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発表・掲載日:2001/11/08

ナノチューブを利用して新超硬度相カーボンプレートの合成に成功

-常温加圧でダイヤモンド匹敵の新超硬度相を世界で初めて製造-

ポイント

  • 単層ナノチューブの電子配置に着目
  • 単層ナノチューブの常温高圧処理で新超硬度相を発見
  • 硬度は、ダイヤモンドに匹敵
  • 体積弾性率は、ダイヤモンドを越える
  • 常温加圧なので大量合成法の開発に期待がもてる

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)新炭素系材料開発研究センター【センター長 飯島 澄男】は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)委託による「炭素系高機能材料技術研究開発」において、財団法人 ファインセラミックスセンター【会長 佐波 正一】(以下「JFCC」という)と共同でナノチューブの新超硬度相を発見した。

 ダイヤモンドは物質中最も硬い絶縁体材料であるが、今回、ナノチューブを常温加圧処理することにより、電気伝導性を有する最も硬い超硬度材料を合成・開発することに成功した。これまで「黒鉛を高温・高圧下でダイヤモンドに変換すること」は知られていたが、今回は、単層ナノチューブを用いて、常温で高圧にすることにより極めて硬度の高い新しい超硬度材料が実現した。

 試料は、直径サイズが1.2~1.3nmの単層ナノチューブのバンドル(束)を用いた。加圧は、歪み変形を付加できるダイヤモンドアンビルセルを用いて行った。54GPaまでの加圧において、14GPaと19GPaでは中間相が見出され、さらに24GPa以上で新超硬度相が発見された。硬度の測定は、いろいろな高圧試料の硬度測定結果と比較することによって行った。結果として、単層ナノチューブを高圧化して得られた新超硬度材料(高圧化ナノチューブ材料)の最高硬度が、ダイヤモンドの硬度に匹敵しており、超硬度物質に変換されたことが明らかになった。

 なお、高圧化ナノチューブ材料の体積弾性率は、462~546GPaを得た。これは、ダイヤモンド体積弾性率420GPaの値を凌ぐものである。

 高圧化ナノチューブ材料は、熱伝導特性も期待され、適用分野としては、SAW素子用基板、加工用チップ、工具、トライボ材料、ヒートシンク等が挙げられる。

 本研究は、JFCCのMichael Popov博士研究員、京谷 陸征 博士、産総研新炭素系材料開発研究センター 古賀 義紀 副センター長により行われたものである。



研究の背景 ・経緯

 ダイヤモンドは、自然界に存在する物質の中で最も硬いことが知られている。多くの研究者は、ダイヤモンドの硬さを凌駕する物質合成に挑戦してきた。1986年にカリフォルニア大Cohenらにより、理論計算上β-C3N4(窒化炭素)が最も硬いことが予測されてきたが、現在までにその実験的証明は成されていない。

 また、これまでに「黒鉛を高温・高圧(1500℃、5.5万気圧以上)にすることでダイヤモンドに変換されること」は知られている。

 我々は、単層ナノチューブのバンドルに常温で高圧をかけて、ダイヤモンドの硬さを越える超硬度相の探索を行った。通常、単層ナノチューブを合成すると、100本程度のバンドル状で合成される。単層ナノチューブは、曲率をもつため、電子がチューブの外側に多く存在している。このため、高圧をかけることにより、バンドル中の単層ナノチューブの1本1本がお互いに接近し、黒鉛の場合に比べて強い相互作用が生じることが予測される。我々は、歪み変形を掛けられるダイヤモンドアンビルセルを製作し、その中に単層ナノチューブのバンドルを入れ、常温で24GPa以上の条件で超硬度相を発見した。

成果の内容

 試料は、直径サイズが1.2~1.3nmの単層ナノチューブのバンドルを用いた【写真1】。加圧は、歪み変形を付加できるダイヤモンドアンビルセル【写真2/図1】を用いて54GPaまで加圧した。14GPaと19GPaで圧力ギャップがあり、中間相が見出され、さらに24GPa以上で新超硬度相が発見された。【写真3a】は、54GPaの圧力をかけたあとの試料の走査型電子顕微鏡写真である(【写真3b】は顕微鏡写真)。電子顕微鏡写真からはもはや単層ナノチューブの特徴的な形態は観察できない。この54GPaまでの圧力をかけた試料をダイヤモンドアンビルセルから取り出し、ナノインデンター硬度測定法を用いて硬度測定を行った。その結果を【図2】に示した。

 試料サイズは、20ミクロンと極めて微小であり、測定の精度を上げるため、既知物質の単結晶を用いて比較測定した。用いた参照試料は、ダイヤモンド(100)面、cBN(立方晶窒化ホウ素)の(100)面及び(111)面の3個の結晶と溶融石英である。測定の結果、ナノチューブの高圧化試料の硬度は、cBNの(100)面の硬度(62GPa)とダイヤモンド(100)面の硬度(150GPa)の間に分布した。cBN(111)面は、70GPaの硬度を示した。多くの高圧試料の硬度測定より、高圧化された単層ナノチューブの最高値は、ダイヤモンドの硬度に匹敵しており、超硬度物質に変換されたことを確認した。その上で、硬度は62GPa~150GPaであると決定した。

単層ナノチューブのバンドルのSEM像の写真
写真1:単層ナノチューブのバンドルのSEM像(高圧処理前)
ダイヤモンドアンビルセルの写真
写真2:ダイヤモンドアンビルセル
ダイヤモンドアンビルセル中心部分の概観図
図1:ダイヤモンドアンビルセル中心部分概観図
単層ナノチューブのバンドルのSEM像の写真
 写真3a:単層ナノチューブのバンドルのSEM像(54GPaの圧力処理後)
  試料の顕微鏡写真画像
写真3b:試料の顕微鏡写真
 
ナノインデンター硬度測定結果の図
図2:ナノインデンター硬度測定結果
● :SP-SWCNT(超硬度ナノチューブ相)
□:ダイヤモンド        (100)面150GPa
+:cBN(立方晶窒化ホウ素)(111)面 70GPa
○:cBN(立方晶窒化ホウ素)(100)面 62GPa
△:溶融石英                 12GPa

今後の予定

 今回の研究成果は、単層ナノチューブを常温で高圧(24万気圧以上)にして、超硬度相の合成に成功したことであるが、今後は、結晶化の研究をさらに進め、精密硬度測定、結晶X線回折、結合状態(EELS)測定、電気伝導度測定等を行い、その構造と物性をさらに明確にしたい。また、大量合成法を開発し、適用分野への開発研究を実施していきたい。



用語の説明

◆単層ナノチューブ
カーボンナノチューブは、チューブの壁の枚数により単層ナノチューブと多層ナノチューブに分類されている。単層ナノチューブは、壁が1枚のグラフェンシート(黒鉛の1枚のシート)をロール状に丸めたものである。単層ナノチューブは、通常、レーザー蒸発法やアーク法などを用いて触媒となる金属を使用して合成するが、バンドル(束)状で生成される。[参照元へ戻る]
◆ダイヤモンドアンビルセル
アンビルとは、台座のことであり、静的手段による小型の超高圧発生装置である。アンビルとして1対のダイヤモンド単結晶を対向させ、その間に試料を挟んで加圧する。加圧はネジの手締めで行う。試料は、6mm x 8mm 厚さ0.2mmの金属プレートの小孔中に入れ、ダイヤモンドの台座(平面部直径0.3mm)で上下から挟み込む。試料を入れた小孔セルの内部の圧力は、試料中に分散させたルビーの蛍光測定から求められる。[参照元へ戻る]
◆GPa
圧力のSI(国際単位系の別称)単位。
1Pa(パスカル)=1N/m2=1/133Torr
1GPaは、10Paである。従って1GPaは、約1万気圧。[参照元へ戻る]
◆体積弾性率
等方性弾性体に一様な圧力(p)を加えると比例限界内では、体積がp/kの割合で減少する。kを体積弾性率と呼ぶ。体積弾性率は、物質に力を与えたときの変形を現す指標であり、硬さの指標ともなっている。[参照元へ戻る]
◆SAW素子
個体の表面を伝わる波動である“弾性表面波(Surface Acoustic Wave)”を利用した通信素子。従来の電気回路素子と比べ小型、軽量、高性能であり、携帯電話などの移動体通信をはじめとする、電子・通信の多くの分野で重要な技術として注目されている。[参照元へ戻る]
◆ヒートシンク
冷却用放熱器/吸熱器。熱の発生体である半導体素子からの熱を周囲の冷たい流体(気体、及び液体)に移す働きをしている。この働きから半導体からの熱を沈めるもの(Heat Sink)という意味に通じている。[参照元へ戻る]
◆曲率をもつ
曲率とは、曲線または曲面上の各点における、その曲線または曲面のまがりの程度を示す値。曲率半径の逆数で示す。曲率が大きいほど湾曲は大きくなる。
単層ナノチューブは、一枚のグラファイトシート(グラフェンシート)を丸めて得られるものであり、単層ナノチューブの表面は、曲面をもつため、曲率を有する。[参照元へ戻る]
◆ナノインデンター硬度測定
薄膜や微小サイズ試料の硬度測定ができる。ダイヤモンドの圧子(Berkovichindenter)は、先端部が鋭い三角錐の形状をしている。荷重をかけ、試料への深さを測定し、荷重-深さ曲線から硬度を測定する。[参照元へ戻る]



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