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発表・掲載日:2003/01/23

化学物質の出入りが自由自在なカプセル材料の開発に成功

-光により材料の出口を自在に開閉できる新ナノテク材料-

ポイント

  • ナノサイズの細孔が開いた固体材料の出入口に光で自在に開閉できる「ドア」を付けて、化学物質の出入りを制御することに成功!!
  •  多孔質固体材料内部からの化学物質放出を、光により自在に開閉できる有機物の「ドア」を細孔に取り付けることで制御することに世界で初めて成功した。この技術は、化学物質を欲しい時に欲しい場所で供給することを可能にし、例えば医療分野では、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)に応用されることが考えられる。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】の人間系特別研究体【系長田口隆久】は、固体材料内部の化学物質の出入りを、光により自在にコントロールできるカプセル状新材料の開発に成功した。固体材料としては、細孔(穴)の大きさがよく揃った(穴の直径は2~4ナノメートル:1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)シリカゲルで、その細孔の出口に、開閉可能な観音開き状の有機分子の「ドア」を施した。このドアは、ある波長の紫外線により閉まり、また別の波長の紫外線によって開くことができる。この材料によって、材料内部に化学物質をあらかじめ入れておいて細孔の出口の「ドア」を閉めておけば、その化学物質は材料外部へ放出されることはなく、貯蔵する事ができる。そして、この化学物質が必要となった時、光をあてることによって材料の外へと放出するような技術が可能となった。

 この新材料を用いれば、化学物質を必要な時、必要な場所で提供することが可能となる。化学物質の環境や人体への影響は多くの問題を起こしているが、この新材料を用いれば、化学物質による悪影響を大いに軽減することができると期待できる。応用が期待される分野としては、医療科学で近年注目を集めているドラッグ・デリバリー・システム(DDS)がある。例えば、抗ガン剤等の強力な薬物を投与する場合副作用が問題であるが、薬物を患部のみに運ぶことができれば、副作用をなくすことができる。今回産業技術総合研究所で開発した新材料を用いれば、薬物をあらかじめ投与した後、患部に光を照射することにより、その場所でのみ薬物が放出され、作用するというような技術が可能となる。産業技術総合研究所では、ステロイドホルモン類の放出を完全にコントロールできることを確認しており、実用化に期待を寄せている。また今回の新技術は、シリカゲル材料出口に有機分子により開閉自在な「ドア」を施して、貯蔵と放出をコントロールすることができることを見いだしたものであり、光以外の方法でも化学物質の放出をコントロールすることもできると考えている。

 本成果は、英科学誌ネーチャー【2003年1月23日号*】に掲載された。
*Nature, "Photocontrolled reversible release of guest molecules from coumarin-modified mesoporous silica" by Nawal Kishor Mal(ナワル・キショール・マル), Masahiro Fujiwara(藤原正浩) and Yuko Tanaka(田中裕子)


細孔(穴)の大きさがよく揃ったシリカゲル模型図  


細孔(穴)の大きさがよく揃ったシリカゲルの模型図
直径が2~4ナノメートルの穴が、蜂の巣のようにシリカゲル中にできている。
新材料を用いた化学物質の放出コントロール模式図


新材料を用いた化学物質の放出コントロールの模式図

  1. 細孔出口にある有機分子が結びついていない場合は、細孔の「ドア」が開いており、化学物質を内部に導入することができる。
  2. 光照射により有機分子が結合したため、細孔の「ドア」が閉じられ、化学物質は外部へと出ることができない
  3. 別の光を照射することにより、再び細孔の「ドア」が開き、内部の化学物質は外部へ放出される。



用語の説明

◆細孔(穴)の大きさがよく揃ったシリカゲル
界面活性剤のミセルを鋳型にして得られるシリカゲル体。1992年にモービル社が報告したMCM-41がその代表的な例。今回の研究においても、このMCM-41に光により開閉する有機分子の「ドア」を施して、新材料を開発した。[参照元へ戻る]
◆1ナノメートル
100万分の1ミリメートル[参照元へ戻る]
◆細孔
固体材料の内部にある穴。上記のシリカゲルでは、界面活性剤のミセル(直径2~4ナノメートルの棒状の化合物)に対応した一次元状の細孔ができている。したがって、細孔の直径は2~4ナノメートルとなる。細孔の大きさは、数ナノ(比較的単純な化学物質の内包に適している)~数十ナノメートル(タンパク質等の巨大分子の内包に適している)レベルであるならば、界面活性剤を変えることにより作り分けることができる。[参照元へ戻る]
◆光により開閉ができる観音開き状の有機分子による「ドア」
紫外線照射により二つの分子が合体(二量化)することができ、また別の波長の紫外線により合体した二量体が元の形に戻ることができる「クマリン」という化合物を含んだ有機分子を、上記のシリカゲルの細孔出口に結合させた。これにより、光で開閉する有機分子の「ドア」を細孔に設置することができた。[参照元へ戻る]
◆ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)
薬物(ドラッグ)をそれを必要とする部位(患部等)に選択的に運搬(デリバリー)する技術。現在のDDSは、薬物を体内でゆっくりと放出するものが主流である。この段階の技術でも、薬物の投与量・回数を軽減し、それによる副作用の低下は期待できる。しかしながら、今後のDDSは、必要な薬物を必要な患部にのみ運搬するターゲティング技術が求められる。光は集光がしやすく、照射時間も自由に制御できるため、内視鏡等を用いて患部へ直接光を照射することによる新しいターゲティングDDSへの展開が期待される。[参照元へ戻る]
◆ステロイドホルモン
ステロイドはステロイド骨格という有機化合物を含む化合物群を指し、多くのステロイド化合物は、生体の重要な化学物質である。代表的な例として、コレステロールや男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのアンドロステロン等がある。[参照元へ戻る]


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