受賞

2016/04/12

平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において産総研が3件の科学技術賞を受賞

冨岡文部科学副大臣 ご祝辞の写真
冨岡文部科学副大臣 ご祝辞

 平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という) は開発部門にて1件、研究部門にて2件、合計3件の科学技術賞を受賞した。
 この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として行われている。
 なお、授賞式は4月20日に文部科学省にて行われる予定である。


【開発部門】

 産総研 ナノチューブ実用化研究センター  
  畠 賢治 研究センター長
  湯村 守雄 首席研究員
  FUTABA DON NORIMI 研究チーム長
日本ゼオン株式会社
 荒川 公平 特別経営技監
 総合開発センター CNT研究所 上島 貢 所長
開発部門の受賞写真

「受賞業績: スーパーグロース法単層カーボンナノチューブの量産技術開発」
 日本で発見された単層カーボンナノチューブ(単層CNT)は、非常に優れた物理化学特性を有し、次世代の基幹素材として期待されているが、合成効率が極めて低かったため、いまだ本格的な工業用素材として商業生産されていない。
 本開発は、極微量の水分を合成雰囲気に添加することで、合成収率を従来の1,000倍改善し、高純度・長尺の単層CNTを得る合成手法(スーパーグロース法)を開発した。塗布触媒、連続合成、大面積合成技術などの基盤技術を開発し、スーパーグロース法の工業的量産プロセスを実現した。
 本開発により、スーパーグロース単層CNTの商業生産が実現され、CNTスーパーキャパシター、CNTゴム複合材材料を用いた医療福祉器具等の用途が相次いで実用化される。
 本成果は、スーパーグロース単層CNTの持つ優れた特性が、非常に多岐に渡り、かつ既知の材料を大きく凌駕する場合が多いため、応用範囲もエネルギー、環境、ITと多岐に渡り、素材面から我が国の産業競争力の強化に寄与している。



【研究部門】
 産総研 無機機能材料研究部門
  加藤 一実 首席研究員

「受賞業績: 溶液科学を基にしたナノクリスタル創製とデバイス化研究」
 ナノ粒子を用いた電子、化学デバイスは、粒子サイズの不均一性と表面欠陥層に起因した負のサイズ効果や不安定性のため、さらなる超小型・高性能化が難しく技術の壁に直面している。
 本研究では、精緻な溶液化学に基づき、前駆体構造の形成、界面活性剤を用いた結晶成長制御、極性・非極性場の安定化、溶媒蒸発が誘起する自己組織化を通して、形とサイズで特徴化したナノサイズ単結晶「ナノクリスタル」を合成し、高性能小型デバイス応用の指針を示した。
 本研究により、一辺15 nmで立方体状単結晶のチタン酸バリウムナノキューブが三次元的に規則正しく積み重なった集積膜が、ナノサイズの高品質単結晶とナノキューブ間に形成された疑似整合界面の相乗効果によって、チタン酸バリウム単結晶を超える誘電特性を示すことを明らかにした。また、一辺5 nmの酸化セリウムナノキューブの形状制御と集積により、ファセット気孔を含む多孔質構造の形成を確かめ、高温安定で高い酸素吸蔵能発現の可能性を示した。
 本成果は、電子セラミック素子、触媒部材をはじめとする広い産業分野において既存技術の延長線上にない跳躍を導くため、次世代技術の核として未来社会に寄与することが期待される。

加藤 一実 首席研究員の写真1
研究部門代表として冨岡文部科学副大臣より栄誉を授かる加藤 一実 首席研究員
  加藤 一実 首席研究員の写真2



湯浅 新治 研究センター長の写真

【研究部門】
 産総研 スピントロニクス研究センター
  湯浅 新治 研究センター長

「受賞業績:巨大トンネル磁気抵抗効果の研究」
 ノーベル賞技術である巨大磁気抵抗効果の発見により、磁気を用いて電気を制御する磁気抵抗効果の産業応用が可能となった。しかし、磁気抵抗効果の性能を表す磁気抵抗比が室温で数10 %しかないことが、応用上の深刻な問題となっていた。
 本研究では、結晶性の酸化マグネシウム(MgO)をトンネル絶縁膜に用いた新型のトンネル磁気抵抗素子を開発し、室温で約200 %に達する巨大なトンネル磁気抵抗効果を世界で初めて実現した。さらに、製造装置メーカーと共同でMgOと磁性合金CoFeBを組み合わせた量産技術を開発し、MgOトンネル磁気抵抗素子の産業応用を可能にした。
 本研究により、MgOトンネル磁気抵抗素子を利用した磁気センサー素子が実用化され、現在製造されている全てのハードディスク記憶装置(HDD)に用いられており、HDDの飛躍的な大容量化と低価格化、省電力化をもたらした。さらに、同技術を用いた不揮発性メモリSTT-MRAMも、近い将来の実用化が期待されている。
 本成果は、次世代IT機器の高性能化、電力消費の抑制、利便性の向上、および安全安心なIT社会の実現などに寄与することが期待される。
※本研究成果の一部は、科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の支援により得られたものである。