飯島澄男博士(NEC特別主席研究員、名城大学教授、科学技術振興事業団国際共同事業代表研究者、産業技術総合研究所新炭素系材料開発研究センター長)は、米国のフランクリン協会(The Franklin Institute, 米国フィラデルフィア州)より、2002年 の「ベンジャミンフランクリンメダル 物理学賞」(2002 Benjamin Franklin Medal in Physics)を受賞することになりました。
このたびの受賞は、「多層および単層カーボンナノチューブの発見、およびその原子構造とらせん状態の解明、これによるナノスケール科学と電子工学における凝縮物質と物質科学の急速な進展への著しい貢献」によるものです。
授賞式は2002年4月25日に、フィラデルフィア州にあるベンジャミンフランクリン記念ナショナル記念ドームで行われます。また、同時に受賞記念国際シンポジウムが開催されます。
「ベンジャミンフランクリンメダル」は、毎年、生命科学、工学、地球科学、化学、物理学、計算機・認知科学の6部門において、世界の優れた科学者、技術者を称えるもので、1824年から、同協会がフランクリンの遺産を元に授与しています。
フランクリン協会は1824年、凧を用いた雷の放電実験で有名なベンジャミン・フランクリンを記念して米国フィラデルフィア市に創設された非営利団体で、科学・技術の啓蒙・普及を目的として活発な活動を推進しています。
「ベンジャミンフランクリンメダル」は、1998年にそれまでの数々の「フランクリン協会賞」を統合、整理したものです。「フランクリン協会賞」の過去の受賞者には、古くは、マックス・プランク、アルバート・アインシュタイン、エドウィン・ハッブル、エンリコ・フェルミ、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテンが、最近では、エリック・コーネル、ウォルフガング・ケッタール、カール・ヴイーマン、ロバート・ラフリン、ホルストなどが挙げられます。
また、「ベンジャミンフランクリンメダル 物理学賞」受賞者には、シュトーマー、ダニエル・ツイ、ウィリアム・フィリップス、ビィーマン、セルゲ・ハロッケ、ハーバー・ウォルターなど、「ノーベル物理学賞」受賞者も多数名を連ねており、本賞は世界の物理学賞のなかでも特に権威の高いものとされています。日本の「フランクリン協会賞受」賞者には、外村彰氏(1999年「ベンジャミンフランクリンメダル 物理学賞」)、それ以前の江崎玲於奈氏(1961年)、有馬朗人氏(1990年)、の3名がいます。
なお、飯島博士は、2001年「欧州物理学賞」と、2002年米物理学会「ジェームス C. マックグラディ新材料賞」の受賞も決定しております。これらの授賞式も、2002年の3月から4月にかけて、それぞれ英国ブライトンと米国インディアナポリスで執り行われる予定です。
われわれ4団体はこれらの栄誉を励みとして、今後も、未来技術の種を創出する基礎研究成果の充実および、それらによる新技術領域の開拓を通じて人類への貢献に努めてまいります。
飯島博士は、高度な電子顕微鏡技術を駆使することでアーク放電された炭素電極の中から、炭素からなる新物質層、カーボンナノチューブを1991年に発見した。ナノチューブは、直径がナノメートルオーダーの円筒構造からなり、同じく炭素原子からなる黒鉛、ダイヤモンド(3次元構造)、グラファイト(2次元構造)、カーボン60(C60:0次元構造)に続く炭素の第4の形態である。飯島博士はナノチューブ構造の詳細な解析を通してナノチューブの成長や折れ曲がり構造発生のモデル提唱、ナノチューブの管内に異種物質が入り込む毛細管現象の発見、単層ナノチューブの合成を続けて行い、世界的な研究ブームを巻き起こした。科学的な研究のみならず、その特異な構造、物性ゆえに産業応用材料としての可能性を探る研究もカーボンナノチューブ発見以来、盛んに行われてきている。特にその微細形状と炭素材料を理由に高効率電子源としての可能性が注目され、これを利用したディスプレーの開発が各所で行われている。またその結晶完全性、極微細性を活かして超高強度材料、燃料電池、超高感度センサー、高分解能STMプローブ、触媒・吸着材料、薬品等への応用も期待されている。飯島博士は、NEC、名城大学、科学技術振興事業団、産業技術総合研究所にて現在も研究に取り組んでおり、同分野の世界的な牽引役を果たしている。飯島博士は、ナノチューブ発見で材料科学の基礎から応用にまで及ぶ新分野を開拓しており、科学界のみならず産業界にも大きなインパクトを与えている。
氏名: 飯島 澄男 (いいじま すみお)
生年月日: 1939年5月2日
現職:
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日本電気株式会社 NECラボラトリーズ 特別主席研究員
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名城大学理工学部材料機能工学科教授
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科学技術振興事業団 国際共同研究事業
「ナノチューブ状物質」プロジェクト 代表研究者
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独立行政法人産業技術総合研究所 新炭素系材料開発研究センター センター長
勤務地:
〒305-8501 茨城県つくば市御幸が丘34番地(NEC)
〒468-8502 愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501(名城大学)
〒305-8565 茨城県つくば市東1-1-1 つくば中央第5事業所(AIST)
学歴:
1963 電気通信大学通信学科卒業
1965 東北大学理学研究科物理学科修士課程修了
1968 東北大学理学研究科物理学科博士課程修了
経歴:
1968 - 1970 東北大学科学計測研究所助手(電子線干渉顕微鏡の実験)
1970 - 1982 米国アリゾナ州立大学研究員 (高分解能電子顕微鏡の開発と結晶材料研究)
(1979) 英国ケンブリッジ大学客員研究員 (非晶質炭素物質の電子顕微鏡観察研究)
1982-1987 新技術事業団(現 科学技術振興事業団)創造科学推進事業 林超微粒子プロジェクト 基礎物性グループ グループリーダー(超微粒子生成と電子顕微鏡による物性研究)
1987 - 現在 日本電気株式会社 NECラボラトリーズ 特別主席研究員
(1991カーボンナノチューブの発見)
1998 - 現在 科学技術振興事業団 国際共同研究事業 「ナノチューブ状物質」プロジェクト代表研究者
1999 - 現在 名城大学教授
2001 - 現在 独立行政法人産業技術総合研究所 新炭素系材料 開発研究センター センター長
専門分野:
固体物理、材料科学、電子顕微鏡学、結晶学
受賞:
1976 バートラム ワーレン賞(米国結晶学会)
1980 瀬藤賞(日本電子顕微鏡学会)
1985 日本結晶学会賞
1985 仁科記念賞
1986 科学技術庁長官賞
1986 応用物理学会論文賞
1989 伴記念賞
1996 朝日賞
1998 つくば賞
2001 米国物理学会フェロー
2001 石川カーボン賞
2001 アジレント欧州物理学賞
2002 マックグラディ新材料賞(米物理学会)
所属学会:
日本物理学会、日本応用物理学会、日本電子顕微鏡学会、米国物理学会、米国材料学会、米国顕微鏡学会
その他:
非常勤講師(東京大学、東京工業大学、東北大学、名古屋大学、筑波大学)
日本電子顕微鏡学会会長(2002-2003)
学術審議会 専門委員(1999-2002)
日本学術振興会茅基金運営委員会委員(1999-2002)
Nanostructured materials, Associate Editor
Ultramicroscopy, Advisory Editorial Board
Journal of electron microscopy, Advisory Board
学術発表誌:
Nature, Science, Physical Review Letters, Physical Review B, Acta Crytallography, J.Crystal.Growth, Solid State Chemistry, Appl.Phys.Lett.Japan.J.Apply.Phys., Chemical Physics Letters. など、
審査論文 190編