産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2018/08/27

ラストマイル自動走行の実証評価(日立市)を開始
-廃線敷利用のバス専用道路及び一般道での自動運転バスの社会受容性検証-

ポイント

  • 車載カメラやセンサーなどからなる遠隔運行管理システムで運行状態把握と車両内外の安全性確保
  • 信号機や路側センサーの情報を自動運転バスが活用し、安全で効率の良い運行の実現
  • 将来の無人自動運転バスへの乗降を考慮した新しい決済システムの実証

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)情報・人間工学領域 端末交通システム研究ラボ 加藤 晋 研究ラボ長らは、平成30年10月19日に茨城県日立市において「ラストマイル自動走行の実証評価(日立市)」の出発式を行い、廃線敷を利用した「ひたちBRT」のバス専用道路及び一般道の計3.2 kmにおいて実証評価を開始します。

端末交通システムとは、鉄道などの基幹交通システムと自宅や目的地との間や、地域内といった短中距離を補完するラストマイルモビリティーとも呼ばれる次世代の交通システムです。

産総研は、経済産業省および国土交通省の平成30年度「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」を幹事機関として受託し、実証地域の1つである茨城県日立市と協力して、SBドライブ株式会社、先進モビリティ株式会社、株式会社日本総合研究所、株式会社みちのりホールディングス、日立電鉄交通サービス株式会社、日本信号株式会社、コイト電工株式会社、愛知製鋼株式会社、株式会社NIPPOなどと共に、端末交通システムの研究開発と実証を進めています。

写真1
実運用中のひたちBRT路線を用いた検証
写真2
自動運転バス実験車両(先進モビリティ㈱)

近年、日本の高齢化と過疎化が進み、地方では人手不足や財政難などによってバスや鉄道などの路線の縮小や廃止が行われて移動手段の確保が課題となっています。また、高齢ドライバーの事故も問題となっています。これらの課題に対し、自動運転技術を活用した新たな移動サービスに期待が高まっています。本事業では、公共的な利用を前提とし、地域の活性化などにつながる端末交通システムとして、自動走行技術を取り入れた車両や監視などの交通システムの研究開発を行っています。また、本事業では、研究開発された端末交通システムの社会実装に向けて、平成30年度には実際に端末交通システムの導入が求められている地域の環境で実証評価を行うこととし、小型電動カートと小型バスという乗車人数の異なる車両を用いて地域に応じた実証を行う自治体や地域団体を平成28年度に公募しました。その結果、小型バス応用の実証評価を行う地域として茨城県日立市を選定し、日立市の協力のもとに事業を進めてきました。

実証環境の特徴から本事業では日立市での実証評価をコミュニティバスモデルと分類しました。今回の実証実験は、現在運用されているひたちBRTの路線を用いて、廃線敷を利用したバス専用道路区間や一般道区間において自動運転バスを運行する社会実験となります。自動運転バスには先進モビリティ㈱が、市販の小型バスをベースに改造した車両を用います。安全な移動サービスとして自動運転バスの運行を行うため、車両内外にカメラを設置し、SBドライブ㈱の遠隔運行管理システム(Dispatcher)を用いて、運行状態を把握し車両内外の安全性を確保しています。また、走路上の2か所の信号機から自動運転バスが情報を受取ることで、より安全で効率的な運行も試行します。さらに、見通しの悪い走路では、横断歩行者を検知する路側センサーから自動運転バスが情報を受取り、安全性を向上させる手法についても試行します。車両の位置補正には、道路に磁気マーカーを埋設し、車載のセンサーにより横方向のずれを検出しています。自動運転システムを活用した車両による移動サービスでは、乗降時の決済方法が課題となりますが、新たな決済システムも試行します。

今回の実証実験での自動運転バスの運行は、自動運転のレベル4相当の機能を持った自動運転バスを用いて、運転席にはドライバーが着座する(自動運転のレベル2の位置づけでの実験)ものの、専用道路上では自動運転のレベル3相当の運用として不具合時を除いて自動運転システムが運転主体となった自動走行での実証を予定しています。一般道区間でも、自動運転機能での走行をしつつ、ドライバーの負担軽減を目指した自動運転のレベル3相当での実証を予定しています。将来的なドライバー不在(自動運転のレベル4)での運行を目指しつつ、自動運転サービスを段階的に社会実装することなどにより、安全性や受容性の向上と自動運転サービスの早期実現を目指します。

実証評価は、運用中のひたちBRTの運行の合間に、実運用に近い形で実施します。出発式では、関係者による試乗を行い、また、以降の10月28日までは関係者のほか、一般の方々による試乗も実施し、受容性評価などを行う予定です。利用者や周辺の方々の受容性と共に、担い手となる交通事業者としての受容性や事業性も検証していきます。

今回の実証実験による評価を通じて端末交通システムの社会実装が加速され、ドライバー不足やコスト削減、需要への柔軟な対応、安全性のさらなる向上など、バス路線の維持や地域の活性化に資する安心、安全な交通手段の確保や沿道施設の利用による需要促進などが期待されます。

※出発式は10月19日10時から道の駅日立おさかなセンターにて開催します。

用語の説明

◆BRT
Bus Rapid Transitの略で、日本ではバス高速輸送システムと訳され、バスを用いた大量輸送サービスのうち、専用道路などを用い、速く、決まった時間に運行できる輸送システムを指しています。日本では、廃線敷を利用した専用道路でのBRTの運用などがあります。 [参照元へ戻る]
◆自動運転のレベル4
自動運転には、運転タスクの一部やすべてを運転者やシステムが実施するのかなどによってレベル分けが定義されています。本事業では、政府が「官民ITS構想・ロードマップ2017」で採用している、SAE(Society of Automotive Engineers) International のJ3016(2016 年9 月)の自動運転レベルの定義を採用しています。すなわち、SAE レベル4は、システムがすべての運転タスクを実施(限定領域内)するもので、作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されないものと定義されています(ここでの「領域」は、必ずしも地理的な領域に限らず、環境、交通状況、速度、時間的な条件などを含みます)。現在、日本の公道においては、道路占有などの規制をかけない状態での自動運転のレベル4での走行実験は認められていませんので、今回の実験では、ドライバーが乗車してドライバーの責任のもと、レベル4相当の機能を持った車両を用いて自動走行を行う予定です。[参照元へ戻る]
◆自動運転のレベル3
SAE レベル3は、システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)するもので、作動継続が困難な場合に運転者は、システムの介入要求などに対して、適切に応答することが期待されるものと定義されています。[参照元へ戻る]
◆自動運転のレベル2
SAE レベル2は、システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施するものと定義されています。現在、日本の公道においては、自動運転のレベル2まででの走行は、規制や許可無しに認められています。[参照元へ戻る]
◆受容性評価
新しい製品、サービス、技術などがユーザーや社会に受け入れられるかどうか(受容性)を評価すること。端末交通システムのように、新しい交通システムには利害関係者(ステークホルダー)が多く存在します。本事業では、利用者だけでなく、交通事業者や周辺住民、周辺施設関係者、自治体を含めた社会的な受容性の高い交通システムを目指しており、それらの評価を受け、システム改善などを進めていく予定です。[参照元へ戻る]