発表・掲載日:2022/03/22

天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会

- 準決勝および決勝における感染予防のための調査 -

ポイント

  • 57,785人の観客が観戦した決勝を含む最大収容人数に対して100%の定員で開催された3試合で調査を実施
  • AIを用いたマスク着用率測定の結果、試合中で平均97.1%、ハーフタイムで平均85.8%
  • 決勝における観客の応援は、主に拍手であることを確認
  • 3試合の会場60カ所で測定したCO2濃度は平均1000ppm以下
  • 57,785人の観客が入った決勝においても分散退場について一定の効果を確認

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ(ラボ長 保高徹生、以下「研究ラボ」という)は、日本サッカー協会(以下「JFA」という)と連携協定を締結し、スタジアムにおける感染予防対策の実施状況に関する調査・研究を推進している。

2021年12月の天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会準決勝・決勝の3試合(表1)は、最大収容人数に対して100%の定員で開催された。特に、決勝では57,785人の観客が観戦し、コロナウイルスの影響で観客数が制限がされてから、スポーツイベントで最も観客数が多い試合となった。これらの3試合において、表2に示すカメラによる撮影および画像認識の人工知能(AI)技術によるマスク着用率の解析、レーザーレーダーによる混雑分析、マイクロホンアレイによる音声調査・解析、スタジアム内のCO2濃度測定を実施したのでその調査結果を報告する。

AI技術を用いた画像認識から、試合中のマスク着用率を測定した。マスク着用率は、過去に実施したリスク評価において、スタジアムにおける感染リスク低減で最も重要な要素と評価されている。3試合平均のマスク着用率は、試合中(ハーフタイム以外)の平均で97.1%、ハーフタイム中で85.8%であり、2021年10月に実施した8試合のサッカーの結果と比較して高かった。

レーザーレーダーによる混雑分析の結果は、30,933人が観戦した埼玉スタジアムの準決勝では、試合後の帰宅時にスタジアム外では半径1 mにいる人数は、通過人数が最も多い時間においても3人であり、密な状況は確認されず、57,785人が観戦した決勝では、表彰式等のイベントや分散退場により、座席からの退場時間が分散された。マイクロホンアレイを用いて実施した音声調査とその解析の結果、試合開始から2時間の間の主な応援は拍手であり、試合時間全体に対して拍手の時間が占める割合は平均54.5%であった。ゴールやチャンスなどの場面での非意図的な声出し応援のそれは平均2.5%であった。また、一部の観客席でのみ、3%程度の時間割合で声出し声援(チャント)が確認された。

CO2濃度は、試合が行われた3の会場における計60か所での調査の結果、各試合の場所ごとの平均値は、観客席で463-486ppm、トイレで613-795ppm、コンコース他で498-623ppmといずれも1000ppmを下回った。

表1 調査を実施した試合と調査項目

  日程 カード 会場 カメラ撮影 レーザーレーダー マイクロホンアレイ CO2測定 観客数(人) スタジアム最大収容数
準決勝 12/12(日) 川崎フロンターレ vs 大分トリニータ 等々力陸上競技場 実施     実施 17,595 27,495
準決勝 12/12(日) 浦和レッドダイヤモンズ vs セレッソ大阪 埼玉スタジアム2002 実施 実施   実施 30,933 63,700
決勝 12/19(日) 浦和レッドダイヤモンズ vs 大分トリニータ 国立競技場 実施 実施 実施 実施 57,785 68,000

表2 実施した調査の内容

調査内容 機材設置状況 評価項目 感染予防対策 対象とする主経路
ハンディカメラでの撮影およびAI解析** ハンディカメラでの撮影およびAI解析 ・マスク着用率の把握
・拍手、万歳、ハイタッチなど10種類程度の行動の推定
・観戦時にはマスク着用を義務付け 飛沫感染ルート
レーザーレーダーによる計測および解析 レーザーレーダーによる計測および解析 ・入場者間の平均距離などのソーシャルディスタンスの把握 ・分散退場の実施 飛沫感染ルート
マイクロホンアレイによる計測およびAI解析** マイクロホンアレイによる計測およびAI解析 ・観客の非意図的な声出しや応援状況などの把握 ・声出し応援禁止 飛沫感染ルート
CO2濃度計測器によるCO2濃計測 CO2濃度計測器によるCO2濃計測 ・観客席やコンコースの密の程度の評価
・換気状況の把握
・個室の換気 飛沫感染ルート

**観客席を撮影するカメラ画像は、個人が特定できない程度の解像度で取得し、個人の特定はしていない。また、マイクロホンアレイは、個々の音声ではなく喧騒の計測のために用い、個々の人の声についての音声認識や会話記録は行わない。なお、得られた画像や音声などの情報は、本研究用途以外に使用することはない。


研究の社会的背景と経緯

新型コロナウイルス感染が続く中、安全にイベントを開催するには、どのような状況下で感染が広がるかのリスクを知ることは重要であり、社会的にも関心が持たれている。特にスタジアムのような大規模施設で開催するイベントには、一度に多くの観客が集まることから、入場者数、マスク着用の有無、混雑の程度、応援方法の違いなどが感染の広がりに影響する。産総研が過去に実施したリスク評価(Jリーグのスタジアムやクラブハウスなどで新型コロナウイルス感染予防のための調査(第三報))においては、マスク着用率がスタジアムにおける感染リスク低減で最も重要な要素であることがわかっている。これまで、産総研は、政府、JFA、Jリーグらと連携して、スタジアムやクラブハウスなどで新型コロナウイルス感染予防のための調査を実施してきた。また、2022年1月にはJFAと連携・協力に関する協定を締結し、スタジアム等での新型コロナウイルスの感染リスク低減に向けた協力の強化を進めている。

天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会の準決勝・決勝の3試合は、最大収容人数に対して100%の定員で開催された。決勝では57,785人(収容率約85%)の観客が観戦し、コロナウイルスの影響で観客の人数制限が課されてから、スポーツイベントで最も観客数が多い試合となった。このように、収容率が高く5万人を超える観客が入った条件で、さらに準決勝・決勝という観客の盛り上がりが想定される試合において、適切な対策が実施され、かつ観客の対策の遵守状況を確認することは、今後の感染予防対策の検討において貴重な情報となる。産総研は、JFAと連携し、これらの3試合において、感染予防対策の実施状況を評価するための調査を行った。

 

調査内容・結果

  • カメラによるマスク着用率の計測
    観客のマスク着用率をAIによる画像認識を用いて評価した。図1にAIによる認識技術でのマスク検出画像および試合ごとのマスク着用率を示す。

    図1

    図1 (左)AIによる画像認識技術でのマスク検出、(右)試合ごとのマスク着用率
    (2021年10月のマスク着用率は、「政府の技術実証による大規模イベントでの感染予防対策の調査(第一報)」で報告)

    3試合におけるマスク着用率は試合中で平均97.1%、ハーフタイム中は同85.8%であった。2021年10月の8試合でのマスク着用率の平均と比べ、試合中とハーフタイム中ともにマスク着用率が高い結果となった。これらの結果から、ワクチン接種が進み緊急事態宣言などが解除された状況下の試合においても、マスクの着用率は高く維持されていることが確認された。なお、マスクの非着用と判定されたケースは、飲食時に顎にマスクをずらすなどの行為およびその後のマスクの再着用の失念といった、一時的なものが多かった。

  • レーザーレーダーによる混雑分析

    12月12日埼玉スタジアムおよび12月19日国立競技場において、レーザーレーダーによる人流解析を実施し、観客の入退場時の密の状況や分散退場の効果を評価した。

    30,933人の観客が入場した埼玉スタジアムでは、図2に示すように、スタジアム敷地内の最寄りの鉄道駅に向かう通路を通過する人の数と位置を計測した。その結果、図3の左に示すように、試合開始前に通過した来場者数と試合終了後の通過した帰宅者数には差があり、来場時は最大700人/5分度であったが、帰宅時は最大で2000人/5分となった。一方で、図3の右に示すように半径2 m以内にいる人数は、通過人数が最も多い時間においても3人であること、また退場時のピークは25分程度続いていることから、分散退場等の効果が発揮され、スタジアム外において密な状況は発生していなかったと推察される。

    また、57,785人の観客が入場した国立競技場での決勝では、図4に示す競技場内通路への出入り口のうち各チームサポーターの席に通じる南側のFゲートおよび北側のBゲートにレーザーレーダーを設置し、通過人数と人の距離を計測した。各ゲートの通過人数(図5)は、来場時で500人/5分程度、帰宅時で最大1500人/5分程度であった。また退場時のピークは、試合終了直後、表彰式、インタビューなどのタイミングで確認され、ある程度の分散が図られていることが確認された。退場時のピーク人数が埼玉スタジアムよりも少ないのは、千駄ヶ谷駅、信濃町駅、外苑前駅など、複数の駅があること、さらに表彰式などのイベントがあったため、退場が分散されたためと考えられる。一方で、ゲート内(スタジアム出口付近)の半径2m以内にいる平均人数は、退場時のピークで最大で7~9人となっており、15〜20分程度であるが密な状況が確認された。

    図2

    図2  (左)レーザーレーダー(赤丸)設置位置と測定方向(三角)および(右)レーザーレーダーにとらえられた人の動き
    (右図の輝点は人、線は人の動き、円は半径1 mを示す)

    図3

    図3 (左)来場者と帰宅者の通過時間帯と人数(右)半径2 m以内にいる平均人数

    図4

    図4 国立競技場でのレーザーレーダーの設置場所

    図5

    図5 国立競技場における来場者と帰宅者の通過時間帯と人数
    (Fゲート(上左)およびBゲート(下左))および半径2 mにいる平均人数(Fゲート(上右)およびBゲート(下右))

  • マイクロホンアレイによる音声調査

    国立競技場の決勝において、図6のように計8台のマイクロホンアレイを配置し、観客の応援スタイルを確認した。マイクロホンアレイによる計測およびAI解析により拍手と歓声の時間割合を集計した結果、試合中は拍手が平均54.5%で主な応援形式であり、チャンスなどでの非意図的な歓声は平均2.5%であった(図7)。また、北側ゴール裏でのみ3%程度の時間、応援歌をともなう声出し応援スタイル「チャント」を確認した。なお、チャントについては、AI解析で把握し、頻度を手作業で集計した。

    図6

    図6 マイクロホンアレイの設置状況

    図7

    図7 音声調査の結果(試合開始から2時間での音響イベントの平均時間割合 [%]。時間割合は、評価区間2時間のうち検出された音響イベントの区間の割合を示す。)

  • CO2濃度の計測結果

    全3試合の試合会場の合計60カ所にCO2濃度計を設置して試合開始2時間前から試合終了後30分までCO2濃度を計測した。表3に、各試合における観客席、トイレ、コンコース他の3区分別に、CO2濃度の平均値、最小値、最大値を示す。CO2濃度の平均値は観客席で463-486ppm、トイレで613-795ppm、コンコース他で498-623ppmと1000ppmを下回った。図8に各設置箇所で計測されたCO2濃度の経時変化を示す。これまで同様、トイレのCO2濃度が高くなる傾向にあるが、ハーフタイム後や試合終了後のCO2濃度の減衰から換気状態は良いと推察される。

    表3 試合別、観客席、トイレ、コンコース他CO2濃度 (ppm) の平均値、最小値、最大値

    日時 場所 観客席 トイレ コンコース他
    箇所数 平均値(最小-最大) 箇所数 平均値(最小-最大) 箇所数 平均値(最小-最大)
    12/12 埼玉スタジアム2002 5 463
    (391-1347)
    6 613
    (401-1383)
    6 498
    (382-1159)
    12/19 等々力陸上競技場 0 - 10 795
    (471-2026)
    2 623
    (515-870)
    12/19 国立競技場 10 486
    (405-683)
    8 738
    (470-2022)
    13 549
    (416-977)

    図8

    図8 国立競技場での決勝で計測されたCO2濃度の経時変化(横軸は時間)

 

今後の予定

JFAと連携して、日本代表の試合等における新型コロナウイルス感染リスク評価、対策効果の評価の研究を進める。

 

研究担当者

本研究ラボは社会課題解決に向けて領域融合で研究開発を推進するバーチャルなラボである。今回の研究は主として、地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ 保高徹生 研究グループ長、高田モモ研究員、人工知能研究センター社会知能研究チーム 大西 正輝 研究チーム長、坂東 宜昭 研究員、安全科学研究部門リスク評価戦略グループ 内藤 航 研究グループ長、篠原 直秀 主任研究員が担当した。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ ラボ長
地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ 研究グループ長
保高 徹生  E-mail:t.yasutaka*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)

新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ 副ラボ長
人工知能研究センター 社会知能研究チーム 研究チーム長
大西 正輝  E-mail:onishi-masaki*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)

新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ 副ラボ長
安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ 研究グループ長
内藤 航  E-mail:w-naito*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)


用語の説明

◆定員
政府の方針にのっとるJFAの「感染防止安全計画」が策定され開催自治体に申請し承認されたことに基づく定員。[参照元へ戻る]
◆1000ppm
『建築物における衛生的環境の確保に関する法律』により建築物環境衛生管理基準として居室における二酸化炭素の含有率が「1,000ppm以下」と定められたことに基づいて、コロナウイルス感染予防対策においても準用されている(例:「冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法」(令和2年11月27日、厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000698868.pdf[参照元へ戻る]

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