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発表・掲載日:2001/04/19

金属酸化膜を用いて光トランジスター効果を確認

-局在プラズモン光を応用、光デバイスの小型薄膜化が可能に-


概要

 独立行政法人産業技術総合研究所(吉川 弘之 理事長)の次世代光工学研究ラボと、共同研究企業6社(シャープ(株)、TDK(株)、ミノルタ(株)、パイオニア(株)、パルステック工業(株)、日本ビクター(株))は、「スーパーレンズ」と呼ばれる超高密度光記録用に開発された特殊な光ディスク構造に、光入力信号を増幅・制御できる「光トランジスター」特性が存在することを発見した。

 実験では、局在プラズモン光を発生できる「光散乱型スーパーレンズ・ディスク」をDVD相当の高速度で回転させながら、赤色光レーザーと青色光レーザーをディスクを挟んで対向方向に入射した。赤色レーザーでは読み出せない微小マーク列を記録膜に記録した後、このマーク列が記録されたトラック上に双方のレーザースポット(スポット径はそれぞれ、0.6ミクロンと0.4ミクロン)位置を制御して交差させた。青色レーザー・パワーを僅かに信号変調し、赤色レーザー光を1.5mWと3.5mWのパワーで増減させると、最大で60倍程度の光信号増幅効果が確認できた。従来の光トランジスターでは、光ファイバー内で信号増幅することが多く、小型化が困難であったが、スーパーレンズ構造を用いれば、厚さ100ナノメーター程度の多層薄膜内で光増幅が可能となり、今後の研究次第では、光デバイスの小型・薄膜化に利用されるものと期待される。

 この結果は4月23日付、Applied Physics Letterに掲載される。

注:「スーパーレンズ(Super-RENS)」は、Super-Resolution Near-field Structure(超解像近接場構造)の略称。「光散乱型スーパーレンズ」は、酸化銀膜の可逆分解過程で生じる銀粒子にプラズモン光を発生させて微小マーク信号を読み出すことを目的として開発された光ディスク。



従来の光トランジスター研究

 代表的な光増幅器としてレーザーが知られているが、レーザーは電気エネルギーを光に変換し増幅するものである。これとは別に、光信号を光によって増幅する技術、いわゆる「光トランジスター」の技術は、今後、光スイッチ等に広く利用されるものと期待されているが、光学非線形効果を利用した光ファイバー内での増幅が研究が主流となっている。光ファイバーを用いる光トランジスターの増幅感度を上げるためには、ファイバー長を稼ぐ必要があるが、このため増幅器本体が大きくなり、電子デバイスのような集積化が困難となる。電子デバイスのように、光デバイスの集積化は、将来の光コンピューターなどの実現には欠かせない技術である。

本研究の内容

 産業技術総合研究所では、「スーパーレンズ」と呼ばれる局在光を用いた超高密度光記録を1998年から独自に研究してきた。スーパーレンズは、従来の光技術では読み出すことができなかった微小な記録マークを、「近接場光」と呼ばれる伝搬しない特殊な光を用いて可能にした技術である(図1)。

スーパーレンズの構造図
 

 本研究は現在、民間企業6社との共同研究体制の下で研究開発が行われている。本研究を通して、スーパーレンズ内部に発生する「局在プラズモン光」、「表面プラズモン光」と呼ばれる特殊な光の特性が次第に明らかにされてきた。特に、スーパーレンズ・光ディスクに記録された記録マーク列(通常はDVD-RAM等で利用されている「相変化記録」マーク)に発生する「表面プラズモン光」は、個々のマーク長が小さくなるほど、レーザーのスポット内に蓄積されることがわかっている(図2)。「表面プラズモン光」は、その巨大な電場増強効果を利用して、DNAセンサーや分子センサーに応用されている技術であるが、光ディスクからの信号増幅にも利用できることがスーパーレンズの研究から確かめられている。

相変化記録マーク列に蓄積される表面プラズモンのコンピューター・シミュレーション図
 

 我々の考案した光トランジスターの動作原理は、光ディスク内部に読み出せない程度の微小マークを記録した後、これとは別のレーザー光を記録マーク上に低パワーで信号入力し、「表面プラズモン光」を蓄積させると同時に、読み出しレーザーパワーを増減させ、数十ナノメートル離れて記録膜上に配置された酸化銀薄膜に光散乱体(レーザーパワーで可逆的に発生、消滅ができる)を発生させることによって、蓄積された信号をディスク外部に散乱させる。(図3)。

「プラズモン光」を用いた光トランジスターの原理図
 
 実験は、図3に示したように、赤色レーザー(波長635nm)と青色レーザー(波長405nm)を、「散乱型スーパーレンズ」と呼ばれる、酸化銀薄膜の分解過程によって「局在プラズモン光」を強く発生させる光ディスクを挟んで対向方向に配置した。それぞれのレーザー・ピックアップは、X-Y-Zに可動するステージに搭載され、DVDと同様にフォーカス、トラッキングをかけることができる。赤色レーザーで200nmの記録マーク列をトラック上に書き込んだ後、青色レーザーを同一トラック上に移動させ、周波数15 MHz(書き込んだ信号とほぼ同じ周波数)で1.5mW+0.1mWの変調信号を入力した。赤色レーザーの読み出しパワーを1.5mWと3.5mWの間で変化させると、スーパーレンズ・ディスクを透過してくる青色レーザーの信号強度が60倍程度増幅されることがわかった(図4)。
青色レーザーを1.5-1.6mWで変調したときの信号の図
 

 スーパーレンズ内部の、100nm程度の多層膜内部で「表面プラズモン光」を蓄積し、酸化銀を利用した「局在プラズモン光」と相互作用させることによって、光増幅が確かめられたことは、光デバイスの小型薄膜化が可能であることを示すものである。 (図5)。

小型薄膜化された将来の光デバイスの想像図

今後の課題

 今回の基礎実験は、高速で回転している光ディスクを用いた特殊な環境化で光トランジスター特性を得たが、実際には光導波路など組み合わせた実験が必須である。今後、産総研ではこうした実験を行い、光デバイスの小型薄膜化を現実のものとしていきたい。



用語解説

◆近接場光
物体表面にまとわりついた光。物体から離れるに従って強度は指数関数的に減少し、物体表面から100ナノメートル程度しか広がらないという特性をもつ。[参照元へ戻る]
◆スーパーレンズ
Super-Resolution Near-field Structure(超解像近接場構造)の略称。「光散乱型スーパーレンズ」は、酸化銀膜の可逆分解過程で生じる銀粒子にプラズモン光を発生させて微小マーク信号を読み出すことを目的として開発された光ディスク。[参照元へ戻る]
◆相変化記録
カルコゲン化合物とよばれる合金の結晶-アモルファス状態における光学特性の差を利用してデータを記録する方法。DVD-RAMで実際に利用されている。[参照元へ戻る]
◆表面プラズモン光
物体の表面でのみ伝搬する光。通常、プリズムや回折格子を用いた特殊な条件において発生する光。現在、DNAセンサーや、分子認識センサーの基本技術として利用されている。[参照元へ戻る]
◆局在プラズモン光
非常に微小な粒子や先端が尖った局所的な領域に存在する光。局在プラズモン光の増幅効果は、条件がそろえば数十億倍以上も可能。[参照元へ戻る]


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