発表・掲載日:2014/07/07

異種材料を組み合わせた次世代多接合太陽電池を開発

-さまざまな種類の太陽電池を簡単に直接接合-

ポイント

  • パラジウムナノ粒子を接合界面に配列して太陽電池を直接接合するスマートスタック技術
  • ガリウムヒ素(GaAs)系高効率太陽電池と、CIGSやシリコン太陽電池を接合可能
  • GaAs基板は再利用できるため、安価な超高効率多接合太陽電池の普及に期待


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電工学研究センター【研究センター長 仁木 栄】先進多接合デバイスチーム 菅谷 武芳 研究チーム長、牧田 紀久夫 主任研究員、再生可能エネルギー研究センター【研究センター長 大和田野 芳郎】太陽光チーム 水野 英範 研究員は、さまざまな種類の太陽電池を自由自在に直接接合できるスマートスタック技術を開発した。

 多接合太陽電池は、さまざまな波長の太陽光を有効に利用し超高効率化が可能な電池であるが、これまで製造コストが高く、問題となっていた。今回開発した技術では、複数の太陽電池セルの接合界面にパラジウム(Pd)ナノ粒子を配列し、電気的・光学的にほぼ損失無く接合する。短波長領域を吸収するガリウムヒ素(GaAs)系高効率化合物太陽電池と、長波長領域を吸収する安価なCIGSやシリコン(Si)を接合することが可能で、CIGS上にGaAsとガリウムインジウムリン(GaInP)太陽電池を接合した3接合太陽電池は、変換効率24.2 %を実現した。また格子定数が異なるため、結晶成長では接合できないGaAs基板とインジウムリン(InP)基板を用い、それぞれの上に作製した太陽電池を4種接合した(4接合太陽電池)ところ、変換効率30.4 %を得た。GaAs基板は再利用可能であることから、安価な超高効率多接合太陽電池の普及が期待される。

 なお、この技術の詳細は、2014年6月24、25日につくば国際会議場(茨城県つくば市)で開催されたAIST太陽光発電研究成果報告会2014で発表された。

スマートスタック技術の模式図とパラジウムナノ粒子の電子顕微鏡像の図
スマートスタック技術の模式図とパラジウムナノ粒子の電子顕微鏡像


開発の社会的背景

 多接合太陽電池は、種類の異なる(吸収する太陽光の波長が異なる)太陽電池セルを直列につなぎ合わせ、全波長の太陽光を吸収することにより変換効率を高めた太陽電池である。これまでは、結晶成長技術により複数のセルを一括(モノリシックに)形成する方法が主流である(図1a)。しかしこの方法では結晶成長させるためにセル材料の選択が制限され、成長技術も難しいという問題点がある。また、真空中で半導体表面をプラズマなどで活性化し、直接接合する方法(メカニカルスタック太陽電池)もある。この場合、半導体表面が極めて平坦でなければならず、(1 nm以下)、材料としては高価なIII-V族化合物半導体太陽電池に特化している。これらのことから多接合太陽電池は価格が高く、用途は宇宙用や集光発電施設用に限られている。このような現状から、様々な太陽電池を自在に接合し、安価で超高効率の多接合太陽電池が切望されている。これが実現すると多接合太陽電池の応用範囲が広がり、一般発電用への利用も期待される。

研究の経緯

 産総研では、平成20年度より、高度秩序構造を持つ薄膜多接合太陽電池の研究開発の一環として、メカニカルスタック太陽電池の開発に取り組んできた。接合する各セルの開発とともに、パラジウムナノ粒子を用いたスマートスタック技術を開発し、これらを用いた次世代多接合代用電池の開発に取り組んだ。

 なお、本研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)(平成20~26年度)」による支援を受けて行った。

研究の内容

 今回開発したスマートスタック多接合技術の模式図を図1bに示す。多接合太陽電池は広範囲の波長の太陽光を有効に利用でき、高効率化(>40 %)が可能である。スマートスタック技術はプロセスが容易な半導体接合法で、複数セルを自在に直接接合できる。この技術では、図2に示すようにPdナノ粒子を用いるため、表面平坦性の劣るCIGS太陽電池との接合も可能である。そのため、セル材料を自在に組み合わせることができ、高効率化・低コスト化に適している。Pdナノ粒子は、半導体間の接触を介した電流経路となるため低抵抗であり、またナノ粒子領域は小さく薄いため、光損失も非常に少ない。

従来のモノリシックスタックと今回開発したスマートスタック技術の図
図1 従来のモノリシックスタックと今回開発したスマートスタック技術

図Pdナノ粒子を用いたスマートスタック技術の図
図2 Pdナノ粒子を用いたスマートスタック技術

 図3に、Pdナノ粒子を自己組織化により配列し、異種太陽電池を接合するプロセス工程を示す。まずブロック共重合体の相分離現象を利用し、ボトムセル上の接合界面にPdナノ粒子を配列導入する。その後接合するトップセルをエピタキシャルリフトオフ(ELO)法により基板から分離し、加重接着法により接合する。トップセルを作成するための基板は再利用できるので、SiやCIGSなどの低価格基板に高効率III-V化合物太陽電池を安く接合できる。

スマートスタック接合法のプロセス工程の図
図3 スマートスタック接合法のプロセス工程

 図4はPdナノ粒子によりGaAs基板とInP基板を接合した例である。Pdナノ粒子は直径50 nm、密度は1×1010個/cm2である。接合抵抗は1 Ωcm2以下、光吸収損失が2 %以下であり、電気的、光学的にほぼ損失無く接合できた。

 今回開発した技術により、格子定数が大きく異なるGaAs基板とInP基板上にそれぞれ成長したIII-V族化合物半導体太陽電池を接合した。GaAs上にはGaInP(1.9 eV)/GaAs(1.42 eV)2接合セルを、InP基板上には、InGaAsP(1.05 eV)/InGaAs(0.75 eV)2接合セルを作製した。それぞれをスマートスタック接合して、GaInP/GaAs/InGaAsP/InGaAs 4接合太陽電池を作製した。この太陽電池の変換効率は30.4%を達成した(図5)。また、GaAs上GaInP/GaAs 2接合セルとCIGS太陽電池を接合した3接合太陽電池では変換効率24.2 %を実現した(図6)。この組み合わせではこれまでの最高の効率である。

 今回開発した技術によって試作した素子の信頼性試験も行っている。温度サイクル試験(-40 ℃~+85 ℃)では200回経過後も劣化せず、加速劣化試験(150 ℃/100 hr)でも劣化は見られなかった。これらは60 ℃の場合で20年以上の安定性に相当し、実用的な温度耐性および長期信頼性が確認された。

Pdナノ粒子の電子顕微鏡像と実際に作製した太陽電池の写真
図4 Pdナノ粒子の電子顕微鏡像と実際に作製した太陽電池

市スマートスタック技術により試作したGaInP/GaAs/InGaAsP/InGaAs 4接合太陽電池のI-V特性の図
図5 スマートスタック技術により試作したGaInP/GaAs/InGaAsP/InGaAs 4接合太陽電池のI-V特性
変換効率~30.4 %、開放電圧~2.82 V。最適セルの組み合わせにより効率40 %以上が実現可能。

市スマートスタック技術により試作したGaInP/GaAs/InGaAsP/InGaAs 4接合太陽電池のI-V特性の図
図6 スマートスタック技術により試作したGaInP/GaAs/CIGS 3接合太陽電池
変換効率~24.2 %、開放電圧~2.58 V。この組み合わせの太陽電池では最高の変換効率。

 

今後の予定

 今後は、本技術による多接合太陽電池の量産化が可能となるよう、大面積基板でのELO技術、III-V化合物半導体トップセル作製の低コスト化、GaAs基板再利用技術の研究開発を進め、発電効率40 %以上を目指す。集光発電施設や宇宙用太陽電池だけではなく、一般発電用にも利用できるよう、低コスト化と高効率化の研究を進める。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
太陽光発電工学研究センター 先進多接合デバイスチーム
主任研究員   牧田 紀久夫  E-mail:kikuo-makita*aist.go.jp(*を@に変更して使用して下さい)

太陽光発電工学研究センター 先進多接合デバイスチーム
研究チーム長  菅谷 武芳  E-mail:t.sugaya*aist.go.jp(*を@に変更して使用して下さい)



用語の説明

◆多接合太陽電池
種類の異なる(異なる波長の太陽光を吸収する)太陽電池セルを直列につなぎ合わせ、全波長の太陽光を吸収させて変換効率を高めた太陽電池。出力電圧は各セルの電圧の合計になるため、大きくなる。何種類の太陽電池を接合しているかにより、2接合、3接合、4接合太陽電池と呼ばれる。既存の多接合太陽電池では、結晶成長により複数セルを一括形成する方法が主流である。 [参照元へ戻る]
◆メカニカルスタック太陽電池
別々に作製した太陽電池を機械的に接合する多接合太陽電池。真空中で半導体表面をプラズマなどで活性化し、直接接合する方法などがある。[参照元へ戻る]
◆III-V族化合物半導体
GaAs、InGaP、InGaAs、InP等、Ⅲ族とⅤ族の元素からなる化合物半導体。これらを用いた太陽電池の変換効率は非常に高いが、基板や製造コストが高く宇宙用や集光発電施設のみで使われている。Ge基板とGaAsやInGaPは格子のサイズが近いため、InGaP(1.9 eV)/GaAs(1.42 eV)/ Ge(0.67 eV)3接合太陽電池が実用化されている。またInP基板にはInGaAs(0.75 eV)やInGaAsP(1.05 eV)が格子サイズが近く、これらを接合することもできる。[参照元へ戻る]
◆ブロック共重合体
異種高分子からなる複数のブロックを結合した高分子であり、異種の高分子鎖間に働く斥力などにより相分離を起こすものが多い。今回の技術では、ブロック共重合体を溶かした溶媒を半導体表面に塗布すると、親水性と疎水性の部分に相分離し、自己形成パターンが配列する。パラジウムを溶かした溶液にそれを浸すことにより、親水性の部分にパラジウムが析出し、ナノ粒子パターンが形成される。 [参照元へ戻る]
◆ボトムセル、トップセル
多接合太陽電池の再表面側に置かれている太陽電池をトップセルという。バンドギャップが大きい半導体を使用し、それより短波長の光を吸収して長波長の光を透過させる。それに対して最も基板側に置かれるのがボトムセルである。バンドギャップが小さい半導体を使用し、トップセルを透過した光を吸収する。3接合太陽電池の場合、真ん中の太陽電池はミドルセルと言う。[参照元へ戻る]
◆エピタキシャルリフトオフ(ELO)法
結晶成長の際にあらかじめ化学溶液によりエッチングできる結晶層を成長しておき、その上に剥離(リフトオフ)したい所望のエピタキシャル成長膜を成長する。成長後に化学溶液でのエッチングにより所望の成長膜のみを剥離する。元の基板は再利用できる。 [参照元へ戻る]