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発表・掲載日:2002/04/04

超低消費電力「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の開発に成功

- グリッド構造を有し、わずか 4V の低電圧で動作に成功 -

ポイント

  • 「グリッド構造を有するカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の作製に成功。
  • わずか 4V ( 従来の 1/100 ~ 1/10 )の低電圧で電子放出が可能に。
  • 携帯機器対応の超低消費電力「フィールドエミッタ・ディスプレー」実現へ道を拓く。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】は、シリコンチップ先端からカーボンナノチューブを成長させたフィールドエミッタに、グリッド構造(電極)を形成し、わずか4Vの低電圧で電子放出をさせることに成功した。これは、従来のシリコンや金属を用いたフィールドエミッタより、1/100~1/10の低電圧である。これにより「フィールドエミッタを用いたフラットパネルディスプレー(フィールドエミッタ・ディスプレー)開発」において、低消費電力が必須の携帯機器用ディスプレーなどへの展開に突破口を開いたことになり、今後のさまざまな応用展開に大きく貢献するものと考えられる。

○従来のフィールドエミッタは高電圧が必要であった
 従来から提案されているフィールドエミッタは、電子を放出させる急峻な円錐状の形状を、シリコンに特殊なエッチングを行って形成したり、金属を斜めから廻転させて堆積して形成するという特殊な方法で形成している。これらの方法では、人工的な微細加工を用いていることにより急峻な円錐状の先端のサイズを20~30nm以下にすることは不可能であった。
 電子を放出させることができる電圧は、先端が急峻であればあるほど低くなるが、従来の20~30nmサイズのフィールドエミッタでは、電子を放出させる為に100V以上の電圧を印加する必要があった。

○従来の「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」は作製が困難であり、高電圧が必要であった
 この問題を解決する手段として、カーボンナノチューブを用いることが提案され、実行されてきた。カーボンナノチューブは直径1~10nmと極めて細く、エミッタ材料としては最適である。しかしながらカーボンナノチューブは、その形成位置の制御が極めて困難であり、従来は、糊にカーボンナノチューブを大量に混ぜ込み、これを基板に張り付けるという、とても原始的な方法でしかフィールドエミッタは実現されていなかった。この方法では、厳密なフィールドエミッタの素子構造の制御が困難であり、電子放出にはやはり ~100V以上の電圧を印加する必要があった。

○「グリッド構造を有するカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」を作製し、4Vで電子放出に成功
 産総研では、シリコンチップ先端にカーボンナノチューブを成長させる技術を開発し、更に、これに電子を放出し易くするグリッド電極を形成することにより、わずか4Vの超低電圧での電子放出を実現した。これは、従来のシリコンや金属を用いたフィールドエミッタと比較して、1/100~1/10になる低い電圧である。この「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」を、フラットパネルディスプレー等へ応用すると、従来に比べ1~2桁も低い消費電力での動作が可能となり、携帯機器への応用も視野に入ってきたと言える。


研究の背景

 フィールドエミッタは、先端の尖ったシリコンや金属先端に強電界を印加して、電子を放出させる素子である。この放出した電子を蛍光板に当てることにより蛍光板を光らせることができるため、フラットパネルディスプレー等への応用展開が期待されている。ところが、従来のフィールドエミッタは、シリコンや金属を人工的に尖らせるために、その先端径が20~30nmと大きく、その為 ~100V以上の電圧を印加しないと電子放出ができなかった。また、微細加工のばらつきにより、尖ったシリコンや金属の先端の作製は歩留りが悪く、フィールドエミッタの実用化への大きな妨げとなっていた。

 これらの問題に対して、カーボンナノチューブを用いることが早くから提案されていた。カーボンナノチューブは、直径が1~10nmという微細な構造であるためフィールドエミッタへの応用としては最適であると考えられてきた。しかしながら、そのあまりにも微細な構造の為に、取扱が非常に困難であり、特に応用に際して必要不可欠な場所の指定が極めて困難であるという問題を有していた。このため、従来は糊にカーボンナノチューブを大量に混ぜ込み、これを基板に張り付けるという、とても原始的な方法でフィールドエミッタが形成されてきた。しかしながらこの方法では、フィールドエミッタの厳密な素子構造の制御が困難であり、電子放出にはやはり ~100V以上の電圧を印加する必要があった。

 フィールドエミッタを実用化するためには、カーボンナノチューブの形成位置を正確に制御し、低電圧での電子放出を可能にすることが必要不可欠であった。産総研ではこれらの状況に鑑み、カーボンナノチューブを所定の位置に成長させる技術と、より低電圧での電子放出を可能にするためにグリッド電極を近接して形成する技術の研究開発を重ねてきた。

研究の内容

 産総研では、グリッド電極を有するシリコンチップ先端にカーボンナノチューブを成長させることにより、超低電圧動作可能な「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の開発に成功した。

《 構造 》

 図1に、「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の構造を示す。実際の素子は、1万個の「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」から成るが、図ではその内の1個の断面構造図を示す。構造は、先端の尖ったシリコンチップに、セルフアライメント的に金属で形成されたグリッド電極が近接して形成されている。このシリコンチップの先端に、触媒から成長した単層カーボンナノチューブが形成されている。シリコンチップの先端径は通常20~30nmであるが、特段急峻である必要はない。単層カーボンナノチューブの直径は1~2nmであり、シリコンチップ先端径と比較して1桁以上急峻な先端を有している。この非常に細いカーボンナノチューブの先端に近接してグリッド電極が形成されているため、僅かな印加電圧でカーボンナノチューブ先端の電界集中が非常に大きくなる構造になっている。

 

「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の1個のエミッタ断面構造図
図1 「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の1個のエミッタの断面構造図

 図2は、実際に作製した「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の電子顕微鏡写真である。図2(a)は、グリッド電極を上から観察したものである。グリッド電極に丸い穴が空いており、その中にシリコンの尖ったチップが見えている(斜めから撮影した為に、穴の中心とシリコンチップ先端の中心が少しずれて見えている)。このシリコンチップ先端を拡大して観察したものが、図2(b)である。シリコンチップの先端から1本のカーボンナノチューブが飛び出していることがわかる。このカーボンナノチューブが極細のフィールドエミッタとして働く。

グリッド構造電子顕微鏡写真
(a)グリッド構造の電子顕微鏡写真(平面図)
 
シリコンエミッタ先端に成長したカーボンナノチューブ電子顕微鏡写真
(b)シリコンエミッタ先端に成長したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真
 
図2「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」

《 作製方法 》

 

作製方法は、通常のシリコン・フィールドエミッタとほとんど同じであるが、カーボンナノチューブを成長させるプロセスが付加される。1万個の円形にパターニングした酸化シリコン薄膜をマスクに、シリコンをプラズマエッチングしてシリコンチップを作製する。ついで、円形酸化シリコン薄膜をマスクに、酸化シリコン膜を堆積させ、更にグリッド電極用の金属を堆積させる。円形酸化シリコン薄膜をエッチングで取り去ることにより、グリッド電極を有するシリコンエミッタが形成できる。ついで、全面に、カーボンナノチューブを成長させる触媒金属を堆積させ、グリッド電極上の触媒のみをエッチバック法により取り去る。最後に、試料を熱化学気相成長炉に入れてカーボンナノチューブを成長させる。シリコンチップ先端にカーボンナノチューブが成長し、「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」が完成する。

《 電気特性 》

 図3は、「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の電気特性を測定したものである。真空中において、グリッド・エミッタ間に電圧を印加し、その際に「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」より放出される電子による電流を、測定したものである。低電圧では、閾値電界に達していない為に電子が放出されず電流は流れないが、印加電圧が ~4V付近から電子が放出され始め、電流が流れ始めることがわかる。この電流が流れ始める電圧は、従来のシリコンや金属のエミッタと比較して、1/100~1/10になる低い値である。これは、「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の先端の直径が従来構造のものと比較して1桁以上細いことと、位置を正確に制御してカーボンナノチューブを成長させるのでグリッド電極を近接して形成できることができ、低電圧でも電子放出に必要な高い電界が「カーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」先端に集中するためである。

 以上のように、シリコンチップ先端にカーボンナノチューブを成長させ、かつ、グリッド構造を近接して形成することにより、わずか 4Vという低電圧で電子の放出に成功した。

「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の電流-電圧特性の図
図3「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の電流-電圧特性( わずか4Vの低電圧から電子放出することが可能になった )

今後の展開

フィールドエミッタは、フラットパネルディスプレーの有力候補とされながら、その動作電圧が100V以上必要なために、携帯機器には対応できないとされていたが、本技術が開発され、わずか 4Vという低電圧での電子放出が可能なことが証明されたことにより、今後、携帯機器も含めたフラットパネルディスプレーへの応用展開が、ますます盛んになることが期待される。

カーボンナノチューブ平面テレビの図
 
将来イメージ カーボンナノチューブ平面テレビの特徴の図


用語の説明

◆カーボンナノチューブ
炭素でできたグラファイトのシート状の層を、直径数nmの円筒状に巻いた構造を有するチューブ。一層の物を単層カーボンナノチューブ(SWNT)、同心円状に何層も入れ子になった物を多層カーボンナノチューブ(MWNT)という。[参照元へ戻る]
◆フィールドエミッタ(フィールドエミッタ・ディスプレー)
先端を急峻に尖らせたシリコンや金属先端に強い電界を印加して電子を放出させる素子。この放出した電子を蛍光面に照射することによりディスプレーとして用いることができる。フラットパネルディスプレー等への応用展開が期待されている。[参照元へ戻る]
◆グリッド構造(電極)
エミッタに近接して設けることにより、エミッタから電子を引き出したり、止めたりする制御を行う電極。[参照元へ戻る]
◆電子放出
金属表面に強い電界がかかると、金属内の自由電子が量子力学的トンネル効果で真空中に放出される。この現象を電界電子放出といい、電子顕微鏡などに応用されている。電界電子放出を生じさせるためには、1cm当たり数十MV(メガボルト)の高電界が必要となる。このような高電界を発生させるためには、非常に細い先端を持つ金属針が要求されるが、カーボンナノチューブ先端の曲率半径は、数nm-10nmと非常に小さいので電界電子放出に適した材料といえる。[参照元へ戻る]
◆nm(ナノメートル)
1mmの100万分の1。[参照元へ戻る]
◆閾値(しきいち)
ある系に注目する反応をおこさせるとき必要な作用の大きさ・強度の最小値。[参照元へ戻る]


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