発表・掲載日:2004/08/04

レーザー・プラズマ加速で単色電子ビームの発生に世界で初めて成功

-超小型加速器の実現に向けて-

ポイント

  • 超小型・移動可能な21世紀の加速器として期待されるレーザー・プラズマ加速器で、世界で初めて、単色電子ビームの発生に成功
  • 約0.5ミリメートルの長さのプラズマから、7MeV(1 MeV:百万電子ボルト)の単色電子ビームの発生に成功、電子がプラズマ波によって加速されていることも証明
  • 将来は、医療用小型加速器の開発や、現在は飛行場程もある基礎研究用の大型加速器も数百分の一から千分の一程度の大きさに小型化が可能に

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長 大和田野 芳郎】と、独立行政法人 放射線医学総合研究所【理事長 佐々木 康人】(以下「放医研」という)重粒子医科学センター 加速器物理工学部【部長 山田 聰】は、「レーザー・プラズマ加速」実験装置で、単色の超短パルス・高エネルギー電子ビームの発生に世界で初めて成功した。

 単色の超短パルス・高エネルギー電子ビーム(単色電子ビーム)は癌診断や治療などの医療分野や、化学反応の超高速現象の解明や制御などに不可欠な技術として期待されている。従来、単色電子ビームは、高電圧やマイクロ波を使った加速器によって発生させ、高精度医療実験や高速化学反応実験などで試験的に使われてきた。しかし、従来の加速器は、飛行場並みの巨大設備になる上、高電圧、大電力を必要とするので取り扱いが難しく、医療分野や産業分野の現場で本格的に利用することが難しかった。

 レーザー・プラズマ加速器は、従来の加速器とは全く違う原理に基づいており、高エネルギー加速器を桁違いに超小型化することが可能である。レーザー・プラズマ加速器では、レーザーとプラズマの相互作用によって電子ビームの加速を行うため、原理的に金属表面の絶縁破壊による加速勾配の制限がなく、従来の加速器の数百から千倍程度の加速勾配(単位長さ当りの加速エネルギー)を作ることができる。これにより、加速器の長さを従来の数百分の一から千分の一程度にできるため、世界各国で研究開発が行われている。しかし、これまでのレーザー・プラズマ加速器では、特定のエネルギーだけを有する電子ビーム(単色電子ビーム)の発生ができなかった。医療や産業へ応用する場合、電子ビームにいろいろなエネルギーが混在すると、不要なエネルギーの電子ビームを切り捨てる必要があり、エネルギーを選別する装置と切り捨て用の遮へい装置、副次的に発生する高エネルギー放射線の遮へいが必要になる。これにより装置全体が大型化するため、レーザー・プラズマ加速器の実用化は目処が立たないでいた。

 産総研と放医研は、これまでよりも一桁程度高い、1立方センチ当たり1020個(室温で約10気圧の空気の密度に相当)の電子密度のプラズマに、2テラワット(1テラワット:1兆ワット)の超高強度レーザーを50フェムト秒(1フェムト秒:千兆分の1秒)間照射して、約0.5ミリメートルの長さのプラズマから、7MeV(1 MeV:百万電子ボルト)のエネルギーを持つ単色電子ビームの発生に成功した。またプラズマの計測により、電子がプラズマ波によって加速されている証拠を捉えることにも成功した。

 レーザー・プラズマ加速器からの単色電子ビームの発生は、従来その実現が疑問視されていたが、今回の成功は、レーザー・プラズマ加速器の実用化に向けた大きな一歩である。



研究の背景

 加速器は基礎科学だけでなく医療や産業でも有用であるが、高額であるばかりか施設も大規模であり、どこでも、誰でもが手軽に使えるという状況には無い。しかし、従来の加速器とは全く違う原理で加速器を動作させることによって、高エネルギー加速器を桁違いに超小型化することが可能である。

 その方法の一つとして期待されているレーザー・プラズマ加速器では、加速器の構造を従来の金属製の電極に代えて(電離気体である)プラズマを使い、マイクロ波に代えてもっと周波数の高いプラズマ波を使うことによって、電気絶縁の破壊による制約が無くなり、このことによって、レーザー・プラズマ加速器は、従来の加速器の数百から千倍程度の加速勾配(単位長さ当りの加速エネルギー)を作ることができる。つまり同じ加速エネルギーのビームを作る場合に、加速器の長さを従来の数百分の一から千分の一程度にすることが可能である。

 駆動用のレーザーも集積化が進んでおり、現在では10テラワット級のレーザーでも数メートル四方に納まる大きさである。小型化に伴い加速器の開発サイクルが短縮され、価格も桁違いに下がり、利用の普及が進むことが予想される。

 レーザー・プラズマ加速の最近の研究では最高エネルギーが、600MeVまで達する実験報告がされているが、低いエネルギーから高いエネルギーまでのすべての成分を含んだ電子ビーム(いわゆる、白色のビーム)しか得られていなかった。実用化に当っては、単色電子ビームが必要なため、いろいろなエネルギーが混ざったビームから必要なエネルギービームを選別する装置を通して残りの不必要なエネルギーのビームは捨てる事になり、無駄が多いばかりでなく危険な高エネルギー2次放射線が出ることになる。単色電子ビームを発生できるレーザー・プラズマ加速器が実現されれば、高品質の高エネルギービームが手軽に得られるようになるので、米国をはじめ世界各国で開発競争が行われている。

研究の経緯

 産総研では(旧工業技術院 電子技術総合研究所の時代、1993年から)加速器の超小型化を目指して、超高強度レーザーパルスとプラズマの相互作用、及びその応用に関する基礎的研究を行なってきた。本研究は、原子力委員会の評価に基づき、文部科学省原子力試験研究費「超高強度レーザーによる高エネルギー粒子・放射源に関する研究(平成12~16年度)」、及び放医研(他の参加機関:東京大学、京都大学、大阪大学、広島大学、高エネルギー加速器研究機構、日本原子力研究所関西研究所)との共同研究で、医療応用のための「小型加速器開発事業」により実施されたものである。

研究の内容

 レーザー・プラズマ加速器の原理は、高密度の超音速ガスジェットの中にレーザーパルスを照射すると、レーザーパルスはガスをプラズマ化しながら突き進み、プラズマに高速で進む電子の疎密波(プラズマ波)をたてるため、プラズマ波に捉えられた電子が前方に押し出されるように加速され電子ビームとして放射されるものである【図1参照】。

レーザー・プラズマ加速器の模式図と加速の原理図

図1 レーザー・プラズマ加速器の模式図と加速の原理。高密度ガスジェットに超高強度レーザーパルスを照射する。レーザーパルスはプラズマを作りながら進み、プラズマの中に電子の疎密波(プラズマ波)をたてる。プラズマ波に捉えられた電子は、前方に加速されて、電子ビームとして放射される。

 しかしながら、レーザー・プラズマ加速器では、個々の電子がプラズマ波の斜面の何処にあるかによって加速エネルギーが違う(波乗りのタイミングが違う)ので、発生する電子ビームには、いろいろなエネルギーの電子が入り混じることになり、特定エネルギーのビーム(単色電子ビーム)だけを発生することは不可能ではないかと考えられていた。

 今回の単色電子ビーム発生の成功は、従来のレーザー・プラズマ加速器で使うプラズマよりも一桁程度高い1立方センチ当たり1020個(室温で約10気圧の空気の密度に相当)の電子密度のプラズマに、2テラワットの超高強度レーザーを50フェムト秒間照射し、約0.5ミリメートルの長さのプラズマで得られたものである。発生した単色電子ビームは、7MeVのエネルギーを示し【図2参照】、また、単色電子ビームが得られるのは、プラズマ波の信号が現れる時だけであることを見出した【図3参照】。

レーザー・プラズマ加速実験で得られた電子ビームのエネルギースペクトル図

図2 レーザー・プラズマ加速実験で得られた電子ビームのエネルギースペクトル。

プラズマによってレーザービームの前方に散乱された光のスペクトル図

図3 プラズマによってレーザービームの前方に散乱された光のスペクトル。1040nm付近のピークは、プラズマ波の存在によって変調を受けて発生した成分で、単色電子が加速されている時だけ現れる。

今後の予定

 レーザー・プラズマ加速器は、加速器本体を従来の数百分の一の大きさにできるだけでなく【図4参照】、電子ビームを曲げる大きな電磁石が不要なので、加速器として高効率である。また、レーザー・プラズマ加速器であれば、大出力のマイクロ波も不要なので、これまでよりも簡単に単色電子ビームを得ることができるようになる。

 今回の成功は、高エネルギー発生装置である加速器の小型化のみならず、誰もが安全で安心して取り扱えるレーザー・プラズマ加速器実現への大きな一歩であり、医療応用や超高速化学反応の解明や制御などへの応用を促進すると考えられる。今後は、更なる高度な電子ビーム応用のために、より高いエネルギーで単色性に優れた電子ビームを発生するための研究開発を行う予定である。

将来は、大きな加速器も普通の住宅並みの大きさにできるようになり、一般の病院では高度診断装置や治療装置として設置できるようになるイメージ図

図4 将来は、大きな加速器も普通の住宅並みの大きさにできるようになり、一般の病院では高度診断装置や治療装置として設置できるようになる。また、大学などでも研究室で高エネルギー加速器を持てるようになる。
レーザーの集積化が進めば、現在のレントゲン車に代わって、放射光並みの高品質X線ビームによる高精度の移動健診が出来る。


用語の説明

◆単色電子ビーム
エネルギーがそろったビームのこと。光学の用語からきた。光は波長(エネルギー)によって、違った色に見える。太陽光のようにあらゆる波長(エネルギー)の光が混じった光を「白色光」という。それに対して、レーザーのような単一波長(単一エネルギー)の光を「単色光」という。[参照元へ戻る]
◆マイクロ波
周波数が非常に高い電磁波(電波)のこと。波長が短いことから極超短波ともいう。身近なところでは、テレビやレーダーの電波に使われ、家庭では電子レンジにも使われている。周波数が高い方が電気絶縁の破壊にも強いので小型加速器を作ることができるが、大電力のマイクロ波を作る事が難しくなる。加速器ではクライストロンという大型の真空管を使ってマイクロ波を発生する。[参照元へ戻る]
◆加速器
粒子を光の速さに近い速度まで加速して、エネルギーを増加させる装置のこと。電気を帯びた粒子を電気的な力で加速する。電気的な力の発生方法によって、様々な方式がある。どのような方式でも、狭いところに非常に高い電圧をかけると、雷のような電気絶縁の破壊によって装置が壊れてしまうので、従来の加速器では小型化には限界がある。加速器の超小型化のためには、絶縁破壊の限界を超える必要がある。[参照元へ戻る]
◆レーザー・プラズマ加速器
強力なレーザーパルスでプラズマの中に、光の速さで進む静電気を帯びた電子の大波を立てる。静電気の波にタイミング良く乗った電子は、波乗りと同じように、ほぼ波の速さまで加速されることを利用した加速器のこと。レーザー・プラズマ加速器の加速度は、現在の加速器の百倍以上にできるので加速器の超小型化が可能になる。そのために、レーザー・プラズマ加速器は21世紀の加速器として期待されている。レーザー・プラズマ加速の原理は、田島俊樹博士(現:原子力研究所関西研究所所長)とドーソン教授(現:カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)によって、30年程前に提案されていたが、原理実証はレーザー技術が発展するまで、その後約10年待たなければならなかった。原理実証の後、最高エネルギーと加速勾配(加速の強さ)の進歩はあったが、エネルギーが単色でないことが最大の問題であった。[参照元へ戻る]
◆加速勾配
ある、決まった長さで得る加速エネルギー。加速勾配が大きいと同じ長さの加速器では大きなエネルギーのビームを作り出せるし、ある必要なエネルギーのビームを作る場合には短い(小さい)加速器で済む事になる。加速勾配の大きさは、従来型加速器では絶縁破壊による制約から、1センチメートル当たり百万電子ボルト程度である。レーザー・プラズマ加速では1センチメートル当り十億電子ボルトにできる。[参照元へ戻る]
◆超高強度レーザー
出力が1テラワット以上のレーザーを指す。時間が100フェムト秒以下の長さしかないためにエネルギーは小さく、大きさは数メートル四方と、比較的小型である。現在では、サイズもほとんど変らない20テラワットのレーザーが市販されている。反射鏡(レンズと似た働きをする)で絞ると、焦点の明るさは1平方センチ当たり1018ワット(1兆の百万倍ワット)より強くできる。この強力な明るさによって、物質は瞬時にプラズマになり、その中の電子は、ほぼ光速で飛び回り、相対論的な運動をする。[参照元へ戻る]
◆電子ボルト
エネルギーの単位。電子を1ボルトの電圧で加速した時の電子の運動エネルギーが1電子ボルト(eV)であり、1.6×10-19ジュールに相当する。百万電子ボルトの電子は光の約95%の速さである。[参照元へ戻る]
◆プラズマ波
プラズマ中の電子の疎密波のこと。プラズマは陽イオンと電子の混合気体であり、電子に比べてイオンは桁違いに重たいので、短い時間では、イオンは止っているとして電子だけの動きを考えれば良い。プラズマの中に電子が排除された(または集められた)部分が出来ると、静電気が作る力によって電子が引き寄せられる(または反発される)。その繰り返しによって、電子の濃い部分と薄い部分が、プラズマ中を伝わって行く。つまり、静電気の波が伝わって行く。[参照元へ戻る]
◆高エネルギー2次放射線
高エネルギー粒子が物質にぶつかって発生する(目的外の)放射線。主に、遮へいが困難な、高エネルギーのガンマ線や中性子線などが発生する。[参照元へ戻る]
◆超音速ガスジェット
高圧ガスの流れを、ロケットのノズルのように、いったん細く絞ってから直径を徐々に広げてゆくと、ガスの流速は音速を越え超音速になる。超音速の流れでは、ガスの流速はガスが横方向に広がる速さ(音速)よりも大きいので、真空とガスの境界がはっきりとしたガス流を得る事が出来る。ガスの流速と音速の比を、マッハ数という。 [参照元へ戻る]


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