お知らせ

お知らせ記事2007/07/13

「持続的社会を目指した科学技術に関する日中円卓会議」北海道洞爺湖で開催
-日中の科学技術有識者が、世界の持続可能な発展に向けて議論-

概要

 日中の科学技術関連有識者が相携えて、世界喫緊の課題である「循環型社会、持続可能な発展の実現」を目指して科学・産業技術の共通課題と方向性について議論するものである。参加者は、組織の代表ではなく個人として参加する。路甬祥・中国科学院院長かつ全国人民代表大会常務委員会副委員長が、有馬朗人・元文部大臣、吉川弘之・独立行政法人 産業技術総合研究所理事長に呼びかけ、この3名が発起人となり、第一回会議を昨年7月、中国・北京にて開催した。

 第一回会議では、このような重要な問題を議論するプラットフォームとして、本会議を継続的に開催することが提案され、第二回会議を本年7月11日(水)、北海道・洞爺湖で開催の運びとなった。

 第二回会議は、発起人の一人である吉川弘之が理事長をしている産業技術総合研究所が事務局を務めることとなった。日本側17名、中国側14名、計31名が集まり、洞爺湖畔の会場で9:00から18:00まで会議を行った。今回は、「循環型持続発展可能社会の構築」をテーマとし、ナノテク、バイオ、情報技術、産業経済の4分野における標記テーマへのかかわりについて議論を行った。それぞれの分野の専門家からの発表に続き活発な意見交換が行われた。標記テーマ実現のために日中が知恵を出し合い実践していくことが同課題を世界規模で解決するための模範を示すことになるという見解で一致した。
発起人3氏の写真

発起人3氏 左から、有馬元文部大臣、路院長、吉川理事長

社会的背景

 アジア地域においては、各国の経済発展に伴いエネルギー消費量は2030年には世界最大のエネルギー消費圏になると予想され(IEA予測:現在の約3倍。なお、中国の一次エネルギー消費は現在、世界全体の1割強を占め米国に次ぐ世界第2位の規模)、アジア、とりわけ中国の動向が世界のエネルギー問題に多大な影響を及ぼすことは明白である。また、地球環境については、中国は2030年頃には米国を抜き世界一のCO2排出国になると予想され(現在の中国の排出量の約3倍)、このままでは、2100年には途上国のCO2排出量は先進国の3倍に上昇するという試算もある。

 翻って、日本では、資源が乏しく、二度のオイルショックで苦しんだ経験から、世界に先駆けて省エネ技術を開発、省エネ社会を実現してきた。また、環境問題においては、水俣病に代表される公害に苦しみ、克服してきた経験から、環境にやさしい社会の構築を強く推進している。

 一衣帯水の隣国である日本と中国の、上記の状況を考えると、世界的に先進的な日本の省エネ技術、環境技術を中国に適用し、中国において省エネ社会、環境にやさしい社会を実現することは、中国のみならず、アジア、世界に対して大きな好影響をもたらすことが期待される。

開催経緯

 中国では、2006年から始まった第11次5カ年計画において、エネルギー効率の上昇、環境調和型社会の建設の重要性が謳われ、この実現のために隣国・日本の経験、先進的技術を導入することは非常に合理的であるとの考えを持っている。そこで、中国における最高学術機構・中国科学院の長である路甬祥院長は、長年の親交がある有馬朗人・元文部大臣、日本最大級の公的研究機関であり、中国科学院と2004年に包括協力協定を結んでいる産総研・吉川弘之理事長に呼びかけ、日中の科学技術関連有識者が相携えて、世界喫緊の課題である「循環型社会、持続可能な発展の実現」を目指して科学・産業技術の共通課題と方向性について議論する会議の開催を提案した。有馬、吉川両名がこれに応じ、参加者が組織の代表ではなく個人として参加するという形で、第一回「持続的社会を目指した科学技術に関する日中円卓会議」が2006年7月4日、中国・北京にて開催された。

 第一回会議では、日本側14名、中国側16名、計30名の有識者が集い、持続的発展を実現するためのエネルギー、材料、省エネ・低環境負荷型製造技術をテーマに、活発な議論を行った。そして、このような重要な問題を議論するプラットフォームとして、本会議を継続的に開催することが提案され、第二回会議を日本の北海道・洞爺湖で開催する運びとなった。

会議の内容

 発起人らによる「循環型持続発展可能社会の構築」への提言、および、ナノテク、バイオ、情報技術、産業経済の4分野において、各分野が当該目標実現にどのようにアプローチしていくか、について活発な議論が行われた。具体的には、主に下記の話題が提供され、これに関連した観点を中心に議論された。

  • 中国の第11次5カ年計画-中国が目指す未来は、調和の取れた発展、科学的発展観、イノベーションが支える発展
  • 省エネ・節約といった禁欲的考えだけでなく、新エネルギー開発など積極的な思考も大事
  • 使用後から設計するインバースマニュファクチャリングの提唱
  • 中国における当面の一次エネルギーは、石炭が最大、従って、クリーン・コール・テクノロジー(CCT)は重要
  • 太陽光発電やバイオマスなどの新エネルギー・再生可能エネルギーの開発、燃料電池、水素エネルギーの開発、石油起源の化学製品に替わるバイオマス材料、断熱ガラスなど省エネ材料の研究の重要性
  • アジアは世界最大の豊富なバイオマス資源を有する(世界の約4割)ため、アジア諸国のバイオマス利活用における連携はとりわけ重要(バイオマス・アジアの取り組み)
  • しかし、元来食糧や飼料に利用されるべきものをエネルギー資源に変換するのは本末転倒、食用に適さない部分、未利用物質の活用こそ推進すべき
  • 中国西部(乾燥地域)の貧困解消の鍵は、水と緑化、分散型エネルギー-タリム盆地の事例
  • 情報技術は、地球規模の災害予防や資源探査(GEO Grid)、鳥インフルエンザなどの感染症の予防、食品安全、CO2モニタリングなどにも有効
  • 植物の金属濃縮能力を利用した有用金属の探査
  • 省エネ型産業社会構造への転換の道筋
 これらの議論を踏まえ、標記テーマ実現のために日中が知恵を出し合い実践していくことが同課題を世界規模で解決するための模範を示すことになるという見解で一致した。

会議の写真

今後の展望

 「循環型社会、持続可能な発展の実現」という重要な課題について、目標を掲げ、その実現のために議論する場が必要で、本会議はそのためのプラットフォームとして将来も継続して開催することに意義があるとの見解の一致を見た。また本会議は、将来的には、目標がどれほど達成できているかの検証の場としての機能も果たすべき、との意見も概ね同意を得た。

参加者の写真