに分類される。ナノインプリント加工の鋳型に用いられる基板材料としてニッケル・シリコン・石英などが一般に用いられている。[参照元へ戻る]
◆光反射防止ナノ構造
光波長以下の周期を持つナノ構造体を構成し、光の反射率を低減することができる構造体。広入射角・高波長帯域で反射率を低減することが可能なため、太陽電池やディスプレイ・レンズ等の光学部品への適応が期待されている。[参照元へ戻る]

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