研究ハイライト 真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功

生命工学領域
真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功
-生物学における大きな謎「真核生物の起源」の理解が大きく前進-
  • 生物プロセス研究部門Masaru K. Nobu

掲載日:2020/10/09

人間の祖先に近い微生物の培養と解析に成功

深海堆積物(2006年「しんかい6500」による採取)から人間や植物を含む真核生物の祖先に近縁な微生物(アーキア)の培養に世界で初めて成功しました。

図 培養したアーキアMK-D1株の走査型電子顕微鏡写真
 

謎に包まれた私たちの祖先

約20億年遠く遡ると、人間、魚類、昆虫、植物やカビを含む「真核生物」は一つの複雑な細胞構造を持つ単細胞生物から生まれた。しかし、この細胞がどの様にして誕生したのかは謎であった。20億年以上前は単細胞で単純な細胞構造を持つ「原核生物」しか存在しなかったが、2種類の原核生物「アーキア」と「バクテリア」が共生・融合することで真核生物が生まれたと考えられている。バクテリアは今もなお私たちの細胞内に宿るミトコンドリアへの道を辿ったことが知られているが、祖先となったアーキアの実態は分からず、その存在は断片的なゲノム情報でしか確認できていないままであった。

南海トラフにあるメタン湧出帯の海底堆積物からMK-D1のゲノムを採取する様子の写真
 

真核生物誕生に有力な新説を提案

本研究では、独自のバイオリアクターを用いた培養と最新の遺伝子解析技術を組み合わせることにより、12年にわたる研究の末、海底の泥から私たちの祖先に近縁なアーキアの捕獲に世界で初めて成功した。MK-D1株と名付けたこのアーキアは直径550 nm(1mmの約 2000分の1)の極小細胞で、複雑な内部構造を持たず、外へ特殊な触手を伸ばし、酸素を嫌い、他の微生物に依存し生きる、我々と似ても似つかない生命体であった。一方で、ゆっくり増殖し、細胞の加工・維持に焦点を置くなど、通常の原核生物とはかけ離れ我々に似た性質も持っていた。27億年前の地球上の酸素発生をキッカケに、異質で酸素嫌いなアーキアと酸素依存のバクテリアが一体化しそれぞれが細胞の「操縦士」と「動力」となった一見相容れない2者の融合、敵対、そして和解を描いた真核生物進化の道筋についての新しい進化説”Entangle-Engulf-Endogenize (E3) model”を提案した。

2013年11月頃にMK-D1の培養に成功した流れの写真

イラスト:大内田美沙紀

 

さらなる進化の道筋解明へ

我々真核生物は原核生物には見られない多細胞化や長寿化を含む高等化を達成しているが、その中核には複雑な細胞構造と情報処理能力がある。我々の祖先であったアーキアはこの性質の基盤を既に保有していたはずだが、明らかに細胞構造も生き方も異なる。今後は、MK-D1株の遺伝子や生理・生態についてさらに詳細な調査を進めていき、私たちの細胞システムと高等化の起源と本質解明に取り組む予定だ。さらに生命史を遡り、原核生物の本質も明らかにすることで、そもそもなぜアーキアが操縦士、バクテリアが動力となりえたのかも調査する。

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生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ

研究員 Masaru K. Nobu (延優)

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