産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2008/04/01

「ナノチューブ応用研究センター」を設立
-世界をリードするナノチューブ材料の総合研究センターをめざして-

ポイント

  • ナノチューブ材料の実用化研究を総合的に推進するため、「ナノチューブ応用研究センター」を設立
  • 従来の産総研のナノチューブ材料の研究開発を発展させ、21世紀のわが国の基幹材料として進化させる
  • 高強度構造材料、電子材料からバイオ材料まで幅広い分野への応用と産業化を推進

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、つくばセンターに「ナノチューブ応用研究センター」【研究センター長:飯島 澄男】を4月1日に設立しました。

 産総研ではこの7年来、ナノカーボン研究センターならびに界面ナノアーキテクトニクス研究センターにおいて、ナノチューブ材料(カーボンナノチューブ有機ナノチューブ等)の製造技術、および世界最高性能計測・分析技術を独自に開発してきました。本研究センターでは、新産業創生で期待されるナノ構造体の代表であるナノチューブ構造に着目し、これまで産総研で開発してきたカーボンナノチューブと有機ナノチューブを主軸とし、高機能性を付加した上で、その用途開発を進めるほか、ナノチューブ材料の国際標準化にも貢献していきます。わが国の新たな産業育成に貢献するとともに、世界をリードするナノチューブ材料応用開発に関わる総合研究センターへ発展させます。

ナノチューブ応用研究センター設立の概要図

背景

 ナノテク素材は既存の材料にはない優れた特性を有するために高い期待が持たれています。とくに、カーボンナノチューブや有機ナノチューブ等のナノチューブ材料は高強度部材、薬剤の包接用材料等として社会・産業界から高い期待が寄せられていますが、低コスト化などが大きな課題となっていました。これまでに産総研では、ナノチューブ材料の大量生産技術の開発に世界に先駆けて成功しており、その結果、ナノチューブ材料の潜在的高機能性を発揮できる応用開発に対して、そのさらなる進展に注目が集まりつつあります。

経緯

 産総研発足以来の7年間において、ナノカーボン研究センターにおいては、スーパーグロース法流動気相成長法等の単層カーボンナノチューブの大量合成法の開発に成功し、電子材料応用等への産業化に向けて大きなブレークスルーをもたらしました。一方、界面ナノアーキテクトニクス研究センターにおいては、両親媒性分子などの自己集合を利用した有機ナノチューブの大量合成技術の開発に成功してから、ナノバイオ応用関連企業から大きな期待を集めています。産総研では、ナノチューブという特異的な構造の持つ潜在的なポテンシャルの高さに注目し、その能力を最大限に発揮する材料の開発、ならびにその応用領域を拡大することを目的として、異種材料の研究者の参画のもと新研究センターを設立することとなりました。

内容

 本研究センターでは、これまで産総研において開発してきたカーボンナノチューブと有機ナノチューブを主軸として、高機能性を付加し、それらの用途開発を進めるほか、ナノチューブ材料の国際標準化においてイニシアティブを発揮し、わが国の新たな産業育成に貢献する研究を行います。

 具体的には、以下の研究開発を行います。

  1. ナノチューブ材料の実用化・産業化
    ナノチューブ大量合成技術のさらなる高度化をベースとして、カーボンナノチューブでは電子材料、高強度構造材料等に向けた応用開発を、有機ナノチューブでは薬剤包接材料等に向けた応用開発を進めます。
  2. ナノチューブ複合材料の創製・実用化
    カーボンナノチューブ、有機ナノチューブ、両材料の接点として、ナノチューブの化学加工や複合化をもとに、バイオ応用等をターゲットとする高機能性ナノチューブの開発を進めます。
  3. 世界最高性能計測・分析技術の確立およびナノ物質コーティング応用
    超高性能電子顕微鏡や光学的評価技術をベースとしたナノチューブ材料の計測・分析技術を確立するとともに、ナノ物質コーティング応用研究を進めます。
  4. ナノチューブ材料の標準化・リスク評価
    本研究センターの高純度・高品質ナノチューブ、および高性能計測・分析技術を用いて、ナノ物質の国際標準化におけるイニシアティブを発揮します。また、リスク評価においては産総研内外と連携して取り組みます。

 これらの研究開発により、わが国の新たな産業育成に貢献するとともに、世界をリードする炭素系から有機系までを網羅するナノチューブ材料の総合研究センターへの発展を目指します。

今後の方向性

 本研究センターでは、ナノチューブ材料を21世紀のわが国の基幹材料として進化させ、これらの材料の実用化・産業化において、世界に対し確固たる優位性を確保していきます。その上で、世界的共通課題であるエネルギー・環境問題、情報・通信分野、ライフサイエンス・医療分野などに大きく貢献するとともに、ナノチューブ材料の国際標準化にも貢献していきます。

用語の説明

◆カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)、長さがおよそ1~数10µmの一次元性のナノ材料です。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブと呼びます。グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりする特徴があります。[参照元へ戻る]
◆有機ナノチューブ
有機ナノチューブは、ある両親媒性分子が水中で自発的に集合することで形成される中空の繊維状構造体です。カーボンナノチューブが発見される前、1984年ごろ、日米の独立した3つの研究チームによって偶然発見されました。有機ナノチューブ形成では、自然界に存在する分子と似た構造を持つ分子が利用できるため、生体に対する適合性も高いと考えられています。[参照元へ戻る]
◆スーパーグロース法
単層カーボンナノチューブの合成手法の一種である化学気相成長法(CVD法)において、水分を極微量添加することにより、その合成効率を大幅に向上させた手法です。これにより、不純物が従来の1/2000の超高純度、従来手法の500倍の長さに達する単層カーボンナノチューブを得ています。[参照元へ戻る]
◆流動気相成長法
CVD法の一種で、触媒と反応促進剤を含む炭素原料をスプレー等で霧状にして加熱炉に導入することによって、一方向に流れるガス流中で単層カーボンナノチューブを合成する量産方法です。本手法はスケールアップが容易であることと、連続的運転が可能であることを特徴としています。[参照元へ戻る]
◆両親媒性分子
両親媒性分子とは、水に溶けやすい部分(親水部)と水に溶けにくい部分(疎水部)を一つの分子中に同時に持つ分子を意味します。例えば、石鹸分子は典型的な両親媒性分子です。石鹸水に油滴を入れよく振ると、石鹸分子がその疎水部を油滴に突き刺さるように、かつ親水部を外側に向けて球状の集合体を形成し、油滴全体を取り囲みます。こうして、油滴を水中で溶かすことができるので、汚れを水で洗い流すことができます。[参照元へ戻る]