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発表・掲載日:2002/03/25

層間絶縁膜用低誘電率材料(ボラジン-ケイ素ポリマー)を開発

- 超大規模集積回路(ULSI)の高集積化・高速化を促進 -

ポイント

  • 画像認識型携帯情報端末などを実現するための、次々世代半導体規格達成に道を拓く。
  • 簡便な塗布法(スピンコート)で薄膜化でき、電気的(比誘電率2.1以下)特性に優れる。
  • 有機絶縁膜のハードマスク材料として、回路線幅70ナノメートルに対応可能な配線技術に目処。
  • 微細加工(エッチング)工程で地球温暖化ガスを使用しない多層配線技術に目処。
  • 半導体絶縁膜材料としての優れた耐熱性、機械的特性に加え、光学的特性も併せ持つ新材料。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 環境調和技術研究部門【部門長 春田 正毅】内丸 祐子 主任研究員は、「ボラジン」と「ケイ素化合物」とが交互に連結されたネットワーク構造のポリマー(ボラジン-ケイ素ポリマー)【図1】を合成することに成功し、技術研究組合 超先端電子技術開発機構【理事長 町田 勝彦】(以下「ASET」という)井上 正巳 主幹研究員との共同で、薄膜化し、超大規模集積回路(ULSI)半導体デバイスの多層配線層間絶縁膜材料への適用を検討した結果、次々世代半導体規格を実現する為に必要な比誘電率2.1以下を示すことを実証した。【図2】

 さらに、本材料を絶縁層のハードマスク材として用いて低誘電率有機高分子材料の加工を行うと、次々世代半導体規格である配線線幅70ナノメートル(10万分の7ミリメートル;現行の工業製品の規格は200ナノメートル)の配線技術に必要な層間絶縁層の実効的誘電率2.7を実現できることも実証した。

 くわえて、本材料の微細加工(エッチング)工程では、地球温暖化ガスであるフロン系ガスを必要としないので、環境に優しい脱フロンの半導体プロセスの実現も期待される材料である。

 なお、本材料は、半導体絶縁膜材料として電気的特性、耐熱性、機械的特性に優れているだけでなく、光学的特性も併せ持つ新材料であり、光学材料としての用途も期待される。

 本研究成果は、2002年4月1日から米国サンフランシスコで開催される「米国材料学会“2002 MRS Spring Meeting”」及び2002年6月に米国で開催される「国際半導体技術フォーラム“International SEMATECH Ultra Low k Workshop”」で報告される予定である。

ボラジン-ケイ素ポリマーの図

ボラジン-ケイ素ポリマーをハードマスクとして有機ポリマー絶縁層のエッチングを実証の図


研究の背景

 より高度な情報化社会を実現するためには、ULSI半導体デバイスの高集積化・高速化が不可欠である。そのためには、ULSIで使用している多層配線用の層間絶縁膜を低誘電率化して、配線間に蓄積される電気容量を低減させることが必要であるが、従来の材料やプロセスでは、次世代・次々世代半導体規格に対応できなかった。

 ULSI半導体デバイスの高集積化のためには、半導体基板の上に何層も配線を形成する多層配線技術が用いられる。その上で、高速化を図るための配線材料としては、現在のアルミニウム・銅合金よりも抵抗の低い銅を用いる方法が検討されつつあるが、多層配線間の層間絶縁膜については、従来の素材の性能を大きく凌ぐ新規高性能絶縁膜の開発によるブレークスルーが望まれてきた。しかし、比誘電率の低い有機高分子材料でも、従来用いられている無機材料でも、次々世代半導体規格の実用化に必要な諸条件を満たす材料は未だ開発されていなかった。

 また、現行の層間絶縁膜を用いる微細加工プロセスでは、地球温暖化係数の非常に大きいフロン系ガスが大量に使用されており、地球環境保全の面からもフロン系ガスを必要としない新規な層間絶縁膜材料やその微細加工技術の実現が望まれている。

研究の経緯

 産総研では、有機ケイ素ポリマーなど有機無機ハイブリッド系の環境調和型新規材料の創製技術を開発してきた。一方ASETでは、次世代半導体開発におけるフロン系エッチングガスの使用量を削減したプロセスや、フロン系エッチングガスを用いない多層配線技術を開発してきた。

詳細内容

○半導体集積回路の高集積化・高速化のために、低誘電率高分子材料を用いる新規高性能絶縁膜の開発が望まれている。

 多層配線間の層間絶縁膜材料として従来用いられてきた無機材料(シリコン酸化物系など)を用いて、回路の配線線幅を現行の200ナノメートルからより細くするためには、多孔質化により密度を下げて低誘電率化を図ることが必要となり、そのために機械的強度が低下することが問題である。また、現在、検討されている比誘電率の低い有機高分子材料は、耐熱性や機械的強度が劣るので実用化に至っていない。これらの諸条件を満たす材料を早期に開発することは、次々世代ULSIを製造するための必須課題である。

○簡便な塗布法(スピンコート)で薄膜化でき、比誘電率特性に優れる。

 産総研では、世界で初めて、「ボラジン」と「ケイ素化合物」とが交互に連結されたネットワーク構造のポリマーを開発した。このボラジン-ケイ素ポリマーをASETと共同で薄膜化し、絶縁膜材料として検討したところ、本材料は次々世代半導体の層間絶縁膜材料として必要な2.1以下の比誘電率を示すことが実証された。

○優れた機械的特性、耐熱性、光学的特性も併せ持つ新材料。

 

 本材料をナノインデンテーション法で評価したところ、硬度1.0ギガパスカル、弾性率15ギガパスカルと、絶縁膜の実用に耐える機械的特性を示した。また代表的な耐熱性有機高分子材料であるポリイミドと、本材料の耐熱性を比べても、本材料は空気中で1%重量減少温度が405℃、5%で564℃(ポリイミドはいずれも400℃台)と十分に高い安定性を有する。さらに、本材料の屈折率1.46(観測波長633ナノメートル)は、光学材料として幅広く利用されているポリメチルメタクリレートの1.51よりもさらに小さな値であった。半導体絶縁膜材料としてのみならず、光学材料としての用途も期待される。

○有機絶縁膜のハードマスク材料としても理想的。

 本材料は、有機高分子絶縁膜と比較して水素・窒素混合ガスを用いたプラズマエッチングでのエッチング速度が十分に遅い(代表的な有機高分子絶縁膜材料の一つであるSiLK(ダウ・ケミカル社)に対して、本材料は1/7以下のエッチング速度)。そこで本材料を有機絶縁膜の上に塗布して、エッチング試験を行ったところ、ハードマスク材としても有用であることが確認された。本材料は比誘電率4のシリカなどの無機材料に比較して比誘電率も大幅に低く、フロン系ガスをエッチングガスに用いることもないので、絶縁膜としてのみならず、理想的なハードマスク材料としても期待される。

○半導体微細加工(エッチング)工程での地球温暖化ガス使用量の削減に貢献。

 現行使われている層間絶縁膜のエッチングプロセスでは、地球温暖化係数が大きいフロン系ガスが大量に使用されており、フロン系ガスを必要としない新規な層間絶縁膜材料やプロセスの実現が望まれている。本材料は、塩素ガスで4000 Å/minという実用的な速度でエッチングされることが実証された。塩素ガスは、現行のプロセスで金属配線のエッチングガスに用いられており、回収技術が確立している。これにより、フロン系ガスをまったく使用せずに製造できる環境に優しい脱フロンの多層配線技術の構築に道を拓くものである。

今後の予定

 今後、このボラジン-ケイ素ポリマー材料のさらなる比誘電率の低減と機械強度の増強に向けて、分子構造の最適化と保存安定化の検討を行うとともに、本材料を用いた集積化技術(インテグレーション)を開発し、さらに配線試験を行い、実用化を推し進める。



用語の説明

◆次々世代半導体規格
米国半導体協会、電子情報技術産業協会等の世界五極(日本、米、欧、韓国、台湾)の機関が共同で発表している世界半導体技術ロードマップ(International Technology Roadmap for Semiconductors, ITRS)がある。1999年から公表され、最新版は、2001年に発表された。2006年の予定配線幅(約100ナノメートル)の多層配線では、絶縁層全体の実効的誘電率が2.6~3.1となる層間絶縁膜等の材料が必要とされている。ULSIの設計・製造技術の目標として、全世界のLSIメーカや製造装置メーカが長期的な製品計画を立てる上での参考にするなど、大きな影響力がある。[参照元へ戻る]
◆塗布法(スピンコート)
高分子などの溶液を、高速で回転させた基板の中心に落として、遠心力によって均一に薄膜化させる方法。この他の薄膜形成法として、気相成膜法(CVD法;Chemical Vapor Deposition)がある。[参照元へ戻る]
◆比誘電率
絶縁物(誘電体)の特徴を示す物質定数で、絶縁物の誘電率と真空の誘電率との比を比誘電率という。ULSIの電気的信号の遅れは、配線を取り巻く絶縁物の比誘電率に比例するため、なるべく小さい比誘電率値をもつ絶縁膜材料の開発が必要である。[参照元へ戻る]
◆ハードマスク
集積回路の絶縁膜として有望視されている有機系高分子は、微細パターンを転写するためのレジスト材料と組成が似ているために、エッチングの際にレジスト材と絶縁膜を区別して反応させることが難しい。そこでレジストと有機系高分子絶縁膜の間に、この両者と反応性が異なる層を設ける必要がある。これをハードマスクと呼び、通常はシリコン酸化物(シリカ)膜やシリコン窒化物膜など、フロン系ガスでのエッチングが必要なセラミックスを用いる。[参照元へ戻る]
◆微細加工
ULSIの多層配線技術では、金属層(配線)と絶縁層を交互に基板上に薄膜化し、それぞれの薄膜を100ナノメートル以下の微細な配線形状に、三次元的に加工する。代表的な微細加工技術として、これらの膜上に塗布した高分子材料(レジスト)に、光やレーザ-などを照射して反応させ、膜上に微細パターンを転写する「リソグラフィー」と、このレジストパターンをマスクとして、マスクに覆われていない部分の膜をプラズマ活性種で彫り込んで、微細な形状の溝を作る「エッチング」がある。金属膜の加工には、塩素ガスに電気的放電を行って形成したプラズマ中で生成するイオンやラジカルを活性種とする。絶縁膜の加工にはフロン系ガスを用いるプラズマ生成種を用いる。[参照元へ戻る]
◆機械的特性(機械的強度)
ULSI用の薄膜は、化学的または物理的に磨いて平坦化する工程に耐えるような強度を必要とする。絶縁物の比誘電率が高い場合、多数の空孔を導入する多孔質化によって、膜全体の比誘電率の低減を図ることが多いが、そのために機械的強度も低下してしまうことが問題となっている。機械的強度の測定方法として、測定しようとする薄膜に微小な針を一定荷重で押し付けて、針のへこみ具合から薄膜の機械的強度、硬さ等の物性値を算出する、ナノインデンテーション法は、よく利用される測定方法の一つである。[参照元へ戻る]
◆ボラジン
ホウ素と窒素が交互に結合し、連なった六員環化合物。窒化ホウ素の原料。[参照元へ戻る]
◆ケイ素化合物
ケイ素原子に有機基や酸素原子、窒素原子、ハロゲン原子などが結合した化合物。今回用いたのは、シロキサンやカルボシラン化合物と呼ばれるもの。[参照元へ戻る]
◆超大規模集積回路(ULSI)
チップと呼ばれる大きさ十数ミリメートル四方のシリコン基板上に、抵抗やトランジスタ等の数多くの回路素子を相互に配線した小さな電子回路を、集積回路(IC:Integrated Circuit)と呼ぶ。個々の素子は、内部では薄い金属や半導体の膜によって接続され、他の回路から絶縁層によって絶縁されている。集積回路(IC)、大規模集積回路 (LSI)、超大規模集積回路 (ULSI)などとも呼ばれ、今日の電気製品、通信機器等の小型・高性能化には、ULSIの開発による小型化が大きく寄与している。[参照元へ戻る]
◆多層配線
多数のトランジスタで構成され、高集積化の進んだULSIデバイスでは、各トランジスタを結びつけて機能させるように配線する必要がある。シリコン基板上に絶縁膜を介して金属配線層を数層形成したもの(現在の最先端デバイスでは5~6層)を多層配線という。【図3[参照元へ戻る] 図3:ULSIの多層配線技術
◆層間絶縁膜
シリコン基板の上に何層もの配線を形成する多層配線技術では、各層の配線および同層内の配線を電気的に絶縁するために、層間絶縁膜で配線を被覆する。集積回路の高速化には、トランジスタ間を接続する配線抵抗と、配線間に蓄積される電気容量を低減させることが必要で、電気を貯めにくい性質(低誘電率)の絶縁膜の導入が進められている。層間絶縁膜材料として、電気特性の他に、製造プロセス時の高温に耐えられる耐熱性、平滑化のための研磨工程に耐えられる機械強度、さらに配線金属の拡散を防止する効果等を兼ね備えなければならない。[参照元へ戻る]
◆実効的誘電率
それぞれの物質は固有の誘電率を持っている。しかし、集積回路のように幾層にも重ねられた複合体の誘電率は、層間絶縁膜やハードマスクなどの複数の層からなる構造を考慮して求める必要があり、これら用いた絶縁膜全ての寄与をうけた誘電率の値を、実効的誘電率と呼ぶ。ハードマスクなどに用いるセラミックスは比誘電率が大きいので、比誘電率の小さい有機系高分子を層間絶縁膜に用いた場合も、実効的誘電率は大きな値になってしまう。ハードマスクの低誘電率化も開発課題の一つとされている。[参照元へ戻る]
◆フロン系ガス
ULSIの微細加工として、現行の層間絶縁膜であるシリコン酸化物(シリカ)などをエッチングするために用いられるフロン系ガスは、炭化水素の水素原子を全てフッ素原子に置き換えたパーフルオロカーボンガス(PFC)で、代替フロンの一種である。PFCは地球温暖化効果が二酸化炭素ガスの1万倍もあるため、地球温暖化防止京都会議の京都議定書の採択事項として、2010年を目処にその排出量を大幅削減することが国際目標となった。[参照元へ戻る]
◆ナノインデンテーション法
薄膜の機械的特性を評価する方法の一つ。測定しようとする薄膜に微小な針を一定荷重で押し付けて、針のへこみ具合から、薄膜の硬さや弾性率などの物性値を算出する。[参照元へ戻る]
◆重量減少温度
物質の耐熱性を示すためによく用いられる指標の一つ。窒素ガスや空気を流しながら、室温から1000℃程度まで徐々に微量の物質を加熱していき、一定の重量減少が起きる温度で示す。1%重量減少温度、などと用いる。[参照元へ戻る]
◆集積化技術(インテグレーション)
集積回路の製造技術において、微細加工技術や多層配線技術など、全ての技術を総称したもの。個々の工程を重ねていくことで生じる課題を一つ一つ克服し、集積回路として機能するように作製する技術を集積化技術(インテグレーション)と呼ぶ。[参照元へ戻る]


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