産総研:研究ハイライト 量子物理学の理論や波動関数に基づく新たな深層学習技術

情報・人間工学領域
量子物理学の理論や波動関数に基づく新たな深層学習技術
-分子構造が大きく異なる未知化合物の物性も外挿予測が可能に-
  • 人工知能研究センター椿 真史

掲載日:2020/11/11

深層学習に理論計算の過程を組み込む

量子物理学の理論や波動関数に基づいた学習を行うことで、ブラックボックスとなりがちな学習過程について、物理的に妥当な深層学習技術を開発した。

開発した深層学習技術によって推定された化合物の電子密度の図
開発した深層学習技術によって推定された化合物の電子密度
 

深層学習による計算や予測はその過程の検討が困難

材料開発や創薬の分野では、化合物のさまざまな物性値の計算・予測に、近年、人工知能技術の一つである深層学習が用いられるようになってきた。しかし、従来行ってきた理論計算・シミュレーションとは異なり、深層学習の過程はいわばブラックボックスなので、研究者が、計算や予測の結果の信頼性を検証するため、その過程を解釈、検討することができないことが問題であった。

 

物理理論を適用してデータ計算を行う工程を深層学習に取り入れ、結果の算出過程を明示

今回開発した技術の特徴は、密度汎関数理論に基づき、波動関数と電子密度を深層学習モデルの内部で表現・経由した上で、分子の物性値を予測する点である。これによりモデルのブラックボックス性が解消され、材料開発や創薬に応用する際、研究者や技術者が結果を検証・解釈できるようになり、信頼性も向上する。
分子の構造からその物性値Eを予測する技術の内容と結果は次の通りである。分子構造(入力)の情報を原子の波動関数φに変換し、次に分子の波動関数ψと電子密度ρを計算し、最後に物性を出力する。このモデルをニューラルネットワークで構築し、分子構造と物性値の大規模データベースを用いて学習・予測させる。予測は、理論計算において求められる精度を達成できるだけでなく、数分で数万種類の分子を予測できるため、これは理論計算を10万倍以上高速化できたことになる。

 

より多くの知識を取り入れ、この技術を材料開発や創薬に利用

今回の技術は、新規の材料や薬を大規模に探索し効率的に発見・開発するために利用できる。今後は、材料開発や創薬の実応用で今回開発した技術を用い、有用な触媒や薬剤の大規模な探索を行う。また、物理学者・化学者と協力して、物理学・化学に関する知識をより多く取り入れ、より高精度の予測ができる深層学習技術の開発を目指す。

椿研究員の写真
 
 

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人工知能研究センター 機械学習研究チ-ム

研究員 椿 真史(つばき まさし)

〒135-0064 東京都江東区青海2-4-7 臨海副都心センター

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