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発表・掲載日:2006/02/03

2005年パキスタン地震の地震断層を現地で確認

ポイント

  • 2005年パキスタン地震の地震断層の全容を現地の地表調査ではじめて確認
  • 地震断層の長さは約65km、最大の変位量は上下成分で5.5m、水平成分を含め約9m
  • 地震断層の主要部は既存の活断層に沿って出現

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)活断層研究センター【研究センター長 杉山 雄一】は、学校法人鶴学園 広島工業大学【学長 茂里 一紘】(以下「広島工業大学」という)、国立大学法人 京都大学【総長 尾池 和夫】【以下「京都大学」という)およびパキスタン地質調査所等と共同で、2005年10月8日にパキスタン北部で発生した地震(マグニチュード7.6)地域の現地調査を実施し、長さ約65km、最大変位量5.5m(上下成分)に及ぶ地震断層の全容をはじめて確認した。


背景・経緯

 産総研は、活断層・地震に関する研究の一環として、日本国内だけでなく、海外で発生した大地震についても緊急調査を実施している。近年では、2004年スマトラ沖地震津波、2003年イランのバム地震の緊急調査を実施した。また、旧通商産業省 工業技術院 地質調査所では、1999年トルコのイズミット地震および1999年台湾の集集(Chi-Chi)地震の緊急調査を実施した。

 産総研は、2006年1月18-19日にイスラマバードにてパキスタン地質調査所が主催した国際会議「2005年10月8日パキスタン地震に関する国際会議-その意義と災害軽減」に職員4名および産学官制度来所者2名(広島工業大学、京都大学から各1名)を派遣するとともに、そのうちの4名が、パキスタン地質調査所およびオレゴン州立大と共同で、同地震に伴う地震断層について、1月20-22日および1月24-28日に延べ8日間の現地調査を実施した。

研究の内容

 調査の結果、長さ約65kmにわたって地震断層が地表に出現したことを確認し(図1)、同地震の地震断層の全容をはじめて明らかにした。

 このうち、北西部から中部にかけての主要部の約50km区間は逆断層成分が卓越する変位量の大きな地震断層で、上下成分で最大5.5m(北東側隆起)、水平成分を含めると最大約9mの変位が計測できた。また、いくつかの調査地点では、わずかな右横ずれ成分も認められた。なお、この主要部では、北西部と中央部の間で断層線の屈曲を伴う不連続が認められた。

 南東部では、地震断層の連続性は不明瞭であるが、山間部の2カ所において数10cm以下のわずかな右横ずれ変位を伴う地震断層が発見できた。

 以上の地震断層の分布から、この地震では、北西部と中部のそれぞれ長さ約20-30kmの断層が大きな変位を伴って破壊し、また南東部でもやや小規模な変位を伴う断層の破壊があったことが推定できる。

 地震断層の主要部は、既に報告されていた既存の活断層(Nakata他、1991;中田・熊原、2005,2006)に沿って出現していた。また、地震断層の分布と変位量は、人工衛星による観測データの解析結果から推定された地震に伴う地殻変動の分布と規模、および地震波形から解析された震源過程とも、おおむね一致した。

 地震による被害がとくに甚大であったBalakot(バラコット)の市街地やMuzaffarabad(ムザファラバード)北方の集落は、いずれも地震断層の直上あるいは極めて近接した地域に立地している。また、地震断層付近では周辺と比べて家屋の倒壊率が高くなる傾向が認められた。これらは、断層変位による地盤の変形が被害を大きくしたほか、断層の近傍で揺れが大きかったことを示唆する。

現地調査で確認された2005年パキスタン地震の地震断層地図1
現地調査で確認された2005年パキスタン地震の地震断層地図2

図1 現地調査で確認された2005年パキスタン地震の地震断層

 赤丸が調査地点.数字は上下変位量.
 活断層(赤線)の分布は、中田・熊原(2006)に基づく。
 地形陰影図の作成には、ASTER衛星画像によるDEMを使用。


Muzaffarabadの南東方約5kmで計測された現河床の上下変位5.5mの図
図2 Muzaffarabadの南東方約5km(図1の地点3)で計測された現河床の上下変位5.5m.

地震断層と河床・河川敷の変位写真
写真
A:Balakot市街地の地震断層.手前の畑が撓曲変形.上下成分2.6~2.8m.(図1の地点1)
B:Muzaffarabad北方の地震断層.上下成分4.0m以上.(図1の地点2)
C:最大の上下変位量を計測した河床の変位.上下成分5.5m.(図1の地点3)
D:地震断層主要部の南東端付近で見られた河川敷の変位.上下成分2.0m.(図1の地点4)

今後の予定

 地震断層の全容が明らかになったことを受けて、3月に地震断層の主要部の約50km区間について、広島工業大学、京都大学、パキスタン地質調査所と共同で、全区間を実施踏査することにより、地震断層の詳細を解明する予定である。



用語の解説

◆2005年パキスタン地震
2005年10月8日にパキスタン北部のカシミール地域のMuzaffarabadと南東側の両方向に破壊が進んだとされている(例えば、筑波大、八木勇治助教授のホームページ;)。また、地震地域では、活断層が分布していたことが知られていたが(Nakata他、1991;中田・熊原、2005,2006など)、人工衛星の観測データの解析からは、地震に伴って、この活断層沿いとその南東延長部で、長さ約90kmにわたって1m以上の地殻変動が生じたことが既に報告されている
なお、地表に地震断層が出現したことは、これらの観測・解析結果からも示唆されていたほか、本研究の実施以前に、地震断層に関する断片的な現地情報が既に得られ、一部は報告されていた。[参照元へ戻る]
◆地震断層
地震に伴って地表に現れた断層のこと。地震を起こした地下の震源断層の規模が十分に大きな場合には、地表でも明瞭で規模の大きな地震断層があらわれることが多い。しかし、地下の震源断層の規模が小さい場合や、震源断層の分布が地下深部に限られる場合には、地表には明瞭な地震断層はあらわれない。[参照元へ戻る]
◆活断層
過去10万年程度の間に繰り返し活動しており、将来も活動して地震を引き起こす可能性のある断層のこと。パキスタン全土の予察的な活断層分布図は、Nakata他(1991)によって発表されており、今回の地震で出現した地震断層のうち、その中央部の区間は、Nakata他(1991)によって指摘されていた活断層とよく一致した。[参照元へ戻る]
◆逆断層・横ずれ断層
断層は、ずれの向きによって縦ずれ断層(正断層・逆断層)と横ずれ断層に分けられる。縦ずれ断層は傾斜した断層面を持つ場合が多く、圧縮力によって断層面の上方の地殻が隆起する断層を逆断層、引張力によって沈降する断層を正断層と呼ぶ。また、主に横ずれは比較的に高角度で傾斜した断層面を持つ場合が多く、断層の一方に立った場合、反対側の地面が左にずれる場合を左横ずれ断層、右にずれる場合を右横ずれ断層と呼ぶ。実際の断層では、これらの縦ずれと横ずれが組合わさった場合も多い。[参照元へ戻る]


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