発表・掲載日:2004/09/29

産総研・農水独法「ASEANバイオマス研究開発総合戦略」の策定に着手

-広島発国際研究、アジアのバイオマス資源の有効利用を目指して!-

ポイント

  • ASEAN諸国には膨大な量のバイオマス資源があるが、これまでに十分に利活用されてこなかった。
  • このバイオマス資源の効果的な利活用を図るため、オールジャパン体制を構築し、ASEAN諸国の研究機関と協力して、同地域のバイオマス資源利活用に取り組む「ASEANバイオマス研究開発総合戦略」の調査研究を開始した。


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、これまで主唱してきた「バイオマス・アジア戦略」の一環として、タイ、ベトナム、マレーシアなどのASEAN諸国に豊富に存在するバイオマス(生物)資源の利活用を推進するために、独立行政法人 国際農林水産業研究センターをはじめとする農林水産省所管の5研究機関等と共に、科学技術振興調整費を活用し、「ASEANバイオマス研究開発総合戦略」策定のための研究に着手した。

 ASEANに存在する未利用バイオマス資源は日本の一次エネルギー消費量に匹敵するほど膨大と言われているが、正確な賦存量、分布、形態など不明な部分が多い。一方、我が国のバイオマスの利活用技術は、日本の特許出願が世界の特許出願件数の半数を占めている、ことに見られるように高いレベルにある。また、バイオマスのような資源は、収集、運搬、変換、利用といった一貫した流れの中で、効率的に利用することが重要であり、様々な関連分野の研究者や技術者の連携が必要である。今回、上記研究機関の他、大学や財団法人、企業といった多様な機関が参加する体制を構築し、ASEAN諸国の研究機関とも連携しながら、ASEANに賦存するバイオマス資源量、資源種、利用技術などの調査やワークショップの開催を通して、ASEANバイオマス研究開発総合戦略を策定するとともに、その下で、生産、収集、変換などの共同開発プログラム、技術、研究、政策分野の人材の交流プログラムなどを提唱していく予定である。



バイオマスとは

 バイオマスとは、樹木、草、海草、農産廃棄物、林産廃棄物などの大量に存在する生物資源のことであり、その燃焼等で発生する炭酸ガス量は木が枯れバクテリアで分解され発生する量と同等であるため、地球温暖化の炭酸ガス排出量にカウントする必要の無いカーボンニュートラルな再生可能エネルギーであり、地球温暖化防止の意味でも今後の有効利用が大いに期待されている。樹木が古くから燃料として使用されてきたのは周知のとおりであり、バイオマスは、燃焼利用だけでなく、エネルギー変換技術により、エタノール、メタンガス、バイオディーゼル燃料などの輸送できる燃料を作ることができる。これらの物質をいかに効率的、経済的に作りだすことができるかが、最近の研究開発の課題である。また、バイオマスのような資源は、収集、運搬、変換、利用、の一貫した流れの中で、効率的に利用することが重要であり、様々な関連分野の研究者や技術者の連携が不可欠である。 

研究の背景

 我が国では、平成14年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、国内のバイオマス資源の利活用の取り組みが始まっているが、我が国のバイオマス資源は、消費一次エネルギーの数%にとどまると言われている。一方、アジア、特にASEANに存在する未利用バイオマス資源は我が国の一次エネルギー消費量に匹敵するほど膨大と言われており、これを効果的に利活用できれば、ASEAN諸国にとって、新規バイオマス産業創成、農林業・農村経済活性化、化石資源消費削減、温室効果ガス削減、廃棄物有効利用などの効果が期待できる。また、我が国にとっても、循環型バイオマス資源の確保、CDMクレジット、エネルギーセキュリティー、地球環境保全への貢献、欧米の知的財産・国際標準化戦略への対抗、などの効果を期待することができる。このためには、ASEAN諸国の研究機関と連携し、(1)ASEAN地域におけるバイオマス資源の賦存量、利用可能量の調査、(2)各種のバイオマス資源に対するエネルギー変換、マテリアル変換などのASEAN地域に適合した利用方法の検討、(3)バイオマスを利用することによる環境影響や経済効果の評価、を行う必要がある。

研究の経緯と体制

 本研究プロジェクトのように、バイオマス資源の有効利用のためには、生産、収穫、変換、利用までの、いわゆる上流から下流までを幅広く考慮した取り組みが必要である。従って、エタノール製造などの変換技術分野(我が国の技術力は、欧米に比較して遜色なく、特許出願数では欧米を凌駕している)や作物育種・生産や森林資源の育成およびバイオマス資源解析の技術など、幅広い技術分野の研究機関の参加、協力が不可欠である。

 産総研の中国センター【所長 矢部 彰】、循環バイオマス研究ラボ【ラボ長 佐々木 義之】および国際部門【部門長 松尾 隆之】は、農林水産省所管の研究機関と昨年12月からバイオマス合同研究会を開催(本年7月に第4回を開催)し、協力関係を構築してASEANバイオマスの有効利用方法に関する議論を重ね、問題点を明らかにしてきた。また、バイオマス技術の実用化に向けて、昨年11月から中国経済産業局と共同で民間企業(約20社)の参加を得て中国地域バイオマス協議会を運営し、情報交換の場を構築するとともに、新しいビジネスの創出を模索している。さらに、本年3月には、産総研中国センターは、中国経済産業局および中国地域産学官コラボレーションセンターと共同で、国際フォーラム「バイオマス・アジア戦略」を開催した。

 以上のような多種な研究機関同士の相互協力の基で議論してきた結果、ASEAN地域のバイオマス資源の有効な利活用を可能とする研究開発課題を提案することができ、本年度の文部科学省の科学技術振興調整費「我が国の国際的リーダーシップの確保」の新規テーマ「ASEANバイオマス研究開発総合戦略」(研究代表者:佐々木義之産総研循環バイオマス研究ラボ長、平成16年度予算総額5千万円)として採択され、ASEANのバイオマス資源の利活用に本格的に取り組むことになった。本テーマは、3年の研究期間で、産総研が中核機関となり、農林水産省所管の独立行政法人 国際農林水産業研究センター、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構、独立行政法人 農業工学研究所、独立行政法人 食品総合研究所、独立行政法人 森林総合研究所と国立大学法人 東京大学、財団法人 地球環境産業技術研究機構が参加し、実施される。

 ASEAN諸国の研究機関については、これまでに、例えば以下の研究機関への訪問、招聘などにより交流を行ってきたが、本研究開発プロジェクトの実施により、今後一層協力関係を強化していくことになる。

Thailand Institute of Science and Technological Research (TISTR) タイ国科学技術研究所(タイ)

National Center for Genetic Engineering and Biotechnology (NSTDA) 国立遺伝子工学・バイオテクノロジーセンター(タイ)

Vietnamese Academy of Science and Technology (VAST) ベトナム科学技術アカデミー(ベトナム)

Forest Science Institute of Vietnam (FSIV) ベトナム森林研究所(ベトナム)

University of Science Malaysia (USM) マレーシア科学大学 (マレーシア)

Forest Research Institute Malaysia (FRIM)  マレーシア森林研究所 (マレーシア)

研究の内容

 本プロジェクトでは、ASEANに賦存するバイオマス資源量、資源種、エネルギー変換技術、マテリアル変換技術、および環境影響評価等の調査を行う。次いで、最適変換システム、社会システム、新規産業創生、経済性等を調査検討する。また、調査や国際ワークショップを通じてASEAN諸国の関連機関との協力関係を一層強化する。ワークショップは毎年1回開催し、本年度は、2005年1月20~21日、茨城県つくば市で開催することになっている。次年度以降は東京開催の予定である。

 上記調査やワークショップ開催により、ASEAN中核機関との連携を深め、今後の技術開発課題、政策課題および社会システム課題などを検討し、ASEANに賦存するバイオマスの利活用のシナリオを明らかにする。さらに、本研究開発プロジェクトの狙いである、ASEANバイオマス研究開発総合戦略を策定し、その戦略を基本に据えて、生産、収集、変換などの共同開発プログラム、技術、研究、政策分野の人材の交流プログラムなどを策定する計画である。



用語の説明

◆エネルギー変換技術
バイオマスに熱や圧力を加えたり、空気や水蒸気などのガス化剤と反応させたり触媒を用いてバイオマスの反応性を制御したりして、バイオマスをエネルギーに変えるプロセスのことで、燃料ガスの他に、メタノールなどが合成される。[参照元へ戻る]
◆バイオマス・ニッポン総合戦略
我が国のバイオマスの利活用を強力に推進するために、政府が2002年12月に閣議決定した政策であり、バイオマス利活用に関するいくつかのシナリオを描き、それぞれに合わせた目標を設定している。[参照元へ戻る]
◆CDM (Clean Development Mechanism) クレジット
CDM(クリーン開発メカニズム)は、先進国が途上国において共同で温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、そこで得られた吸収分あるいは削減分を先進国がクレジットとして獲得し、自国の温室効果ガス削減量に充当できる仕組み。京都議定書に規定される柔軟性措置の一つ。[参照元へ戻る]


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