お知らせ

お知らせ記事2022/08/29

富士山噴火に備えて山梨県と産総研が連携・協力協定を締結
-大規模火山災害の軽減に向けた地方自治体と研究機関の連携体制を構築-

ポイント

  • 緊急調査・研究で取得した情報を地方自治体に迅速・的確に提供し防災対応に貢献
  • 地方自治体職員の防災対応力の向上に向けた取り組みを支援
  • 富士山の火山防災を対象とした、初めての地方自治体と研究機関の連携・協力ネットワーク

長崎山梨県知事と石村理事長の写真

長崎山梨県知事と石村理事長

概要

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)と山梨県は、富士山噴火に対応した地域の防災対応力強化に向けた連携・協力協定を締結しました。
本協定に基づき、産総研は、噴火発生時の緊急調査結果や研究成果の迅速な提供・活用ならびに地方自治体防災対応職員への技術研修などを通じて、富士山の火山防災に貢献します。
山梨県は本日、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という)とも、産総研と同様の協定を締結します。これにより、富士山を対象として、日本で初めて、火山防災対応に関する地方自治体および研究機関からなる連携・協力ネットワークが構築されることとなります。

図1 富士山の火山防災に対応した協力・連携ネットワークの概要

背景

富士山は、有史以来、活発な噴火活動を繰り返し、周辺地域に降灰や溶岩流、火山泥流などの火山災害を及ぼしてきました。江戸時代の噴火(宝永4年、1707年)から300年以上が経過し、今後新たな噴火活動の発生が危惧される日本を代表する活火山の一つです。
火山噴火は頻繁に発生する災害ではないため、災害対応のノウハウの発展・蓄積には、平時からの準備が肝要です。さまざまな地質災害の中でも、火山噴火は、長期間(例えば年単位で)継続し、その過程で被害を引き起こす災害要因の様相が変わっていくという特質があるため、防災対応では火山活動の変遷に対応した取り組みが求められます。しかし、火山噴火の活動推移を十分に把握する技術はいまだ確立されていません。
噴火発生時には、現実の災害に対してそれまでに蓄積してきた研究成果の適用を試みると共に、目の前で進行する噴火現象から学び、調査・観測手法や解析技術の確立に向けた研究開発を進めなければなりません。また、研究機関が提供する調査・観測情報を地方自治体が有効に活用するためには、地方自治体の職員が火山現象に対する理科学的理解を深めておくことも必要です。
さらに、富士山のような大型の活火山あるいは大規模な噴火対応においては、関係する複数の地方自治体・研究機関の連携体制の構築が重要となります。

協定締結の経緯

産総研 地質調査総合センター(以下「GSJ」という)は、地質に関するナショナルセンターとして、日本各地の火山噴火の地質調査を行い、その成果を気象庁の火山噴火予知連絡会や地元自治体に伝えてきた経験を有します。また、富士山地域で得た約20年間の研究成果をもとに、富士火山地質図(第2版)を平成28 年(2016年)に出版しているほか、火山に関する各種のデータベースを公開しています。これらの最新の科学的知見に基づき、職員(2名)が富士山火山防災対策協議会の富士山ハザードマップ(改訂版)検討委員会に臨時委員として参画し、ハザードマップの改訂作業に貢献するほか、山梨県が所管する山梨県富士山科学研究所(以下「富士山研」という)とも長年にわたり研究協力を行ってきました。
一方、山梨県は富士山を擁する地方自治体として、住民、登山客、観光客の安全確保を目的に策定した「安全を確保するための富士山噴火総合対策」において「富士山の火山活動と防災対策に関する調査研究」や「国の火山研究機関とのネットワークの構築」を掲げ、関連する地方自治体・研究機関との連携を積極的に進めています。令和3年(2021年)には神奈川県と「火山噴火時の相互応援及び火山研究職員等の交流に関する協定」を締結しました。また、産総研との本協定の締結と同日付で、山梨県は防災科研とも「富士山火山防災対策等の推進に向けた火山研究職員等の協力に関する協定」を締結します。これにより、日本で初めて、富士山を取り巻く複数の地方自治体と研究機関からなる連携・協力ネットワークが構築されることとなります。

協定の内容

今回締結する協定は、富士山における研究開発の推進と地域の防災力の向上を図ることで、富士山噴火に対する防災・減災および強靱な社会の構築に寄与することを目的としています。火山活動が活発となり、噴火やそれによる災害の発生が見込まれる場合には、緊急的な調査・研究を迅速に展開するとともに、調査結果を地方自治体が迅速に活用できる体制の整備を進めます。例えば、緊急調査時における山梨県施設の利用や調査データの取得・共有に関する情報伝達演習の実施を検討しています。また、静穏時においては、GSJと富士山研との共同研究に加え、山梨県職員が研究情報を防災対応に活用するための技術研修などを進めます。
富士山噴火時の迅速な緊急調査の実施と、その調査結果を地方自治体が活用できる体制の構築により、噴火災害による被害の拡大防止ならびに迅速な復旧につながることが期待されます。

図2 協力・連携協定の概要図

今後の予定

今後、山梨県と産総研は連絡会議を設置し、定期的な情報交換を行い、具体的な取り組みに向けた協議を進める予定です。
また、防災科研と産総研は、従前から研究開発や噴火調査などを協力して実施してきました。今回、双方が締結した山梨県との連携・協定を核として、富士山の火山防災に資する研究協力をより一層進めて参ります。具体的には、山梨県との連絡会議を合同で開催し、地方自治体と研究機関の相互応援態勢の確立に向けた取り組みについて、協議を進めて参ります。

用語解説

国立研究開発法人防災科学技術研究所
文部科学省が所管する国立研究開発法人。防災・減災に関するあらゆる研究開発を総合的に行う国内唯一の研究機関である。1963年設立。防災科学技術に関する基礎研究および基盤的研究開発等の業務を総合的に行うことにより、防災科学技術の水準の向上を図ることを目的とする。所在地は茨城県つくば市天王台三丁目1番地。火山噴火については、基礎研究部門として火山防災研究部門、基礎的研究開発センターとして火山研究推進センターおよび地震津波火山ネットワークセンターにおいて調査研究を進めている。[参照元へ戻る]
地質図
地表の土壌や植生の下に、いつの時代のどのような種類の石や地層が、どのように存在しているかを示した地図。[参照元へ戻る]
山梨県富士山科学研究所
山梨県が所管する研究機関。所在地は山梨県富士吉田市上吉田字剣丸尾5597-1。職員数40名(内研究員19名)。研究所に富士山火山防災研究センター(常勤研究員9名)を設置し、富士山による噴火災害の軽減を目的として、噴火履歴や予測に関する地球科学的研究に加え、火山防災を担う県職員の育成・支援に取り組んでいる。[参照元へ戻る]

お問い合わせ先

広報部 報道室
Eメール:hodo-ml*aist.go.jp(*を@に変更して使用してください。)