発表・掲載日:2005/03/10

ICカードと電子ポスターを利用したマーケティング技術を開発

-産総研発ベンチャーを設立し実用化-

ポイント

  • ICカードや、ユビキタス情報社会に広く携帯される様々な無線デバイスを、事前登録なしに匿名で販売促進や広告宣伝等のサービスに利用する基盤技術を開発
  • 電子ポスターにSuicaをかざし、詳細情報やクーポンを取得するといった広告宣伝、販売促進の実証実験をJR東日本、電通とJR駅周辺で2回実施し有効性を実証
  • 本技術実用化のために産総研発ベンチャーのシナジーメディア(株)を設立

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】ユビキタスインタフェースグループ 山本 吉伸 主任研究員は、小サイズの情報パケットを利用することで、今後ユビキタス情報社会において必要と予想されるさまざまなサービスを実現する「ワンパケット・テクノロジー」と呼ぶ基盤技術を開発した。

 これは、ICカードやモバイルデバイスを利用し、ユニークIDとそのIDを取得した場所および時間を手がかりとしてユーザの要求を特定し、適切なサービスを起動するもので、本技術を使用することにより、Suicaに利用されているFeliCa仕様のICカードをはじめ、Bluetooth規格の端末機器や各種ICカード、その他ユニークIDを持つモバイルデバイスを統一的に扱うことができる。

 本技術の特長は、個人情報の提供や事前登録などを必要とせずに匿名で利用でき、また既に流通し所有している非接触ICカードを利用可能としたことである。

 このため、ユーザは個人情報の漏出に対する懸念などの心理的抵抗感が低減され、また煩雑なボタン操作や加入・登録手続きなども必要ないため、誰でも気軽に参加することのできるマーケティングサービスを実現し、ユーザの利便性とマーケティング効果を最大化することが可能となる。

 例えばJR駅周辺で行った実証実験では、利用者が駅構内や商業施設内で見かけた電子ポスターにICカードをかざすことにより、コーヒーショップの電子ポスターから無料コーヒーのクーポンを入手したり【写真1参照】、観光地の写真の電子ポスターから興味があれば詳細な観光地の情報を入手できることを実証した。近年利用者は持ち歩く各種カードの数が増えつつあるが、本実証実験でクーポンを取得したような場合、一枚のSuicaで多数の店舗のクーポン会員カードを兼ねることができる。なお、現在JR上野駅(アトレ上野)において、本技術を使用したキャンペーンが3月17日まで実施されている【写真2・3参照】。

 FeLiCa型CPSM実用システム化技術開発に関する研究は、平成14年度に採択された文部科学省 科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成」事業であるベンチャー開発戦略研究センターのタス クフォース案件として採択され、同センターの支援を受けて実施した。 

 今回、本技術による広告宣伝や販売促進に応用したマーケティングサービスを実用化し、当該成果を普及するため、産総研 ベンチャー開発戦略研究センターの支援により、産総研発ベンチャーであるシナジーメディア株式会社を設立した。

 なお、この成果の一部は、独立行政法人 情報処理推進機構の個人支援事業「未踏ソフトウェア創造事業」(平成12・13年度)により得られたものである。

電子ポスターの写真
写真1 電子ポスター
 
電子ポスターを使用したキャンペーンの写真
写真2 電子ポスターを使用したキャンペーン
 
  ICカードによる抽選の写真
写真3 ICカードによる抽選
 

研究の背景

 今後のユビキタス情報社会で提供される各種サービスには、サービス提供側ではなくユーザ側の視点に立って解決すべき様々な課題がある。ダイレクトマーケティングなどのマーケティングサービスはその代表例であろう。特定の情報に興味を持つユーザにだけ許諾を取った上でその人が欲しがる情報を個々に届けるOne-to-Oneマーケティングは効果の高いことが知られている。しかし携帯電話等でこれを実現しようとすると、事前登録を必要としたり、携帯電話のソフトウェアを操作したりユーザを躊躇させるような面倒さが伴う。なにより個人情報を登録することには心理的な抵抗が大きい。

研究の経緯

 これらの問題点を解決するために、産総研では、主にユーザインタフェース研究の立場から、小サイズの情報パケットの有用性に着目し、分散サーバ環境における小サイズ情報パケット制御ソフトウェアやユニークIDを統括管理するデータベース等を有機的に組み合わせたモバイル情報インフラの研究を行なってきた。

 本技術はそれらの成果を活用し、ユビキタス情報社会の様々なサービスに適用可能な基盤技術群を開発したものである。

 本技術およびそれを実現するソフトウェアを利用することで、ユーザの利便性と安心感を両立する「匿名でのOne-to-Oneマーケティング」等が実現される。

 産総研 ベンチャー開発戦略研究センターでは、本技術は将来社会の重要な基盤技術になると判断し、ハイテク・スタートアップスの創出を目指してスタートアップ開発戦略タスクフォースを編成し、技術の実用化の支援を行い、本格的に実用化を行うための産総研発ベンチャーの設立に至った。

 本技術を活用したマーケティングサービスは、具体的には、電子ポスターや店舗用端末等とそれらに組み込まれた非接触ICカード用カードリーダ、これらを制御し情報を格納するサーバ機器およびソフトウェアが用いられる。

 これまで、株式会社電通と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)とともにJR新橋駅、目黒駅とその周辺商業施設においてマーケティングサービスの実証実験を2度行い(平成16年2月・11月実施)、実用化に向けて改良を繰り返してきた。

本技術によるサービスの特長

 本技術を利用する最大のメリットは、ユーザの参入障壁を下げ、誰でも気軽に参加することのできるマーケティングサービスにより、ユーザの利便性とマーケティング効果を最大化できることにある。

  1. FeliCa仕様のカードならすでに持っているユーザが多い。つまりユーザが新規に特定のカードを入手しなければ参加できないといったハードルがない。特定の機種(ICカード搭載機種)の携帯電話を持っていることを前提としなくてもよい。
  2. 事前に登録をする手間が不要である。
  3. ユニークIDによりユーザを認識してOne to Oneマーケティングを行うことが可能となり、氏名等の個人情報を開示せずに匿名でサービスを利用できる。
  4. 携帯電話の面倒な操作など一切不要で、気になった情報を見つけたときにはカードをタッチするだけで利用できる。

さらに、本技術を利用したクーポンの配布サービスやポイント付与サービスは、ユーザや店舗にとって利便性の高いものとなる。すなわち、

  1. ユーザは、普段持ち歩いているICカード一枚で複数店舗のポイントカードとして利用できる。この機能によって、現在持ち歩いている多数のカードが一枚で済むようになる。
  2. 店舗側は、会員獲得とクーポン発行が容易になり、ポイントカードを新規に発行するコストをかけなくてもよい。

今後の予定

本技術は、今後さらに研究を進めることにより、次のような3つの方向に展開する予定である。

A) これまで独立していた各種のメディア(携帯電話、インターネット、テレビ、街頭広告等)を有機的に連携させシナジー(相乗)効果を持たせる技術を実用化する。これによってポスターで見つけた情報を自宅のテレビで見るなど新しいモバイルサービスが実現される。
B) 各ユーザに対してより価値の高い情報を提供するサービスを行う場合は、非匿名サービスに誘導する。すでにコミットメントのあるユーザに対する段階的な誘導は、最初の段階で個人情報を聞き出さなければならなかった従来型のサービス提示よりも効率がよいと期待できる。
C) 各種非接触ICカードや、bluetooth等の無線デバイスへの対応を本格化する。


用語の説明

◆ユニークID
カードや通信機器に割り振られた固有の番号のこと。IDは基本的にユニークな番号であることがほとんどであるが、本稿では、重複しない番号であることを強調する意味で「ユニークID」と記述した。[参照元へ戻る]
FeliCa
ソニーが開発した非接触ICカードの技術方式の名称。FeliCa技術を使ったICカードは、タッチするだけで改札を通れる定期券・プリペイドカード「Suica」としてJR東日本が採用しているほか、多くの企業が採用している。[参照元へ戻る]
bluetooth
2.4 GHz帯域を用いる無線伝送方式。パソコン、周辺機器、携帯電話などに搭載が進んでいる。ノキア、エリクソン、インテル、東芝、IBMの5社によって1998年に結成された業界団体「Bluetooth SIG」によって仕様が策定されている。[参照元へ戻る]
◆ハイテク・スタートアップス
先端的な技術シーズを基に革新的な製品・サービスを提供し、高い成長性が期待される新規創業企業。[参照元へ戻る]
◆スタートアップ開発戦略タスクフォース
大学・公的機関が有する特許等の技術シーズを基に、成長指向が強く、社会的にインパクトのある創業に取り組むためにベンチャー開発戦略研究センターに設置された組織。
スタートアップ・アドバイザー(ビジネスモデルの構築から創業後の経営面のサポートまでを一貫して行う事業企画のエキスパート)のトップダウン・マネジメントの下で、ハイテク・スタートアップスの創業に必要な追加的研究を支援するために、産総研の研究ユニットに研究開発費を提供する。[参照元へ戻る]


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